在宅医療患者等における多剤耐性菌の分離率及び分子疫学解析

文献情報

文献番号
201721003A
報告書区分
総括
研究課題名
在宅医療患者等における多剤耐性菌の分離率及び分子疫学解析
課題番号
H27-医療-一般-012
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
荒川 宜親(名古屋大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 飯沼 由嗣(金沢医科大学 医学部)
  • 川村 久美子(名古屋大学 大学院医学系研究科 )
  • 村上 啓雄(岐阜大学 医学部)
  • 藤本 修平(東海大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
3,508,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生大腸菌やカルバペネム耐性肺炎桿菌などのいわゆるCRE(カルバペネム耐性腸内細菌科細菌)などの薬剤耐性菌の急性期医療機関における広がりが国際的に警戒されている。その実態は、我が国では、厚生労働省の院内感染対策サーベイランス(JANIS)事業等により概ね把握されているものの、介護施設や療養型施設等における各種薬剤耐性菌の状況については不明な点が多い。そこで、3年間の研究で検体から多く分離されたESBL産生大腸菌とMRSAについて詳細な遺伝学的解析を実施し、分離株の遺伝的関連性を解析した。
研究方法
平成27-29年の3年間に、愛知県、岐阜県、石川県、富山県および群馬県の9施設の介護施設、療養型施設の入所者および在宅医療患者を対象として、便、喀痰、尿等から分離されるESBL産生大腸菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)等の7種類の薬剤耐性菌の分離を試み、最終年度である平成29年度は検体から多く分離されたESBL産生大腸菌とMRSAについてPOT解析やMLST解析などにより分離株の遺伝的関連性を詳しく解析した。
結果と考察
MRSAとESBL産生大腸菌の分離株のについて詳しく遺伝的背景を解析した結果、療養型施設や介護施設の入所者、在宅患者から分離されるMRSAについては、市中感染型MRSA(CA-MRSA)と院内感染型MRSA(HA-MRSA)の双方が分離され、特にHA-MRSAにCA-MRSAの染色体の一部が取り込まれたハイブリッド型のMRSA ST764が異なる複数の施設の入所者等から分離された。一方、ESBL産生大腸菌については、国内や海外で広範に分離されている国際流行クローンE. coli ST131-B2に属する株が過半を占め、また、それらが保持するESBL遺伝子媒介プラスミドの多くが、IncFグループに属し、さらに、媒介されるESBL遺伝子は、国際的に広く拡散しているblaCTX-M-15とともに、国内やアジア地域の急性期医療機関でも多く分離されるblaCTX-M-27の頻度が高い傾向が確認された。以上の結果は、介護施設や療養型施設の入所者、在宅医療患者等でも、急性期医療機関の患者から分離される耐性株と同様な遺伝子型のMRSAやESBL産生大腸菌が分離され、施設と急性期医療機関との間での入所者や患者等の行き来などにより遺伝的な性質が同じ薬剤耐性菌株が共有されていることが確認された。
結論
平成27年度から29年度にかけて、愛知県、岐阜県、石川県、富山県、群馬県内の9施設の入所者等から分離されたMRSAとESBL産生菌について遺伝的な観点から詳しく解析した結果、MRSAについては、いわゆる市中感染型と院内感染型の双方が確認された。特に多剤耐性傾向を示す院内感染型HA-MRSAの染色体に、抗菌薬の選択圧が低い市中で広がりやすいCA-MRSAの遺伝子の一部が取り込まれたハイブリッド型のMRSA ST764(CC5)が、複数の異なる施設の入所者より分離されており、今後、その動向に注目する必要がある。
 他方、ESBL産生大腸菌については、国際流行クローン(E. coli ST131-B2)が多く分離され、ESBL遺伝子を媒介する伝達性プラスミドのレプリコンタイプはIncFグループが主流であり、さらに媒介されているESBLの遺伝子型は、世界各地から報告されるCTX-M-15型とともに、アジア地域の急性期医療機関や健常者で多く分離される傾向がある、CTX-M-27が多いことなどが、確認された。
 MRSAやESBL産生大腸菌が多く分離される施設では、遺伝的に類似した耐性株が複数の入所者から分離される傾向が強く、施設内で入所者間に伝播拡散している可能性が強く示唆された。

公開日・更新日

公開日
2021-11-16
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201721003B
報告書区分
総合
研究課題名
在宅医療患者等における多剤耐性菌の分離率及び分子疫学解析
課題番号
H27-医療-一般-012
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
荒川 宜親(名古屋大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 飯沼 由嗣(金沢医科大学 医学部)
  • 川村 久美子(名古屋大学 大学院医学系研究科)
  • 村上 啓雄(岐阜大学 医学部)
  • 藤本 修平(東海大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国内では、在宅医療を受けている患者や療養型施設、介護施設等の入所者における、薬剤耐性菌の保菌状況や分離株の生物学的特性、遺伝的特性などの実態については不明な点が多い。そこで、国内のこの種の高齢者施設等の入所者等における多剤耐性菌の実態を把握することを目的として調査研究を実施した。
研究方法
平成27年度に研究計画書等の倫理審査書類を名古屋大学大学院医学系研究科の「疫学研究専門調査委員会」に提出し、平成27年11月に承認(承認番号 2015-0304)を得た。これを受け、それぞれの研究協力施設に赴き、各協力施設の入所者やその代諾者に対し、研究の目的や方法、不利益などの研究倫理的な内容について説明し、同意が得られた施設の入所者や在宅患者等より、順次、咽頭拭い液、糞便、尿などの検体採取を開始し、分離株について菌種の同定、薬剤感受性試験、耐性菌の判別、耐性遺伝子の判別、耐性菌株の遺伝的系統の解析等を実施した。
結果と考察
3年間に、愛知県、岐阜県、群馬県、石川県、富山県の9つの高齢者施設(介護施設、療養施設等)の入所者等よりVRE、MRSA、CRE、ESBL産生菌、MDRA、MDRP、PR(I)SPの7種類の薬剤耐性菌を分離し、同定と詳しい遺伝子解析を開始した。全検体に占めるMRSAとESBL産生菌の分離頻度には、施設によりばらつきが見られた。咽頭由来検体が10検体以上提供された8施設では、MRSAの分離頻度は、4.8%から14.3%、また、糞便検体が20検体以上提供された7施設では、ESBL産生菌の分離頻度は、9.7%から52.4%、さらに尿検体が10検体以上提供された7施設ではESBL産生菌の分離頻度は、6.7%から27.6%であり、一部の施設でのMRSAとESBL産生菌の分離率は、急性期医療機関や市中の健常者での保菌率を超える状況が把握された。しかし、国際的に警戒されている、CRE、MDRA、MDRP、VREは分離されず、また、CLSIの定めるdisk拡散法で「耐性」と判定される肺炎球菌株は検出されなかった。なお、MRSAやESBL産生菌の分離頻度の高い施設では、それらの施設内拡散が発生している可能性が示唆された。
 3年間に356名の検体提供者からの延べ802件の検体より多く分離されたESBL産生大腸菌とMRSAについて詳細な遺伝学的解析を実施した結果、療養型施設入所者等由来のMRSAについては、市中感染型MRSA(CA-MRSA)と院内感染型MRSA(HA-MRSA)の双方が分離され、特にHA-MRSAにCA-MRSAの染色体の一部が取り込まれたハイブリッド型のMRSA ST764(CC5)が、異なる複数の施設の入所者等から分離された。一方、ESBL産生大腸菌については、国内外で広範に分離されている国際流行クローンE. coli ST131-B2に属する株が過半を占め、また、それらが保持するESBL遺伝子媒介プラスミドの多くは、IncFグループに属し、さらに、媒介されるESBL遺伝子は、国際的に広く拡散しているblaCTX-M-15とともに、国内やアジア地域の急性期医療機関でも多く分離されるblaCTX-M-27の頻度が高い傾向が確認された。
 以上から、療養型施設等と急性期医療機関との間での入所者や患者等の間で、遺伝的に同等なMRSAやESBL産生大腸菌が共有されていることが示唆された。

結論
3年間に、愛知県、岐阜県、石川県、富山県、群馬県内の9の施設の入所者等から分離されたMRSAやESBL産生菌については、施設間でその分離頻度にかなりのばらつきが見られ、一部では、急性期医療機関における分離頻度を超える施設もみられた。
 MRSAでは、いわゆる市中感染型と院内感染型の双方が確認された。特に多剤耐性傾向を示す院内感染型HA-MRSAの染色体に、抗菌薬の選択圧が低い市中で広がりやすいCA-MRSAの遺伝子の一部が取り込まれたハイブリッド型のMRSA ST764(CC5)が、複数の異なる施設の入所者より分離されており、今後、その動向に注目する必要がある。
 他方、ESBL産生大腸菌では、国際的に広く流行しているクローン(E. coli ST131-B2)が多く分離され、また、ESBL遺伝子を媒介する伝達性プラスミドのレプリコンタイプはIncFグループが主流であり、さらに媒介されているESBLの遺伝子型は、世界各地から報告されるCTX-M-15型とともに、アジア地域の急性期医療機関や健常者で多く分離される傾向がある、CTX-M-27が多いことなどが、確認された。
 MRSAやESBL産生大腸菌が高頻度で分離される施設では、遺伝的に類似した耐性株が複数の異なる入所者から分離される傾向が見られ、当該施設内で入所者間に伝播拡散している可能性が強く示唆された。

公開日・更新日

公開日
2021-11-16
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201721003C

収支報告書

文献番号
201721003Z