我が国で開発され、備蓄されている細胞培養痘そうワクチンの有効性、安全性、生産性向上および国内外のバイオテロ対策のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
201718022A
報告書区分
総括
研究課題名
我が国で開発され、備蓄されている細胞培養痘そうワクチンの有効性、安全性、生産性向上および国内外のバイオテロ対策のあり方に関する研究
課題番号
H29-新興行政-指定-002
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
西條 政幸(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 鯉渕 智彦(東京大学医科学研究所 附属病院感染免疫内科)
  • 齋藤 智也(国立保健医療科学院 健康危機管理研究部)
  • 下島 昌幸(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
  • 園田 憲悟(一般財団法人化学及血清療法研究所 製品開発部・医薬品開発)
  • 永田 典代(国立感染症研究所 感染病理部)
  • 森川 茂(国立感染症研究所 獣医科学部)
  • 吉河 智城(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本では痘瘡ウイルスがバイオテロ病原体として使用されるバイオテロに備えて,痘瘡ワクチンLC16m8が備蓄されている.LC16m8は世界で2つしかない第3世代のワクチン(安全性が高い)の一つで,国際的に注目されているワクチンである.本研究班では,LC16m8の有効性・安全性,生産性向上に関する研究を継続するとともに,痘瘡ワクチンの生産と備蓄のあり方,備蓄されているワクチンや製造されるワクチンの品質管理のあり方を科学的なデータに基づいて検討し,厚生労働行政に資する提言をまとめる.
研究方法
 世界保健機関(WHO)が主催する痘瘡ウイルス研究専門会議(Advisory Committee of Variola Virus Research Committee,ACVVR)における最近の議論の中で,治療法開発研究やワクチンの選定・備蓄のあり方に関する議論について,概要をまとめた.バイオテロ対策の国際的な動向を調査し,主に日本国内での公衆衛生対策のあり方を検討した.また,バイオテロ(主に天然痘テロ)対応に関する公衆衛生対応の検討として,ワクチン及び医薬品の開発状況について文献的情報を収集した.バイオテロ対策の国際的な動向については,英国と韓国で開催された関連会議に出席し,専門家らと議論を行った.
 サル痘ウイルス感染マウスモデル開発を継続した.痘瘡ワクチンLC16m8を1回接種によるサル痘ウイルスに対する中和抗体誘導能を評価した.プラークサイズのやや大きいLC16mO型(medium size plaque; MSP)を検出する定量的PCR 法を開発する研究を実施したLC16m8遺伝子を細菌人工染色体(BAC)にクローニングし,そこから感染性m8をリカバリーできるm8-BACシステムの確立を目指した.LC16m8を用いた天然痘ウイルス暴露後重症化阻止の可能性をエクトロメリアウイルス(ECTV)をマウス感染させると発症するモデル用いて調べた.
 痘瘡ウイルス遺伝子を,迅速にかつ区別して検出するリアルタイムPCRを構築し,その性能を評価した.
 本研究班および先行研究班で開発された生物テロに関する情報を網羅した『バイオテロ対応ホームページ』に最新知見を加えて改訂した.
結果と考察
 LC16m8接種者において感染性痘瘡ウイルスに対する中和抗体が誘導されるとの研究成果が2016年および2017年に開催されたACVVR(それぞれ第18回ACVVRおよび第19回ACVVR)で発表された.第18回ACVVRで,化学物質のみを材料に感染性のある馬痘ウイルスが作製(合成)することに成功したと発表された.各会議を通じて生物テロへの対応を考えた際の,セキュリティ・法執行機関との連携について具体的な手順を含めて検討する必要がることが認識された.大規模イベントイベントのような,一定期間,限られた場所でインテンシブに対応を行う計画についても別途オペレーションプランの検討が必要であることが確認された.
 痘瘡ワクチンLC16m8を1回接種することで誘導されるサル痘ウイルスに対する中和抗体価誘導能は,痘瘡ワクチンDryvaxのそれと同程度であった.プラーク馴化した別個のLC16m8株からRK13細胞での増幅/Vero E6細胞での増殖を3サイクル行い,開発した定量的PCRを実施したが,いずれのクローン由来もMSPが検出限界未満であった.マウスにエクトロメリアウイルス感染させるモデルでは,LC16m8の感染防御効果の程度はウイルスを感染させる際の接種ルート毎に異なることが確認された.マウス-サル痘ウイルス感染モデルにおいて,一時的な好中球の枯渇処理は,感染後の好中球増多,炎症性サイトカイン・ケモカインの高発現を引き起すことが確認された.LC16m8をクローニングしたBACプラスミドから感染性LC16m8をリカバリーできるシステムが確立された.
 痘瘡ウイルス,サル痘ウイルス,水痘帯状疱疹ウイルスを同時に且つ迅速に区別して検出するマルチプレックスなリアルタイムPCR法を構築した.構築したリアルタイムPCR法の検出感度は1-10コピー/反応であった.
 昨年度から一般に公開されている本ホームページは貴重な情報源として活用されていることが示唆された.今後,関連学会との連携によりシンポジウムの開催することを計画したい.
結論
日本で備蓄されている痘瘡ワクチンLC16m8の有効性と安全性に関する研究が実施された.また,国際的なフレームの中で議論されている痘瘡ウイルスを病原体として用いられるバイオテロ対策のあり方を考察した.痘瘡ウイルスおよび関連ウイルス感染症に関する検査体制を向上させた.本研究班で開発・維持・管理されているバイオテロ対策ホームページを改良した.

公開日・更新日

公開日
2018-06-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-05-21
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201718022Z