地域においてHIV陽性者と薬物使用者を支援する研究

文献情報

文献番号
201719001A
報告書区分
総括
研究課題名
地域においてHIV陽性者と薬物使用者を支援する研究
課題番号
H27-エイズ-一般-001
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
樽井 正義(特定非営利活動法人ぷれいす東京 研究・研修部門)
研究分担者(所属機関)
  • 生島 嗣(特定非営利活動法人ぷれいす東京 研究・研修部門 )
  • 肥田 明日香(医療法人社団 アパリ アパリクリニック)
  • 大木 幸子(杏林大学保健学部 看護学科 地域看護学研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
6,412,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 薬物使用・不使用に関わる要因を探るために、MSMへの質問紙調査結果を分析し、性行動、HIV感染リスクと予防行動、薬物使用の現状等を明らかにすること、HIV診療機関の医療者への面接調査により、使用者への支援の方法と課題を示すこと、依存症クリニック受診者への面接調査結果の分析により、薬物使用から回復への過程における分岐点とそこに働く諸契機を検討すること、そして不使用と回復を助ける行政および民間の社会資源として、使用者と関係者が利用できる相談窓口の情報を提供することを目的とした。これらの研究により、HIV陽性者と薬物使用者の支援、HIV感染と薬物使用の予防に資することが期待される。
研究方法
 4つの分担研究により実施した。
a.MSMの薬物使用・不使用に関わる要因の調査(生島)
b.地域の相談支援機関利用によるHIV陽性者・薬物使用者の回復事例の調査(大木)
c.薬物使用者の依存症クリニック受診経緯の調査(肥田)
d.薬物依存からの回復を支援する社会資源の調査(樽井)
a. MSM向けGPS機能付きの出会い系アプリを利用した薬物使用、性行動、HIV知識等に関する質問紙調査(LASH: Love Life and Sexual Health)では、全97問に回答した6,921人のデータを解析し、単純集計及び各種要因の関連性を考察した。
b.HIV診療機関において薬物使用者への支援経験をもつ4人の医療者に、半構造化面接を行い、薬物使用判明前と判明後における支援方法、支援の基本的態度、支援に関わる課題を抽出した。
c.依存症クリニック受診者7人への半構造化面接の逐語録をもとに、薬物の初使用から依存、そしてケアにつながる経緯(分岐点と等至点)、各分岐点での方向付けの要因(社会的方向付けと社会的助勢)を記述した。
d.薬物使用者や関係者が安心して利用できる相談窓口を紹介するために、使用者と陽性者の支援団体、精神保健福祉センター、使用者自助グループ、依存症治療医療機関について情報を収集し整理した。
結果と考察
a.MSM向け出会い系アプリ調査からは、回答者のHIVの知識は概して高く、半数以上がHIV抗体検査受検経験をもつが、過去6か月間にコンドームなしのアナルセックスを経験した人が半数近くおり、コンドーム使用等の予防と検査受検を勧める啓発の継続・促進の必要性が示された。薬物使用に関しては、使用を目撃した経験、勧められた経験をもつ人が回答者の3分の1以上おり、4人に1人が生涯薬物使用経験をもつこと、さらに薬物使用とリスクの高い性行動との間に関連があることが伺われた。初めての使用が10代、20代であり、7割はセックスの相手に勧められていることから、検討すべき介入が示唆された。
b. 薬物使用者への支援経験をもつHIV診療機関の医療者の調査からは、支援の方法として、薬物使用の判明前には薬物について話してよい場であることを伝えて相談されるのを徹底して待つこと、判明後には逮捕も支援のきっかけと捉え、回復意向を見きわめて支援方針を検討すること等が示された。支援の基本的態度として、薬物使用に健康問題として関わる立場を堅持し、回復する力を信じてスリップをも話せる関係を目指すことが挙げられた。HIV診療機関は、薬物依存症の回復プログラムへのゲート機能を担えることが指摘された。
c.依存症クリニック受診者の調査では、薬物使用者に共通する経緯として、生きづらさとゲイの交流の場の居心地のよさ、そこでの薬物使用による生活や人間関係への支障と止めようと思えば止められるという根拠のない自信、通報を恐れ言い出せない状態、司法や医療の介入によるクリニック受診とLGBTグループへの参加等が挙げられた。使用せずに生きるためグループ参加を継続し、生きづらさに折り合いをつけるには、事実を振り返ることが必要であり、それには社会的助勢として、仲間の存在や家族・パートナーの理解と、ありのままの自分が受け容れられる相談窓口や支援環境が有用なことが指摘された。
d. 薬物使用に関する相談窓口の調査では、薬物使用者とその関係者が通報される心配をもたずに安心して相談できる窓口として、首都圏の機関の情報が整理された。使用者に信頼される相談窓口は少数であり、充実の必要性が示唆された。
結論
 HIV感染と薬物使用の予防を促すには、薬物使用は健康問題であることを踏まえて、支援を必要とするMSMに届く予防啓発、使用に関する相談窓口の周知、HIV診療機関による相談と情報提供の促進をはかる法途が示された。

公開日・更新日

公開日
2018-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-05-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201719001B
報告書区分
総合
研究課題名
地域においてHIV陽性者と薬物使用者を支援する研究
課題番号
H27-エイズ-一般-001
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
樽井 正義(特定非営利活動法人ぷれいす東京 研究・研修部門)
研究分担者(所属機関)
  • 生島 嗣(特定非営利活動法人ぷれいす東京 研究・研修部門)
  • 肥田 明日香(医療法人社団アパリ アパリクリニック)
  • 沢田 貴志(神奈川県勤労者医療生活協同組合港町診療所)
  • 大木 幸子(杏林大学保健学部 看護学科 地域看護学研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究は、HIV感染に関連する薬物使用・不使用の要因を探るために、出会い系アプリを利用した質問紙調査により、MSMの性行動、感染リスク予防行動、薬物使用の現状を明らかにすること、依存症から回復したHIV陽性者と、その支援経験をもつHIV診療機関の医療者への面接調査により、使用、依存からの回復過程と支援の内容を検討すること、依存症クリニック受診者の診療録調査と面接調査により、MSM使用者のプロフィールと使用から回復への過程における分岐点、そこに働く諸契機を考察すること、そして地域の拠点病院やNGOにおける陽性者と使用者への支援の基礎資料として、通報義務と診療義務の関係、日本における薬物使用と対策の現状、相談窓口に関する情報を整理することを課題とした。その成果に基づく啓発資材の制作により、HIV陽性者と薬物使用者の支援、HIV感染と薬物使用の予防に資することを目的とした。
研究方法
 本研究を、次の5つの分担研究により構成した。
a.MSMの薬物使用・不使用に関わる要因の調査(生島)
b.地域の相談支援機関利用によるHIV陽性者・薬物使用者の回復事例の調査(大木)
c.薬物使用者の依存症クリニック受診経緯の調査(肥田)
d.薬物依存からの回復を支援する社会資源の調査(樽井)
e.男性同性愛者が利用する施設の国際化に関する基礎調査(沢田)
 MSMの量的調査では、面接調査を踏まえて、性的指向と性行動、HIVの知識・感染予防・検査、薬物使用、メンタルヘルス上の問題等に関する97問からなる質問紙を作成し、出会い系アプリを利用して調査を実施し、6,921人の回答を解析した。
 依存症から回復したHIV陽性者と支援経験をもつHIV診療機関の医療者への面接調査では、陽性者8人の逐語録から使用、依存、回復の過程における分岐点と要因を、医療者4人の逐語録から支援の内容と問題点を抽出した。
 依存症クリニック受診者調査では、診療録の後方視的調査により65人の受診者のプロフィールを検討し、これを踏まえて7人に半構造化面接調査を行い、複線径路等至性アプローチを参考に薬物の初使用からケアにつながる経緯と諸契機を記述した。
 使用者支援のための社会資源調査では、医療者および公務員のいわゆる通報義務についての法解釈と行政の事例の検討、日本における薬物使用と対策の現状の白書等と先行研究による概観、薬物使用者が安心して相談できる窓口の調査を行った。
 ゲイスポットにおける国際化についての調査では、外国人利用者の動向(国籍、年代、日本語能力等)、店舗における対応の課題に関する情報を、飲食店経営者5人に半構造化面接により収集した。
結果と考察
 MSM向け出会い系アプリ調査からは、回答者の過半がHIV抗体検査を受けた経験をもつが、半数近くが過去6か月間にコンドームなしのアナルセックスを経験しており、コンドーム使用等の予防を勧める啓発の継続と促進の必要性が認められた。薬物使用に関しては、生涯薬物使用経験を4人に1人がもち、薬物使用とリスクの高い性行動との間に関連があることが伺われた。初めての使用が10代、20代で、7割がセックスの相手に勧められて使用していることから、若いMSMに対する介入の必要性が示された。
 依存症から回復したHIV陽性者の面接調査からは、セックス場面での薬物との出会いと使用、薬物の継続使用、依存症からの回復の過程における分岐点と要因が、また支援経験をもつ医療者の面接調査では、使用が判明する前と後の支援方法と課題、支援に求められる姿勢、医療機関の課題を整理し、医療者が回復プログラムへ繋げる機能を担えることが指摘された。
 依存症クリニックにおけるMSMの受診者の調査では、薬物使用者に共通する通過点、分岐点が示され、回復を促すには薬物使用に関して相談できる機会、仲間の存在や家族・パートナー等の理解、ありのままの自分が受け容れられ安心して過ごせる環境等の社会的助勢が必要なことが指摘された。
 薬物使用者支援のための社会資源に関する調査からは、通報義務と診療義務・守秘義務のいずれを優先するかは、医療者と公務員の裁量に委ねられることが、また日本における薬物使用の現状と対策の概観からは、健康問題としての対応、使用者の治療と支援の機関、まずは相談窓口の充実の必要性が示された。
結論
 HIV感染と薬物使用の予防を促すには、薬物使用は健康問題であることを踏まえて、支援を必要とするMSMに届く予防啓発、使用に関する相談窓口の周知、HIV診療機関による相談と情報提供の促進をはかる法途が示された。

公開日・更新日

公開日
2018-05-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201719001C

収支報告書

文献番号
201719001Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,335,000円
(2)補助金確定額
8,335,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 67,514円
人件費・謝金 3,190,237円
旅費 225,884円
その他 2,928,365円
間接経費 1,923,000円
合計 8,335,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2019-02-28
更新日
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