薬効成分を有する天然物の精子形成や次世代に対する有害性評価法の確立に関する研究

文献情報

文献番号
199800632A
報告書区分
総括
研究課題名
薬効成分を有する天然物の精子形成や次世代に対する有害性評価法の確立に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
森 千里(京都大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、薬効成分を有する天然物の精子形成や次世代に対する有害性評価法の確立を行うことを目的として、薬効成分を有する天然物の精子形成を含めた雄性生殖細胞に対する有害性評価法の確立について重点的に研究している。我々が日常摂取している天然物には、植物エスロジェンなどのホルモン作用を持っているものを含んでおり、妊娠時の胎児や新生児・乳幼児が、ホルモン作用を有する化学物質に曝露された場合、性分化が障害され性分化異常(男性化症、女性化症)が惹起されることが知られている。よって、次世代に対する影響及び男性生殖への影響に関する検査・評価法の確立が急がれるためである。また、従来の安全基準に加えて、新規の検査法・評価法の開発として、分子生物学的手法を用い様々な遺伝子発現の変化を検討し、バイオマーカーの開発とそれを用いた検査・評価法の開発を試みる。最終的に本研究の成果が得られることにより、薬効成分を有する天然物や環境ホルモンのヒトを含めた生態系全体のリスク評価と防護の一助となる。
研究方法
ヒトと実験動物で精巣に対する作用が報告されている化学物質を雄マウスに投与し、精子の数、運動率、生存率、形態などの精子をエンドポイントとした変化及び臓器重量、交尾率、受胎率を調べる。陽性試験として、生後1日目から5日間エストロジェン作用をもつジエチルスチルベストロール(DES)を 0.5, 5, 50 microgram/mouse、タモキシフェンを 1, 2, 20 microgram/mouse投与し、2、3、4ヶ月後の精子形成状態及び妊孕性を検討した。また、分子生物学的手法を用い、ホルモンレセプター(estrogen receptor, androgen receptor, FSH receptor, LH receptor)遺伝子の発現の変化の検討を行った。
ヒトと実験動物で精巣に対する作用が報告されている天然物(薬効成分)を雄マウスに低濃度・長期投与し、精子の数、運動率、生存率、形態などの精子をエンドポイントとした変化及び臓器重量、交尾率、受胎率を調べる。今回は、植物性エストロジェンであるゲニステインの検討を開始し、生後1日目から5日間ゲニステインを 10, 100, 1000 microgram/mouse(2,20,200mg/kg)投与し、精巣重量、精子数、精子運動能及びARやERのmRNAの発現の変化を検討した。
結果と考察
DESによる影響としては、精巣重量の低下、精巣上体内精子数の減少、精子運動能の低下、さらに組織学的判定で精子形成異常が認められた。また、タモキシフェンによる影響としては、精子運動能の低下が認められた。さらに、分子生物学的検討をした結果、DES及びタモキシフェン投与群において、 estrogen receptor(ER)と androgen receptor(AR)のmRNAの発現の低下が認められた。以上の陽性試験をもとに、植物性エストロジェンであるゲニステインの精子形成状態、妊孕性及びERやARのmRNAの発現状態への影響を検討した結果、精巣重量、精子数、精子運動能及びARのmRNAの発現には影響がなかったが、ERのmRNAの発現において低下が認められた。天然物で植物性エストロジェンであるゲニステインは従来の雄性生殖を判定する評価法では、精巣重量、精子数、精子運動能ともコントロール群と差はなく、雄性生殖能は安全と判定されるが、分子生物学的手法により、ホルモンレセプターのmRNAの発現レベルで検討すると影響があることが判明した。
結論
今回の結果から、植物エスロジェンなどのホルモン作用を持っている天然物の生殖への影響の判定として、ホルモンレセプターのmRNAの発現レベルの検討が役立つ可能性が示唆された。今後は、今回の研究結果をもとにし、新規の検査法・評価法の開発として、分子生物学的手法を用い様々な遺伝子発現の変化を検討し、バイオマーカーの開発とそれを用いた検査・評価法の開発を試みる必要性があると言える。

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研究報告書(紙媒体)

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