文献情報
文献番号
201722012A
報告書区分
総括
研究課題名
経済情勢等が労働災害発生動向に及ぼす影響等に関する研究:多変量時系列解析による数理モデルの開発と検証
課題番号
H28-労働-一般-008
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
松田 文子(公益財団法人 大原記念労働科学研究所)
研究分担者(所属機関)
- 榎原 毅(名古屋市立大学 大学院 医学研究科)
- 酒井 一博(公益財団法人 大原記念労働科学研究所 )
- 池上 徹(公益財団法人 大原記念労働科学研究所 )
- 余村 朋樹(公益財団法人 大原記念労働科学研究所 )
- 石井 まこと(大分大学 経済学部 経済学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
1,940,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
労働災害(労災)は長期的には減少しているが、小売・飲食業や保健衛生業などの第三次産業では増加傾向にある。第12次および第13次労働災害防止計画おいても、重点業種別の対策が提唱されているが、労働を取り巻く諸環境の要因(経済情勢、産業構造の変化、就業形態、自然・気象条件、産業技術革新等)が及ぼす影響について科学的根拠に基づく解析はほとんど行われておらず、行政政策評価に資する知見が切望されている。
そこで、本研究ではマクロ経済学・金融工学等で応用されている多変量時系列解析手法(Kariya, 1993)を用いて、経済情勢が業種別労働災害の発生に及ぼす影響を明らかにすることが最終目的である。
そこで、本研究ではマクロ経済学・金融工学等で応用されている多変量時系列解析手法(Kariya, 1993)を用いて、経済情勢が業種別労働災害の発生に及ぼす影響を明らかにすることが最終目的である。
研究方法
昨年度の引き続き、各研究班で調査した各種指標を持ち寄り各指標の利用可能性についてブレーンストーミングを行った。労災の基本データについて、厚生労働省労働基準局安全衛生部を通じ入手の手配を行い、それをもとにデータの再精査を行うとともに、多変量時系列解析モデルの開発に着手した。
結果と考察
試験的に労災発生傾向の年次変化の把握のために既公開データ(労働災害動向調査)を用い各経済動向指標との関連性を見たところ、各種統計数値の性質からその発表時点を考慮したタイムラグの調整や期間区分の調整などを行ったにも関わらず、各組合せに強い相関性をもつ要素は特定できなかった。そこで各種統計数値の定義を精査したところ、経済指標では、例えば景気動向指数においては過去50年間の中でも指数化のための要素の入替により、数度、その定義内容が修正されているといった指標内容の変遷が見られるため、50年間を通じた同一定義上の指標として使用するには問題があることが明らかとなった。
また「労働災害動向調査」の傾向自体、発生職種のカテゴリ変更や、事業所数に応じたサンプリング統計のため、相関傾向にはその分の「ゆらぎ」が大きく反映されるのではないかとの着想に至った。また全数報告である「労働者死傷病報告」を用いた傾向分析においても、発生職種のカテゴリ変更、職制・雇用環境の変化により「労災報告」に載らない層の傾向が反映されないことが判明し、いわゆる労災隠しによる国民健康保険利用への流出分を考慮するためには、国庫負担の「労働者災害補償保険申請」数などの統計が必要であるとの結論に至った。すなわち、職域,職制,非労災適用,労災適用事実(申請・給付)を示す非集約型データからの分析も必要であり、そのデータセットを作成するため、基本データについて、厚生労働省労働基準局安全衛生部を通じ入手した。修正・追加されたデータの再精査を行うとともに、多変量時系列解析モデルの開発に着手した。
現段階で選定されている計212変数の指標について、数理モデルに適用できる指標のプライオリティ・ランクを付ける必要性が明らかとなってきた。欠損値データの補完について、状態空間時系列解析によりモデル推定が行えるかどうかを検証した。状態空間モデルは潜在変数(未観測変数)も扱えること、観測時系列データのシステムノイズと観測ノイズをそれぞれ分離できることから、経済情勢が業種別労働災害の発生に及ぼす影響をモデル化する際の利用可能性が示唆された。しかしながら、投入する変数自体に内在する各種バイアスや指標定義の変遷など、事前調整する要因が多く、現段階では適用すべき数理モデルの確証的な選択には至っていない。
高度な数理モデルで処理をしたとしても、投入するデータの質が悪ければアウトプットのモデル推定も、意味をなさなくなることが懸念される。そこで、モデル推定で示す事ができる予測可能性の範囲と限界を明示することが必要であると考える。そのためには、予測モデルに投入する変数の組み合わせによって一般化可能性の範囲が異なるため、各指標のプロファイルの整備が重要である。
経済情勢が業種別労働災害の発生に及ぼす影響の大きさについて、本研究の範囲は、観測データの現象論をベースに時系列データの関連性から経済情勢の関与を推定することに留まっている。しかし、実用性の点からは、対策志向的な視点を求める向きもある。本研究の研究成果では、明らかにしきれない因果関係(どの要因の関与が労災発生を軽減させることが出来るのか)については、特に誤解がないように、研究成果を活用する方法を見出す必要があると考える。
また「労働災害動向調査」の傾向自体、発生職種のカテゴリ変更や、事業所数に応じたサンプリング統計のため、相関傾向にはその分の「ゆらぎ」が大きく反映されるのではないかとの着想に至った。また全数報告である「労働者死傷病報告」を用いた傾向分析においても、発生職種のカテゴリ変更、職制・雇用環境の変化により「労災報告」に載らない層の傾向が反映されないことが判明し、いわゆる労災隠しによる国民健康保険利用への流出分を考慮するためには、国庫負担の「労働者災害補償保険申請」数などの統計が必要であるとの結論に至った。すなわち、職域,職制,非労災適用,労災適用事実(申請・給付)を示す非集約型データからの分析も必要であり、そのデータセットを作成するため、基本データについて、厚生労働省労働基準局安全衛生部を通じ入手した。修正・追加されたデータの再精査を行うとともに、多変量時系列解析モデルの開発に着手した。
現段階で選定されている計212変数の指標について、数理モデルに適用できる指標のプライオリティ・ランクを付ける必要性が明らかとなってきた。欠損値データの補完について、状態空間時系列解析によりモデル推定が行えるかどうかを検証した。状態空間モデルは潜在変数(未観測変数)も扱えること、観測時系列データのシステムノイズと観測ノイズをそれぞれ分離できることから、経済情勢が業種別労働災害の発生に及ぼす影響をモデル化する際の利用可能性が示唆された。しかしながら、投入する変数自体に内在する各種バイアスや指標定義の変遷など、事前調整する要因が多く、現段階では適用すべき数理モデルの確証的な選択には至っていない。
高度な数理モデルで処理をしたとしても、投入するデータの質が悪ければアウトプットのモデル推定も、意味をなさなくなることが懸念される。そこで、モデル推定で示す事ができる予測可能性の範囲と限界を明示することが必要であると考える。そのためには、予測モデルに投入する変数の組み合わせによって一般化可能性の範囲が異なるため、各指標のプロファイルの整備が重要である。
経済情勢が業種別労働災害の発生に及ぼす影響の大きさについて、本研究の範囲は、観測データの現象論をベースに時系列データの関連性から経済情勢の関与を推定することに留まっている。しかし、実用性の点からは、対策志向的な視点を求める向きもある。本研究の研究成果では、明らかにしきれない因果関係(どの要因の関与が労災発生を軽減させることが出来るのか)については、特に誤解がないように、研究成果を活用する方法を見出す必要があると考える。
結論
各指標について、適用する数理モデルとの整合性検証および数理モデルで求められる予測可能性の範囲と限界を整理した。その中で、各指標のプロファイル特性を明らかにし、モデル投入に先立ち精査する必要があるとの結論に至った。また、数理モデルによる推定結果などの知見を社会に発信する際には、モデル推定で示す事ができる予測可能性の範囲と限界を正しく社会還元する必要性が示唆された。
公開日・更新日
公開日
2019-03-19
更新日
-