文献情報
文献番号
201723001A
報告書区分
総括
研究課題名
腫瘍性病変をエンドポイントとするオルガノイド系を用いる食品添加物等の遺伝毒性・発がん性の短期包括的試験法の開発
課題番号
H27-食品-一般-001
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
今井 俊夫(国立研究開発法人 国立がん研究センター 研究所 動物実験部門)
研究分担者(所属機関)
- 筆宝 義隆(千葉県がんセンター 研究所 発がん制御研究部)
- 戸塚 ゆ加里(国立研究開発法人 国立がん研究センター 研究所 発がん・予防研究分野)
- 落合 雅子(国立研究開発法人 国立がん研究センター 研究所 動物実験部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
8,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
食品添加物等の生体における遺伝毒性評価法として、レポーター遺伝子をマウス・ラットに導入した遺伝子突然変異検出系の開発により評価精度が向上したが、発がん性については長期試験の時間・使用動物削減・経費面の課題と短・中期試験からの予測による不確実性を克服する評価法の開発を要する。本研究では、野生型マウス、がん関連遺伝子改変マウス、レポーター遺伝子導入マウス等の大腸・肺等の正常組織から3次元培養法によりオルガノイドあるいはそれらにshRNAを用いて発がん関連遺伝子の発現を変化させたオルガノイドを調製し、遺伝毒性試験法としての適用性と腫瘍性病変をエンドポイントとする発がん性試験法としての妥当性を検証し、遺伝毒性・発がん性短期包括的試験法の開発を目指す。本研究で検討するin vitro化学物質暴露系を用いることで、経費面では長期発がん性試験に対比し十分な費用対効果が見込まれ、その成果は広く食品添加物等の安全性評価に活用可能と考えられる。
研究方法
オルガノイドの調製は、マウスから肺・大腸などを摘出、細切、酵素処理した後にマトリゲル上に単離細胞を播種し液体培地にて1日間培養、2日目にはマトリゲルを重層してマトリゲル上に液体培地を加え培養した。1週間に1回程度、オルガノイドを軽く破砕することにより継代を繰返した。B6マウス由来オルガノイドにはがん抑制遺伝子のPten shRNA(shPten)と陰性対照としてのshLucを導入、p53ヘテロノックアウトマウス(BALB/c背景)由来オルガノイド、LSL-KrasG12Dマウス(B6背景)由来オルガノイドについてはCre recombinase遺伝子を導入してKrasを活性化(陰性対照としてのpLKO.1を導入)した。化学物質処置は、継代の際のオルガノイド未重層化前の24時間培養時の培地に混じて、計3回行った。今年度は、遺伝毒性発がん物質として、メタンスルホン酸エチル(EMS)、ジメチルヒドラジン(DMH)およびN-ブチル-N-(4-ヒドロキシブチル)ニトロソアミン(BBN)について、非遺伝毒性非発がん物質として安息香酸ナトリウムの発がん性について検討した。また、子宮、卵管、胃由来のオルガノイド調製法の検討し、それらに対する遺伝子導入により発がん誘導可能なことを示し、化学物質の発がん性検出にも応用可能であると考えられた。また、遺伝毒性については、gpt deltaマウス由来の肝臓のオルガノイドについて、2-アミノ-1-メチル-6-フェニルイミダソ[4,5-b]ピリジン(PhIP)を被験物質とし、変異頻度と変異スペクトルを解析した。
結果と考察
被験物質処置後のオルガノイドをヌードマウス皮下に移植し、4~8週後に頸椎脱臼による安楽死後、皮下腫瘤を摘出して常法に従って病理組織学的に解析した。その結果、KrasG12Dマウス由来肺オルガノイドを用いた検討にて、EMS-0 μM群に対し、100μM群では造腫瘍性がみられ、病理組織学的にはがん肉腫様組織の増殖として認められた。野生型BALB/cマウスとBALB/c-p53 +/-マウス由来の大腸オルガノイドを用いたDMHの解析では、病理組織学的には、DMH 0μM 群では拡張した腺管状の増殖を示し、DMH 100μM処置により上皮の一部が重層化(扁平上皮化)する傾向がみられたが異型性は示さず、DMH 500μM処置群では上皮の一部が更に重層化し、上皮細胞には核の肥大/異型性がみられ、腫瘍性病変の特性を示した。BALB/c-p53 +/-マウス由来の膀胱オルガノイドを用いた解析では、ヌードマウス皮下において何れの系統、処置群においてもオルガノイドの増殖がみられなかった。本結果を受けて、膀胱オルガノイドを用いる検討については他の系統のマウスを用いた追加検討が必要となった。陰性対照としての安息香酸ナトリウムについては、B6マウスの肺オルガノイドに対してshLuc(対照)とshPtenで前処理したのちに被験物質を曝露した解析では、ヌードマウス皮下において高濃度群においてオルガノイドの増数がみられたが、上皮細胞に異型性は認められなかった。遺伝毒性については、gpt deltaマウス由来の(PhIPの発がん標的ではないとされる)肝臓のオルガノイドについて、PhIPの高濃度処理により変異頻度が上昇傾向を示すことを明らかにし、同マウスを用いるin vivo試験法と矛盾のない結果であることを確認した。
結論
マウス由来オルガノイドを用いるin vitro化学物質暴露系を用いることで、陽性対照としての遺伝毒性発がん物質について、それらの発がん性を検出可能であることを示唆する結果が得られ、遺伝毒性についてもin vivo試験法との同等性が示された。
公開日・更新日
公開日
2018-06-14
更新日
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