HIV感染妊娠に関する全国疫学調査と診療ガイドラインの策定ならびに診療体制の確立

文献情報

文献番号
201719003A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染妊娠に関する全国疫学調査と診療ガイドラインの策定ならびに診療体制の確立
課題番号
H27-エイズ-一般-003
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
喜多 恒和(地方独立行政法人奈良県立病院機構奈良県総合医療センター 周産期母子医療センター 兼 産婦人科)
研究分担者(所属機関)
  • 吉野 直人(岩手医科大学 医学部)
  • 杉浦 敦(奈良県総合医療センター 産婦人科)
  • 田中 瑞恵(国立研究開発法人国立国際医療研究センター 小児科)
  • 谷口 晴記(三重県立総合医療センター 産婦人科)
  • 蓮尾 泰之(九州医療センター 産婦人科)
  • 塚原 優己(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター 産科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
30,370,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV感染妊婦と出生児に関する全国調査を行い、HIV感染妊娠の早期診断治療と母子感染の回避に寄与する。出生児の予後を調査し、妊婦に対する抗HIV治療の影響を検討する。さらにHIV感染妊娠の診療体制を整備し、わが国独自のHIV感染妊娠に関する診療ガイドラインを策定するとともに、HIV感染妊娠に関する国民への教育啓発を行う。
研究方法
1)HIV感染妊娠に関する研究の統括と成績の評価および妊婦のHIVスクリーニング検査偽陽性への対策、2)HIV感染妊婦とその出生児の発生動向および妊婦HIVスクリーニング検査率に関する全国調査、3)HIV感染妊娠に関する臨床情報の集積と解析、4)HIV感染妊婦から出生した児の臨床情報の集積と解析およびフォローアップシステムの構築、5)HIV感染妊娠に関する診療ガイドラインの策定、6)HIV感染妊婦の分娩様式を中心とした診療体制の整備、7)HIV感染妊娠に関する国民への啓発と教育。
結果と考察
1)研究計画評価会議・研究班全体会議・各研究分担班会議は其々複数回行われ、研究の確実な遂行に寄与できた。研究班のホームページは随時更新し、研究報告書や診療ガイドラインを掲載した。HIVスクリーニング検査に関するアンケート調査では、偽陽性について知識があるものは5.3%にとどまり、陽性の告知51.8%が非常に動揺すると回答したことから、HIVスクリーニング検査に関する妊婦の知識レベルは未だ低いと考えられた。
2)産婦人科病院と小児科病院への全国1次調査を実施した。新規HIV感染妊婦38例、新規出生児34例が報告された。妊婦のHIVスクリーニング検査率は、病院では99.98%にまで上昇した。妊婦健診未受診妊婦は、産婦人科病院調査による44万分娩中1060例(0.24%)で、母子感染のハイリスク群と推測された。
3)産婦人科と小児科のデータ照合の結果、平成28年末までに妊娠転帰となったHIV感染妊娠数は、前年から29例増加し983例となった。適切な母子感染予防対策を講じた場合、2000年以降の母子感染率は0.3%であった。近年ではHIV感染判明後の妊娠が64.2%を占めた。母子感染は平成29年末で3例増加し58例となった。妊娠初期でのスクリーニング検査が陰性で、妊娠中や授乳期の母体のHIV感染が母子感染の原因であると推測される。
4)HIV感染女性とその出生児のフォローアップシステムは、平成29年8月23日から国立国際医療研究センターで症例登録を開始し、23例が登録された。今後は全国展開を検討中である。
5)欧米のガイドライン等を参考に、わが国の「HIV感染妊娠に関する診療ガイドライン」を発刊し、ホームページで公開し、学会等で配布した。掲載項目は、①HIV感染妊娠の現状、②妊娠検査スクリーニング、③妊娠中の抗HIV療法、④特殊な状況、⑤周産期管理、⑥児への対応、⑦未受診妊婦の対応、⑧産褥の対応、⑨HIV感染女性の妊娠についての9項目で、要約と解説を記載した。今後、日本産婦人科感染症学会等の関連団体と連携して改訂していく。
6)全国のHIV診療拠点病院および周産期医療センターに対するHIV感染妊婦の分娩様式に関するアンケート調査の結果から、現状で経腟分娩が可能と回答したのは6施設のみであり、スタッフの確保などの条件付きで可能としたのも34施設のみであった。HIV感染妊娠の経腟分娩を可能とする基準は、①エイズ診療拠点病院であること、②産科・小児科・HIV感染担当科・手術部・検査科・看護部・薬剤部等の協力体制が整備されていること、③妊娠36週時に母体のHIVウイルス量が感度以下であること、④内科や産科への受診が適切で協力的な患者であること、⑤HIV感染妊婦とパートナーの両者が経腟分娩を強く希望していること、⑥基本的に誘発分娩とすること、⑦患者が緊急帝王切開のリスクを理解し、緊急時は施設の方針に従うこと、⑧患者とパートナーの両者からインフォームド・コンセントが得られていることであり、わが国の現状では経腟分娩を推奨することは時期尚早であると判断された。
7)3都市でのAIDS文化フォーラムや長野県立看護大学祭においてセミナーを開催したが、対象の規模や情報量など、より有効な教育啓発法の開発が必要であると考えられた。
結論
HIV感染妊娠の臨床的疫学的情報の継続的な集積と解析、感染女性と出生児の長期的なフォローアップ、HIV感染妊娠の診療体制の整備、「HIV感染妊娠に関する診療ガイドライン」の改訂、HIV感染妊娠に関する教育啓発法の開発などの重要な課題が明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2018-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2018-05-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201719003B
報告書区分
総合
研究課題名
HIV感染妊娠に関する全国疫学調査と診療ガイドラインの策定ならびに診療体制の確立
課題番号
H27-エイズ-一般-003
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
喜多 恒和(地方独立行政法人奈良県立病院機構奈良県総合医療センター 周産期母子医療センター 兼 産婦人科)
研究分担者(所属機関)
  • 吉野 直人(岩手医科大学 医学部)
  • 杉浦 敦(奈良県総合医療センター 産婦人科)
  • 田中 瑞恵(国立研究開発法人国立国際医療研究センター 小児科)
  • 谷口 晴記(三重県立総合医療センター 産婦人科)
  • 蓮尾 泰之(九州医療センター 産婦人科)
  • 塚原 優己(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター産科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV感染妊婦と出生児に関する全国調査を行い、HIV感染妊娠の早期診断治療と母子感染の回避に寄与する。出生児の予後を調査し、妊婦に対する抗HIV治療の影響を検討する。さらにHIV感染妊娠の診療体制を整備し、わが国独自のHIV感染妊娠に関する診療ガイドラインを策定するとともに、HIV感染妊娠に関する国民への教育啓発を行う。
研究方法
1)HIV感染妊娠に関する研究の統括と成績の評価および妊婦のHIVスクリーニング検査偽陽性への対策、2)HIV感染妊婦とその出生児の発生動向および妊婦HIVスクリーニング検査率に関する全国調査、3)HIV感染妊娠に関する臨床情報の集積と解析、4)HIV感染妊婦から出生した児の臨床情報の集積と解析およびフォローアップシステムの構築、5)HIV感染妊娠に関する診療ガイドラインの策定、6)HIV感染妊婦の分娩様式を中心とした診療体制の整備、7)HIV感染妊娠に関する国民への啓発と教育
結果と考察
1)研究計画評価会議・研究班全体会議・各研究分担班会議を毎年複数回開催し、研究計画の修正や確実な遂行に寄与できた。研究班のホームページにて研究報告書や診療ガイドライン案を掲載し、パブリックコメントを募集し、平成30年3月には刊行版の掲載に至った。HIVスクリーニング検査に関するアンケート調査では、偽陽性について知識があるものは395例中5.3%にとどまり、陽性の告知に51.8%が非常に動揺すると回答したことから、妊婦の知識レベルは低いと考えられた。
2)妊婦のHIVスクリーニング検査率は、病院では平成29年に99.98%にまで上昇した。診療所でも平成27年に99.6%であった。妊婦健診未受診妊婦は、平成29年度調査により44万分娩中1060例(0.24%)が報告され、前年度調査とほぼ同程度で、これらはHIV母子感染のハイリスク群であることが推測された。
3)平成28年末までに妊娠転帰となったHIV感染妊娠数は、29例増加し983例となった。適切な母子感染予防対策を講じた場合、2000年以降の母子感染率は0.3%であった。直近5年間ではHIV感染判明後の妊娠が64.2%を占め、母子感染は58例となった。妊娠初期でのスクリーニング検査が陰性で、妊娠中や授乳期の母体のHIV感染が母子感染の原因であると考えられた。
4)HIV感染女性とその出生児のフォローアップシステムは、平成29年8月23日からウェブ登録を開始し、平成30年3月時点で1施設23例が登録された。今後全国展開を検討中であるが、内科医や小児科医の協力が課題となる。
5)平成27年度から欧米先進国のガイドラインなどを参考に検討し、平成28年度には「HIV感染妊娠に関する診療ガイドライン」案を作成した。掲載項目は、①HIV感染妊娠の現状、②妊娠検査スクリーニング、③妊娠中の抗HIV療法、④特殊な状況、⑤周産期管理、⑥児への対応、⑦未受診妊婦の対応、⑧産褥の対応、⑨HIV感染女性の妊娠についての9項目で、要約と解説を記載した。 平成29年度にこの案を、本研究班と日本産婦人科感染症学会のホームページで公開し、パブリックコメントを募集し、修正を加えたうえで平成30年3月に刊行し、同時にホームページで公開した。刊行物は郵送や関連学会学術集会で医療関係者へ配布した。
6)HIV診療拠点病院と周産期医療センターに対するアンケート調査(28年度)の結果から、現状で経腟分娩が可能と回答したのは6施設のみで、条件付きで可能としたのも34施設のみであった。29年度調査から、経腟分娩を可能とする基準は、①エイズ診療拠点病院であること、②産科・小児科・HIV感染担当科・手術部・検査科・看護部・薬剤部等の協力体制が整備されていること、③妊娠36週時に母体のHIVウイルス量が感度以下であること、④内科や産科への受診が適切で協力的な患者であること、⑤HIV感染妊婦とパートナーの両者が経腟分娩を強く希望していること、⑥基本的に誘発分娩とすること、⑦患者が緊急帝王切開のリスクを理解し、緊急時は施設の方針に従うこと、⑧患者とパートナーの両者からインフォームド・コンセントが得られていること、としたが、現状では経腟分娩を推奨することは時期尚早である。
7)横浜市などの4都市でのAIDS文化フォーラムで毎年公開講座を開催した。さらに筑波大学での講義や長野県立看護大学祭でのセミナーを通じて、若者への教育啓発を行ったが、対象の拡大やより適切な教育啓発法の開発が必要であると考えられた。
結論
HIV感染妊娠の臨床的疫学的情報の継続的な集積と解析、感染女性と出生児の長期的なフォローアップ、HIV感染妊娠への診療体制の整備、「HIV感染妊娠に関する診療ガイドライン」の改訂、HIV感染妊娠に関する教育啓発法の開発などの重要な課題が明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2018-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2018-05-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201719003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
妊婦におけるHIVスクリーニング検査率99.9%の達成し、毎年40例前後のHIV感染妊娠の変わらぬ発生と母子感染の散発的継続的発生を確認した。またHIV感染妊婦に対する抗HIV療法後の女性と出生児の長期予後観察のためのウェブ登録コホートシステムを開発した。HIV感染妊娠の抑制と母子感染予防対策の普及およびコホートシステムの全国展開は、わが国に適した解決すべき課題である。
臨床的観点からの成果
妊婦におけるHIVスクリーニング検査率は99.9%にまで上昇したが、HIV感染妊娠に関する妊婦の知識レベルは非常に低いことが判明した。2016年末までに転帰が判明したHIV感染妊娠983例の臨床情報をデータベース化した。感染判明後の妊娠が増加傾向で64%を占め、母子感染を58例確認した。未受診妊婦は44万分娩中1060例(0.24%)発生し、母子感染のハイリスク群と推測される。HIV感染妊娠に関して早急な教育啓発法の開発が必要である。
ガイドライン等の開発
「HIV感染妊娠に関する診療ガイドライン」を発刊し、医療従事者等へ配布し、医療体制の向上を図った。欧米とは異なるわが国の医療体制の現状と医療経済事情から、経腟分娩の推奨は時期尚早であると判断し、帝王切開術による分娩を推奨した。また抗HIV療法を受けた感染女性とその出生児を対象に、有害事象などの長期フォローアップを目的として、ウェブ登録によるコホートシステムを開発し、登録を開始した。今後全国展開の予定である。
その他行政的観点からの成果
わが国のHIV/エイズ診療拠点病院や周産期母子医療センターにおいては、産婦人科医師不足が深刻な課題であり、現時点でHIV感染妊娠の経腟分娩が可能であるのは6施設のみで、HIV感染妊娠への診療体制の整備は、未だ不十分である。医療スタッフの教育修練のみならず、医療スタッフ数の確保が最優先課題であり、同時に診療マニュアルの充実や教育修練の実施が求められる。
その他のインパクト
エイズ文化フォーラムや大学講義、地域でのHIV講習会や学会シンポジウム(日本産婦人科感染症学会、2017年5月)、研究班ホームページの開設(URL;http://hivboshi.org/、報告書、マニュアル、ガイドライン等の掲載)により教育啓発活動を行った。また読売新聞(2017年6月21日)、毎日新聞(2017年12月1日)、朝日新聞(2018年2月9日)で、全国調査結果やガイドライン刊行が掲載された。しかしよりインパクトの強い教育啓発法の開発が必要である。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
26件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
37件
日本産科婦人科学会、日本産婦人科感染症学会、日本エイズ学会、日本周産期・新生児学会等
学会発表(国際学会等)
1件
The 15th European AIDS Conference
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
「HIV感染妊娠に関する診療ガイドライン」平成30年3月発行 コホートシステムの開発「HIV感染女性と出生児の長期フォローアップのためのウェブ登録コホートシステム」平成29年8月登録開始
その他成果(普及・啓発活動)
15件
URL;http://hivboshi.org/ ,シンポジウム「わが国においてHIV感染妊娠の経腟分娩は可能か」第34回日本産婦人科感染症学会学術集会,AID文化フォーラム等で講演,新聞報道 

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2021-06-01
更新日
2022-06-10

収支報告書

文献番号
201719003Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
37,962,000円
(2)補助金確定額
37,962,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,578,191円
人件費・謝金 5,764,074円
旅費 4,424,815円
その他 16,603,048円
間接経費 7,592,000円
合計 37,962,128円

備考

備考
自己資金105円と利子23円が発生したため、収入の「(2)補助金確定額」と支出の合計に差異が生じた。

公開日・更新日

公開日
2019-06-11
更新日
-