地域連携に基づいた医療機関等における薬剤耐性菌の感染制御に関する研究

文献情報

文献番号
201718006A
報告書区分
総括
研究課題名
地域連携に基づいた医療機関等における薬剤耐性菌の感染制御に関する研究
課題番号
H28-新興行政-一般-004
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
八木 哲也(名古屋大学 大学院医学系研究科 臨床感染統御学)
研究分担者(所属機関)
  • 飯沼 由嗣(金沢医科大学 臨床感染症学)
  • 村上 啓雄(岐阜大学医学部附属病院生体支援センター 感染制御学)
  • 大毛 宏喜(広島大学病院 感染症科)
  • 具 芳明(国立国際医療センター病院 AMR臨床リファレンスセンター)
  • 村木 優一(京都薬科大学 医療薬科学系)
  • 藤本 修平(東海大学医学部基礎医学系生体防御学 細菌学/感染症学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
3,289,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国に特徴的な感染防止対策加算に基づいた感染制御の地域連携ネットワークをより有効なものとするために、ネットワークのモデル考案と活動の実践や、ネットワークで共有できる薬剤耐性菌対策のエビデンスなどの情報を集約し、現場で活用できる資料を提供すると共に、対策の提言を作成することを目的としている。
研究方法
本年度は、世界的に問題となっているカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症症例の臨床的検討、加算以外の施設も取り込んだネットワークモデル例の考案と感染対策支援の実践、薬剤耐性菌対策における病院環境管理の実施状況についてのアンケート調査とエビデンス収集、高齢者介護施設における薬剤耐性菌対策の現状把握のためのアンケート調査と内外のエビデンス集約、クリニックにおける抗微生物薬適正使用についてのアンケート調査(手引き等の評価も含む)、全国の抗菌薬販売量やJACSに基づいた主要な医療機関からのデータを元にした抗菌薬使用量の解析、薬剤耐性菌対策に役立つシステム上の警告メッセージ、支援ツールの作成を行う。
結果と考察
名大病院でのCRE感染症症例の臨床的検討では、Enterobacter属が多く、悪性腫瘍などの基礎疾患がある患者から検出され、MEPM-MIC≧2μg/mlを満たす例ではカルバペネム以外の抗菌薬に対する感受性が低下しており、また菌血症症例の予後が不良であることが判明した。
病院環境衛生管理については、アンケート調査により手洗いシンク、排水口、トイレ関連(ノズル等)、尿取り扱い関連器材などが耐性菌の汚染による伝播リスクの高く、清掃委託業者への指導なども含めた環境整備へのICTとしての関わり方、病院環境整備に関する衛生管理基準や清掃マニュアルの作成の必要性、環境消毒薬の選択方法、シンクや温水洗浄便座の衛生管理方法など解決すべき課題について現状把握ができた。
岐阜県内の高齢者施設を対象としたアンケート調査結果を分析し、医療施設と比較し高齢者施設では、①薬剤耐性菌の保菌/感染が把握されにくい状況がある、②標準予防策の遵守、特に個人防護具の着用・交換などに課題がある、③医療職以外の職員が多く職員全体での情報共有や共通意識の形成が難しい、などの問題点を抽出した。国内ガイドラインでは、高齢者施設での薬剤耐性菌対策の情報が少ないことが判明した。
広島大学の研究センターでの菌株の収集と解析の結果,地域特有の薬剤耐性菌の拡がりが証明された一方で、微生物検査を外部委託している医療機関では、必ずしも正しく耐性菌を検出していないこと、加えて慢性期病棟や高齢者施設では、水面下で長期間にわたり耐性菌が拡がっていたことが判明した。また加算以外の施設も取り込んだネットワークモデル例を考案した。
診療所医師を対象にしたアンケートから、AMR対策アクションプランや手引きの認知度は必ずしも高いものではなかったが、抗菌薬適正使用の必要性についての意識は高いこと、手引きダイジェスト版の内容や体裁は概ね受け入れられていると考えられること、感冒に対し高頻度に抗菌薬を処方している一部の医師が存在すること、抗菌薬適正使用を進めるツールとして医師向けの教育資材のほか、患者向けの資材が必要であることが判明した。
2006-2015年までの販売量データからは、抗MRSA薬、カルバペネム系薬の使用量は大きな変動を認めず、Clostridium difficile感染症治療薬は増加していた。JACSを通じて収集した各医療機関における使用量より2010-2016年にかけてAUD、DOTは増加しているもののAUD/DOTも増加しており、1日使用量が増加していることが示唆された。また、抗緑膿菌作用を有する抗菌薬の使用割合は減少傾向にあり、広域抗菌薬の濫用は行われていないことが推察された。
地域連携ネットワークで活用可能な、耐性菌条件警告案内メッセージの開発と公開、地域での耐性菌等の拡散状況を可視化する複数施設2DCM-webの開発、施設内での全菌株の院内拡散を長期間にわたって俯瞰できるΣ-alert matrixの開発を行った。
結論
我が国に特徴的な感染制御の地域連携ネットワークをうまく機能させ、AMR対策アクションプランに基づく薬剤耐性菌対策を遂行するために、連携モデル考案や感染対策支援を実践し、連携の中で活用可能な資料の基になるデータ集積やアンケート調査等による現状調査・解析を行った。また地域連携ネットワーク支援ツールの開発、抗菌薬適正使用のプロセス評価としての抗菌薬販売量・使用量の調査を行った。最終年度は、こうした成果を、エキスパートオピニオンとして現場で活用できる資料にまとめ、また研究班として、地域連携に基づいた薬剤耐性菌対策の提言につなげたい。

公開日・更新日

公開日
2018-06-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-06-05
更新日
2018-08-15

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201718006Z