長期精神病院入院患者のロコモティブシンドロームに対する研究

文献情報

文献番号
201717034A
報告書区分
総括
研究課題名
長期精神病院入院患者のロコモティブシンドロームに対する研究
課題番号
H29-精神-一般-006
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
高岸 憲二(国立大学法人群馬大学)
研究分担者(所属機関)
  • 田中 栄(東京大学整形外科・医学部附属病院)
  • 筑田博隆(群馬大学整形外科・医学系研究科)
  • 中村 健(横浜市立大学リハビリテーション科学・医学研究科)
  • 飯塚 伯(群馬大学整形外科・医学系研究科)
  • 江口 研(医療法人仁誠会大湫病院)
  • 鈴木正孝(あいせい紀年病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
4,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
精神科病院に入院している患者は高齢化しており、精神状態の改善を中心とした治療だけではなく、身体合併症の治療と予防およびQOLの維持は、精神病院の入院患者の地域移行を推進するにあたり重大な課題である。本研究では精神科長期入院患者の骨粗鬆症やサルコペニア、ロコモティブシンドローム(ロコモ)の実態を明らかにし、また、薬物療法、運動療法、理学療法などさまざまなアプローチによるそれらの治療法と予防法の有効性を検討することである。
研究方法
都立松沢病院では、転倒リスクアセスメントシートに基づいて転倒歴などの既知の転倒リスクをスコアリングし、危険度Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの3群に分類し、3群それぞれについて、転倒及び転落事故の発生数、またその重症度について調査した。また、骨粗鬆症、サルコペニアの実態調査を行っている。サンピエール病院では、骨粗鬆症の評価を行った。骨粗鬆症を持つ精神病患者を対象に活性型ビタミンD3単剤または活性型ビタミンD3単剤とデノスマブの併用による治療介入を行い、骨密度および骨代謝マーカーの経時的変化を評価した。また、入院患者および外来患者を対象としてロコモ、握力、片脚起立時間によりロコモと身体機能についての評価を行った。横浜市立大学では精神病院に長期間入院中精神疾患患者を対象として、ロコモに関連して低活動、不動性を呈した患者に対する運動療法、理学療法の効果的な介入方法と有効性を8~12週間で実施しそれらの有効性を検討する。公益社団法人日本精神科病院協会に登録している全国の会員病院に対してアンケート調査を実施し、集計して解析を行った。あいせい紀年病院では、骨粗鬆症と診断された精神病患者に対して、治療有用性を評価した。
結果と考察
院内転倒・転落事故の実態調査では、Ⅰ群では転倒8.6%、転落1.2%、転倒・転落による骨折(以下、骨折)0.1%、Ⅱ群では転倒26%、転落5.2%、転倒・骨折0.7%、Ⅲ群では転倒27%、転落31件6.7%、骨折1.5%であった。また、治療を要する外傷をきたしたケースではⅡ群およびⅢ群が66%を占めていた。この結果から、既知の転倒リスクを考慮したスコアリングは転倒・転落の危険度予測には有効であり、しかも転倒リスクが高い患者は転倒により重症度の高い外傷をきたしやすいということがわかった。
長期入院中の統合失調症患者の身体機能評価において握力測定については、Asian Working Group for Sarcopeniaの基準値より低値であったのは、男性46.2%、女性63.6%であった。入院患者と外来患者をあわせた全患者の48.9%、入院患者の67.7%で骨粗鬆症を認めた。デノスマブと活性型ビタミンD3による治療を行った患者17名は12か月以降に有意な骨密度の増加を認めた。
運動療法、理学療法の効果的な介入方法と有効性についての検討では理学療法士の介入による歩行訓練および筋力強化訓練などの複合的運動療法プログラムを組み入れた研究プロトコルを作成することができた。今後は、研究プロトコルに従って運動療法前後の身体機能や生活機能、精神症状などの評価や運動療法の実践、および対象者や運動療法内容が適切であるかを検証する。
全国の精神病院に対するアンケート調査では、罹病期間、入院期間とも圧倒的に長期化を示し、骨密度測定による診断は23%のみで診断法としてはDEXA法13%であった、51.5%で転倒の既往、27.8%で骨折の既往があった。骨粗鬆症治療薬では、D3製剤が約50%ビスフォスネート30%で投与されていた。転倒予防策としては看護計画活用、情報共有化が主で具体的対策には至っていない。骨折症例は転院後30%が2週間以内帰院し、25%は手術のみでリハビリは受けていなかった。骨粗鬆症の治療として、骨密度の上昇に関してはゾレドロン酸投与後半年後に再度骨密度測定をDEXAにて測定した。点滴静注後翌日の発熱が18例中11例に認められたが、発熱をのぞけば大きな副作用はなく、精神科入院患者においても使用可能であった。半年後の骨密度は測定可能であった11例で骨密度上昇していた。ゾレドロン酸水和物は精神科入院患者の骨密度を上昇させる効果があった。
結論
精神病患者のロコモおよび骨粗鬆症の有病率は約半数に認められ、外来患者に比べ入院患者での有病率が高い。また、精神病患者では、転倒リスク評価による危険度が高いほど転倒、転落およびそれらに伴う骨折が多いが、転倒、骨折に対する具体的予防策が講じられている精神科病院は少ない。精神病患者における骨粗鬆症に対する薬物療法は薬剤を適切に選択すれば治療効果が得られる可能性が高い。骨粗鬆症に対する薬物療法のみならず、適切な運動療法・理学療法による運動器疾患のマネージメントが望まれる。

公開日・更新日

公開日
2018-11-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-11-21
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201717034Z