観察法制度分析を用いた観察法医療の円滑な運用に係る体制整備・周辺制度の整備に係る研究

文献情報

文献番号
201717038A
報告書区分
総括
研究課題名
観察法制度分析を用いた観察法医療の円滑な運用に係る体制整備・周辺制度の整備に係る研究
課題番号
H27-精神-指定-001
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
岡田 幸之(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 司法精神医学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 河野 稔明(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 司法精神医学研究部 )
  • 安藤 久美子(聖マリアンナ医科大学 神経精神科学教室)
  • 五十嵐 禎人(千葉大学社会精神保健教育研究センター)
  • 八木 深(独立行政法人国立病院機構花巻病院)
  • 三澤 孝夫(国際医療福祉大学医療福祉学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
7,566,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、政策決定上必須である制度運用の実態データを11年に亘り継続的に悉皆性を求めて収集しており、これを多角的に分析し、政策提言と医療現場への還元を行い、専門家の育成方法の開発までを手掛ける。入院モニタリング(A分担:河野)、通院モニタリング(B分担:安藤)、国際比較(C分担:五十嵐)、判定医養成手法開発(D分担:八木)、医療従事者養成手法開発(E分担:三澤)の5分担研究による。
研究方法
(A分担)全国の指定入院医療機関(30施設、約800床)への訪問によるデータ収集と分析を行う。その結果と英国の司法精神保健サービスの視察や文献情報を参考にして、具体的な政策提言を示す。
(B分担)全国の指定通院医療機関(約600施設)への「基本データ確認シート」による調査と分析を毎年繰り返して実施する。より効率的に質の高いデータを悉皆で収集する調査法の開発も行う。
(C分担)日、英、米の司法精神医療について各国の専門家への構造化面接を中心に定性的に比較検証し、全国の司法精神医療従事者のweb会議で検討を加え、日本の現状にそった制度モデルを作成する。
(D分担)精神保健判定医を対象とする研修で意見調査を実施し、企画委員会に還元し、質の改善をはかり、ケースブック作成などを通じて、効果的に医療観察法の現場に還元する方法も開発する。
(E分担)実務者の意見や英国の司法精神医療の研修方法を調査して、地域支援に必要な知識、技術を明らかにし、実務者研修への具体的な提言を行い、演習用模擬事例、テキストを開発していく。
(倫理面への配慮)
研究に関する倫理指針等を遵守し、倫理委員会の承認を得て研究を遂行している。
結果と考察
A分担では、法施行以来9年間の全入院処遇対象者2175名の匿名化した診療データの分析をすすめた。社会復帰期から回復期、回復期から急性期といったかたちでステージダウンを経験した36名の詳細なテキスト分析により,ステージダウンの要因、これに対してステージダウン直後に行われた介入、退院直前に行われた介入をカテゴリカルに抽出した。地域生活を見据えた介入の強化が行われるケースがある一方で、医療観察法の入院治療終結にむけた介入がなされる場合があることなどが確認できた。
B分担では、最終年度までに全国指定通院医療機関543施設の協力を得て、2,254例のデータの収集を完了した。通院中の問題行動の詳細な分析を行った。「服薬の不遵守」が最多だったが15%未満に留まり、全く問題行動がなかった者が52%であった。すでに66%が処遇を終了していたが、その90%以上が一般精神医療の通院を継続していた。平成29年度には、すでに処遇を終了していた1,560名(71.4%)の平均通院日数は930.5±311.0日であった。通院処遇中に精神保健福祉法入院をしていた者は1068名(48.9%)であったが、その入院が通院処遇開始直後から始まる者と途中で始まる者がおり、後者は問題行動や病状悪化の目立つ複雑事例が多いことなどを確認した。
C分担では、医療観察法のモデルとなった英国、および米国ニューヨーク州を加えた日、英、米の3カ国で、司法精神医学の専門家の意見聴取を行い、比較検討した。社会復帰支援の要点、困難点、社会復帰モデル、司法精神医療専門医療機関の是非、医療者への治安の責任の是非、専門家に必要な知識と技能などに、国間差を確認した。米国は英国と日本の中間に位置するが、より英国に近いこと、日本の司法精神科医は、米英と比較して、社会に対する責任やリスクアセスメントの意識が薄く、司法関係機関との連携に忌避感を持っている可能性が示唆された。
D分担では、判定医等養成研修会において、参加者に意見聴取を実施した。有用度・理解度は高く、事例提示やグループワークなど、実践的な参加型プログラムの評価が高かった。さらに厚生労働省判定事例研究会に複雑事例を提供し、研修に寄与した。
E分担は、英国の司法精神医療従事者への研修会の情報、国内の各地域での取り組みなどを調査した。これに基づいて退院調整や社会復帰援助の研修項目を特定して模擬研修会を実施し、要望の高い研修項目を検証し、研修の組み立てを始めた。とくに、退院調整や地域への移行、地域での援助等にあたって重要な専門的知識やスキルを明らかにし、関係機関職員のための研修方法や内容、教材、ガイドラインを作成した。
結論
各班とも、データ収集、分析、検討と政策提言をおこなっている。すでに海外論文での発表も行っており、最終年度までに予定していた成果をあげることができた。

公開日・更新日

公開日
2018-11-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-06-07
更新日
2018-11-21

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201717038B
報告書区分
総合
研究課題名
観察法制度分析を用いた観察法医療の円滑な運用に係る体制整備・周辺制度の整備に係る研究
課題番号
H27-精神-指定-001
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
岡田 幸之(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 司法精神医学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 河野 稔明(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 司法精神医学研究部)
  • 藤井 千代(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 社会復帰研究部)
  • 安藤 久美子(聖マリアンナ医科大学 神経精神科学教室)
  • 五十嵐 禎人(千葉大学社会精神保健教育研究センター)
  • 八木 深(独立行政法人国立病院機構花巻病院)
  • 三澤 孝夫(国際医療福祉大学医療福祉学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、政策決定上必須である制度運用の実態データを11年に亘り継続的に悉皆性を求めて収集しており、これを多角的に分析し、政策提言と医療現場への還元を行い、専門家の育成方法の開発までを手掛ける。
研究方法
(A分担)全国の指定入院医療機関への訪問によるデータ収集と分析を行う。英国の司法精神保健サービスの視察や文献情報を参考にして、具体的な政策提言を示す。
(B分担)全国の指定通院医療機関への調査と分析を毎年繰り返して実施する。効率的に質の高いデータを悉皆で収集する調査法の開発も行う。
(C分担)日、英、米の司法精神医療について各国の専門家への構造化面接を中心に定性的に比較検証し、web会議で検討を加え、日本の現状にそった制度モデルを作成する。
(D分担)精神保健判定医を対象とする研修で意見調査を実施し、研修の質の改善をはかり、ケースブック作成などを通じて、効果的に医療観察法の現場に還元する方法も開発する。
(E分担)実務者の意見や英国の司法精神医療の研修方法を調査して、地域支援に必要な知識、技術を明らかにし、実務者研修への具体的な提言を行い、演習用模擬事例、テキストを開発していく。
(倫理面への配慮)
研究に関する倫理指針等を遵守し、倫理委員会の承認を得て研究を遂行している。
結果と考察
A分担では、制度開始から9年間の全入院処遇対象者2175名の診療データの分析をすすめた。入院対象者の基本属性はほぼ一定で推移していたが、推定在院期間は徐々に延長し、2011年は平均839日であった。遠隔地での入院処遇を開始する割合は徐々に減っていた。5年以上の超長期在院者のステージの推移の検討から、47名の超長期在院者のうち社会復帰期が1年以上のケースが17例であった。5年以上の超長期在院者が47名おり、テキスト分析により「病識の欠如」「治療の拒否」「他害リスクの残存」「治療反応の鈍さ」「生活能力・コミュニケーション能力の低さ」「退院調整の難渋」が長期化要因であり、一方で退院できた17名では「クロザピンによる病状改善」「デポ剤による治療継続の担保」が退院の進要因となっていた。社会復帰期から回復期、回復期から急性期といったかたちでステージダウンを経験した36名のテキスト分析により,地域生活を見据えた介入の強化が行われるケースと医療観察法の入院治療終結にむけた介入がなされる場合があることなどが確認できた。
B分担では、全国指定通院医療機関543施設、2,254例のデータ収集をした。通院中の問題行動では「服薬の不遵守」が最多で、「日常生活におけるルールの違反」「非身体的暴力」などが多く報告されていたが、52%には何の問題行動も認められず順調な経過を送っていることが明らかとなった。すでに処遇を終了していた1,560名(71.4%)の平均通院日数は930.5±311.0日であった。その9割は一般精神医療につながっていた。通院処遇中に精神保健福祉法入院をしていた者は1068名(48.9%)であったが、その入院が通院処遇開始直後から始まる者と途中で始まる者がおり、後者は問題行動や病状悪化の目立つ複雑事例が多いことなどを確認した。
C分担では、医療観察法のモデルとなった英国、および米国ニューヨーク州を加えた日、英、米の3カ国で、司法精神医学の専門家の意見聴取を行い、比較検討した。米国は英国と日本の中間に位置するが、より英国に近いこと、日本の司法精神科医は、米英と比較して、社会に対する責任やリスクアセスメントの意識が薄く、司法関係機関との連携に忌避感を持っている可能性が示唆された。
D分担では、判定医等養成研修会で意見聴取を実施した。有用度・理解度は高く、事例提示やグループワークなど、実践的な参加型プログラムの評価が高かった。さらに厚生労働省判定事例研究会に複雑事例を提供し、研修に寄与した。
E分担は、英国の司法精神医療従事者への研修会の情報、国内の各地域での取り組みなどを調査した。退院調整や地域への移行、地域での援助等にあたって重要な専門的知識やスキルを明らかにし、関係機関職員のための研修方法や内容、教材、ガイドラインを作成した。
結論
本研究では、医療観察法の入院長期化要因、通院中の問題の発生状況などを明らかにした(A、B分担)。現在の英国、米国の司法精神医療をめぐる課題が日本の政策決定の参考になることが確認された(C分担)。こうして得られた知見をもって医療の質の向上と均てん化に寄与させることを目的として研修を通じた還元の方法についても開発を重ねた(D、E分担)。とくに長期の実態調査については、その一部はデータベース事業のなかに統合されて、今後の永続的な実施に移行するに至っている。

公開日・更新日

公開日
2018-06-07
更新日
2018-11-21

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201717038C

成果

専門的・学術的観点からの成果
医療観察法制度施行以来の入院、通院対象者に対する悉皆を目指した調査を実施し、その結果に基づいた分析を行っており、重要な基本情報を本領域の臨床、研究、行政に対して提供する研究となっている。
臨床的観点からの成果
本研究では全国規模での医療観察法の実態調査を行っている。この研究の成果は、各医療施設や地域が目指すべき臨床上の目標や課題も明らかにするものであり、医療の均てん化に役立てられている。
ガイドライン等の開発
本研究成果は直接、精神保健判定医等養成研修の研修内容、配布資料に反映されている。
その他行政的観点からの成果
本研究の成果として得られている諸データは、法務省保護局の社会復帰調整官などの研修においても利用されている。全国規模のデータ収集はその有用性が認められ、その一部は2017年度から運用開始となった医療観察法データベース事業に反映されている。
その他のインパクト
2015~2017年度の3年間にわたり、入院モニタリング調査研究、通院モニタリング調査研究の成果は「医療観察統計レポート」として成果を発表し、関係諸機関に配布した。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
10件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
14件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
2018年度版医療観察法統計レポート―入院・通院モニタリング調査―,医療観察法対象者を受け入れて支援をするための手引書

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ando K, Soshi T, Nakazawa K,et al
Risk Factors for Problematic Behaviors among Forensic Outpatients under the Medical Treatment and Supervision Act in Japan.
Front Psychiatr , 7 , 144-144  (2016)
doi:10.3389/fpsyt.2016.00144
原著論文2
Shiina A, Iyo M, Hirata T, et al
Audit study of the new hospitalization for assessment scheme for forensic mental health in Japan.
World J Psychiatr , June 22 ((2)5) , 234-242  (2015)
doi: 10.5498/wjp.v5.i2.234
原著論文3
Nagata T, Nakagawa A, Matsumoto S,et al
Characteristics of Female Mentally Disordered Offenders Culpable under the New Legislation in Japan: A Gender Comparison Study.
Criminal Behaviour and Mental Health , Mar 10  (2015)
doi: 10.1002/cbm.1949
原著論文4
Shiina A, Iyo M, Igarashi Y
Defining outcome measures of hospitalization for assessment in the Japanese forensic mental health scheme: a Delphi study.
Int J Ment Health Syst , 28 (9) , 7-7  (2015)
doi: 10.1186/1752-4458-9-7. eCollection 2015
原著論文5
Shiina A, Tomoto A, Omiya S,S,et al
Differences between British and Japanese perspectives on forensic mental health systems: A preliminary study.
World Journal of Psychiatry , 7 (1) , 8-11  (2017)
doi:10.5498/wjp.v7.i1.8
原著論文6
Shiina A, Niitsu T, Sato A, S,et al
Effect of educational intervention on attitudes toward the concept of criminal responsibility.
World Journal of Psychiatry , 7 (4) , 197-206  (2017)
doi:10.5498/wjp.v7.i4.197
原著論文7
河野稔明, 安藤久美子, 藤井千代,他
特集III 医療観察法制定から10年を振り返って―医療観察法制定から10年:現況分析
精神科 , 29 , 151-159  (2016)
原著論文8
河野稔明, 岡田幸之, 平林直次
医療観察法入院処遇に適した在院期間代表値の選定―3つの平均値に着目して
司法精神医学 , 12 , 11-18  (2017)

公開日・更新日

公開日
2018-11-21
更新日
2024-03-18

収支報告書

文献番号
201717038Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,835,000円
(2)補助金確定額
9,835,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,931,225円
人件費・謝金 3,061,990円
旅費 814,519円
その他 1,758,268円
間接経費 2,269,000円
合計 9,835,002円

備考

備考
預金通帳の利子「2円」

公開日・更新日

公開日
2020-06-09
更新日
-