文献情報
文献番号
201719017A
報告書区分
総括
研究課題名
非加熱血液凝固因子製剤によるHIV感染血友病等患者の長期療養体制の構築に関する患者参加型研究
課題番号
H27-エイズ-指定-002
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
木村 哲(公益財団法人エイズ予防財団)
研究分担者(所属機関)
- 柿沼 章子(社会福祉法人はばたき福祉事業団)
- 照屋 勝治(国立国際医療研究センター病院)
- 江口 晋(長崎大学大学院)
- 遠藤 知之(北海道大学病院)
- 三田 英治(国立病院機構大阪医療センター)
- 四柳 宏(東京大学医科学研究所)
- 田中 純子(広島大学大学院)
- 藤谷 順子(国立国際医療研究センター病院)
- 大金 美和(国立国際医療研究センター病院)
- 今井 公文(国立国際医療研究センター病院)
- 潟永 博之(国立国際医療研究センター病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
43,462,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
HIV感染血友病等患者(以下、患者)はHIV感染自体あるいは長期抗HIV療法の副作用による糖代謝や脂質異常や合併するHCV感染症の進行、高齢化・関節症悪化による日常活動能の低下、精神的な問題等々を抱えている。この研究はこのような患者にとって最良の長期療養体制を見出すことを目的とした。
研究方法
研究は下記の1から5のサブテーマに分け、連携しながら同時進行で行った。
1. 全国のHIV感染血友病等患者の健康状態・日常生活の実態調査と支援に関する研究
2. 合併C型慢性肝炎に関する研究
3. 血友病性関節症等のリハビリテーション技法に関する研究
4. HIV感染血友病等患者の医療福祉と精神的ケアに関する研究
5. HIV感染血友病等患者に必要な医療連携に関する研究
1. 全国のHIV感染血友病等患者の健康状態・日常生活の実態調査と支援に関する研究
2. 合併C型慢性肝炎に関する研究
3. 血友病性関節症等のリハビリテーション技法に関する研究
4. HIV感染血友病等患者の医療福祉と精神的ケアに関する研究
5. HIV感染血友病等患者に必要な医療連携に関する研究
結果と考察
サブテーマごとに研究結果の概要を述べる。
1.全国の患者の健康状態・日常生活の実態調査と支援について:患者の生活の質のQALY(Quality adjusted life year)は一般男性の約6割でしかないことが判明した。患者には、社会との接触を最小限に減らそうとの意識がある。このような患者に対し、地域の訪問看護ステーションの協力を得、訪問健康相談を実践し、これが極めて効果的であることを見出した。
全国拠点病院の調査では、DAA療法によるHCV感染症の治癒例が更に増加し、平成29年末には自然治癒およびインターフェロン治療による治癒と合わせ、全体の80%が治癒状態にあることが判明した。ACCの患者データベース解析から、今後は血圧のコントロールと腎機能の保護に配慮が必要であることが判明した。
2.合併するC型慢性肝炎について:HIV/HCV重複感染症例につき直接作用型経口抗HCV薬(DAA)療法の多施設共同臨床試験を実施した。HCV genotype 1型: 32名、2型: 6名に対し、それぞれLedipasvir/SofosbuvirおよびSofosbuvir+Ribavirinを12W投与し、全例でSVR12(治癒)が得られ、高い有効性・安全性が確認できた。FIB4 、肝硬度は多くの症例で低下し、AFPはほぼ全例で低下した。
DAA療法が導入される前の時期のHIV/HCV重複感染患者についてマルコフモデルによる肝病態推移を解析した結果、HCV単独感染例に比べ、肝硬変・肝細胞癌への進展が著しく早いことが確認された。
3.血友病性関節症等のリハビリテーション技法について:前向きクロスオーバー試験が完了した。機能訓練士(PT)訓練先行群では6か月のPT訓練期間における股関節周囲筋力、歩行率・速足歩行速度の改善が有意であった。自主トレ先行群でも有意に改善する項目もあったが、総合的にはPT訓練先行群の効果が顕著であった。なお、1年間の研究期間の前後では、この集団(平均年齢50代)の歩行率は90歳相当から81歳相当に改善していた。
血友病等患者に対するリハビリテーションの全国普及・均霑化に向けて実施地域を広めた。
4.患者の医療福祉と精神的ケアについて:50歳代の患者では未婚率が高く(80%)、高齢の親(70~80代)に依存している特徴があり、近い将来、親を含めて支援が必要になると予想されたことから、長期療養施設、介護施設の職員勉強会を主導した。受け入れ施設側の要望としては、病態変化時の専門医療機関の支援体制の確保が最も強かった。
ACC通院中の血友病患者ではFrascati CriteriaをもとにしたHAND有病率は59名中27名(46%)であり、非血友病HIV感染者を対象とした研究(J-HAND)の有病率25%より高率であった。J-HANDに比べ製剤による感染者では,注意/作動記憶、実行機能、情報処理速度の領域で障害の割合が高かった。
5.患者に必要な医療連携について:HIV診療にはHIV診療科のみならず多診療科による連携、多職種による連携および地域医療・福祉・介護との協働・連携が必要である。多領域にわたる連携を促進・円滑化するために、はばたき福祉事業団の要請を受け、ACCにセカンドオピニオン外来をスタートさせた。
1.全国の患者の健康状態・日常生活の実態調査と支援について:患者の生活の質のQALY(Quality adjusted life year)は一般男性の約6割でしかないことが判明した。患者には、社会との接触を最小限に減らそうとの意識がある。このような患者に対し、地域の訪問看護ステーションの協力を得、訪問健康相談を実践し、これが極めて効果的であることを見出した。
全国拠点病院の調査では、DAA療法によるHCV感染症の治癒例が更に増加し、平成29年末には自然治癒およびインターフェロン治療による治癒と合わせ、全体の80%が治癒状態にあることが判明した。ACCの患者データベース解析から、今後は血圧のコントロールと腎機能の保護に配慮が必要であることが判明した。
2.合併するC型慢性肝炎について:HIV/HCV重複感染症例につき直接作用型経口抗HCV薬(DAA)療法の多施設共同臨床試験を実施した。HCV genotype 1型: 32名、2型: 6名に対し、それぞれLedipasvir/SofosbuvirおよびSofosbuvir+Ribavirinを12W投与し、全例でSVR12(治癒)が得られ、高い有効性・安全性が確認できた。FIB4 、肝硬度は多くの症例で低下し、AFPはほぼ全例で低下した。
DAA療法が導入される前の時期のHIV/HCV重複感染患者についてマルコフモデルによる肝病態推移を解析した結果、HCV単独感染例に比べ、肝硬変・肝細胞癌への進展が著しく早いことが確認された。
3.血友病性関節症等のリハビリテーション技法について:前向きクロスオーバー試験が完了した。機能訓練士(PT)訓練先行群では6か月のPT訓練期間における股関節周囲筋力、歩行率・速足歩行速度の改善が有意であった。自主トレ先行群でも有意に改善する項目もあったが、総合的にはPT訓練先行群の効果が顕著であった。なお、1年間の研究期間の前後では、この集団(平均年齢50代)の歩行率は90歳相当から81歳相当に改善していた。
血友病等患者に対するリハビリテーションの全国普及・均霑化に向けて実施地域を広めた。
4.患者の医療福祉と精神的ケアについて:50歳代の患者では未婚率が高く(80%)、高齢の親(70~80代)に依存している特徴があり、近い将来、親を含めて支援が必要になると予想されたことから、長期療養施設、介護施設の職員勉強会を主導した。受け入れ施設側の要望としては、病態変化時の専門医療機関の支援体制の確保が最も強かった。
ACC通院中の血友病患者ではFrascati CriteriaをもとにしたHAND有病率は59名中27名(46%)であり、非血友病HIV感染者を対象とした研究(J-HAND)の有病率25%より高率であった。J-HANDに比べ製剤による感染者では,注意/作動記憶、実行機能、情報処理速度の領域で障害の割合が高かった。
5.患者に必要な医療連携について:HIV診療にはHIV診療科のみならず多診療科による連携、多職種による連携および地域医療・福祉・介護との協働・連携が必要である。多領域にわたる連携を促進・円滑化するために、はばたき福祉事業団の要請を受け、ACCにセカンドオピニオン外来をスタートさせた。
結論
患者のQALYは健常男性の6割と低かった。訪問健康相談により、患者が社会的・医療的資源を活用できるようになった。DAA療法が極めて有効かつ安全であることが証明された。リハビリテーションが日常生活機能の改善につながることが示された。50代患者層に介護が必要となるリスクが高いことが示され、長期療養施設の受け入れ準備を実施した。HANDの合併頻度が他の感染経路によるHIV感染者より高いことが示された。ACCの被害者救済医療室におけるセカンドオピニオン体制をスタートさせた。
公開日・更新日
公開日
2018-05-28
更新日
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