医薬品の致死的催不整脈作用スクリーニング法の開発

文献情報

文献番号
199800630A
報告書区分
総括
研究課題名
医薬品の致死的催不整脈作用スクリーニング法の開発
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 純一(鳥取大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 久留一郎(鳥取大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
抗生物質や抗アレルギー薬等、一般に突然死と無関係と思われていた薬剤の副作用で突然死が生じている。それらの突然死の原因は、薬剤に起因する致死的不整脈であり、更にその発生機序が心筋細胞カリウム電流阻害なかでも遅延整流カリウム電流の早い活性化成分の阻害による事が指摘されている。本研究ではこれら一般の薬剤の催不整脈作用を検出する方法として、動物の心筋細胞の利用法を検討する。更に現在一般的に行われている複数の薬剤の併用に関し、相互作用により上述の作用を発現することもあることから、ある程度予測し得る範囲において、予め実験的に検討できるか否かについても調査研究を行うこととした。突然死の原因として現在判明している催不整脈機序を中心に、まず可能性が疑われる薬剤から、心筋細胞膜チャネル電流に対する影響を検討し、薬剤濃度や他剤併用、代謝の影響等も総合的に検討するスクリーニング体制の確立に向けた研究を行う。
研究方法
主任研究者が主に心筋細胞のカリウム電流によるものを中心に研究を行うのに対し、分担研究者は一部カリウム電流について、主にナトリウム電流に原因を持つ致死的な不整脈の可能性について研究を深める研究を分担する。具体的にはモルモット心筋細胞(心房筋および心室筋細胞)をコラゲナーゼ処理により単離し、倒立型顕微鏡のステージ上の灌流槽に静置し、タイロード液で灌流した。細胞にパッチ電極を密着し、全細胞記録法により膜電位と膜電流を計測した。薬剤を臨床上の血中濃度および高濃度で作用させ、催不整脈作用に関与すると考えられる電流系への効果を検討した。また心房筋と心室筋の電気生理学的特性の差異に関する検討には、分子生物学的手法を用い発現しているチャネル蛋白の遺伝子学的検討も行った。
結果と考察
消化管運動調整薬のモルモット心筋カリウム電流に対する作用の検討として、致死的催不整脈作用がごく最近明らかとなった、非潰瘍性消化器症状改善薬シサプリドと同効薬であるトリメブチンについて、モルモット遅延整流カリウム電流に対する効果を検討した。その結果、同薬はシサプリドで不整脈源性と考えられている活性化の速いカリウム電流成分単独ではなく、遅い成分に対しても同様の効果を持つことが判明した、この選択性の有無は重要な要素と考えられ、問題となっている催不整脈作用とは異なることが想定される。また同薬はL型カルシウムチャネルに対しても抑制効果を有することが示されたが、これらの効果はかなり高濃度で出現し、実験的に消化管運動に影響する濃度より100倍以上の差があること、臨床上の血中濃度から考えてもかなり高濃度で、安全性が高いと考えられる。更に同じく心電図上QT延長に関与し得る内向き整流カリウム電流に大しては殆ど作用が無いこと等が判明した。
カリウムチャネル遺伝子発現の心筋組織間の差異に関する研究として、分子生物学的手法を用いてモルモットの心房筋と心室筋に発現しているShaker型のカリウムチャネル遺伝子mRNA発現の分布を調べた。その結果心室筋に比較し、心房筋ににおいて有意に高頻度に発現していることが判明した。このことが種差のみならず、心室筋と心房筋の電気生理学的差異に関与している可能性が示唆された。また心房筋、心室筋細胞における薬剤効果の差異に関し、モリシジンのナトリウムチャネル抑制機構を検討した。薬剤と受容体の状態に関する理論に基づいて解析したところ、心房筋と心室筋において差があり、モリシジンは心室筋に対してより結合性が高いことが判明した。この結合性の違いは、不整脈発生ならびに維持機構に対する薬剤使用の点で、心房、心室のどちらに重点を置くか、また逆になった場合の催不整脈作用等の副作用に影響することからこのような検討の重要性が考えられる。
各種薬剤の心筋細胞ナトリウム電流に対する抑制作用、ならびにこれに影響する種々の要因、他薬剤(特にサリチル酸)について検討を行った。本来カルシウム拮抗作用が主作用であり、降圧薬として近年多用されているアムロジピンにナトリウム電流に対する抑制作用があることを、ヒト心筋型ナトリウムチャネルアルファサブユニットを発現させた系を用いて確認した。 アムロジピンはL型カルシウムチャネルのみならず、N型カルシウムチャネルをも抑制し、交感神経活性を抑制する副次的効果も認められ、処方頻度の高い降圧薬である。本研究で明らかとなったように、更にナトリウムチャネルの抑制効果も認めることは、細胞内のナトリウム、カルシウム両イオン濃度を減少させ、カルシウム過負荷を抑制するという意味で、心筋保護的に作用する可能性を有するが、一方細胞の状態によっては伝導遅延の原因となり、リエントリー性の重篤な不整脈を誘発する、いわゆる催不整脈作用となる危険性をはらんでいるともいえよう。また抗不整脈薬トカイナイドのナトリウム電流に対する抑制作用についても検討し、トカイナイドは親水経路を介して不活性化状態の受容体に結合し、疎水経路を介して不活性化状態の受容体から解離することでその作用を発揮していることが示唆された。一方各種の1群抗不整脈薬のナトリウム電流に対する抑制作用を増強するサリチル酸の効果について検討した。提唱されている受容体の異なった状態と薬剤の関係に関する仮説に基づいて検討した結果、サリチル酸は不活性化過程への速度定数を増大することにより抑制を増強することが示唆され、このサリチル酸の効果は脂質親和性の高い抗不整脈薬について考慮が必要であることが判明した。近年、アスピリンが動脈硬化性の疾患、とりわけわが国で多い脳梗塞の再発予防の目的、更に心筋梗塞の一時予防、再発予防薬として世界的に認知され、その予防効果は高価な高脂血症改善薬であるスタチン薬と同等とまでいわれて頻用されている。さらに最近では大腸癌の予防効果まで認められ益々重用されてきているが、このアスピリンがまさにそのサリチル酸であり、このような病態時に使用するナトリウムチャネル抑制作用を持った薬剤の効果が増強することは、その催不整脈作用等の副作用をも増強する結果となり厳重な注意を要すると考えられる。また酸化ストレスのナトリウムチャネルに及ぼす影響を調べた結果、単一システインを修飾する酸化剤はナトリウムチャネルを抑制しないが、2個のシステインを修飾する酸化剤はナトリウムチャネルを抑制すること、ならびにこの反応は還元剤により可逆的であることが判明した。
結論
遅延整流カリウム電流抑制効果に関し、同電流を構成している2つの電流に対する選択性の有無、およびその力価と臨床上の血中濃度の関係が重要であることが判明した。ナトリウムチャネルの抑制作用を有する薬剤に関し、それぞれ作用容態に差があり、種々の外的修飾要因に影響されることが判明した。またアスピリン等広く使用されている薬剤との併用に関し、相互作用による原薬剤の作用増強に注意が必要で、これらの要因に関し予め検討しておくことにより、それぞれの病態において最適な種類と最適な用量の設定が可能となると考えられた。

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