酵素誘導による医薬品相互作用の発現予測試験法の開発研究

文献情報

文献番号
199800634A
報告書区分
総括
研究課題名
酵素誘導による医薬品相互作用の発現予測試験法の開発研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
横井 毅(金沢大学薬学部)
研究分担者(所属機関)
  • 山崎浩史(金沢大学薬学部)
  • 中嶋美紀(金沢大学薬学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在世の中で使用されている全医薬品の50%以上は、P4503AというチトクロームP450の分子種で代謝されることが明らかになっている。さらにP4503Aは、多くの医薬品によって誘導や阻害を受ける。阻害についてはメカニズムが解明されており、特にアゾール系の抗真菌剤やグレープフルーツジュースとの併用に注意する必要があることは広く知られることとなった。しかしながら、誘導についてはほとんど解明されていない。ヒトP4503A活性には10倍以上の個体差が存在する。この個体差は遺伝的多型に起因するものではない。この個体差が生じる原因を解明しない限りは、全体の50%以上の医薬品の安全で適正な使用は困難なままである。
本研究は、P4503Aの誘導メカニズムを従来とは異なる新しいアプローチで解明し、医薬品の適正使用の道を拓こうとするものである。すなわち、既知のP4503Aの誘導剤であるリファンピシン、フェノバルビタールやステロイド剤等によって、P4503Aの誘導以外にどのような反応が生体中で起きているかを知る事が必須である。このために誘導剤によって影響を受けるすべての事象を包括的に捉える必要がある。本年度は第一に、ヒトで多くの相互作用が報告されているリファンピシンについて、リファンピシン投与マウス(ラットはリファンピシンでP4503Aがほとんど誘導されないという種差が存在する)を用いて、肝臓と小腸においてどのような蛋白質(酵素や転写因子など全てを含む)の発現が誘導や抑制されるかを解明する。このためにディファレンシャルディスプレイという方法を用いる。これにより、誘導剤で影響を受けるすべての酵素や転写因子を明らかにする。
本研究によりP4503Aの誘導メカニズムを明らかにし、生体中の様々な代謝や発現調節の情報ネットワークにどのような影響を及ぼしているかを定量的に解明することを目指す。これは個体差の原因解明となるとともに、医薬品の安全使用に新しい見地を提供すると考える。
研究方法
プローブ薬としてヒトにおいて多くの薬物相互作用が報告されているP4503A誘導薬であるリファンピシンを用いた。ヒト由来培養細胞ではP4503Aの発現はまったく消失している。さらに誘導薬投与の前後の肝RNAは、ヒトからは得ることは極めて困難である。さらに、実験動物で最も多くの遺伝子情報が蓄積されているマウスを選択した。リファンピシン投与の有無により発現が影響を受ける遺伝子を包括的に捉えるためにディファレンシャルディスプレイ法を用いた。発現が影響を受ける遺伝子の断片をクローン化し、塩基配列を解析した。P4503Aの指標となる酵素活性としてミダゾラム1'-および4-水酸化酵素活性、テストステロン6b-水酸化酵素活性を測定し、P4503A蛋白の増加をウエスタンブロットで検討した。一方、P4503A活性をin vitroで測定する場合の最適測定条件の検討、およびP4503Aが代謝に及ぼす寄与率の予測を、P4503A発現系細胞およびヒト肝ミクロソームを駆使して検討した。
結果と考察
1)マウス肝および小腸P4503Aの誘導に最適なリファンピシン投与条件を設定した。リファンピシン 50 mg/kgを4日間投与で活性レベルが3~5倍、蛋白レベルが10倍程度の誘導を起こす事を確認した。肝由来ミクロソームのP4503Aは安定で高い活性を認めたが、小腸由来ミクロソームの活性は非常に不安定で、再現性に乏しかった。このため計画では肝と同時に小腸のRNAもディファレンシャルディスプレイ法により検討を進める予定であったが、小腸についてのミクロソーム安定性と活性測定法について再検討する事とした。よって、主に肝RNAを用いて以下の検討を進めた。
2)肝RNAを用いたディファレンシャルディスプレイ法による検討の結果、誘導の有無により、発現量が増加するクローンを42種、発現量が減少するクローンを20種単離した。常法によるディファレンシャルディスプレイに加え、コロニーPCR法、サイバーグリーンを用いた非RI法など随所に工夫を凝らし、再現性の良い方法を選択した。
3)全62クローン約3分の1の塩基配列の解析が終了した。これまでの結果より、発現が誘導されるものとして、P4504A10分子種、cAMP反応性エレメント結合蛋白、 5HT3 セロトニンレセプター、カテプシンS、RNAse L、グリセロアルデヒド3-リン酸脱水素酵素など多くの情報が得られた。発現が抑制されるものとして、ミトコンドリアのゲノム配列が多く見出された。さらにいずれも約3分の1は、機能が不明なEST (expressed sequence tag)遺伝子であった。今後得られたクローン全部の配列の情報を得るとともに、実際にリファンピシン投与マウスでの、これらの蛋白質の用量依存的発現量の変化を確認すると共に、P4503Aが誘導を受け、代謝活性が変化する事にどのように関わっているかを検討する予定である。
4)In vitroでのP4503A活性の評価について検討した。アゼラスチンをプローブ薬物として、ヒトin vivoにおける代謝活性、ヒト肝ミクロソームにおける代謝活性およびヒトP4503A発現系における代謝の詳細な検討をした。その結果、発現系におけるクリアランス値を用いる事によりin vivoを外挿できるデータを得た。さらにin vitroにおけるP4503Aの活性測定には、P4503A:還元酵素:チトクロームb5が1:2:1のモル比が最適な条件であることを見出した。
結論
初年度ではP4503Aを誘導する医薬品によって、P4503Aのみならず他種類の遺伝子発現が増大していることを明らかにした。さらに同時に発現が抑制される遺伝子も多くある事も見出した。これらの個々の遺伝子がP4503A誘導にどのように係わるかは次年度の検討課題である。

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