食品での新たな病原大腸菌のリスク管理に関する研究

文献情報

文献番号
201723006A
報告書区分
総括
研究課題名
食品での新たな病原大腸菌のリスク管理に関する研究
課題番号
H27-食品-一般-006
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
工藤 由起子(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
研究分担者(所属機関)
  • 西川 禎一(大阪市立大学大学院生活科学研究科 食品微生物学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
12,444,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
感染症報告数集計において、下痢原性大腸菌(食中毒統計の病原大腸菌)の分類が新たな分類に改訂(2012年)され、その判定のための病原因子またはマーカーが明示され、患者から分離された大腸菌株の病原大腸菌としての同定・判定が行いやすくなった。このため、食中毒事例での原因食品や汚染食品の調査に有用な方法を、特に、腸管毒素原性大腸菌(ETEC)を対象として確立することとした。また、検査の対象として重要と考えられるヒトの感染に関与する家畜・食品群についても、ヒトと家畜での共通の病原因子を明らかにすることによって解明することにした。
研究方法
分担研究(1)食品での統一的検査法の開発では、1)免疫磁気ビーズの自家調製法をETEC主要7血清群について検討し、集菌性を確認することによる評価、2)STおよびLT遺伝子検出のためのリアルタイムPCR法について各種条件を検討、3)食品でのETECの検査法を確立するために、13試験検査機関によって試験食品検体をキュウリおよび長ネギとし、高菌数接種(25 cfu/25 g)検体、低菌数接種(5 cfu/25 g)検体、非接種用検体および陽性用検体を設定したコラボレイティブ・スタディ実施(第1回;血清群O159 STh陽性、第2回;O148 STp&LT陽性)、を行った。分担研究(2)ヒトの感染に関与する家畜の探索では、下痢症患者由来のETEC O169:H41についてヒトおよび各種家畜由来腸管上皮細胞への接着性、定着因子遺伝子、定着因子TOP10K88-likeの自家作製モノクローナル抗体による免疫電顕・ウエスタンブロット・凝集反応試験などの解析を行った。
結果と考察
(1)の研究において、1)自家調製免疫磁気ビーズは、血清群によって差はあったが、概ね10^0 〜 10^2 cfu/mlの濃度までETECの検出が可能であり、優れた回収性であることが確認された。2)各種条件のリアルタイムPCR法の感度を確認したところ、各濃度に希釈した菌液を接種した食品培養液からのST(STpおよびSTh)遺伝子およびLT遺伝子検出における最少検出菌濃度は、4種類の食品、3種の検出機器および供試菌3株のすべて、また、いずれのクエンチャー(TAMRA、BHQ)でも10^3 cfu以上/mlであった。また、ICを加えたマルチプレックス反応試験では、長ネギ培養液からのST(STpおよびSTh)遺伝子およびLT遺伝子検出における最少検出菌濃度は、5種の検出機器および供試菌3株のすべて、いずれのクエンチャー(BHQ、QSY)でも10^3 cfu以上/mlであった。ICもすべての反応において検出された。3)コラボレイティブスタディでは、血清群O159では、ST・LT遺伝子検出リアルタイムPCR法(ICを含む)、直接塗抹法、免疫磁気ビーズ法の検出感度は0.846〜1.000であった。統計解析を行った結果、直接塗抹法のSMACおよびST・LT遺伝子検出リアルタイムPCR法(ICを含む)のAuto解析は、他の多くの方法より有意に検出率が低かった。血清群O148では、ST・LT遺伝子検出リアルタイムPCR法(ICを含む)、直接塗抹法、免疫磁気ビーズ法の検出感度は、キュウリでは0.641〜1.000、長ネギでは0.154〜0.769であり、全体的に長ネギで検出感度が低かった。長ネギでの食品由来の競合菌が多くETECの増殖を抑制したことが考えられた。統計解析を行った結果、直接塗抹法のSMACは、他の多くの方法より有意に検出率が低かった。(2)の研究において、下痢症患者由来のETEC O169:H41のヒト、ブタ、ウシ由来の腸粘膜上皮細胞に対する接着性を確認した。また、TOP10K88-likeを抗原としてモノクローナル抗体を得たが、特異的反応が認められなかった。
結論
ETECの主要7血清群(O6、O25、O27、O148、O153、O159、O169)の食品での検査法を検討し、優れた免疫磁気ビーズ試薬の作製法を確立し、各種ST・LT遺伝子検出リアルタイムPCR法の感度に優れる条件が設定された。最終的確認試験としての多数の試験研究機関の参加によるコラボレイティブ・スタディを実施し、食品でのETECの優れた検査法が確立された。また、ETEC O169の定着因子遺伝子が多様な宿主への感染性に関与している可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2018-11-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2018-11-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201723006B
報告書区分
総合
研究課題名
食品での新たな病原大腸菌のリスク管理に関する研究
課題番号
H27-食品-一般-006
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
工藤 由起子(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
研究分担者(所属機関)
  • 西川 禎一(大阪市立大学大学院生活科学研究科 食品微生物学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
感染症報告数集計において、下痢原性大腸菌(食中毒統計の病原大腸菌)の分類が新たな分類に改訂(2012年)され、その判定のための病原因子またはマーカーが明示され、患者から分離された大腸菌株の病原大腸菌としての同定・判定が行いやすくなった。このため、食中毒事例での原因食品や汚染食品の調査に有用な方法を、特に、腸管毒素原性大腸菌(ETEC)を対象として確立することとした。また、検査の対象として重要と考えられるヒトの感染に関与する家畜・食品群についても、ヒトと家畜での共通の病原因子を明らかにすることによって解明することにした。
研究方法
分担研究(1)食中毒・感染症事例由来株の特性解析では、東京都におけるETECによる集団下痢症および食中毒事例を解析した。(2)食品での統一的検査法の開発では、1)食中毒統計でのETEC食中毒における主要血清群および関連する食品群の解析、2)増菌培養法および選択分離培地の検討、3)STおよびLT遺伝子検出のためのリアルタイムPCR法について各種条件を検討、4)免疫磁気ビーズの自家調製法をETEC主要血清群について検討し、集菌性を確認することによる評価、5)食品でのETECの検査法を確立するために、13試験検査機関によって試験食品検体をキュウリおよび長ネギとし、高菌数接種(25 cfu/25 g)検体、低菌数接種(5 cfu/25 g)検体、非接種用検体および陽性用検体を設定したコラボレイティブ・スタディ実施(第1回;血清群O159 STh陽性、第2回;O148 STp&LT陽性)、を行った。(3)ヒトの感染に関与する家畜の探索では、下痢症患者由来のETEC O169:H41について各種家畜由来腸管上皮細胞への接着性、定着因子遺伝子などの解析を行った。
結果と考察
(1)の研究において、1)東京都で発生したETEC下痢症では血清群O6、O25、O27、O148、O159、O169が主要であること、2)散発下痢症患者の多くはインド、インドネシア、中国等海外渡航の関連が考えられること、3)食品での検査に免疫磁気ビーズ法が有用なこと、4)原因食品として野菜を使用した食品が多いこと、が明らかになった。また、(2)の研究において、1)食中毒統計でのETEC食中毒発生状況を解析し、上位7血清群のO6、O25、O27、O148、O153、O159、O169が本菌の主要血清群であり、東京都の主要血清群の全てが含まれていること、2)腸管出血性大腸菌の食品での検査法との共通であるmEC培地での42℃培養が優れることが判明し、また、検出率を向上させる選択性のある分離平板培地が開発されたこと、3)ST・LT遺伝子検出リアルタイムPCR法について、国内で広く使用されている5種類の検出機器及び2種類のクエンチャーを用いたマルチプレックス反応条件にてST(STp、STh)およびLTが最小菌濃度103 cfu以上/mlで検出され、検出感度に優れた遺伝子検出法であることが判明したこと、4)コラボレイティブ・スタディでは、ETECが総じて比較的高率に検出され、食品の増菌培養液がリアルタイムPCR法でSTまたはLT遺伝子陽性になった場合、培養液を選択分離培地に塗抹するか、主要7血清群の免疫磁気ビーズ法を行い、濃縮液を分離培地に塗抹し培養してETECを分離することが、食品の試験法として優れると考えられたこと、が明らかになった。さらに、(3)の研究において、食中毒の原因食品として食肉の重要性を検討するために家畜から分離株について解析をした。ETEC O169の定着因子K88-like遺伝子で組み換えた株はヒトのみならずブタとウシの腸粘膜上皮細胞にも強い接着性を示した。本プラスミドは多様な宿主への感染力をO169に提供することで、野外では保持されている可能性が示された。
結論
ETECの食中毒は、原因食品として野菜を使用した食品が多いこと、O6、O25、O27、O148、O153、O159、O169が本菌の主要血清群であること、腸管出血性大腸菌の食品での検査法との共通であるmEC培地での42℃培養が優れること、優れた選択性のある分離平板培地が開発され、優れたST・LT遺伝子検出リアルタイムPCR法が確認された。コラボレイティブ・スタディによって、食品の増菌培養液がリアルタイムPCR法でSTまたはLT遺伝子陽性になった場合、培養液を選択分離培地に塗抹するか、主要血清群の免疫磁気ビーズ法を行い、濃縮液を分離培地に塗抹し培養してETECを分離することが、食品の試験法として優れると考えられた。さらに、食中毒の原因食品としてブタとウシなど食肉の重要性が、一部血清群において定着因子のヒトとの共通性があることから示された。

公開日・更新日

公開日
2018-05-18
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-05-18
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201723006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
食品中の腸管毒素原性大腸菌の検査法の開発を目的に研究を行った。その結果、以下の成果を得た。①O6、O25、O27、O148、O153、O159、O169が腸管毒素原性大腸菌の主要血清群であること、②食中毒原因食品として野菜を使用した食品が多いこと、③mEC培地での42℃培養が優れ、また、選択性のある分離平板培地が開発されたこと、④ ST・LT遺伝子検出リアルタイムPCR法が検出感度に優れること、⑤コラボレイティブ・スタディによって食品の試験法として優れることが検証されたこと。
臨床的観点からの成果
東京都における腸管毒素原性大腸菌による集団下痢症は1991~2000年には非常に多く発生して、2001年以降はやや減少傾向であることが判明した。O6、O25、O27、O148、O159、およびO169の6血清群で全体の86.3%を占めており、患者の多くはインド、インドネシア、中国等海外渡航の関連が考えられた。海外渡航者が患者または健康保菌者として国内での汚染経路の一端となっていることも考えられる。
ガイドライン等の開発
現在、腸管毒素原性大腸菌の食品での検出法を通知する原案を作成中である。
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
30件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kobayashi, N., Maeda, E., Saito, S.,et al.
Association of cell-adhesion activities with virulence in Shiga toxin-producing Escherichia coli O103:H2.
Biocontrol Science. , 21 (1) , 57-61  (2016)
原著論文2
Ban, E., Yoshida, Y., Wakushima, M.,et al.
Characterization of unstable pEntYN10 from enterotoxigenic Escherichia coli (ETEC) O169:H41.
Virulence , 6 (8) , 735-744  (2015)
原著論文3
Hara-Kudo, Y., Konishi, N., Otsuka, K.,et al.
An interlaboratory study on efficient detection of Shiga toxin-producing Escherichia coli O26, O103, O111, O121, O145, and O157 in food using real-time PCR assay and chromogenic agar.
Int. J. Food Microbiol. , 230 , 81-88  (2016)
原著論文4
Wang, L., Nakamura, H., Kage-Nakadai, E.,et al.
Comparison by multi-locus variable-number tandem repeat analysis and antimicrobial resistance among atypical enteropathogenic Escherichia coli strains isolated from foods and human and animal faecal specimens.
J. Appl. Microbiol. , 122 (1) , 268-278  (2017)
原著論文5
Seo, D., Choi, S., Jeon, S.,et al.
Comparative sequence analysis of enteroaggregative Escherichia coli heat-stable enterotoxin 1 identified in Korean and Japanese Escherichia coli strains.
Int. J. Food Microbiol. , 243 , 1-8  (2017)
原著論文6
Wang, L., Zhang, S., Zheng, D.,et al.
Prevalence of diarrheagenic Escherichia coli in foods and fecal specimens obtained from cattle, pigs, chickens, asymptomatic carriers, and patients in Osaka and Hyogo, Japan.
Jpn. J. Infect. Dis. , 70 (4) , 464-469  (2017)
原著論文7
Wang, L., Nakamura, H., Kage-Nakadai, E.,et al.
Prevalence, antimicrobial resistance and multiple-locus variable-number tandem-repeat analysis profiles of diarrheagenic Escherichia coli isolated from different retail foods.
nt. J. Food Microbiol. , 249 , 44-52  (2017)
原著論文8
Konishi, N., Obata, H., Kai, A.,et al.
Major Vehicles and O-Serogroups in Foodborne Enterotoxigenic Escherichia coli Outbreaks in Japan, and Effective Detection Methods of the Pathogen in Food Associated with An Outbreak.
Shokuhin Eiseigaku Zasshi. , 59 (4) , 161-166  (2018)

公開日・更新日

公開日
2022-06-09
更新日
-

収支報告書

文献番号
201723006Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
12,444,000円
(2)補助金確定額
12,444,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 8,166,497円
人件費・謝金 2,847,190円
旅費 137,832円
その他 1,292,481円
間接経費 0円
合計 12,444,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-11-02
更新日
-