各種薬剤による横紋筋融解症の発生機序解明に関する研究

文献情報

文献番号
199800629A
報告書区分
総括
研究課題名
各種薬剤による横紋筋融解症の発生機序解明に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
埜中 征哉(国立精神・神経センター武蔵病院)
研究分担者(所属機関)
  • 後藤雄一(国立精神・神経センター)
  • 菊池博達(東邦大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
薬剤投与の副作用として横紋筋融解はまれではない。時には腎不全を来たし死に到る。なぜ、どのような機構で横紋筋融解が起こるのかその機構を明らかにし、予防法を確立する。その解明の手段としてまず遺伝子変異(リアノジンレセプター遺伝子変異)が明らかにされている悪性高熱症をターゲットとして分子生物学的手法を用いて研究を進める。
研究方法
1.悪性高熱症患者のスクリーニング
麻酔中に悪性高熱症(筋硬直、横紋筋融解)を来すことは、非常にまれであるが、悪性高熱症に到るとそれが死に結びつくことはまれでない。一度悪性高熱症を起こした患者は、現在東邦大学麻酔科が全国の中心となって検索し、その原因を追求している。本症は遺伝性があるので、患者家族も検索している。
1)CICR法による検討(菊池)
以上の患者は、上腕二頭筋から生検され、生検筋からスキンドファイバーにより単一筋線維を得、灌流バッファーに種々の濃度のCa++を加え、筋線維の収縮の域値を調べた(CICR法)。今年度新たに9名の患者を見出し、過去の例も含めて30名の検索が行えた。
2)基礎疾患の有無の検討(埜中)
生検筋は凍結固定され、連続切片にHE,Gomoriトリクローム変法、NADH-TRなど各種染色を行い、形態学的に検討した。一部は電子顕微鏡的に検討した。
3)RYR1 遺伝子変異の検出(後藤)
悪性高熱症と診断された30例中まず代表的な5例についてRYR1 遺伝子の塩基配列をダイレクトシークェンス法により決定した。なお検索領域は従来報告されている点変異のホットスポットであるエクソン4~11、13~18とした。
2.先天性ミオパチーにおけるRYR1遺伝子変異
先天性ミオパチーは悪性高熱症を合併し易い。特にセントラルコア病は悪性高熱症と遺伝子座は同じであり両者の相違が論議されている。そこで先天性ミオパチーについても検討した。
1)組織学的診断(埜中)
乳児期より筋力低下があり、先天性ミオパチーが疑われた小児の筋生検に各種組織化学的染色を施し、セントラルコア病、マルチコア病を各々13名、11名診断した。
2)RYR1遺伝子変異の検出(後藤)
代表的な症状、病理所見を持つセントラルコア病5例、マルチコア病1例について1-3)と同じ方法で遺伝子変異を検索した。
結果と考察
横紋筋融解症は、薬物の副作用としては比較的多いものである。
しかし、そのメカニズムは明らかでない。そのメカニズムを解明するには、まず遺伝子レベルでの解析が進んでいる悪性高熱症、セントラルコア病での病態解析を進めることが先決である。我々はその点に注目し、研究を進め大きな成果をあげた。
1)悪性高熱症の病態解明に関する研究
全身麻酔時に筋硬直、横紋筋が融解する悪性高熱症は、生検筋からスキンドファイバー(skinned fiber)を得てCa-induced Ca-release(CICR)法で診断できる。すなわち小胞体の易興奮性があるため低濃度のCaで筋は収縮する。東邦大では悪性高熱症及びその家族25例の生検筋からCICRの亢進を9名に見出し診断した。過去の例も含め30名が診断された。
2)リアノジン受容体(ryanodine receptor 1: RYR 1)遺伝子変異の検索
東邦大学ですでに悪性高熱症と診断した患者30名(今回の9名を含む)、さらに高頻度に本症を合併するセントラルコア病13例、マルチコア病11例を対象とし遺伝子検索を行った。悪性高熱症患者1家系でArg2434His、マルチコア病1患者よりArg163Cysを検出した。
3)悪性高熱症患者の病理組織学的検討
CICRが亢進し悪性高熱症と診断した患者30名の骨格筋を組織化学的に検討し、潜在する基礎疾患を検討した。10名で筋原線維間網の乱れを認め、さらにコア構造を3名に認めた。ただし、典型的セントラルコア病は本症例群には認めなかった。以上の結果は筋小胞体の機能異常が形態学的変化としても表れていることを示していた。
結論
横紋筋融解症を主症状とする悪性高熱症患者の診断をCICR法、筋病理学的に検討、さらに遺伝子解析を行って病態を明らかにした。患者家族の検索も行ったので本症の予防に大きく役立てることが出来た。先天性ミオパチーとの関連性をも追求した。

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