HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究

文献情報

文献番号
201719019A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
課題番号
H27-エイズ-指定-004
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
白阪 琢磨(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 臨床研究センター エイズ先端医療研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 鯉渕 智彦(東京大学医科学研究所 感染免疫内科)
  • 久慈 直昭(東京医科大学 産科婦人科)
  • 日ノ下 文彦(国立研究開発法人国立国際医療研究センター 腎臓内科)
  • 橋本 謙(特定非営利活動法人りょうちゃんず)
  • 大山 泰宏(京都大学大学院教育学研究科)
  • 角谷 慶子(一般財団法人長岡記念財団長岡ヘルスケアセンター)
  • 安尾 利彦(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 臨床心理学)
  • 村井 俊哉(京都大学 医学研究科 脳病態生理学講座(精神医学))
  • 山内 哲也(社会福祉法人武蔵野会 知的障害者福祉)
  • 下司 有加(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター・HIV/AIDSケア)
  • 佐保 美奈子(井端 美奈子)(公立大学法人大阪府立大学大学院・母性看護学)
  • 高田 清式(愛媛大学医学部付属病院総合臨床研修センター 感染症内科)
  • 榎本 てる子(関西学院大学神学部)
  • 江口 有一郎(佐賀大学医学部肝疾患医療支援学講座)
  • 大北 全俊(東北大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
55,717,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者交替 藤原良次(平成29年4月1日~平成29年10月31日)→橋本謙(平成29年11月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
平成23年度、後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針の見直し作業班の報告書およびこれまでの先行研究の成果を踏まえ、本研究ではHIV感染症および合併症で未解決の課題を明らかにし対策を示すことを目的とする。
研究方法
当研究班は6つの柱、すなわち柱1 HIV 感染症の抗HIV 治療ガイドライン改訂、柱2 HIV 感染者の生殖医療研究、柱3 HIV 感染者の透析医療のガイドライン改訂、柱4 HIV 感染者の精神・心理的課題に関する研究、柱5 HIV 感染者の長期療養の課題に関する研究、柱6 効果的な啓発手法の開発研究、その他 HIV 医療における倫理的課題に関する研究を実施した。柱1 米国等のガイドラインを参照し国内外の臨床研究の成果および国内での抗HIV 薬の承認状況を鑑みて今年度も改訂した。柱2 ではHIV serodiscordant coupleでの安全で効率の高い生殖医療の実施に向け技術的改良の研究を進めた。柱3 では透析に関わる関連学会で議論を重ねて策定した新ガイドラインやマニュアルを周知および実施上の課題に付き検討を進めた。柱4 ではカウンセリングの重要性、カウンセラーと精神科医との連携の在り方、HIV 感染者の心理的課題と対策、HAND に特徴的なMRI 所見の解析等と取り組んだ。柱5 では福祉施設、エイズ診療の拠点病院の立場からHIV 陽性者の長期療養につき研究を継続し、看護師等への教育研修方法に付き検討した。柱6 ではソーシャルマーケティング手法を用いて啓発手法の開発と効果測定システムの確立を目指した。いずれも分担研究間相互に連携し研究を実施した。研究班全体は白阪が統括した。
結果と考察
柱1ガイドラインを改訂した。柱2 洗浄凍結精液による人工授精法や精液中のHIV検出法の検出感度の信頼性を検討した。柱3 複数の地域で講演会を開催し、全国の透析施設にアンケート調査を行った。柱4 1)カウンセリング効果として抑うつ気分や不安の改善がみられた。2)全国1,204施設に郵送し有効回答は192で、その多くは精神科病院で、ほとんどが受け入れ経験が無かった。入院受け入れ困難理由に、バックアップ体制の不安,職員の感染不安,経済面での負担が高かった。3)これまでにのインタビュー調査結果を、当事者(ピア)、社会学者、臨床心理士、看護師で多角的に分析し、薬害HIV感染被害者は、自分でも表現できないような不安感や虚脱感を抱えていることがわかった。4)無就労や自傷には自尊感情の低さが、自傷、コンドーム不使用には私的自意識(情緒への関心)の低さが関連した。受診中断、服薬、飲酒は心理尺度との関連がなかった。5)患者群と対症群のMRI画像を解析し、視覚統合の検査成績とMRI画像の灰白質体積との間で有意な相関領域を検出した。柱5 1)全国の社会福祉施設従事者対象のHIV/AIDS研修を行い、事後アンケート等から受入れ意識の向上が認められた。研修受講後に複数の受入れ実績につながった。2)研修会終了後、受け入れ意識が「変化した」は68%、「以前から支援したいと考えており、変化していない」は22%であり、他方、「以前から支援は困難と考えており変化していない」とは0%であった。今後の受け入れについては53%が可能、36%が準備が整えば可能と回答し、受け入れ不可能という回答はなかった。3)HIVサポートリーダー養成研修は大阪府を含め、近畿から広く受講者が増加した。4)愛媛県での今年度までの2年間の研究で各病院や福祉施設間の密な連携が図られ、介護・療養が必要な患者の受け入れに前向きな傾向が得られ、受け入れに繋がった。5)4回の研究会を開催し、高齢化するHIV陽性者の生活支援に必要な公的援助に関する研究を行った。柱6 1)開発したポスター等やFMラジオを用いた啓発を行い、その効果評価の仕組みを試行的に構築し評価を進めている。2)HIV検査受検勧奨の啓発にデジタルマーケティングは効果的であり、メッセージに曝露したターゲットの一定割合(約5%)が“検査施設の検索行動”という具体的な行動変容に繋がったことが確認された。その他、日本でのHIV/AIDSに関する報道記事検索による関連記事数の年次推移は、薬害裁判和解に関する記事が多くを占める1996年が突出しており、1992年で突然増加し、その後横ばいから減少傾向にあった。
結論
種々の現存する課題に付き研究を実施し、各分担研究で得られた成果は、今後の施策や研究に大いに活用できると考える。

公開日・更新日

公開日
2018-06-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2018-06-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201719019B
報告書区分
総合
研究課題名
HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究
課題番号
H27-エイズ-指定-004
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
白阪 琢磨(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 臨床研究センター エイズ先端医療研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 鯉渕 智彦(東京大学医科学研究所 感染免疫内科)
  • 久慈 直昭(東京医科大学 産科婦人科)
  • 秋葉 隆(東京女子医科大学 内科学 腎臓病学 血液浄化学)
  • 橋本 謙(特定非営利活動法人りょうちゃんず)
  • 大山 泰宏(京都大学大学院教育学研究科)
  • 角谷 慶子(一般財団法人長岡記念財団長岡ヘルスケアセンター)
  • 安尾 利彦(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 臨床心理学)
  • 村井 俊哉(京都大学 医学研究科 脳病態生理学講座(精神医学))
  • 山内 哲也(社会福祉法人武蔵野会 知的障害者福祉)
  • 下司 有加(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター・HIV/AIDSケア)
  • 佐保 美奈子(井端 美奈子)(公立大学法人大阪府立大学大学院・母性看護学、助産学担当)
  • 高田 清式(愛媛大学医学部付属病院総合臨床研修センター 感染症内科)
  • 榎本 てる子(関西学院大学神学部)
  • 江口 有一郎(佐賀大学医学部肝疾患医療支援学講座)
  • 渡邊 大(独立行政法人国立病院機構大阪医療センターエイズ先端医療研究部)
  • 大北 全俊(東北大学大学院医学系研究科)
  • 日ノ下 文彦(国立研究開発法人国立国際医療研究センター 腎臓内科)
  • 藤原 良次(特定非営利活動法人りょうちゃんず)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究ではHIV感染症および合併症で未解決の課題を明らかにし対策を示すことを目的とする。
研究方法
柱1は抗HIV療法のガイドラインに関する研究、柱2はHIV陽性者の生殖医療に関する研究、柱3はHIV感染患者における透析医療の推進に関する研究、柱4 精神・心理的課題に関する研究では、次の5研究を実施した。1)HIV陽性者の心理的支援の重要性に関する検討、2)精神科医とカウンセラーの連携体制の構築に関する研究、3)血液製剤由来HIV感染者の心理的支援方法の検討、4)HIV陽性者の心理学的問題と援助に関する研究、5)MRI画像による神経認知障害の神経基盤の解明である。柱5の長期療養課題に関する研究では、次の5研究を実施した。1)福祉施設におけるHIV陽性者の受け入れ課題と対策、2)エイズ診療拠点病院と在宅あるいは福祉施設の連携に関する研究、3)介護保険施設のHIVケアと学校基盤のHIV予防における拡大戦略の研究、4)地方における病院・福祉療養施設間のHIV診療連携モデル構築に関する研究、5)HIV陽性者の地方コミュニティーでの受け入れに関する研究、柱6の啓発研究では、1)効果的啓発手法の開発に関する研究、2)啓発方法の効果の評価に関する研究を実施した。その他、HIV感染症における倫理的課題に関する研究を行った。研究全体は白阪が統括する。(倫理面への配慮)調査研究等においては患者の個人情報の取り扱いには十分留意をすると共に、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守する。
結果と考察
柱1 では国内外の臨床研究の成果および国内での抗HIV 薬の承認状況を鑑みて毎年改訂した。柱2 では主にHIV 感染夫とHIV 非感染妻の間での体外受精を用いる生殖医療の実施上で受精機能の高い精子の分離技術などの改良研究を進めた。柱3 では新透析のガイドラインやマニュアルを周知および実施上の課題に付き検討を進めた。柱4 ではカウンセリングの重要性、カウンセラーと精神科医との連携の在り方、HIV 感染者の心理的課題と対策を検討し、HAND のMRI 所見等の解析も行った。柱5 では福祉施設、エイズ診療の拠点病院の立場からHIV 陽性者の長期療養につき研究を継続し、看護師等への教育研修方法に付き検討した。柱6 ではソーシャルマーケティング手法を用いて啓発手法の開発を行い、効果測定システムの確立を目指した。
3年間の研究を通じて、抗HIV治療ガイドラインは毎年の様に新規HIV薬が承認され、新たな臨床知見も得られ、海外でもほぼ毎年改訂された。当面は毎年の改訂が必要と考える。生殖医療については、体外受精や人工授精などでの安全で効率の良い技術にも改善がまだ必要であり、さらに治療状況が良好なHIV陽性夫での挙児の方法につき欧米の状況も参照にしながら、わが国の状況に適した方法の検討が必要と考える。透析については治療良好な陽性者からの感染のリスクはほぼ無いと考えられ、院内感染対策上は標準予防策で良い。実施施設では万一の職業HIV暴露後対策マニュアルや予防内服体制の整備等は求められ、引き続き研修等が必要と考えられる。HIV陽性者へのカウンセリングの有用性について肯定的観察結果も得られているが、症例数を増やしての検討が必要と考えられる。薬害被害者はカウンセリングが否定的に考えられた時代背景も踏まえたカウンセリング手法の検討は今後も必要と考えられる。長期療養については関わる職種も多彩であり、複数の制度があり、施設等での受け入れの推進に加え、利用者に適切なケアを供給できる体制作りが課題として浮かび上がた。在宅看護については研修会の継続的実施で担当看護師の受け入れ意識は改善しと示唆されたが、さらなる継続が必要と考える。啓発では、ソーシャルマーケッティング理論に基づく方法は、HIVの領域では種々の制限があったが、フォーカスインタビューやWEB調査などを経て、ターゲット層に有効に届く方法やメッセージなどの資材の開発を実施し、スマホを用いた検査予約システムと連携した評価システムモデルを構築し、今後、新たな展開が可能と見込まれる。いずれの研究も研究分担間で相互に研究を連携し実施した。
結論
HIV感染症の治療と関連分野で課題を抽出し、ほぼ計画通りに研究を実施できた。本研究はHIV感染症の治療等で課題を明らかにし、その対策につき検討を行うものであり、必要性は高い。いずれも意義も高く、国際的にも新規性が高い。治療のガイドライン改訂など、社会的意義も大きいと考える。

公開日・更新日

公開日
2018-06-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2018-06-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201719019C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究はHIV感染症の治療等で課題を明らかにし、その対策につき検討を行うものであり、必要性は高い。いずれも学術的意義も高く、国際的にも新規性が高い。
臨床的観点からの成果
治療のガイドライン改訂など、社会的意義も大きいと考える。
ガイドライン等の開発
「抗HIV治療ガイドライン」平成27年度から平成29年度 毎年1回改訂した。
その他行政的観点からの成果
加齢や合併症などによって介護が必要となるHIV感染者が増加してる現状を知らせ、福祉施設でのHIV陽性者の受け入れについて、大阪府等の地方行政の協力を得て在宅看護や福祉施設向けのHIV/エイズ研修会・講演会を開催した。
その他のインパクト
HIV感染症はHAART治療によって医学的管理ができる慢性疾患となったが、HIV感染症の治療で克服すべき課題は山積しているという現状はマスコミでも取り上げられた。公開シンポジウムを開催した。

発表件数

原著論文(和文)
9件
原著論文(英文等)
13件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
73件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
講演1件、イベント1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2018-06-25
更新日
2022-06-10

収支報告書

文献番号
201719019Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
62,000,000円
(2)補助金確定額
62,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,590,812円
人件費・謝金 7,140,059円
旅費 4,509,565円
その他 39,592,932円
間接経費 6,283,000円
合計 62,116,368円

備考

備考
利息8円、自己資金116,360

公開日・更新日

公開日
2022-06-10
更新日
-