医薬品等国際ハーモナイゼーション促進に関する研究

文献情報

文献番号
199800637A
報告書区分
総括
研究課題名
医薬品等国際ハーモナイゼーション促進に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
上田 慶二(東京都多摩老人医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 小嶋茂雄(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 黒川雄二(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 開原成允(国立大蔵病院)
  • 首藤紘一(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
46,250,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新医薬品審査資料の国際的ハーモナイゼーションを推進するに当たり、日・米・EU三極間に現存する医薬品規制にかかわる障壁の除去が最も重要である。それらを科学的な裏付けをもって実行できるようにするため研究を実施し、この間に多くの成果を挙げて来たが、残された課題も少なくない。さらに今年度は新たにコモンテクニカルドキュメントのハーモナイゼーションの研究も開始され、かかる研究課題の国際的ハーモナイゼーションを支援することが本研究班の目的である。
研究方法
平成10年度において、品質試験、非臨床安全性試験、臨床試験及びコモンテクニカルドキュメント(CTD)を対象として、それぞれ品質部会、安全性部会、有効性部会及びCTD部会を組織した。各分担研究班毎に国内研究を実施するとともに、国際的研究としてICH専門家会議を平成10年8月31日より9月3日の期間に東京にて、また平成11年3月8日より11日の期間ブラッセルにて開催した。また研究班会議総会を平成11年1月21日に開催した。
結果と考察
1)品質に関する研究:(a)化学合成医薬品の規格及び試験方法のガイドライン(Q6A)の作成;判定基準の絡む6つの試験法(含量均一性試験法、重量偏差試験法、溶出試験法、崩壊試験法、微生物限度試験法、保存効力試験法)の調和について、ICHにおいて行政当局、企業側および薬局方が協力して作業を進めることで合意された。(b)バイオ医薬品/生物由来医薬品の規格及び試験方法のガイドライン(Q6B)の作成;Q6Bは、平成11年3月のブラッセルでの専門家会議でステップ4に達することができた。Q6Bには、各種の従来のガイドラインにない多くのコンセプトや試験・評価に関する斬新なアプロー
チが盛り込まれている。(c)安定性試験ガイドライン(Q1A)の改訂;Q1Aの改訂に関しては、平成10年の東京での準備会合を経て、平成11年3月のブラッセルでの専門家会議から実際の作業が始められた。種々の検討対象項目のうち、比較的容易に調和できると見られていた5つの項目(試験間隔、実生産ロットでの試験、低温保存の場合の試験条件、半透明性容器に入った液剤の場合の試験条件、およびガイドラインの記載中にある不整合な点の解消)について検討が行われ、ほぼ合意に達することができた。(d)原薬GMP(Q7)の国際調和;Q7の国際調和は、ICH4後の1998年2月にICH5に向けての調和の課題として採択され、調和への努力が精力的に積み重ねられている。「最終製剤の製造段階では担保できない品質を原薬の品質保証に求める」との観点からは、ICH-Q7案の内容は概ね妥当なものと評価される。本ガイドラインを我が国の現行制度の下で適用に際しては、監視指導部門と審査管理部門とでよく協議して、現行の薬事制度の見直しを含む対応策を早急に策定する必要がある。(e)薬局方の国際調和;薬局方の調和に関しては、ICHとは別の組織である薬局方検討会議(Pharmacopoeial Discussion Group, PDG)によって進められているが、ICHのQ6Aの専門家会議から、製造試験法を中心とした12の試験法の調和が求められており、これに応えることが急務となっている。2)非臨床安全性に関する研究:(a)癌原性試験の適用とその評価法の確立;ヒト型c-Ha-ras遺伝子導入マウス(rasH2マウス)、片側のp53遺伝子を欠損させC57BLp53(+/-)マウスおよび活性型v-Ha-ras遺伝子を胎児型ζ-globinプロモーターとSV40と共に導入しTg.ACマウスなどの遺伝子改変動物を用いた研究を実施した。その結果、rasH2およびp53(+/-)マウスにおいても、必ずしもすべてのがん原性物質を検出することはできないことが示され、また、Tg.AcマウスについてはTPAに対して発がん感受性が低い動物(nonresponder)が発現し、それらにはζ-globin遺伝子のBamHIが欠落していることが判明した。以上のことから、2種以上の
短期がん原性試験の実施も被験物質により考慮すべきであると結果された。(b)In vitro小核試験の評価;染色体異常試験の代替法として、小核試験への関心が高まっているが、今回、ICH/OECDガイドライン作成のための基礎データを提供するための検討を行った。その結果、cytochalasin Bを添加せずに、被験物質で24時間処理を行う方法がもっとも感度よく小核を検出できると考えられる。(c)反復投与毒性試験の適用とその評価法の確立;非げっ歯類(主としてイヌ)での反復投与毒性試験の期間については、少なくとも9か月間の試験期間があれば、長期毒性所見を検出する根拠があることが確認された。そこで非げっ歯類の試験期間として9か月間が提唱され、ICH運営委員会でステップ2文書として合意が得られた。1998年東京のICH・専門家会議ではステップ2文書はそのまま合意し(ステップ4)、新提案を付記することが提唱された。(d)反復投与毒性試験による雄性生殖器への影響評価の可否に関する研究;4週間の反復投与で男性生殖器に影響を与えることの知られている物質を2週間投与した時に男性生殖器に及ぼす影響が検出できるか否かについてのバリデーションを開始した。本年度においては、最小限の試験内容を示した統一プロトコールを作成した。さらに、予備試験を実施し、本試験の被験物質とその用量、投与スケジュールを確定した。(e)一般薬理試験ガイドラインのハーモナイゼーション推進;医薬品等国際ハーモナイゼーション推進のための研究(ICH)として、平成8年度から始まった研究は平成10年度から第2期に入り、ICHでの論議を前提とした活動を開始した。3)臨床試験に関する諸研究:(a)新しいガイドラインの作成に関する諸研究;「臨床試験における対照薬の選択に関する研究」については、有効性検証における統計学的堅牢性を確保するための条件や通常用量実薬対照非劣性試験の条件などについて慎重な研究を重ねて三極の合意した案がほぼ出来上がり、ステップ2への到達が期待される段階に至っている。「小児に用いられる医薬品の臨床試験に関する研究」については、草案についての検討が開始されている状態(ステップ1)である。(b)協調化されたガイドラインの定着に関する諸研究;「外国データの受入れに関する研究」については、国内での通知の交付に伴い、国内で新たに発生した諸問題についての研究を行い、国内での通知を補足する質疑・応答集を作成するとともに事例検討を行った。「医薬品の臨床評価の一般指針に関する研究」においては、インフォームド・コンセントの義務づけ、治験データの直接閲覧・モニタリングなど新GCPに基づく治験の実施上の問題などがあることがアンケート調査により明らかにされた。「臨床試験データの統計解析のガイドラインに関する研究」においては、ガイドラインの実施に伴う問題として、多施設共同治験での被験者数、検証的試験数の問題、ならびに非劣性試験の有意水準などが挙げられ、質疑・応答の作成などが行われた。(c)医薬品規制情報の電子的交換の標準化に関する研究;交換書式としてSGMLを採用し、症例安全性報告技術仕様書を完成して、電子的伝送のための標準を整備した。4)コモンテクニカルドキュメント(CTD)に関する研究:品質、安全性及び有効性の研究グループに分けて、共同研究を実施した。各グループとも進行目標としてステージの概念を導入し、ステージ1は申請データー項目の配列表の作成、ステージ2はそれぞれの項目に含めるデータの概要の作成を定めた。品質についてはステージ1に達し、安全性については項目の配列表のレベルAよりDまでを具体的に合意されるとともにExecutive Summaryについても検討され、ステージ2に到達した。有効性については報告書の項目として「生物学的利用率及び生物学的同等性に関する試験の報告書」、「臨床薬理試験の報告書」、「探索的試験の報告書」、「検証的試験の報告書」、「その他の関連する情報」の順に添付していくことに合意し、ステージ1に達した。5)考察:我が国及び外国の医薬品試験成績の相互受入れの迅速化を目指して、日・米・EU三極の規制当局間のハーモナイゼーションは
確実に進行しており、共同研究の成果が得られている。また今年度の研究成果の活用により、今後ハーモナイゼーションを得るべきトピックスについて、国際的な協調化の促進が図られるものと考察される。
結論
品質、安全性、有効性について多くの研究課題が国際的ハーモナイゼーションに到達したが、これらの国際協調化が効果を発揮するために、国内での実施状況の評価を行うとともに、その協調化の一層の促進のための方策の検討が必要である。またCTDなど国際的ハーモナイゼーションに達していない項目については、なお強力な援助が必要である。

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