in Vitro試験法を用いた化粧品の安全性評価法及びその国際的ハーモナイゼーションに関する研究

文献情報

文献番号
199800638A
報告書区分
総括
研究課題名
in Vitro試験法を用いた化粧品の安全性評価法及びその国際的ハーモナイゼーションに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
大野 泰雄(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 高松翼(日本化粧品工業連合会)
  • 田中憲穂(食品薬品安全センター)
  • 森本雍憲(城西大学薬学部)
  • 安藤正典(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
OECD及びEUで検討の進んでいる上記試験項目について、文献的、実験的に検討することにより,その問題点を明らかにするとともに、その利用についての経験を積む。また、眼刺激性試験については欧米に先駆け、大規模バリデーションの結果に基づき評価スキーム案が作成されたが、既知の限定された物質による予測でもあり、より多くの物質への適用により、その妥当性を確固たるものとする必要がある。そこで、実際の化粧品原料について行われたin vitro及びin vivo眼粘膜刺激性試験結果を収集し、データベース化をはかるとともに、その解析により、評価スキームの妥当性について再検討する。
研究方法
今までの厚生科学研究班で作成した化粧品原料の眼刺激性評価ガイダンス案を英訳し、欧米の専門家に送付し、コメントを求めた。また、ECVAM等の代替法の会議に出席し、コメントを求める。その結果を研究班で検討し、必要な修正を行った。海外の状況については、文献的に調査するとともに、日本化粧品工業連合会加盟社の欧米駐在所より、また、直接CPLIPAなどの会議に出席して情報を収集した。実験的検討では皮膚吸収試験については、モルモット腹部より剥離した皮膚について、皮下脂肪を除き、凍結保存し、必要なときに解凍して用いた。皮膚は縦型のFranz型拡散セルに装着し、donor側に薬液(安息香酸、サリチル酸、およびパラベン)を加え、receptor側に移行した薬物を定量した。また、雄性ヘアレスラット腹部皮膚を横型の2-チャンバー拡散セルに挟み、安息香酸ナトリウムおよびパラベンメチルの吸収を検討した。光毒性試験方法は、原則的として、OECD ガイドライン案に従って実施した。細胞はEU/COLIPAの評価試験で用いられたBALB3T3 A31細胞の代わりに、BALB3T3 A31-1-1細胞株を用いた。サンシュミレーター(SOL500,Dr.Honle社)はUV-BをカットするためのH1-フィルターを装着して使用した。被験物質としてはEU/COLIPA の評価試験で用いられた物質18種を含む28物質を用いた。
研究班ではデータ解析グループ、ガイドライン検討グループ、論文作成グループ、及び海外情報収集グループを、それぞれ4ー5人程度で組織した。また、必要に応じて、合同会議を開催し、有機的な関連を持って眼刺激性試験代替法の評価とそれを含むガイドライン案の作成を行った。 各代替法について、ドレイズスコアと直線的な関係を持つ変数変換を調べた。その上で最も当てはめがよい回帰直線を推定した。さらに残差解析を行って回帰式の妥当性を検証した。ただし、ED50を指標とする代替法については、ホッケースティック型の関数を考えた上で、斜辺部分のデータのみで回帰直線を推定した。また、代替法によるドレイズスコアの予測モデルを構成し、それによって無刺激性物質を無刺激と確実に判定できるかどうか、強刺激性物質を強刺激と確実に判定できるかどうかを検討した。ここでは無刺激をドレイズスコアが5以下であることとし、強刺激をドレイズスコアが50以上であることとした。上記の二つの検討においては、界面活性剤、多価アルコール、有機酸塩の19物質からなる物質群、及び39物質からアルコール、酸、アルカノールアミンを除いた25物質からなる物質群、という二つのデータセットを構成し、物質を限定することで予測モデルの性能が変わるかどうかを吟味した。
結果と考察
研究班では眼刺激性評価ガイダンス案を英訳し、海外の専門家に送付した。また、1998,6,15-17にロンドン開催されたEuropean Centre for the Validation of Alternative Methods (ECVAM)の会議で提示するとともに、詳しい説明を行った。その後、COLIPAからは提示したガイダンス案が消費者のリスクを増やすものでは無いとのコメントを得た。また、TNOのPrinston博士から幾つかのコメントが寄せられた。研究班ではそれらについて検討し、特にガイダンス案を変更する必要はないと判断し、原案のまま厚生省に最終案として提出した。
また、海外における代替法の現状について調査した結果を以下に示す。
動物実験代替法の開発に関する諸外国の状況について、欧州においては実験動物を用いて安全性を評価した化粧品原料および最終製品の販売を1998年1月1日より禁止することを定めたEU COSMETIC DIRECTIVE第6次改正のArticle 4.1.iの施行を、2000年6月30日まで延期することが、EU議会により1997年4月17日に決定された。この決定内容は2000年1月1日までに再検討されることが付記されており、以来、ECVAMやCOLIPAが中心となって代替試験法の再検討・開発が進められてきた。その結果、皮膚腐食性試験に関してはEPISKIN TESTおよびRAT SKIN TRANSCUTANEOUS ELECTRICAL RESISTANCE (TER) TESTが1998年4月3日に、また光毒性試験に関しては3T3 NRU PT TESTが1998年5月20日に、ECVAMのScientific Advisory Committee (ESAC)によって科学的に確立された代替試験法として認められた。このESACの結論を受けてDGIIIは、これらの代替試験から得られたデータを化粧品の安全性評価に用いることに合意した。これらの代替法開発の現状は、EU COSMETIC DIRECTIVE第7次改正の議論に反映されて行くものと考えられる。1999年2月時点では、第7次改正案はDGIIIで検討中であり、EU議会へ上程されていない。 眼粘膜刺激性に関しては、1997年10月に英国Brightonで行われた眼粘膜刺激性に関するワークショップの結果が公表され、今後はワークショップで科学的に更なる研究が必要とされた分野に対して、COLIPAが中心となってEUに予算処置を求めていく模様である。
米国においては、代替試験法に関する目立った動きはないが、EPAでは高生産量物質の初期評価に必要なデータに関しては、一部において代替試験法によるデータを認める可能性がある。
経皮吸収試験の実験的検討においては安息香酸(BA)のモルモット摘出皮膚透過はFranz型拡散セルで直線的に認められ、かつ再現性良く検討できた。また、BAを1/30Mリン酸緩衝液(p H7.4)に溶かしてdonor側に添加した場合に比べて化粧水あるいは乳液に溶かした場合の方がより早くモルモットの剥離皮膚を透過することが分かった。サリチル酸(SA)の剥離皮膚透過についても同様に検討できた。また、SAの皮膚透過は、乳液、化粧水および生理食塩液の順序であった。また、ヘアレスラット摘出皮膚を介する安息香酸ナトリウムの透過は約6時間、パラベンメチルでは約2時間のラグタイムの後、直線的な透過プロファイルを示した。また、これら抗菌剤の物理化学的性質と透過パラメータを求めた。これら抗菌剤の透過速度は、用いた溶液の薬物濃度および溶解度に依存した。また、透過係数はほぼ同程度であった。
光毒性試験結果については、まず、最適照射線量について検討した。その結果、EU/COLIPAの評価試験で陽性を示した10物質は、本試験でも全て陽性を示し、陰性物質は3J(30分)、5J(50分)のいずれの条件でも全て陰性となった。陽性物質によってえられたIC50値の線量依存の傾向には、2つのパターンが見られた。即ち、9物質中5物質は3Jですでに低いIC50値が得られた。一方、ほかの4物質は3Jより5Jへと線量の増加に依存してIC50値が更に低下した。しかしながら、3Jの線量で陰性と判定されるような物質はなかった。ただし、アミダロン塩酸塩は3Jでやや弱い光毒性を示した。また、照射時間と照射線強度の関係については、総照射線量3Jの同一条件で30分照射した場合と、50分照射した場合の光毒性の強さは、4種の化学物質のいづれにおいてもほとんど差は見られなかつた。EU/COLIPAのプロトコールでは、光照射の前60分間、細胞をEBSSに被験物質を加えて前処理する。その後50分間、光照射下で処理する。そこで前処理の時間が妥当であるか、また、光照射下での被験物質の処理時間が適正であるかを確認したところ、前処理の時間は光毒性の発現にさほど影響を及ぼさなかった。
皮膚吸収試験法については今回実施した試験により一応の情報を得ることができた。また、試験物質のdonor側のvehicleへの溶解性を考慮することが、in vitro経皮吸収試験を実施する場合の大きな要因であった。今回、抗菌剤である安息香酸ナトリウムとパラベンメチルの経皮吸収性をOECD in vitro 経皮吸収試験法ガイドライン(案)に沿って評価し、化粧品や添加物等の試験法として有用であるかを評価した。安息香酸ナトリウムとパラベンメチルのin vitro経皮吸収試験では、経皮吸収試験法ガイドラインで大きな問題となる所はなかった。なお、本試験においては、whole skin を用いて行ったが、化粧品等は、皮膚に損傷があっても使用することが考えられるので、一般に透過律速となる角質層を取り除いた条件においても、このような実験や類推を行う必要がある。
今回は、安全性の観点から経皮吸収後の体内動態を類推し、OECD in vitro 経皮吸収試験法ガイドライン(案)の評価を行った。しかし、化粧品や添加物等においては、これらを皮膚に適用したときの皮内滞留性、蓄積性も安全性に関して重要な評価ポイントと考えられる。今回はこの点の評価はできなかったが、簡便に類推できる評価法を検討することが今後の課題と考えられる。
化粧品等の光毒性試験の代替法として、BALB3T3細胞を用いる方法がEU/COLIPAによって提案され、OECDガイドライン案としも提案されている。この案は、光毒性試験を行う際の結果に影響を及ぼす要因について、あらかじめ予備検討がなされたうえで評価試験がなされている。たとえば、用いる細胞株により光毒性の感受性が異なる可能性があるが、OECDガイドライン案で推奨するBALB3T3 A31の細胞株は、感度が高く適切な細胞株の選択といえる。また、照射に用いる光源の種類も重要なファクターで、どれを用いるかにより結果に直接影響を及ぼす可能性がある。ここでは自然条件に近い太陽光類似の波長を示すキセノンランプ、またはメタルハロゲンランプの使用が推奨されている。このようにかなり吟味して作成されたガイドラインではあるが、細部にわたつては、未だ検討を要する事項もある。
本年度の研究では、これらの要因のうち照射線量や照射時間、前処理の時間等について検討した。光毒性物質を検出する為に用いる照射線量としては、3J と5Jのいずれの線量でも検出可能である事がわかった.次に、同一照射線量の3Jに調整して、UV照射強度と照射時間の関係を調べた。その結果、調べた実験条件下では3J(1.6mW×30min)と 3J(1.0mW×50min)とで、ほとんど光細胞毒性に差は見られなかった。したがって、処理溶液に培地成分や血清を含まないEBSSを用いて被験物質を溶解し、それで長時間の薬物処理は出来ない事から、ガイドライン案に示す条件で良いと考えられる。ただし、光遺伝毒性の場合はエンドポイントが異なることから、その実験条件下で処理条件を十分に検討する余地がある。
細胞を用いる光毒性試験の代替法は、EU/COLIPA主催で実施された評価試験でin vivo光毒性の結果と良い相関を示すこと、アッセイ法が簡便で、同一プロトコールで実施した場合ほとんどの機関で同様の結果が得られたことから、光毒性物質の予知の面からは、動物実験の代替法として高く推奨できる方法である。しかしながら、光毒性として検出される物質の毒性発現の機構は、化学物質によつて多様である事から、より精度の高いプロトコールを完成させる為に、今後さらに検討する必要がある。
結論
我が国のバリデーション結果に基づいて作成した代替法を組み込んだ眼刺激性評価ガイダンスについて欧米のコメントを求め、妥当とのコメントを得たので、最終案として厚生省に提出した。
OECDにおいて検討されている光毒性、皮膚腐食性、眼刺激性、経皮吸収試験の4代替法の検討状況の調査および化粧品原料についての動物試験を禁止するEU化粧品指令第6次改正のその後の動向調査を行った。光毒性試験法は、OECDからの最初の動物実験代替法としての加盟各国への検討依頼が出される状況に至っている。皮膚腐食性については、2つの試験法がECVAMにより同様にバリデートされたが、OECD側での動きは認められなかった。経皮吸収試験法、眼刺激性試験法については、いずれも検討途上にある。化粧品分野においては、EU化粧品指令第6次改正に定められる猶予期限(2000年1月1日)が迫ってきたこともあり、第7次改正が検討され、最終製品に対する試験禁止と原料試験に対するECVAMを中心とする個別対応が、当面の方向として示されている。しかしながら、EUコミッションの抱える種々の政治的な問題から、現在は検討保留の状態が続いている。
OECDのガイドライン案についての実験的検討を行った。皮膚吸収試験については安息香酸およびサリチル酸について検討し、化粧品や添加物の経皮吸収性を評価できると考えられた。化粧品や添加物の安全性の評価のためには、損傷皮膚を用いた経皮吸収試験を行い、データを蓄積する必要があると思われた。

公開日・更新日

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