エイズ動向解析に関する研究

文献情報

文献番号
201719010A
報告書区分
総括
研究課題名
エイズ動向解析に関する研究
課題番号
H29-エイズ-一般-004
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
羽柴 知恵子(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 感染症科、エイズ治療開発センター)
研究分担者(所属機関)
  • 金子 典代(公立大学法人名古屋市立大学・看護学部)
  • 椎野 禎一郎(国立感染症研究所・感染疫学センター)
  • 今橋 真弓(柳澤 真弓)(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 感染・免疫研究部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
旧研究者(名古屋医療センターエイズ総合診療部長 エイズ治療開発センター センター長:横幕 能行)が他研究代表者となったため、新研究者(名古屋医療センター 感染・免疫研究部 感染症研究室室長:今橋 真弓)と平成29年12月1日付けで交代した。

研究報告書(概要版)

研究目的
現在の動向調査では把握できない感染者等の情報を収集解析し、今後の普及啓発の対象を明らかにしその手法を提言する。研究対象地域を愛知県及び名古屋市とし、研究対象を名古屋医療センターを受診した新規未治療感染者等とし、1.バイ・ヘテロセクシャル、2.外国籍者、3.高齢者、4.女性、5.エイズ発症者を抽出し研究対象群とする。対照群を日本国籍若年エイズ未発症MSMのHIV感染者及び名古屋市無料HIV検査会受検者とする。それぞれの群の詳細な社会、疫学、臨床及びウイルス学的情報を収集し、得られた情報をGISの手法を用いて解析して各群の動向を可視化し、有効な普及啓発(地域、集団、時期、方法)を検討する。名古屋市無料HIV検査会受検者及び名古屋医療センター新規未治療感染者等の動向変化で啓発効果を検証する。
研究方法
1. それぞれの解析対象群及び対照群の情報を収集(羽柴、今橋、金子)
2. 感染者等のHIV pol の塩基配列をもとに系統樹解析によって伝播クラスタ・感染者ネットワークおよび重要な伝播ノードの発生時期を同定(椎野)
3. 1、2で得られた情報をGISで統合し動向を可視化(ESRI社のArcGISを使用)(羽柴)
(まず2009年から2013年の解析対象で実施し仮説立脚。ついで2014年~2018年の解析対象に対し同様に検討し仮説検証と修正を行うとともに下記4~6を実施する。)
4. 解析結果を対策会議等の場を通じて愛知県及び名古屋市に提供(今橋、金子)
5. 名古屋市無料HIV検査会の受検者及び名古屋医療センターの新規未治療感染者等の動向を経時的に追跡し、行政等の施策の効果検証と新たに対策を講じる必要がある群を同定するとともに、愛知県及び名古屋市外の地区の感染者等との関連の有無を検討(羽柴、今橋、椎野、金子)
6. 疾病知識の有効な普及啓発手段(地域、集団、時期、方法)を提言(羽柴、今橋、椎野、金子)
(2017年~2018年に上記1~3の解析を実施。2017年末より4、5の実施検討に着手。2019年に結果び公表と提言を行うことを目標とする。)
結果と考察
患者群の年齢平均値は39.3歳、84.7%が日本国籍、45.5%が名古屋市在住であった。中央値3.6年の追跡期間全5年生存率は95.1%であった。患者属性のうち初診時病期については無症候期で受診した患者の生存の方がAIDS期で受診した患者よりも有意に良好であった(p=0.0006)。対象群については第1回検査会の分析から、名古屋市は生涯初受検の割合は他地域より低く、直近の検査時期が「半年以内」であるものが28%と他の地域より高かった。名古屋市(31%)よりも愛知県(41%)、その他東海地域群(43%)のほうが過去6か月の有料ハッテン場利用は高く、直近の性行為相手の出会いの手段としても有料ハッテン場を挙げる者の割合が高い傾向にあった。新規感染者の配列解析に成功した112検体のサブタイプ構成は、CRF01_AEが5検体, subtype Cが3検体、CRF02_AG, CRF07_BC, 未知の組換え体がそれぞれ1検体づつ、subtype Bが101検体であった。Subtype Bの検体は、最尤系統樹上では4つのクラスタと10のペア集団に分かれた。そのうち、一つのクラスタを除く13クラスタ/ペアが、SPHNCS上の伝播クラスタと1対1で対応していた。一方、クラスタを形成しない検体のうち22検体が、SPHNCSにおいて別々の伝播クラスタに由来していた。
以上より、患者属性に関わらず、医療機関に早期に受診することができれば生存には影響しないことが示唆された。対象群については感染のリスクが高く検査の機会が少ない層は、市外の郊外居住者に多い可能性が示唆された。pol配列解析からは2013年以降東海地方には日本全国で流行する様々な伝播クラスタ由来のHIVが並行して感染していることがわかった。また、遺伝学的リンクが密で急速に感染を広げていることが明確な患者群も見いだせた。一方で、全国規模では大きなクラスタのいくつかが検体上で発見できないことは、検査会等で把握できないが無視できない感染者集団が存在することを示唆している。
結論
今後はAIDS期で診断された患者の属性を明らかにし、可視化すること、それらのデータを検査会受検者対象群と比較し、普及啓発活動の新たなる対象を見出す必要がある。また急速に伝播を広げた患者群と社会的背景の近い地区集団や、全国的には大きいにもかかわらず、少数しか見いだせない患者の周囲について新たな対象になりうるか属性データとの比較が必要である。

公開日・更新日

公開日
2018-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-06-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201719010Z