向精神薬の処方実態の解明と適正処方を実践するための薬物療法ガイドラインに関する研究

文献情報

文献番号
201717029A
報告書区分
総括
研究課題名
向精神薬の処方実態の解明と適正処方を実践するための薬物療法ガイドラインに関する研究
課題番号
H29-精神-一般-001
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
三島 和夫(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所・精神生理研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 山之内 芳雄(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所・精神保健計画研究部)
  • 松本 俊彦(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所・薬物依存研究部)
  • 橋本 亮太(大学院大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学連合小児発達学研究科)
  • 稲田 健(東京女子医科大学医学部精神医学)
  • 岸 太郎(藤田保健衛生大学精神神経科学)
  • 渡辺 範雄(京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
9,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
向精神薬の多剤併用、大量処方、漫然とした長期処方、乱用・依存などに関する臨床及び社会的な懸念が強まっている状況を鑑み、本研究班では国内の向精神薬の処方実態の調査と専門家によるコンセンサスミーティングを通じて現状の問題点を明らかにし、向精神薬の適正処方を実践するためのガイドラインと応用指針を作成する。
研究方法
1)大規模診療報酬データを用いた向精神薬処方に関する実態調査研究:ナショナルデータベースを用いて抗精神病薬の多剤併用の解析を行った。大型健康保険組合加入者の診療報酬データを用いて向精神薬の詳細な長期トレンドを解析した。
2)医師・薬剤師を対象とした向精神薬処方に関する意識調査:一般診療科の医師(300名)を対象にして、向精神薬の選択基準、症状が改善した後の中止の是非、減薬を開始するまでの期間等に関するオンライン意識調査を実施した。
3)全国の有床精神科医療施設における薬物関連疾患の実態調査:2016年データを用いて睡眠薬・抗不安薬関連障害患者の臨床的特徴を、他の薬物関連障害患者との比較から検討した。
4)EGUIDEプロジェクトと連動した大学病院での向精神薬の処方実態調査と診療の質指標による教育効果の評価に関する研究:44病院を対象として理解度調査や処方調査を行った。
5)多剤大量服用例におけるSCAP法の有効性検証研究:日本精神神経学会の多職種共働委員会フォーラムにおいて、SCAP法を含めた多剤処方是正のための方策について検討と啓発事業を行った。
6)系統的レビューによる精神疾患に対する向精神薬の有用性、安全性、減薬・中止法の検討を行った。ガイドラインの推奨根拠であるエビデンス創出のための系統的レビューの客観的視点により透明性や再現性を保った方法論に関する指針作りを行なった。
7)向精神薬の適正処方を実践するための薬物療法ガイドラインの作成:精神科医、心療内科医、薬剤師、臨床心理士、一般有識者、法曹関係者、計70名から構成されるガイドライン班を立ち上げた。
結果と考察
1)大型健保団体データの縦断解析から2016年4月における抗精神病薬、抗うつ薬の4剤以上併用患者、睡眠薬、抗不安薬の3剤以上の併用患者は当該向精神薬処方全患者のそれぞれ1.1%、0.4%、4.7%、0.9%であり、2005年以降漸減傾向にあることが明らかになった。ナショナルデータベースの解析から、平成28年診療報酬改訂を境に抗精神病薬3剤以上処方者割合は9.1%から5.4%へ一貫して減少しており、平成24年度/26年度の診療報酬改定での減少が加速していることが明らかになった。
2)一般診療科医師では向精神薬の出口戦略に関する知識が不足し、困難に直面していることが明らかになった。減薬・中止の是非の判断一つをとっても処方医によって大きく分かれ、ガイドラインが存在しないことによる医療現場の混乱がうかがわれた。
3)睡眠薬・抗不安薬関連障害患者は、大麻や危険ドラッグなどの関連障害患者に比べると、年齢層はやや高く、覚せい剤関連障害患者と同じく30~40代に集中しており、女性に多いことが明らかになった。
4)EGUIDEプロジェクトと連動した大学病院での向精神薬の処方実態調査を行い、44病院から1778症例(統合失調症1167例、うつ病616例)のデータを収集した。
5)SCAP法を含めた多剤処方是正のための方策について講演およびグループワークを行うなど啓発活動を行った。
6)ベンゾジアゼピン系薬の減薬・休薬のための心理社会的介入としては、認知行動療法、動機づけ面接などがあり、薬剤師がBZ系薬の処方状況を確認し多職種で共有することで処方状況が適正化されうることが明らかとなった。系統的レビューとメタ解析の結果、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は統合失調症の睡眠障害に対して有意な改善効果を認めなかった。
7)向精神薬の適正処方を実践するための薬物療法ガイドラインに向けて、客観的視点により透明性や再現性を保った系統的レビューの指針を作成した。6種の向精神薬について治療終結の可否と是非を問うSCOPE(CQ)の作成を行った。系統的レビューチームを対象としたMinds講習会を開催し、系統的レビューに着手した。
結論
本研究により、向精神薬の多剤併用、長期処方の背景要因、向精神薬への乱用、依存の実態とその背景要因、適正使用に向けた教育効果が明らかになる。保険給付政策による向精神薬の多剤併用の抑止効果に関する実証的データが得られる。向精神薬の適正使用ガイドラインの普及により多剤併用、高用量処方の主因である向精神薬の漫然長期処方に歯止めがかかり、精神科薬物療法の質の向上と均てん化を進める効果が期待される。

公開日・更新日

公開日
2018-11-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-11-21
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201717029Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
12,610,000円
(2)補助金確定額
12,084,000円
差引額 [(1)-(2)]
526,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,618,321円
人件費・謝金 1,860,894円
旅費 1,245,593円
その他 4,450,401円
間接経費 2,910,000円
合計 12,085,209円

備考

備考
返金にあたり自己資金が発生しているため

公開日・更新日

公開日
2018-11-21
更新日
2019-08-13