薬物乱用・依存者、性感染症患者のHIV感染状況及び内外のHIV流行等の動向に関する研究

文献情報

文献番号
201719002A
報告書区分
総括
研究課題名
薬物乱用・依存者、性感染症患者のHIV感染状況及び内外のHIV流行等の動向に関する研究
課題番号
H27-エイズ-一般-002
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
木原 正博(京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻国際保健学講座社会疫学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 荒川 創一(神戸大学医学部附属病院感染制御部)
  • 和田 清(埼玉県立精神医療センター依存症治療研究部)
  • 木原雅子(京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻国際保健学講座社会疫学分野)
  • 西村由実子(橋本由実子)(関西看護医療大学看護学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
6,621,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国内外のHIV関連情報の集約と統合的分析及び高リスク集団のHIV感染率やリスク行動のモニタリングを通じて、わが国の流行の文脈的理解と効果的・効率的なエイズ施策の形成に資する。
研究方法
(1)海外及び国内のHIV/STDの流行とリスク情報の収集分析に関する研究
下記の情報を2016年まで最新化し、動向を分析した:a)関連地域(中国、台湾、香港、韓国)と主要先進国(米、英、仏、独、加、豪)のHIV/AIDS/性感染症(STD)サーベイランスデータ、b)東アジア地域(中国、台湾、香港、韓国)のHIV/AIDS/ STDサーベイランスデータ、c)わが国のSTD発生動向調査、母子保健統計、薬事工業生産動態統計のサーベイランスデータ。
(2)STD患者のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究
全国(北海道、東京、岐阜、大阪)の8STD関連医療施設の受診者533人(男133、女60、風俗女性340)に対し、無料HIV/検査とHIV検査ニーズ、HIV関連知識、HIV感染リスク認知に関する質問票調査を行った。
(3)薬物乱用・依存者のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究
関東地域の4つの民間薬物依存回復施設入所者61人の新規対象者に対し、HIV/STD/肝炎感染に関する検査を行うとともに、注射関連行動、性行動を調査した。1994 年以来の継続調査である。
結果と考察
以下の知見を得た;a)近隣地域(中国、台湾、香港、韓国)において性感染、特に同性間感染を主とするHIV流行が依然、持続・拡大している。b)主要先進国では、多剤併用療法導入後、日本を除き、AIDS報告数は大きく減少し、その後も減少が続いているものの、性感染、特に同性間感染によるHIV流行、及び梅毒を含むSTD全般の増加もしくは高いレベルでの発生が続いている。しかし、2016年には英国でHIV、梅毒が減少し、複合的対策の成果と考えられている。c)我が国では、近年減少していた我国の主要STD(梅毒以外)が下げ止まり、ほぼ横ばいの状態が続いている。15-18歳の人工妊娠中絶率も減少速度が低下したが依然減少が続いている。d)我が国では、梅毒は、梅毒以外のSTDとほぼ正反対の年次動向を示し、2002年頃に底を打った後に増加に転じ、ここ数年の間に男女ともに、著しく増加しつつある。以前実施した文献の系統的レビュー、他の性感染症と対極的な動向から、男性における梅毒流行は主として同性間感染、女性はその二次感染、もしくは梅毒流流行の異性間性行為への侵入を反映すると考えられる。e)近隣地域間の出入国、特に入国が急増しており、また、海外長期滞在邦人の数も依然高いレベルにある。f)薬物依存・乱用者中に、HIV感染者は認められなかったが、C型肝炎感染率は、約36%であった。覚せい剤使用者中の過去1年間の針・シリンジ共有経験は約13%に認められた。g)STD患者の間で無料HIV検査に対する高いニーズが存在することが確認され、また、初めて風俗営業女性に1名のHIV感染者が認められた。
結論
本研究班が確立した、わが国のHIV流行の状況・特徴・国際的文脈や社会的脆弱性の状況を明らかにするための情報収集の枠組みを用いて、情報を最新化し、それに基づくわが国のHIV流行の現状や展望について、総合的な分析を行った。本研究によれば、先進国のHIV流行は、HAART療法の導入とインターネットによるネットワークの発達により、同性間感染を中心とする、制御の難しい新たな流行期に入ったと考えられ、我国の同性間HIV流行も同じ文脈にあると考えられた。近隣諸国では、薬物静注による流行がほぼ終息して、性感染を主体とする流行期に入った(中国、韓国では異性間優位、台湾、香港では同性間優位)。出入国が増加しているため、我が国へのHIV流入の可能性について注意が必要である(同性間にはその傾向が見られる)。一方我国では、梅毒以外のSTDと10代の人工妊娠中絶率が低下・横這い状態にある一方、同性間感染とその二次感染等と考えられる梅毒のアウトブレークが男女で生じており、HIV流行への影響について、今後もモニタリングが必要である。

公開日・更新日

公開日
2018-05-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201719002B
報告書区分
総合
研究課題名
薬物乱用・依存者、性感染症患者のHIV感染状況及び内外のHIV流行等の動向に関する研究
課題番号
H27-エイズ-一般-002
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
木原 正博(京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻国際保健学講座社会疫学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 荒川 創一(神戸大学医学部附属病院感染制御部)
  • 和田 清(埼玉県立精神医療センター依存症治療研究部)
  • 木原雅子(京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻国際保健学講座社会疫学分野)
  • 西村由実子(橋本由実子)(関西看護医療大学看護学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国内外のHIV関連情報の集約と統合的分析及び高リスク集団のHIV感染率やリスク行動のモニタリングを通じて、わが国の流行の文脈的理解と効果的・効率的なエイズ施策の形成に資する。
研究方法
(1)海外及び国内のHIV/STDの流行とリスク情報の収集分析に関する研究
下記の情報を2016年まで最新化し、動向を分析した:a)関連地域(中国、台湾、香港、韓国)と主要先進国(米、英、仏、独、加、豪)のHIV/AIDS/性感染症(STD)サーベイランスデータ、b)東アジア地域(中国、台湾、香港、韓国)のHIV/AIDS/ STDサーベイランスデータ、c)わが国のSTD発生動向調査、母子保健統計、薬事工業生産動態統計のサーベイランスデータ。
(2)STD患者のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究
全国(北海道、東京、岐阜、大阪)の12STD関連医療施設で、無料HIV/検査とHIV検査ニーズ、HIV関連知識、HIV感染リスク認知に関する質問票調査を行った。質問票回答者は、男性395、女性285、CSW950、合計1630名で、うちHIV検査受検者は、男性283、女性279、CSW882、合計1444名であった。
(3)薬物乱用・依存者のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究
関東地域の4-5つの民間薬物依存回復施設入所者合計212名の新規対象者に対し、HIV/STD/肝炎感染に関する検査を行うとともに、注射関連行動、性行動を調査した。1994 年以来の継続調査である。
結果と考察
以下の知見を得た;a)近隣地域(中国、台湾、香港、韓国)において性感染、特に同性間感染を主とするHIV流行が依然、持続・拡大している。b)主要先進国では、多剤併用療法導入後、日本を除き、AIDS報告数は大きく減少し、その後も減少が続いているものの、性感染、特に同性間感染によるHIV流行、及び梅毒を含むSTD全般の増加もしくは高いレベルでの発生が続いている。しかし、2016年には英国でHIV、梅毒が減少し、複合的対策の成果と考えられている。c)我が国では、近年減少していた我国の主要STD(梅毒以外)が下げ止まり、ほぼ横ばいの状態が続いている。15-18歳の人工妊娠中絶率も減少速度が低下したが依然減少が続いている。d)我が国では、梅毒は、梅毒以外のSTDとほぼ正反対の年次動向を示し、2002年頃に底を打った後に増加に転じ、ここ数年の間に男女ともに、著しく増加しつつある。以前実施した文献の系統的レビュー、他の性感染症と対極的な動向から、男性における梅毒流行は主として同性間感染、女性はその二次感染、もしくは梅毒流流行の異性間性行為への侵入を反映すると考えられる。e)近隣地域間の出入国、特に入国が急増しており、また、海外長期滞在邦人の数も依然高いレベルにある。f)薬物依存・乱用者中に、1名(男性)のHIV感染者を認めた。C型肝炎感染率は36-54%であった。覚せい剤使用者中の過去1年間の針・シリンジ共有経験は9-14%に認められた。g)STD患者の間で無料HIV検査に対する高いニーズが存在することが確認され、平成28年度には男性2名に、そして平成29年度には、初めて風俗営業女性に1名のHIV感染者を認めた。
結論
本研究班が確立した、わが国のHIV流行の状況・特徴・国際的文脈や社会的脆弱性の状況を明らかにするための情報収集の枠組みを用いて、情報を最新化し、それに基づくわが国のHIV流行の現状や展望について、総合的な分析を行った。本研究によれば、先進国のHIV流行は、多剤併用療法の導入とインターネットによるネットワークの発達により、同性間感染を中心とする、制御の難しい新たな流行期に入ったと考えられ、我国の同性間HIV流行も同じ文脈にあると考えられた。近隣諸国では、薬物静注による流行がほぼ終息して、性感染を主体とする流行期に入った(中国、韓国では異性間優位、台湾、香港では同性間優位)。出入国が急増しているため、我が国へのHIV流入の可能性について注意が必要である(同性間にはその傾向が見られる)。一方我国では、梅毒以外のSTDと10代の人工妊娠中絶率が低下・横這い状態にある一方、同性間感染とその二次感染等と考えられる梅毒のアウトブレークが男女で生じており、HIV流行への影響について、今後もモニタリングが必要である。

公開日・更新日

公開日
2018-05-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201719002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
HIVの対策政策研究の学術基盤として、HIV流行に影響を与える地政学的、社会文化的諸要因の系統的・総合的収集と分析は不可欠である。本研究は、10数年に渡って、我が国のHIV流行に影響を与える可能性の高い国・地域からそうした情報蓄積を続けており、我が国と海外の比較研究、流行の数理モデルの構築などの基盤となってきた。先進国のデータを詳細に継続的に集積しているデータベースは他に見当たらず、東アジアのデータは、海外の学術雑誌から総説の寄稿を求められるほど充実している。
臨床的観点からの成果
臨床的研究ではないので該当しない。
ガイドライン等の開発
該当するものなし。
その他行政的観点からの成果
本研究は、我国と関係の深い国・地域のHIV/STDに関する最新情報の継続収集と、高リスク層(薬物静注者とSTD患者)の疫学調査よりなる。前者は、我国のHIV流行の国際的文脈の理解上不可欠の情報を提供し、後者は、センチネルサーベイランスに相当し、特に薬物静注者の調査は、本研究班のみが実施している調査で、我国のエイズ対策上重要な情報を補完している。また、本研究班は、国連エイズ特別総会に係る政府報告書作成にも寄与し、研究成果は、エイズ予防財団主催の保健所対象研修会で用いられている。
その他のインパクト
本研究で得たデータは、Webでパワーポイントファイルとして公開してきたが、Wikipediaとのリンクを通して多くの利用があり、先進国と東アジアのデータは、講演・報道資料として広く活用された。また、本データベースは、主要先進国と東アジアの流行状況を一覧できる世界で唯一のデータベースで、国際的学術誌から寄稿依頼があるなど、国際的知名度も高い。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
9件
その他論文(和文)
12件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
5件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2018-05-22
更新日
2020-01-21

収支報告書

文献番号
201719002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,621,000円
(2)補助金確定額
6,621,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,044,033円
人件費・謝金 3,384,494円
旅費 507,351円
その他 1,688,936円
間接経費 0円
合計 6,624,814円

備考

備考
3円の利息分と、3811円を自己負担分が加算されたため。

公開日・更新日

公開日
2019-02-21
更新日
-