エンテロウイルス等感染症を含む急性弛緩性麻痺・急性脳炎・脳症の原因究明に資する臨床疫学研究

文献情報

文献番号
201718009A
報告書区分
総括
研究課題名
エンテロウイルス等感染症を含む急性弛緩性麻痺・急性脳炎・脳症の原因究明に資する臨床疫学研究
課題番号
H28-新興行政-一般-007
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
多屋 馨子(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
研究分担者(所属機関)
  • 八代 将登(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科 )
  • 亀井 聡(日本大学 医学部)
  • 片野 晴隆(国立感染症研究所 感染病理部)
  • 田島 茂(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
  • 清水 博之(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 細矢 光亮(福島県立医科大学 医学部)
  • 吉良 龍太郎(福岡市立こども病院 小児神経科)
  • 奥村 彰久(愛知医科大学 医学部)
  • 安元 佐和(福岡大学 医学部)
  • 鳥巣 浩幸(福岡歯科大学 口腔歯学部)
  • 森 墾(東京大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
5,670,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の急性脳炎・脳症・急性弛緩性麻痺(AFP)の疾病負荷を明らかにするとともに、原因病原体検索に適した臨床検体の採取時期・方法、保管・搬送方法を医療機関に周知する。病原体不明症例から網羅的な病原体検索を実施するとともに、日本脳炎(JE)が含まれていないかを確認する。2015年に多発したAFP/急性弛緩性脊髄炎(AFM)症例について詳細に検討を行い、次の流行に備える。AFPを認める疾患のサーベイランス・診断・検査・治療に関する手引きを作成する。
研究方法
感染症発生動向調査に届けられた急性脳炎(脳症)について解析する。急性脳炎(脳症を含む)のサーベイランス届出率を調査する。病原体不明として感染症発生動向調査に届けられた急性脳炎(脳症を含む)の病原体解明を目的として、臨床・疫学情報とともに、急性期の5点セット(血液、髄液、呼吸器由来検体、便、尿)及び急性期と回復期のペア血清を国立感染症研究所に搬送依頼し、multiplex real time PCR法等により、ウイルス、細菌、真菌の網羅的検索系を開発し、病原体遺伝子の検出を行う。日本脳炎の紛れ込みを鑑別するために、JEV特異的IgM抗体測定を行う。2015年に多発したAFP、呼吸器感染症症例に由来する臨床検体から、エンテロウイルスD68(EV-D68)特異的リアルタイムRT-PCR法等によりEV-D68を検出し、EV-D68陽性検体の一部から培養細胞によりEV-D68株を分離し、ウイルス学的な解析を行う。AFP全国二次調査の結果について解析を行い、2015年秋に発生したAFP症例の全体像をまとめ2017年に論文発表するとともに、この情報を基盤として、さらに詳細に臨床、疫学的に解析をすすめ、日本のAFPサーベイランスの構築を行う。AFPに関する手引きを日本小児科学会等と連携して作成し、医療機関に普及させるとともに、AFPの早期診断、治療に繋げるための検討を行う。適切な臨床検体の採取時期・採取方法・保管・搬送方法を確立し全国の医療機関に情報提供する。
結果と考察
感染症発生動向調査に基づいて、2007~16年に報告された急性脳炎は3,919例、男女比は56:44で、年齢中央値は5歳(0-98歳)であった。年齢群毎に原因病原体に特徴があり、すべての年齢群で一定数の病原体不明例が存在した。届出時に死亡報告された症例は176例(4%)あり、年齢群別に死亡報告割合に差があった。病原体不明急性脳炎(脳症)の39%で原因と考えられる病原体が判明し、エンテロウイルスとHHV-6Bの頻度が高かった。小児の急性脳炎・脳症・AFP症例の全数把握が確実に実施可能な福島県では、全数をリアルタイムに把握する前方視的発生動向調査システムが確立しており、今後の発生動向把握への貢献が期待された。2017年度の検討では、日本脳炎の紛れ込みは認められなかった。成人については、インフルエンザ脳症に次いで、単純ヘルペス脳炎の報告頻度が高いが、その転帰改善に貢献することを目的に、単純ヘルペス脳炎診療ガイドラインの作成を行った。2015年のEV-D68流行期に多発した急性弛緩性脊髄炎(AFM)症例について、臨床疫学解析の結果を国際誌に発表した(Chong PF, et al: Clin Infect Dis. 66(5): 653-664, 2018.) 。これらの結果をもとに、「急性弛緩性麻痺を認める疾患のサーベイランス・診断・検査・治療に関する手引き」(手引き)を作成した(平成30年5月完成)。2015年に国内流行したEV-D68は遺伝子型Clade Bに分類され、乳のみマウスに特徴的な弛緩性麻痺を誘導した。EV-D68流行期に発症したAFMは左右非対称麻痺例が多く、意識変容を示す割合が低かった。また、造影MRIで増強効果を示す割合が高く、麻痺に関する予後不良例が多かった。EV-D68流行期に発症した小児AFM症例の脊髄MRI画像所見は長い縦走病変が特徴で、脊髄病変の範囲と麻痺の分布に乖離を認める症例が多かった。急性期の両側かつ広範な病変が、徐々に前核に限局する病変に終息し、ガドリニウム造影効果はやや遅れて出現する傾向が認められた。2018年5月1日から15歳未満のAFPが5類感染症全数届出疾患に導入された。EV-D68非流行期の2017年10月に発症したEVD68陽性AFM症例を探知した。
結論
急性脳炎・脳症・AFP症例の原因病原体同定には、発症早期の5点セット(血液、髄液、呼吸器由来検体、便、尿)を採取し、凍結融解を繰り返さないように小分けでマイナス70℃以下に凍結保管しておくことが重要である。医療機関にAFPサーベイランス、手引きを周知し、医療機関、保健所、地方衛生研究所、国立感染症研究所の連携強化が重要である。

公開日・更新日

公開日
2019-08-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2018-07-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201718009Z