大都市圏における在宅医療の実態把握と提供体制の評価に関する研究

文献情報

文献番号
201721013A
報告書区分
総括
研究課題名
大都市圏における在宅医療の実態把握と提供体制の評価に関する研究
課題番号
H28-医療-一般-012
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
石崎 達郎(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 田宮 菜奈子(筑波大学医学医療系)
  • 福田 治久(九州大学大学院医学研究院)
  • 光武 誠吾(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
6,160,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
大都市圏は人口規模が大きくかつ急速な高齢化を迎えており、大都市圏特有の高齢化を見据えた在宅医療提供体制の整備が急務であり、そのためには在宅医療の実態を明らかにする必要がある。本研究では、大都市圏における在宅医療提供体制のあり方を検討することを目的に、レセプトデータを用いて下記の5課題に取り組んだ。
研究方法
1)都外医療機関による都内への訪問診療参入に関する実態把握:東京都後期高齢者医療広域連合の匿名化済み医科レセプトデータ(以下、都広域連合レセプトデータ)を用い、2014年8月の75歳以上の在宅医療患者を対象に、訪問診療提供医療機関の所在地を集計した。
2)2014年4月の診療報酬改定が訪問診療継続に及ぼす影響:都広域連合レセプトデータを用いて、在宅医療患者を対象に、訪問診療から外来診療への移行割合を診療報酬改定前後で比較した。
3)大都市圏における在宅医療患者の再入院に影響する医療施設要因:都広域連合レセプトデータを用い、入院治療を受けた在宅医療患者で在宅復帰した者(7,213名)を対象に、退院後30日以内の再入院を把握し、その関連要因を分析した。
4)入院中に初回要支援・要介護認定を受けた患者の退院支援による再入院の予防:大都市近郊A市にて、入院中に初回要支援・要介護認定を受け、その後退院した患者を対象に、入院医療機関における退院支援の再入院発生への寄与を分析した。
5)在宅医療に関連する医療提供量・費用分析:経管栄養を実施した在宅医療患者と入院患者を対象に、在宅医療費(入院外にて経管栄養を実施した月の入院外・調剤医療費)と入院医療費(入院にて経管栄養を実施した月の入院医療費)を把握し、パネルデータ解析を用いて二群間の医療費を比較した。
結果と考察
1)都外医療機関による都内への訪問診療参入に関する実態把握: 75歳以上の都内在宅医療患者の15.5%は都外医療機関から訪問診療を受け、医療機関は神奈川、埼玉、千葉が大半を占めた。居住系施設等で訪問診療を受けた患者では27%が都外医療機関からの訪問であった。在宅医療提供体制を検討する際、都外医療機関からの在宅医療参入を把握し、在宅医療の需要の過大評価を避ける必要がある。
2)2014年4月の診療報酬改定が訪問診療継続に及ぼす影響:基準月に訪問診療を受け翌月に訪問診療が中止された患者は、診療報酬改定前(2014年1月-2月、2014年2月-3月)と改定後(4: 2014年4月-5月)は6%ポイント程度であったが、診療報酬改定を挟む2014年3月-4月では、13.6%ポイントで認められ、診療報酬改定後は外来診療への移行が増加していた。この改定では、在宅訪問診療の対象患者像がより明確に提示されたことが、外来診療への移行に繋がった可能性があると考えられる。
3)大都市圏における在宅医療患者の再入院に影響する医療施設要因:退院後30日以内に再入院した患者の割合は11.2%で、男性、悪性新生物、緊急入院利用で再入院が多く、在支診/在支病、200床以上の病院では再入院が少なかった。24時間対応が可能な在支診/在支病では、退院直後の再入院を減らす可能性が示唆された。
4)入院中に初回要支援・要介護認定を受けた患者の退院支援による再入院の予防:退院支援を受けた患者ではそうでない患者よりも有意に再入院が少なかった。本研究で捉えた退院支援は、皆保険制度で給付されており、調査対象地域以外でも汎用性は高いと考えられる。
5)在宅医療に関連する医療提供量・費用分析:レセプトデータを用いて,入院医療と在宅医療の費用差を検証した。対象患者全体および疾患別(肺炎,脳血管疾患後遺症,認知症)に分類した場合のいずれの比較においても、在宅医療費は入院医療費を有意に少なく、その差額(約43~46万円)と疾患別に大差はなかった。
結論
東京都の都市部では都外医療機関による在宅医療参入が全体の16%で認められたことから、都市部における在宅医療の提供体制を検討する際は、都外医療機関による在宅医療提供を同定し、二次医療圏内外で区分して在宅医療提供医療機関数を評価することが必要である。
 診療報酬制度において、在宅訪問診療の対象患者の患者像(適格基準)を明確に示すことで、在宅医療ニーズに適合するかたちで訪問診療の提供が可能となると考えられる。
在宅医療患者の再入院に係る研究では、在支診/在支病による訪問診療では再入院が少なかったこと、また、入院した在宅医療患者では退院時に退院支援を受けると再入院が少なくなることについては、それぞれの機序を検討する必要がある。
 在宅医療に関連する医療提供量・費用分析として経管栄養実施患者を対象に介護保険制度における介護関連費用を考慮した場合においても、在宅にかかる費用が入院医療費を下回る可能性があることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2020-05-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-05-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201721013B
報告書区分
総合
研究課題名
大都市圏における在宅医療の実態把握と提供体制の評価に関する研究
課題番号
H28-医療-一般-012
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
石崎 達郎(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 田宮 菜奈子(筑波大学医学医療系)
  • 福田 治久(九州大学大学院医学研究院)
  • 光武 誠吾(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
大都市圏は人口規模が大きくかつ急速な高齢化を迎えており、大都市圏特有の高齢化を見据えた在宅医療提供体制の整備が急務であり、そのためには在宅医療の実態(利用者の特性、訪問診療の形態、訪問診療提供医療機関の特性、入退院の状況等)を明らかにする必要がある。本研究班では大都市圏における在宅医療提供体制のあり方を検討することを目的に、レセプトデータ等を用いて下記の課題に取り組んだ。
研究方法
1) 在宅医療患者の特性と在宅訪問診療の実態把握:東京都後期高齢者医療広域連合の匿名化済み医科レセプトデータ(以下、都広域連合レセプトデータ)を用い、2014年8月の75歳以上の在宅医療患者を対象に、在宅医療患者数とその出現割合、訪問診療提供医療機関の所在地、2014年4月の診療報酬制度改定が訪問診療継続に及ぼす影響を分析した。
2) 公開データを用いた在宅医療に係る地域相関研究:東京都の二次医療圏別にみた各種地域指標と在宅医療患者割合の関係、全国市町村別にみた地域特性と在宅死亡割合との関連を、一般公開されている市町村別データを用いて地域相関研究を実施した。
3) 在宅医療患者の入院医療の実態把握:在宅医療患者の再入院関連要因を検討するため、都広域連合レセプトデータを用いて入院治療を受けた在宅医療患者を抽出し、退院後30日以内の再入院関連要因を分析した。更に別の地域のレセプトデータを用いて、入院中に初回要支援・要介護認定を受けた患者の退院支援が再入院を予防するかどうか検討した。
4) 在宅医療に関連する医療提供量・費用分析:経管栄養を実施した在宅医療患者と入院患者を対象に、在宅医療費(入院外にて経管栄養を実施した月の入院外・調剤医療費)と入院医療費(入院にて経管栄養を実施した月の入院医療費)を把握し、パネルデータ解析を用いて二群間の医療費を比較した。
結果と考察
1) 在宅医療患者の特性と在宅訪問診療の実態把握:75歳以上の被保険者の約5%が在宅医療を受け、居住系施設での訪問診療が過半数を占めた。都内の在宅医療患者の15.5%は都外医療機関から訪問診療を受けていた。2014年4月の診療報酬改定によって在宅医療患者数は2014年3月と比べて14%減少し、居住系施設での訪問患者数の減少(20%)が顕著であった。在宅医療提供体制を検討する際、都外医療機関からの在宅医療参入を把握し、在宅医療の需要の過大評価を避ける必要がある。
2) 公開データを用いた在宅医療に係る地域相関研究:慢性期病床や高齢者施設が多い二次医療圏ほど在宅医療利用者割合は低く、人口密度が高く、医療資源が多い二次医療圏ほど在宅医療利用者割合は高かった。在宅死亡割合の関連要因で相関係数が有意でかつ最大であったのは、高齢者人口あたり一般診療所による看取りの実施件数(r= 0.31)、最小は人口あたり一般病院数(r=-0.28)であった。
3) 在宅医療患者の入院医療の実態把握:東京都内に保険証住所地を持つ75歳以上の在宅医療患者のうち、ひと月平均3.5%が入院した。1年間の全入院における入院医療機関の所在地は、同一二次医療圏内63%、都内他圏域23%であった。大都市圏における在宅医療患者の再入院に影響する医療施設要因は、在支診/在支病や200床以上の病院では再入院が少なかった。入院中に初回要支援・要介護認定を受けた患者の退院支援による再入院の予防については、退院支援を受けた患者ではそうでない患者よりも有意に再入院が少なかった。本研究で捉えた退院支援は、皆保険制度で給付されており、調査地域以外でも汎用性は高いと考えられる。
4) 在宅医療に関連する医療提供量・費用分析:レセプトデータを用いて入院医療と在宅医療の費用差を検証した。対象者および疾患別(肺炎,脳血管疾患後遺症,認知症)に分けた場合のいずれにおいても、在宅医療費は入院医療費を有意に少なく、その差額(約43~46万円)と疾患別に大差はなかった。
結論
東京都では都外医療機関による在宅医療参入が一定数存在しており、提供体制に係る情報として、在宅医療提供医療機関の所在地の把握が必要である。また、診療報酬制度の中で在宅訪問診療の対象患者像(適格基準)を明確に示すことで、在宅医療ニーズに適合した訪問診療の提供が可能になる。在宅医療患者の再入院に係る研究では、在支診/在支病による訪問診療では再入院が少なかったことや、入院した在宅医療患者では退院時に退院支援を受けると再入院が少なくことについて、それらの機序を詳細に検討する必要がある。経管栄養実施患者の在宅医療関連資源消費量・医療費の分析では、介護保険制度における介護関連費用を加味しても、在宅医療にかかる費用は入院医療費を下回る可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2020-05-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201721013C

収支報告書

文献番号
201721013Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,000,000円
(2)補助金確定額
7,992,000円
差引額 [(1)-(2)]
8,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,816,820円
人件費・謝金 2,621,361円
旅費 872,391円
その他 841,526円
間接経費 1,840,000円
合計 7,992,098円

備考

備考
実支出額は7,992,098円であったが、返還は1,000円単位で行わなければならないため、補助金確定額は7,992,000円となり差異が生じた。

公開日・更新日

公開日
2020-05-27
更新日
-