定性的手法を用いた労働災害防止対策に対する労働者の認識の分析

文献情報

文献番号
201722002A
報告書区分
総括
研究課題名
定性的手法を用いた労働災害防止対策に対する労働者の認識の分析
課題番号
H27-労働-一般-002
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
熊崎 美枝子(国立大学法人 横浜国立大学 環境情報研究院 人工環境と情報部門)
研究分担者(所属機関)
  • 岡田 賢(産業技術総合研究所 安全科学研究部門)
  • 清水 芳忠(神奈川県立産業技術総合研究所 企画情報連携部)
  • 庄司 卓郎(産業医科大学 産業保健学部)
  • 牧野 良次(産業技術総合研究所 安全科学研究部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
4,930,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 事業所の安全衛生管理には、労働者の積極的な参加が必須である。そのためには、労働者の認識、彼らの価値観や取り組む動機、取組みに対する反応などを、形式化して個別の事業所・産業に留めることなく共有できるようにすることが極めて有効であると考えられる。
 本研究では、労働災害防止対策への取り組みに関する労働者の意識をヒアリング等により得て、その情報を定性的手法により分析し、労働者の認識を構成する要因や影響を与える要因の間の関係を構造化することで理解し、より効果的な取組みに資することを目的とした。
研究方法
前年度に実施した、海外事例の調査,およびTwitterでの検討を踏まえ、国内の好事例として知られる事業所に勤務している労働者にインタビューを行い、労働災害防止対策への取り組みについての労働者の意識、労働災害防止対策に取り組むことに繋がる要因を抽出した。現場作業者や現場長、安全スタッフを対象に、職場の安全環境や安全対策の現状、労働安全に対する認識について等のインタビューによる聞き取りを実施し、発言等から、安全対策設計の基礎となる知見を得ることを目的としたため、本調査では各種表彰制度で優良企業として受賞するような安全管理が高いレベルで実施されている好事例事業所の方に協力を依頼し、調査を行った。半構造化面接を実施し、それにより得た印象的な語りや本研究目的に関連する語りを探索し、概念、カテゴリーを作成し、収束化作業を経て分析結果を得た。結果29個の概念が生成された。
また、インタビュー調査の結果明らかになった成果や、調査データの解析段階で直面した問題点についてより大きなサンプルで検証することを目的としてアンケート調査を行った。製造業に従事する20代から40代の男女計300人を対象に、Webを利用して設問数17問、73項目からなるアンケート調査を行った。職場の安全管理の満足度,作業現場で事故や労働災害の経験,普段の作業中の安全への認識,安全への認識が変わるような体験,職場での事故に対する認識,安全への取り組みの重要度,現場で起こる事故のイメージ,事故防止に果たす役割,各スタッフの安全管理の従事度合い,職場の安全に関する考え方の側面から意見を収集した。
結果と考察
半構造化面接による定性的手法を用いた労働者の認識の分析では、29個の概念が生成されたうち、対策のゴールや手段などにある『明瞭性』・『納得できる理由の存在』が作業者の対策への取り組みに直接影響を与えることが見出された。また安全水準を上げるのに必要な情報入手や安全水準を上げる思考様式・考え方が『明瞭性』『納得できる理由の存在』を提供することを支援するものとして抽出された。
アンケートの結果、現場で事故を体験することにより安全への認識が変わること、現場の安全活動に最も熱心に従事しているのは安全担当者であるが現場での事故防止には作業員自身の努力が一番重要だと考えられていること、ベテラン作業員は作業の経験や知識の豊富さが評価され、中間管理職である班長は話しやすさや作業員への配慮が評価されているが、いずれも安全管理への従事を評価されず事故防止への効果もそれほど期待されていないことなどが明らかになった。一方で、年齢や性別により若干の安全認識の違いは見られたが、安全意識への大きな影響は観察されず、安全管理のキーマンの違いによる現場の安全管理や安全認識の違いは見いだすことが出来なかった。
結論
以上のTwitterと国外の既往の研究を調査して得られた知見から、国内の好事例事業所で面接調査を実施して、『明瞭性』・『納得できる理由の存在』など、合理的で、イメージできる状況であることが安全対策に前向きに取り組めるために重要であることが見出された。
最後に、アンケートによって検証を行ったところ、強くイメージが残る事故との遭遇が、安全への認識が変わるような体験として記憶されていることがわかった。

公開日・更新日

公開日
2019-03-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-03-19
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201722002B
報告書区分
総合
研究課題名
定性的手法を用いた労働災害防止対策に対する労働者の認識の分析
課題番号
H27-労働-一般-002
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
熊崎 美枝子(国立大学法人 横浜国立大学 環境情報研究院 人工環境と情報部門)
研究分担者(所属機関)
  • 岡田 賢(産業技術総合研究所 安全科学研究部門)
  • 清水 芳忠(神奈川県立産業技術総合研究所 企画情報連携部)
  • 庄司 卓郎(産業医科大学 産業保健学部)
  • 牧野 良次(産業技術総合研究所 安全科学研究部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、労働災害防止対策への取り組みに関する労働者の意識をヒアリング等により得て、その情報を定性的手法により分析し、労働者の認識を構成する要因や影響を与える要因の間の関係を構造化することで理解し、より効果的な取組みに資することを目的とする。
研究方法
まず、ヒアリングによる情報収集のための基礎的な調査として、国内外の事例を検討するとともに、労働者の内的経験を概念化する上で重要となりうる箇所,あるいは詳細な解析が必要な箇所を明確化することを目標とした。事例分析として、労働者の安全に関する「認識」について検討している論文について調査し、研究対象である研究項目や研究法,そしてその結果について総括的なレビューを実施した(『日本国外の労働者の認識にかかわる研究の分析』)。その結果を踏まえて、インタビュー内容の素案を作成した。
 国内事例の調査については、労働者の声をより直接入手する手段として、短文の投稿を共有できるウェブサービスtwitterを調査した(『短文投稿システムtwitterに現れた労働者の認識の分析』)。
 これらを踏まえて、労働者の認識をインタビューを用いて調査した(『半構造化面接による定性的手法を用いた労働者の認識の分析』)。また、大きなサンプルで検証することを目的としてアンケート調査を行った(『アンケートを用いた労働者の認識の分析』)。
結果と考察
『日本国外の労働者の認識にかかわる研究の分析』では、研究を進めるにあたりまず過去の労働者の認識について研究を行った例を精査し、労働者に影響を与える要因をあらかじめ抽出した。海外事例の分析の結果、大きく分けて「労働者の周りの人々・組織」「システム・安全プログラム・規則」「仕事環境」「労働者個人の資質・状況」に分けることが出来た。これらが実際に労働者の安全行動に寄与するかどうかは、研究対象である組織,産業,研究手法によって必ずしも一致していないが、労働者の安全意識に働きかけるアプローチとしてこれらの視点が有効であると考えられた。
『短文投稿システムtwitterに現れた労働者の認識の分析』では、内面の安全意識や他者とのリスク認識の違いについての意見,好ましい組織とするための行政への期待などが抽出された。
これらを踏まえて、国内の好事例として知られる事業所に勤務している労働者にインタビューを行い、労働災害防止対策への取り組みについての労働者の意識、労働災害防止対策に取り組むことに繋がる要因を抽出したところ、労働者が対策について納得できるような理由が提示されているかどうか、また対策の手順や目標値、あるいは実施する期間など明瞭かされているかどうかが重要な要因であることがわかった。
『アンケートを用いた労働者の認識の分析』では、ベテラン作業員は作業の経験や知識の豊富さが評価され中間管理職である班長は話しやすさや作業員への配慮が評価されているがいずれも安全管理への従事を評価されず事故防止への効果もそれほど期待されていないことなどが明らかになった。また、現場で事故を体験することにより安全への認識が変わること、現場の安全活動に最も熱心に従事しているのは安全担当者であるが現場での事故防止には作業員自身の努力が一番重要だと考えられていることがわかった。
結論
より効果的な安全対策立案に資するために、労働者の安全対策に対する認識について探索を行った。海外の安全水準や安全実績に影響を与える要因について実施された既往の研究の調査では、複数の視点が見出された。それぞれについての結果は、研究対象とする業種や組織で異なっているものの、定性分析を行ううえで有益な視点と考えられた。
国内事例の分析のために、twitterを用いて分析を行ったところ、比較的自由な考えが収集でき、労働者の内面について示唆が得られた。
以上の知見から国内の好事例事業所で面接調査を実施して、『明瞭性』・『納得できる理由の存在』など、合理的で、イメージできる状況であることが安全対策に前向きに取り組めるために重要であることが見出された。
最後に、アンケートによって検証を行ったところ、強くイメージが残る事故との遭遇が、安全への認識が変わるような体験として記憶されていることがわかった。

公開日・更新日

公開日
2019-03-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-03-19
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201722002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
好事例事業所を横断的にインタビュー調査して、労働災害防止対策および事業所の安全水準向上に効果的な要因を整理・構造化した。特に、対策においては明瞭化すること、納得できる理由があることが重要であることが明らかとなり、より効果的な対策立案、および労災防止の具体的な対策を取り入れる際の実効性のある進め方について意義ある結果が得られた。
臨床的観点からの成果
該当しない
ガイドライン等の開発
特に無し
その他行政的観点からの成果
これまで、安全衛生関係機関・団体が行ってきた労災発生を抑止する具体的な方策の継続的な提供に加えて、それらの方策を「どのように実効性のあるものにしていくか」がより重要になってきている。本研究より作業者の安全意識に働きかける要因が明確になり、より現場に「浸み込む」労働災害防止対策実施に資すると考えられる。
その他のインパクト
コンビナート地区や企業の災害防止・安全に関する講演会にて本研究成果について講演・啓発を行った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
1件
労働安全衛生研究第12巻3号pp。161-172(2019)
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
1件
Asia Pacific Safety Symposium
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件
コンビナート地区1件,企業の災害防止・安全に関する講演会2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2019-03-19
更新日
2023-05-25

収支報告書

文献番号
201722002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,400,000円
(2)補助金確定額
6,400,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 536,022円
人件費・謝金 2,639,439円
旅費 1,063,701円
その他 690,838円
間接経費 1,470,000円
合計 6,400,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2019-03-19
更新日
-