外因死の背景要因とその遺族への心のケアに関する研究

文献情報

文献番号
201717028A
報告書区分
総括
研究課題名
外因死の背景要因とその遺族への心のケアに関する研究
課題番号
H28-精神-一般-007
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
川野 健治(立命館大学 総合心理学部)
研究分担者(所属機関)
  • 竹島 正(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神保健計画研究部)
  • 松本 俊彦(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
  • 福永 龍繁(東京都監察医務院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
7,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、少子高齢化の進むわが国において健康寿命の延伸を図るため、外因死の身体的・精神的・社会的背景要因を明らかにして、それらに対応した施策を講じる基盤を整備することおよび、政策提言を行うものである。
研究方法
①監察医務機関のない地域における心理学的剖検の実施可能性や遺族支援のあり方を検討し、また、本研究のウエブサイトからの発信を行い、その評価を行う(竹島班)。②従来の心理学的剖検の手法ではサンプル数の制限から統計学的にその臨床的特徴を同定できなかった女性の自殺既遂者に関して、質的な手法によってその実態と自殺予防のための介入のポイントを検討する(松本班)。③東京都観察医務院データを用いた外因死の要因分析をする(福永班)。④外因死遺族等の支援ニーズについて明らかにしたうえで、遺族支援のための研修プログラムを開発する(川野班)。
結果と考察
本研究の協力者である医師は、川崎市多摩区で発生した自殺事例の約半数の死体検案を行っていた。自殺の最大の危険因子である「精神疾患の既往」や「自殺未遂歴」について、死体検案書等からは把握することは困難であったが、現状の警察からの情報書式を整えることで、こうした重要な情報が得られると考えられた。自殺の第一発見者の約半数は「家族」であり、大切な人の変わり果てた姿を目にしていることからも、遺族の精神面や心理面への配慮は必要であることが考えられた。半数の自殺者には同居家族等がいたことから、自殺者の生前の様子等の詳細を知っている遺族に対して心理学的剖検調査を実施し、そこから遺族支援につながる可能性があることがうかがえた。本研究の成果をもとに監察医務機関のない地域における自殺の心理学的剖検のモデルをまとめた。また、ウエブサイトは平成29年3月9日にドメインを取得、最初の記事の公開は平成29年5月29日であった。平成30年1月6日時点の更新回数は3回で、エッセイの掲載に合わせて更新され、アクセスも増加していた(竹島班)。
既存事例の再検討から女性の自殺既遂事例に関していくつかの臨床類型として整理するとともに、結婚、出産、子育て、子どもの自立といった女性ならではライフサイクルと密接に関連した自殺の危機が明らかになった。一方、前方視的な新たな心理学的剖検研究については、研究機関内に女性自殺既遂者の遺族より調査協力を得ることができず、今後の課題として残された(松本班)。
平成27年に東京都監察医務院において取り扱った東京都23区内で発生したすべての異状死13,425件のうち、病死以外の外因死及び不詳の死は4,252件であり、当院以外で司法解剖等に付された例を除くと、その内訳は災害死1,079件、自殺1,638件、その他1,131件であった。これらのうち、最も政策提言に有効な内容を抽出し、(1) 薬毒物による自殺、不慮の事故死、(2) 妊産褥婦死亡、(3) 若年者の自殺、(4) 異状死として取り扱われた生活困窮者の死因、(4) 防ぐことのできる死亡(熱中症,浴槽内死亡等)について、調査結果を監察医務院ホームページにその一部を公開(http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kansatsu/index.html)すると共に学術発表を行った。川野班と連携として、検案・解剖後に行った遺族面談の内容に関する詳細な調査を行った(福永班)。三次救急医療施設での外因死遺族等への支援では、①遺族のニーズおよびその背景が十分に把握できていないこと、②活用できる資源が限られており、教育機会が不足していること、③外部資源との連携が不足していること(ただし、自死遺族支援では多様な連携がある)が課題であった。平成28年度東京都監察医務院の遺族面談記録からは、87事例のうち面談の92%で原因説明、84%で用語説明、18%で最後の様子についての情報提供を求め、51%が自分の気持ちを整理したいと考え、自分を責める気持ちや他者を責める気持(11%、25%)があるが、面談後に納得していた遺族は72%であった(川野班)。
結論
竹島班は、予定していた研究はほぼ達成できた。松本班は、既存事例の再検討については計画通りの研究を遂行することができたが、新たな面接調査票を用いた新規の心理学的剖検面接は対象者を募ることができず、今後の課題として残された。福永班は、社会的に問題となる事項に関し、有効な解析を行い、国際誌への公表を行うことができたが、監察医制度非施行地域との比較は未完であり、さらに検討を進めるべき多くの課題が得られた。川野班は、外因死遺族支援のニーズを検討し、それを踏まえた研修資材とプログラムを開発したが、研修の試験的な実施と評価が課題となった。

公開日・更新日

公開日
2018-11-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-11-21
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201717028B
報告書区分
総合
研究課題名
外因死の背景要因とその遺族への心のケアに関する研究
課題番号
H28-精神-一般-007
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
川野 健治(立命館大学 総合心理学部)
研究分担者(所属機関)
  • 竹島 正(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神保健計画研究部)
  • 松本 俊彦(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
  • 福永 龍繁(東京都監察医務院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、少子高齢化の進むわが国において健康寿命の延伸を図るため、外因死の身体的・精神的・社会的背景要因を明らかにして、それらに対応した施策を講じる基盤を整備することおよび、政策提言を行うものである。
研究方法
多分野の研究協力者による研究会による文献検討、三次救急医療施設を対象のインタビュー、東京都監察医務院の遺族面談記録を分析した。これを材料として、ワークショップ形式で資料開発を行った(川野班)。平成21年度「不慮の事故死亡統計」の概況(厚生労働省)、東京都監察医務院の検案統計、川崎市における外因死の人口動態統計の分析による探索的検討、生活困窮者の死因・自殺・不慮の事故の文献的検討を行い、多分野の研究協力者による研究会を開催した。ウエブサイトの構造および内容の検討を行った。川崎市多摩区の川崎市医師会会員の神奈川県警協力医による平成24年から28年までの死体検案のうちの自殺事例の分析をもとに、自殺の心理学的剖検の実施可能性を検討した。またそれを遺族支援につなぐ可能性を検討した(竹島班)。女性の自殺事例について学際的視点を導入しつつ検討し、東京23区における女性自殺既遂事例で特徴的な経緯を呈している4つを呈示した。東京都23区内で発生した女性の自殺既遂者に関して、質的な検討を念頭に置いた新たな面接調査票を開発し、前方視的な情報収集の計画を立てた(松本班)。東京都監察医務院の検案調書のなかで特に外因死の特徴を整理した。検案調書のなかで特に外因死について検案記録を調査し、外因死の内訳とその問題点の抽出と解析を行った(福永班)。
結果と考察
犯罪被害、交通事故、自然災害、自殺で独自の経緯を経て、支援マニュアルの整備、被害者支援、セルフヘルプグループの立ち上がりとその支援、あるいは研修制度の整備が進んでいることが確認された。三次救急医療施設及び東京都監察医務院のデータから、外因死遺族への支援の必要性、有用性が確認され、これに基づき、研修等で利用可能な遺族支援パンフレット案が作成され、要点が示された(川野班)。外因死の情報に(1)警察署の保有する異状死データ、(2)人口動態統計、(3)救急搬送の不搬送事例、(4)救急搬送後の外因死事例、(5)市内医師の検案事例、(6)生活保護停止事例、(7)自殺統計原票などがあり、外因死は、不慮の外因死(交通事故、転倒・転落、溺水、煙・火災及び火焔による傷害、窒息、中毒、その他)とその他及び不詳の外因死(自殺、他殺、その他及び不詳の外因死)にあることが確認され、ここから対策構築可能で情報収集の可能な範囲の特定が重要と考えられた。情報提供ウエブサイトにおいては、外因死は予防可能であるというメッセージを中心において構築することの重要性がみいだされた。死体検案書及び変死事案概要では、自殺の手段、遺体の発見場所、第一発見者の情報はすべての事例について得られたものの、自殺の背景となる精神保健的・社会的要因を検討するための情報が不足していた。また、死体検案の後に、遺族ケアや遺族支援にかかる情報を警察署から家族に提供し、これにあわせて自殺の心理学的剖検の協力依頼を行うことが考えられた(竹島班)。既存の心理学的剖検について、(1)評価できていない診断疾患の追加、(2)家庭内の問題の分節化、(3)幼少期の逆境体験及びトラウマ体験に関するデータ収集、(4)女性のライフイベントに伴うリスクの評価、という課題が明らかにされた。東京都監察医務院より提供された既存事例の再検討から、女性の自殺既遂事例に関していくつかの臨床類型として整理され、リプロダクティブ・ヘルスや、結婚や家事労働等におけるジェンダー役割と密接に関わる女性の就労状況に関連した自殺のリスクおよび介入のポイントについて明らかにされた(松本班)。薬毒物による自殺、妊産褥婦死亡、若年層の自殺などが早急に調査するべき課題として上げられた。平成27年に東京都23区内で発生したすべての異状死13,425件のうち、病死以外の外因死及び不詳の死は4,252件であり、当院以外で司法解剖等に付された例を除くと、その内訳は災害死1,079件、自殺1,638件、その他1,131件であった。これらのうち、最も政策提言に有効な内容を抽出し、(1) 薬毒物による自殺、不慮の事故死、(2) 妊産褥婦死亡、(3) 若年者の自殺、(4) 異状死として取り扱われた生活困窮者の死因、(5) 防ぐことのできる死亡(熱中症、浴槽内死亡等)の調査結果の一部を監察医務院ホームページで公開した(福永班)。
結論
外因死の背景要因とその遺族への心のケアについて、現状の把握と課題の整理が行われた。今後は外因死の身体的・精神的・社会的背景要因を明らかにして、それらに対応した施策を講じる基盤整備および政策の実行し、その実施可能性の検討していく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2018-11-21
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201717028C

収支報告書

文献番号
201717028Z