看護師の特定行為研修の効果及び評価に関する研究

文献情報

文献番号
201721056A
報告書区分
総括
研究課題名
看護師の特定行為研修の効果及び評価に関する研究
課題番号
H29-医療-指定-016
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
永井 良三(自治医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 春山 早苗(自治医科大学 看護学部)
  • 村上 礼子(富山 礼子)(自治医科大学 看護師特定行為研修センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
5,083,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
特定行為研修を修了した看護師の活動による、今後の医療への影響について注目が集まっている。本研究の目的は、「特定行為研修の内容等の適切性の評価(分担研究1)」及び「特定行為研修による医療現場等への影響の評価(分担研究2)」を行い、当該研修の効果に関する知見を得ることにより、平成30年度に予定される当該研修制度の見直しに関する提言をまとめることとした。
研究方法
分担研究1: 54の指定研修機関の研修責任者を対象に、平成29年12月18日~平成30年1月26日にWeb調査又は郵送による無記名自記式質問紙調査をした。回収数(率)は40機関(74.1%)。調査項目は、受講者、研修プログラム、協力施設、安全管理体制等に関する内容。
分担研究2:指定研修機関のホームページ等で把握した①研修修了者、②修了者の所属施設管理者、③修了者が協働している医師を対象に、平成30年1月9日~同年2月13日に郵送無記名自記式質問紙調査をした。回収数(%)は①190人(53.8)、②135人(52.5)、③110人(31.2)。調査項目は研修のニーズ、研修受講体制/受講方法、修了者の活動上の課題、医療の質や患者・家族への影響とし、加えて①は研修の内容・時間に対する意見、活動実態等、②は施設内の修了者数等、③は修了者との協働経験等とした。
分担研究1、2ともに、量的データはSPSS ver.23を用いて単純集計をし、記述データは質的に分析した。また1では研修受講後の変化等について特定行為実施の多い群と少ない群等の2群に分け、中央値検定等を行った。
結果と考察
分担研究1では、指定研修機関から特定行為によって症例確保が困難との意見が多くあったが、工夫して対応していた。「カリキュラム作成」が難しいは7割、協力施設を申請しているのは約6割で、その手続きや指導者調整などに課題があった。要緊急対応または苦情が出た2件の回答があったが患者・家族に不利益は生じていなかった。eラーニング、対面授業、いずれも教育方法を選定し、実施する際の課題を感じていた。各共通科目の「内容も時間数も適切」が4~6割であった一方、「臨床推論」や「手順書」は時間数が少ないとの意見があり、また、科目間で重複する学習内容の見直しを求める意見が多かった。区分別科目では現場のニーズを考慮した区分別行為の検討や現状に即した区分別科目の内容の検討の必要性などの意見があった。
 分担研究2では、修了者は概ね安全に特定行為を実施していた。修了者の活動により、医師と看護師のコミュニケーションや相互理解の促進を双方が認識しており、また医師及び看護師の負担軽減や自施設内看護師の看護実践力の向上、多職種間を繋ぐ役割等も示唆された。患者・家族への影響には、患者の苦痛・負担の軽減や症状コントロールの改善等があった。追加を希望する特定行為には、【一定の範囲の処方】、【気管内挿管・抜管】、【縫合・抜糸】等があった。修了者の半数以上は受講費全額補助であり、人材開発支援助成金又は都道府県の助成金等を利用した施設管理者は非常に低率であった。修了者、施設管理者、医師で共通して高率であった修了者の活動上の課題は、[組織的な合意を得ていくこと]、[特定行為実施時の安全性の確保]、[修了後のフォローアップ]等であった。また、[手順書の作成]よりも[手順書の検証や修正]が課題となっていた。
いずれの研修機関も教育方法を模索しており、行っている教育に不安を感じている現状があったため研修運用指針や研修モデルの提示、指導者とともに研修責任者の養成も必要である。受講促進のためには、医療現場の現状に合う特定行為区分・特定行為の見直しや、研修時間数の軽減を見据えた科目間の学習内容の重複の整理等が必要である。また、各指定研修機関が教育訓練給付の対象となる講座指定を受けることや、都道府県の研修制度推進事業等の実施・充実が必要である。修了者の活動については、特に手順書の検証と修正や修了者のフォローアップにおける施設管理者の役割発揮が求められる。
結論
特定行為研修は安全にかつ概ね適切に実施されていることや、修了者の活動も概ね安全に実施されていることが明らかとなった。また、本調査の回答者は平成29年の研修修了者が約6割を占め、半数以上が修了者としての活動期間が短い者であり、医療現場等への影響を現時点では明瞭にできないが、チーム医療の促進並びにその結果である患者の苦痛・負担の軽減及び症状コントロールの改善への寄与が示唆された。一方で、指定研修機関や修了者の活動に関する課題も明らかになった。今後の制度見直しにおいては研修責任者の養成や特定行為区分の見直し、特定行為の切り分け・追加、各科目の学習内容の見直し、受講者及びその所属施設の費用を含む負担軽減策等を検討していく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2018-09-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-09-25
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201721056C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究で明らかになった研修科目の運用上の課題及び研修修了者の活動により修了者・施設管理者・医師に認識された医療現場等に及ぼした影響等は、従来あまり着目されていなかった看護職に対する診療の補助にかかわる教育方法や、背景も多様な専門職に対する成人学習の展開方法、チーム医療及び多職種連携・協働にかかわる看護師を始めとした医療従事者のコンピテンシーに示唆を与える知見であり、多職種連携教育や看護師、特に中堅看護師のキャリア教育を検討するために役立つ。
臨床的観点からの成果
指定研修機関の教育運営等に関わる課題が明らかになったことにより、対応策を検討することができ、教育の質の担保に寄与することができる。また、修了者の活動による医療現場等へ及ぼした影響を明らかにしたことにより、現在、議論されているタスク・シフティング、タスク・シェアリングにより期待される成果及びそれらの実施体制・方法の検討に示唆を与える。さらに、修了者を医療現場で機能させていくための取組や施設管理者が自施設において、より良い医療提供体制を構築していくための修了者の活用方法を検討していくことに役立つ。
ガイドライン等の開発
本研究は1年間の研究であり、ガイドライン等の開発には至っていない。しかし、今後、指定研修機関の運営指針や研修モデル、研修責任者の養成プログラムを作成する必要性が生じた場合には、それらに大いに役立つ基礎資料となる。
その他行政的観点からの成果
平成27年10月に創設された看護師の特定行為研修制度は、公布後5年を目途として、施行状況等の結果に基づいて、所要の措置を講ずるものとされている。平成30年9月に開催された第18回医道審議会保健師助産師看護師分科会看護師特定行為・研修部会において、本研究結果である特定行為研修の内容の適切性や医療現場等への影響の評価に基づく特定行為研修制度の効果と課題の報告及び提言を行い、研修制度の現状と評価並びに研修制度推進のための方策の検討や研修制度の見直しに寄与した。
その他のインパクト
日本看護協会 認定看護師キャリアアップ研修会、2018・2019年度各々2回の看護師特定行為指導者リーダー養成研修会、栃木県看護協会主催の2回の看護師の特定行為研修制度周知に関する研修、北海道看護協会主催の看護師特定行為研修に係る意見交換会、地域医療振興協会、JCHO地域医療総合医学会、IMSグループ看護師特定行為研修講演会において、本研究結果を発表・報告し、指定研修機関の今後のあり方、特定行為研修の受講促進や特定行為研修を修了した看護師の今後の活動の方向性へ示唆を与えることに寄与した。

発表件数

原著論文(和文)
1件
自記式質問紙調査による修了者が所属する施設管理者および修了者が協働している医師が共通して捉えている修了者の活用による患者・家族、医師への影響を報告
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
1件
春山早苗(2020):特定行為研修修了看護師がこれからの地域医療にもたらすもの.医学のあゆみ.276(6);551-555.にて、本研究結果を引用した。
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
研修制度の現状と評価並びに研修制度推進の見直しを目的とした第18回医道審議会看護師特定行為・研修部会(2018.9.28)において本研究結果を報告・提言した。
その他成果(普及・啓発活動)
11件
春山早苗:日本看護協会 認定看護師キャリアアップ研修会.村上礼子:看護師特定行為指導者リーダー養成研修会、栃木県看護協会・北海道看護協会研修等、地域医療振興協会・JCHO・IMSグループ研修会等

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
江角伸吾、関山友子、八木街子、他
特定行為研修修了者の活動による影響-施設管理者および協働する医師の捉え方より-
日本ルーラルナーシング学会誌 , 15 , 1-16  (2020)

公開日・更新日

公開日
2019-05-16
更新日
2022-06-09

収支報告書

文献番号
201721056Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,607,000円
(2)補助金確定額
6,607,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,229,480円
人件費・謝金 864,358円
旅費 560,795円
その他 2,428,367円
間接経費 1,524,000円
合計 6,607,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2022-06-09
更新日
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