オルト-トルイジン等芳香族アミンによる膀胱がんの原因解明と予防に係る包括的研究

文献情報

文献番号
201722014A
報告書区分
総括
研究課題名
オルト-トルイジン等芳香族アミンによる膀胱がんの原因解明と予防に係る包括的研究
課題番号
H29-労働-一般-002
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
武林 亨(慶応義塾大学 医学部 衛生学公衆衛生学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 中野真規子(慶應義塾大学 医学部 衛生学公衆衛生学)
  • 祖父江友孝(大阪大学大学院 医学研究科)
  • 鰐渕英機(大阪市立大学大学院 医学研究科)
  • 甲田茂樹((独)労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所)
  • 王 瑞生(オウ ズイセイ)((独)労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
13,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、オルト-トルイジン(OT)使用職場における膀胱がんの発生の実態及び原因の全容解明と、それに基づく予防手法の開発を目的とする。詳細な曝露情報を用いた回顧的コホートとしての疫学的解析により因果関係を検討する。また、芳香族アミン取扱事業所で発生したヒト膀胱がん腫瘍組織を用いた臨床病理学研究と、動物モデルを用いた2’-メチルアセトアセトアニリド(AAOT)の膀胱発がん性評価を行い、ヒトと動物モデルの両面から発癌に関わる分子メカニズムの解明を目指す。さらに、皮膚透過性試験システムを用いたアミン類の皮膚吸収の体内動態及び影響因子の検討とOT等の生物学的モニタリング手法の開発により、芳香族アミン類等を取り扱う作業に代表される経皮曝露を伴うリスク評価のあり方を検討する。関連して、保護手袋耐透過性に対する併存有機溶剤や温度の影響を明らかにするとともに、幅広い保護具素材に対する透過試験を行い、現場で効果的な曝露防止策を明らかにする。
研究方法
平成28年度施行したパイロット調査の曝露歴から原因物質絞込むために曝露推定量を検討するとともに、パイトロット調査をベースとした現従業員対象のコホート研究を開始した。曝露評価指標として、入社以来の曝露情報を各芳香族アミンで、4工程毎に、曝露期間、取扱い頻度/月 を利用した曝露推定量、さらに、取扱い濃度、接触面積を追加した曝露推定量を検討した。また、国立がん研究センターがん情報サービスが公開している日本全国の人口データ・膀胱がん罹患データを用いて、芳香族アミン取扱工場の作業者を観察集団、日本国民を基準集団とした場合の標準化罹患比を推計した。AAOTの有害性評価では、in vitro におけるAAOTの毒性評価とAAOTの短期毒性試験を実施した。芳香族アミン類の皮膚吸収性研究では、培養ヒト3次元皮膚モデルを用いて、5種類の芳香族アミン類の皮膚透過性の特性を検討した。化学防護手袋の透過性能評価研究では、評価手法の確立とともに、膀胱がんを発症した事業場で長期間使用してきた2種類の天然ゴム製手袋を対象にOT透過時間の測定を行った。
結果と考察
疫学的解析においては、罹患群のOT洗浄工程、OT乾燥工程で有意に高いOT曝露推定量を示し、最も膀胱癌と関連がある工程であると推察された。2,4-キシリジン、アニリンについては、OTの作業との重複作業の可能性もあることから、さらなる検討を要する。膀胱癌と関連のある症状は血尿、膀胱癌と関連のある既往歴は膀胱炎であった。よって、OT曝露があり、血尿、膀胱炎を認めた場合は、注意深い経過観察が必要である。芳香族アミン取扱工場の作業者を観察集団、日本国民を基準集団とした場合の標準化罹患比を推計したところ3513と有意に高かった。in vitro におけるAAOTの毒性評価では細胞毒性はOTより低いと考えられた。同短期毒性試験では、AAOT投与群では用量相関性に体重減少や肝臓や脾臓の重量増加が確認され、膀胱では用量相関性をもって上皮の過形成や細胞増殖活性の増加が認められた。また、投与3日後の雌ラットの尿中から高濃度のOTが検出された。培養ヒト3次元皮膚モデルを用いた皮膚透過性の特性解明研究では、LC/MS/MS法を用いて生体試料中のOTやその代謝物の分析条件、貼付けたリント布を用いてラットの経皮ばく露方法を確立した。濃度であった。さらに膀胱組織においてはDNA損傷の上昇が観察された。膀胱がんを発症した事業場で長期間使用してきた2種類の天然ゴム製手袋のOTに対する透過時間の測定を行った結果、JIS規格の基準である標準透過速度0.1μg/cm2/minに達するまでの時間は、平均150分(130分~180分)と平均105分(76分~131分)であった。当時、事業場における手袋の交換の指標は、手袋の透過時間(耐透過)を考慮されてなく、手袋が切れたり、穴があくなどの物性的な変化(耐劣化)であったため、手袋(a)は16日/人・双、手袋(b)は42日/人・双と、作業者は1双の手袋を長期間使用していたのが実態であった。
結論
疫学調査により、OT曝露があり血尿、膀胱炎を認めた場合は膀胱癌罹患のリスクが高まっていることが示唆されたことから注意深い経過観察が必要である。毒性実験では、高濃度のAAOT投与ではAAOTが生体内でOTに変わることで毒性を示す可能性が示唆された。保護具では、事業場で長期間使用してきた2種類の天然ゴム製手袋のOTに対する透過時間は100分~150分と短かった。一連の検討から、OTの経皮吸収性や遺伝毒性などが判明し今後の他の芳香族アミン類の解析モデルとして確立した。

公開日・更新日

公開日
2019-03-19
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201722014Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
14,250,000円
(2)補助金確定額
14,250,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 9,547,145円
人件費・謝金 174,960円
旅費 831,660円
その他 3,046,255円
間接経費 650,000円
合計 14,250,020円

備考

備考
自己資金として20円を使用したため

公開日・更新日

公開日
2019-03-19
更新日
-