C型肝炎に対するDNAワクチン治療の研究

文献情報

文献番号
199800636A
報告書区分
総括
研究課題名
C型肝炎に対するDNAワクチン治療の研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
森山 貴志(自治医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 八木田秀雄(順天堂大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
C型肝炎ウイルスは非経口的に感染し、免疫能が正常の成人であっても高率に慢性化する。感染者の約20%は慢性肝炎、肝硬変を発症するものと考えられる。更に、肝硬変患者の半数以上で肝細胞癌が発症する。C型肝炎に対する治療はインターフェロンの登場により患者の一部で治癒に導くことが可能となったが、有効率は、当初、期待されたほどではなく半数以上の患者に対して、いまだに有効な治療法がない現状である。一般のウイルス感染の予防は、ワクチン接種により中和抗体を誘導して行うがC型肝炎ウイルスは変異しやすく、現在の所、感染を終息させる中和抗体の存在は証明されていない。
ウイルス感染症では中和抗体の誘導以外に細胞障害性Tリンパ球(CTL)を誘導することにより、感染予防が可能であることが知られている。CTLを誘導するためには、生体内で標的抗原を内因性に発現させることが必要であるが抗原蛋白を接種するだけでは生体内で外因性にT細胞に提示されるため、CTLは誘導されないのが通常である。 最近、CTLを誘導する新しい方法として病原体抗原をコードする遺伝子そのものをワクチンとして用いる方法(DNAワクチン)が注目されている。この方法がC型肝炎ウイルスに対しても可能かどうかをマウスを用いて基礎的に検討する。同時に抗体やCTLの誘導に大きな役割を果たすヘルパーT細胞もCTLの解析と併せて行う。
研究方法
DNAワクチンとしてpMAMneo, pEFBOS, pcDNA3等の各種プロモーターと組み合わせたプラスミドを使用した。アジュバントDNAとしてIL-2, GM-CSF等をコードするプラスミドを用いた。pMAMneo, pcDNA3, pEFBOSをプロモーターとするプラスミドを100~400μg/mouse、1回もしくは2週のintervalをおいて2回筋注し、最後の免疫から1週後にマウスをsacrificeして、脾細胞を取り出した。ヘルパーT細胞の誘導を試みるときは、in vitroで抗原刺激を1~2回行い、[3H]-thymidine uptakeにより抗原特異的な増殖を測定した。in vitroにおけるCTLの誘導法はすでにワクシニアウイルス(WR strain)にHCV coreをコードする領域を組み込んで作製した組換えワクシニアウイルスを用いて確認してある方法を用いた。CTL epitopeに相当する合成ペプチドで刺激し1週間培養し、Europium release assayを用いて細胞障害性を検討した。
結果と考察
pMAMneoプロモーターのDNAワクチンを単独で1回筋注した後、免疫脾細胞をin vitroでHCVコア蛋白とともに培養して、[3H] uptakeを測定したが有意な増殖は見られなかった。in vitroでの刺激を1回行った後、さらに2回目の刺激を行い[3H] uptakeを測定したところ、今度はstimulation index 17とHCVコア蛋白特異的な増殖が観察された。pcDNA3, pEFBOSをプロモーターとするプラスミドでも同様の実験を行ったが、やはりin vitroでの刺激を1回行っただけでは有意の増殖を得られなかった。in vivoでの免疫を2~3回行った後、in vitroでの刺激を1回行い、[3H] uptakeを測定したが有意の増殖を得られなかった。
DNAワクチンによるCTL誘導能を比較検討するため、positive controlとして、組換えワクシニア・ウイルスを用いて以前に行った実験では、effector to target ratio (E/T) = 20で35 %の特異的キラー活性が得られている。それに対してDNAワクチンの実験ではCTL assay時のE/Tを100~200と非常に高く設定したにもかかわらず、強いCTL応答は誘導できなかった。例えば、pMAMneoで1回免疫した場合、E/T=140でもわずか9%の特異的キリングしか見られなかった。
次に上記プラスミドと組み合わせて免疫応答を強めると考えられている分子をコードするプラスミドをいわばアジュバントとして併用してCTL応答を検討した。IL-2, GM-CSF等と組み合わせて実験を行っているが、現在までの所、大きな改善は得られていない。DNAワクチンを筋注しただけでは、再現性をもって強いCTLを誘導することはできなかった。 HCV coreに対するマウスのDNAワクチンでは、海外からin vitro1回刺激でHCVコア蛋白特異的な増殖が報告されている。本研究では、in vitro2回刺激では有意の増殖が見られたが、1回では得られなかった。この系がin vivoで働いていることは確認されたが、その程度は、既報のものと較べて弱いと言わざるを得ない。マウスで従来から用いられている組換えワクシニアウイルスによるCTLの誘導ではCTLを誘導できたが、DNAワクチンでは困難であったことよりin vitroの誘導系は有効に働いており、やはりin vivoにおける免疫原性がDNAワクチンでは問題があると考えられる。一般的には、抗原の発現量を増やした方が免疫原性は高まるので、プロモーターを変えて発現量を高めて検討を行う。またワクシニアウイルスを感染させた際には種々のサイトカインが誘導され、免疫応答がが高まっていると考えられるので、その状態をsurrogateしうるアジュバントとしてのDNAワクチンを各種組み合わせて検討していく。
同時に文献上、うまくいったと報告されているプラスミドを用いて検討するべく現在、供与を交渉中である。
結論
マウスでC型肝炎ウイルス・コア蛋白特異的CTLを誘導できることを確認した。DNAワクチンによりヘルパーT細胞が誘導されたことから、そのin vivoでの機能を確認できた。CTL、ヘルパーT細胞とも既に報告されているレベルまでの強さを誘導することはできなかった。

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