臨床研修到達目標改定案の研修現場における利用可能性に関する研究

文献情報

文献番号
201721051A
報告書区分
総括
研究課題名
臨床研修到達目標改定案の研修現場における利用可能性に関する研究
課題番号
H29-医療-指定-011
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
福井 次矢(聖路加国際大学 聖路加国際病院)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 康之(岐阜大学 教育開発研究センター)
  • 高橋 理(聖路加国際大学 公衆衛生大学院)
  • 高橋 誠(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科)
  • 高村 昭輝(金沢医科大学 クリニカルシミュレーションセンター)
  • 前野 哲博(筑波大学 医学医療系臨床医学域)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
1,462,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成25年12月にとりまとめられた医道審議会医師分科会医師臨床研修部会報告書において、臨床研修制度の次回見直し時(平成32年度が想定されている)には臨床研修の到達目標を見直すことが決められた。そこで、医道審議会医師分科会医師臨床研修部会の下に臨床研修制度の到達目標・評価の在り方に関するワーキンググループが設置され、臨床研修の到達目標見直しについて議論が行われてきた。なお、上記報告書において、研修を行う診療科とその研修期間についても、到達目標と一体的に見直すことが望ましいとされた。
本研究は、平成26年度~平成28年度の厚生労働科学研究の成果である研修目標(案)を踏まえ、Ⅰ 臨床研修制度の到達目標・評価の在り方に関するワーキンググループでの検討結果を踏まえた研修目標(案)の改訂、Ⅱ 日本医学教育学会一貫性委員会、大学における卒前医学教育のモデル・コア・カリキュラムおよび日本医師会の生涯教育のカリキュラムとの整合性を意図した研修目標(案)の作成(「医師の生涯キャリアを通じた研修目標」の作成)、Ⅲ 研修目標(案)を踏まえ、研修診療科とその期間、診療場面等を含む方略の立案、Ⅳ 目標と方略を踏まえた評価の手順の立案と評価票(案)の作成、Ⅴ 新たな研修目標・方略・評価に則った臨床研修が円滑に行われるよう、研修医および指導医のための研修ガイダンス作成への着手、の5点を目的として行われた。
研究方法
平成29年度1年間に研究班会議を18回開催し、研究代表者、研究分担者、研究協力者が『臨床研修の到達目標、方略及び評価(案)』の改訂を繰り返した。
この間、臨床研修制度の到達目標・評価の在り方に関するワーキンググループが4回開催され、さらに、研究代表者の福井が医道審議会医師分科会医師臨床研修部会に3回参考人として出席し、『臨床研修の到達目標、方略及び評価(案)』への意見を伺った。最後に、ほぼ最終案となった『臨床研修の到達目標、方略及び評価(案)』について、年度末の平成30年3月9日~23日にインターネット上パブリックコメントを求めた。
そうして、最終版となった『臨床研修の到達目標、方略及び評価』が医道審議会医師分科会医師臨床研修部会報告書-医師臨床研修制度の見直しについて-(平成30年3月30日)に組み込まれた。
結果と考察
到達目標は現行の到達目標とは大きく異なったものとなった。「医師としての基本的価値観(4項目)」、「資質・能力(9項目)」、「基本的診療業務(4項目)の3領域からなるものとし、医学や診療に特有の知識や技術だけでなく、価値観や自己概念、行動規範、動機といった人間の全体的な能力を到達目標とした。最近の教育学において、主として<コンピテンシーあるいはコンピテンス>と表現されることの多い概念に則るもので、この概念を資質・能力と表わした。
医師としての基本的価値観(社会的使命と公衆衛生への寄与、利他的な態度、人間性の尊重、自らを高める姿勢)および資質・能力(医学・医療における倫理性、医学知識と問題対応能力、診療技能と患者ケア、コミュニケーション能力、チーム医療の実践、医療の質と安全の管理、社会における医療の実践、科学的探究、生涯にわたって共に学ぶ姿勢)は要素主義的アプローチであり、4つの場面の基本的診療業務(一般外来診療、病棟診療、初期救急対応、地域医療)は、基本的価値観や資質・能力を適切に結集することが求められる文脈依存的統合的アプローチといえよう。
到達目標の「医師としての基本的価値観」および「資質・能力」は、卒前医学教育におけるモデル・コア・カリキュラムと整合性のとれた内容となった。
実務研修としての方略では、必須ローテーション分野・診療科を、現行の内科、救急、地域医療から、内科、外科、小児科、産婦人科、精神科、救急、地域医療、一般外来の8分野・診療科に増やした。こうすることが、医師の臨床研修制度の基本理念である「一般的な診療において頻繁に関わる負傷又は疾病に適切に対応できるよう、基本的な診療能力を身に付ける」ためには望ましいと判断した。
評価は、到達目標の項目ごとに作成された評価票を用いて、各分野・診療科のローテーション終了時に医師及び医師以外の医療職による評価を行い、それらを用いて少なくとも年2回、研修医への形成的評価(フィードバック)を行うこととした。
結論
平成32年度に施行される第3回目の臨床研修制度見直しに用いられる『臨床研修の到達目標、方略及び評価』を作成し、医道審議会医師分科会医師臨床研修部会報告書-医師臨床研修制度の見直しについて-(平成30年3月30日)に組み込まれた。
到達目標については、文部科学省の卒前医学教育モデル・コア・カリキュラム(改訂版)と整合性が図られた。

公開日・更新日

公開日
2018-06-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201721051C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究班にて作成した新たな『到達目標、方略、評価』は、平成32年度から施行される予定の医師卒後臨床研修制度の第3回目の見直しに必要なもので、「臨床研修は、医師が、医師としての人格をかん養し、将来専門とする分野にかかわらず、医学および医療の果たすべき社会的役割を認識しつつ、一般的な診療において頻繁に関わる負傷又は疾病に適切に対応できるよう、基本的な診療能力を身に付けることのできるものでなければならない。」という臨床研修の基本理念により則った内容になったものと考えられる。
臨床的観点からの成果
必須ローテーション分野・診療科を、現行の内科、救急、地域医療から内科、外科、小児科、産婦人科、精神科、救急、地域医療、一般外来に広げたことにより、将来、どの専門分野の医師であっても、幅広い基本的な診療能力を基盤に有することになる。ひいては、わが国の医療-とくにプライマリ・ケア-レベルの向上と効率化につながることが期待される。
臨床研修の現場で、今回作成された研修医評価票を用いれば、研修医評価の標準化が図られ、研修修了の判定にも有用と思われる。
ガイドライン等の開発
臨床研修の到達目標、方略及び評価』を医道審議会医師分科会医師臨床研修部会報告書-医師臨床研修制度の見直しについて-(平成30年3月30日)に組み込むため、平成30年3月9日~23日に行われたパブリックコメントを経る必要があり、改訂作業が年末まで続いたため、研修ガイダンスの作成には着手できなかった。
今後、見直しされた研修制度を円滑に導入するため、研修医や指導医などの関係者が遭遇する可能性のあるさまざまな疑問点・問題点をあらかじめ想定し、それらに対するガイダンスの作成が必要となろう。
その他行政的観点からの成果
本研究班で作成した最終版『臨床研修の到達目標、方略及び評価』が医道審議会医師分科会医師臨床研修部会報告書-医師臨床研修制度の見直しについて-(平成30年3月30日)に組み込まれたことにより、本研究班の成果が、平成32年度からの臨床研修制度見直しで実施されることになる。したがって、質の高い医師の養成を通じた医療行政への貢献という意味で、本研究の意義は大きいものと思われる。
その他のインパクト
平成30年4月22日に愛媛県松山市で開催された第36回臨床研修研究会にて本研究班で作成した『臨床研修の到達目標、方略及び評価』を発表した。
医学や診療に特有の知識や技術だけでなく、価値観や自己概念、行動規範、動機といった人間の全体的な能力-教育学では、コンピテンシーあるいはコンピテンスと表現される概念-を資質・能力として、到達目標に組み入れたことは、今後、医学教育学上の議論に大きな影響を与えることと思われる。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2019-05-23
更新日
-

収支報告書

文献番号
201721051Z