文献情報
文献番号
201719018A
報告書区分
総括
研究課題名
血液製剤によるHIV/HCV重複感染患者の肝移植に関する研究
課題番号
H27-エイズ-指定-003
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
江口 晋(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
- 江川 裕人(東京女子医科大学 医学部消化器外科)
- 江口 英利(大阪大学 医学系研究科)
- 上平 朝子(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 感染制御部)
- 遠藤 知之(北海道大学病院 血液内科 )
- 玄田 拓哉(順天堂大學醫学部附属静岡病院 消化器内科)
- 嶋村 剛(北海道大学病院 臓器移植医療部)
- 篠田 昌宏(慶應義塾大学病院 一般・消化器外科)
- 高槻 光寿(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
- 塚田 訓久(独立行政法人国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター)
- 中尾 一彦(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
- 長谷川 潔(東京大学 医学部附属病院)
- 八橋 弘(独立行政法人国立病院機構長崎医療センター 臨床研究センター)
- 四柳 宏(東京大学大学院医学系研究科 先端医療研究センター 感染症分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
血液製剤を介するHIV/HCV重複感染が社会問題となっている本邦においては、肝不全に対する治療の選択肢として肝移植治療を安定して供給することは社会からの要請であり、患者救済のため急務である。
本研究の目的は、HIV/HCV重複感染者における肝移植適応基準および移植周術期のプロトコルを確立することであり、そのための研究を展開してきた。本研究班の3年間の成果を総括する。
本研究の目的は、HIV/HCV重複感染者における肝移植適応基準および移植周術期のプロトコルを確立することであり、そのための研究を展開してきた。本研究班の3年間の成果を総括する。
研究方法
まず、肝移植適応基準の検証・確立において、これまでの研究から重複感染者における脳死登録ポイントのランクアップを行い、早期に登録可能となったが、より客観性の高いMELD(Model for end-stage liver disease)スコアによる緊急度評価に変更予定であるため、同基準によるランクアップ加点システムの構築を行った。次に、肝線維化マーカーの探索では、HIV/HCV重複感染者への肝移植経験の豊富なイタリアUdine大学と協力し、肝移植後の肝生検サンプルを用いたマイクロアレイでmicroRNAを解析した。次に、肝細胞癌調査・登録においては、HCV感染は肝細胞癌の高リスクであり、HCCは肝移植の成績を左右する重要な因子であるため、HCC合併の実態を全国のエイズ診療施設へアンケート調査を実施、日本肝癌研究会の症例登録システムへHIV感染の有無を登録できるようにした。また、周術期管理の標準化では、HIV治療では免疫抑制剤と相互作用のないインテグラーゼ阻害剤raltegravirを術前から投与、術後は可及的速やかに再開、HCV治療は術後再発に対しdirect acting antivirals(DAA)を使用、免疫抑制療法は導入にbasiliximab(シムレクト)を用いるプロトコールとし、全国で3例の症例に脳死肝移植を施行した。公開シンポジウム開催では、研究班の成果を広く情報発信するべく、一般市民を対象とした公開シンポジウムを東京で開催した。
結果と考察
HIV/HCV重複感染者に対する肝移植の問題点はHCV単独感染と比較して2点あり、①肝不全が急激に進行し移植施行のタイミングが遅れる、②周術期管理が困難、ということであった。前者に対してChild分類をもとにした緊急度ランクアップが既に承認されているが、今後MELDスコアを基準にした一律で自動的な登録となっているため、この緊急度ランクアップをどう適用するかを検討した。また、重複感染症例に特徴的な肝線維化進行のメカニズムを明らかにする目的で肝移植後の肝生検組織を用いたmiRNAの検討を行い、興味深い知見を得た。先行研究において肝移植時の摘出肝を用いて線維化を抑制するmiRNA101が重複感染者で発現低下していることを報告したが(Miyaaki/Takatsuki et al. Ann Transplant 2017)、今回は肝移植後のサンプルであり、HIV感染により正常肝がどのように線維化が進行していくかのメカニズムを解明するきっかけとなる可能性がある。
HCCの合併については全国の施設にアンケート調査を行い24例の症例を得たが、協力可能施設や症例数が十分でなく、今後DAA治療の普及などによりHCCの診療も大きく変化していく可能性があるため、包括的な検討が必要である。
当研究班の直接の目標である患者救命では、現在までの研究結果をもとに確立した周術期プロトコールで3例の症例を脳死肝移植で救命できた。引き続き症例集積及びフィードバックを行い、移植適応と周術期管理は適宜更新していく必要がある。
また、当研究班の成果と意義を広く情報公開する目的で公開シンポジウムを開催、また本邦のエイズ診療として最大施設のひとつである国立国際医療研究センターのHPへ肝移植相談窓口を開設した。本研究の対象は「エイズ」、「肝移植」と専門性が高い領域であるため、積極的な情報公開が必要である。
HCCの合併については全国の施設にアンケート調査を行い24例の症例を得たが、協力可能施設や症例数が十分でなく、今後DAA治療の普及などによりHCCの診療も大きく変化していく可能性があるため、包括的な検討が必要である。
当研究班の直接の目標である患者救命では、現在までの研究結果をもとに確立した周術期プロトコールで3例の症例を脳死肝移植で救命できた。引き続き症例集積及びフィードバックを行い、移植適応と周術期管理は適宜更新していく必要がある。
また、当研究班の成果と意義を広く情報公開する目的で公開シンポジウムを開催、また本邦のエイズ診療として最大施設のひとつである国立国際医療研究センターのHPへ肝移植相談窓口を開設した。本研究の対象は「エイズ」、「肝移植」と専門性が高い領域であるため、積極的な情報公開が必要である。
結論
肝移植適応と周術期管理についてはひとまず確立できた。多数の症例をもとに解析できる領域ではないため、現時点での最善策として『血液製剤によるHIV/HCV重複感染者に対する肝移植のベストプラクティス2018』として本研究の結果をまとめ、情報発信していく。
公開日・更新日
公開日
2020-01-21
更新日
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