日本におけるHIV感染者・エイズ患者の発生動向に関する研究

文献情報

文献番号
201719011A
報告書区分
総括
研究課題名
日本におけるHIV感染者・エイズ患者の発生動向に関する研究
課題番号
H29-エイズ-一般-005
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
砂川 富正(国立感染症研究所 感染症疫学研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 松岡 佐織(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV感染拡大抑制に向け早期診断・早期治療は重要戦略であり、WHOはカスケードケアに基づく90-90-90達成を目指すことを推奨している。これは、HIV陽性者が感染の状況について自らの診断を知っている率(診断率)、診断者の治療率、治療の成功率のいずれも90%以上を各国が目指すものである。本邦においても早期診断・早期治療の強化に向け、これらの把握が必要である。特に本邦では感染症発生動向調査により毎年の新規HIV/AIDS発生報告件数が継続的に把握されているが、同調査の年間新規報告件数の約3割はAIDS発症によりHIV感染が判明したものであり、精度の高い累積HIV発生総数(HIV/AIDS報告総数+未診断HIV陽性者数)の推定を行い、その情報をもとに診断率、治療率、成功率を正しく分析することが喫緊の課題である。国内累積HIV発生総数推定には複数の研究が行われており、松岡らはこれまで、血清学的検査結果をふまえた精度の高い国内HIV感染発生数推定法の樹立を進め、東京・大阪における発生数推定に至っている(H26-H28厚生労働省科学研究費補助金「日本国内のHIV感染発生動向に関する研究」)。
本研究班においては、松岡らは累積HIV発生総数の推定に加え、地方衛生研究所と拠点病院の連携により、HIV感染後の検査から医療機関への受診、治療までの一連の情報を継続的かつ包括的に収集し、カスケードケア分析に繋げる。砂川らは法に基づき継続的に収集される感染症発生動向調査により得られる情報の有用性と限界は何か、累積HIV発生総数の推定を検討対象に加える際に、さらに追加で収集すべき感染症発生動向調査情報の整理を行う。
本研究の推進により、地域的な発生動向を考慮した国内全体のHIV疾病負荷や予防戦略を含む介入に関する分析の方法や知見の把握に寄与するものである。また、HIVの感染症発生動向調査の改善は、HIVの診療上必要な初期情報の把握を網羅しつつ、カスケードケアに基づく累積HIV発生総数の推定を含めたHIV対策の基礎的なデータの質向上に直接寄与するものである。
研究方法
松岡らは、2015年以降、保健所等の公的検査機関でHIV陽性が診断された血液検体を対象として調査を進めるための研究協力体制を構築した。
砂川らは、国内外におけるHIV/AIDSサーベイランスの現状及び課題に関する情報収集を開始した。具体的にはコア関係者へのインタビューや学会・会議等の機会や文献的検索を用いた情報収集を行っている。
結果と考察
松岡らは、平成30年1月末時点で東京都、大阪府・市、福岡市・県の衛生研究所におけるそれぞれの施設で倫理委員会の承認を得て、Incidence assayに着手した。また新たな連携体制を模索し、本年度は沖縄県内の発生動向分析の体制作りを進めた。関連する研究の実施に向け、各機関に研究協力体制の合意おいて倫理申請の準備を進めている。関連施設の承認が得られ次第、調査を開始する。砂川らは、感染症発生動向調査の改訂に向けた需要や課題の抽出として、国外では、マルコフ連鎖モンテカルロ法によるベイズ逆算法や、新規の方法としてHIV診断時のCD4陽性細胞数を用いて、正常値からの減少率から感染時期を逆算する数理モデルを用いた推定手法などが用いられていた。国内で有病率の推計に関して、一部の研究者に対して、インタビューを実施した。CD4陽性細胞数を現在の届出に加えることの妥当性が考えられた。
結論
累積HIV発生総数の算出、及び未診断者の動向に関する解析、HIV感染者、診断者の動向把握に関しては、各グループにおける活動が行われており、進捗についてそれぞれの今後の解析の進展が待たれる。特に累積HIV発生総数の算出については、地域別発生動向とその統合に関する分析がベースとなることから、大きく期待されるものである。
感染症発生動向調査の改訂に向けた需要や課題の抽出については、診断方法に関する、現在の医療体制・検査体制に応じた届出項目への見直しや感染症のまん延及び当該者の医療のために必要な事項に対する具体的な議論が行われた。診断時のCD4陽性細胞数の届出については、未検査感染者数の推定に有用とされているのみならず、HIV感染者の明確に分類されることのない病期を表しており、公衆衛生学的な現状評価の観点からも重要な指標になり情報収集は有用であると考えられた。これらを含め、さらなる情報の収集や累積HIV発生総数の推定方法に関する整理が必要とされた。

公開日・更新日

公開日
2018-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-06-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201719011Z