外因死者遺族に対する効果的な心のケア実践システムの構築

文献情報

文献番号
201717027A
報告書区分
総括
研究課題名
外因死者遺族に対する効果的な心のケア実践システムの構築
課題番号
H28-精神-一般-006
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
一杉 正仁(国立大学法人 滋賀医科大学 医学部社会医学講座法医学部門)
研究分担者(所属機関)
  • 山田 尚登(国立大学法人 滋賀医科大学 医学部精神医学講座)
  • 辻本 哲士(滋賀県立精神保健福祉センター)
  • 反町 吉秀(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 自殺総合対策推進センター)
  • 澤口 聡子(国立保健医療科学院)
  • 吉永 和正(協和マリナホスピタル)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
5,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 外因死では、遺族の悲嘆反応が長期化し、外傷後ストレス症候群(PTSD)に至る例も多い。したがって、外因死者の遺族に対しては、死亡直後から関係者が遺族感情に十分配慮した対応を行う必要がある。また、家族の死亡から長期間経ても、悲嘆反応が長期的に遷延することがわかったので、心のケアは、家族の死の直後だけではなく、長期的に必要に応じて実践されるべきと考えた。2年目である本年度は、分担者がそれぞれの現場で実際に外因死者遺族へのケアを行うこと、また、そのための訓練等を実施すること、遺族と接する関係者への効果的教育を実施すること、およびケアの内容を吟味することなどを目的とした。
研究方法
1.遺族のための相談窓口開設と遺族へ必要なケアを長期的に実施できる体制の構築
 平成29年4月1日に心のケア相談窓口を開設し、法医実務に携わるスタッフ2名が相談に応需した。電話相談があった際には、相談を受けたスタッフがその問題点を理解し、県の精神保健福祉センターあるいは被害者対策支援センター等に連絡を行い、遺族が必要とするケアが受けられるようにした。
2.心のケアの質向上に向けた科学的検証
 遺族に対する心のケアの質向上を図るために、どのようなパラメーターを選択して評価すべきかについて、文献調査および既存報告書の追加解析を行った。
3.大規模災害死亡者遺族に対する急性期からの心のケア実践マニュアルの策定と訓練の実施
 大規模災害時の遺族対応に向けて、災害死亡者家族支援チーム(DMORT)の活動を標準化し、マニュアルを作成した。そして、これを訓練に活用し、どのような効果があり、何か課題かを検証した。
4.外因死者遺族の心情に配慮した対応の教育
 外因死遺族に対する心のケアに関する啓発・教育について、文献的検討を行った。さらに、死亡直後に遺族と接する医師、警察官、司法関係者に対して、遺族感情を考慮した接し方の教育と心のケアの重要性に関する啓発活動を行った。
結果と考察
結果
1.外因死者遺族に対する心のケア相談窓口の設置
 窓口への相談事例であるが、具体的な相談に至ったのは9件であり、そのほか2件では謝意を頂いた。精神保健福祉センターで心のケアを行ったのは5遺族であり、自死遺族が多かった。また、死体検案や法医解剖に携わる担当者、相談窓口担当者、心のケア担当者及びその他の支援担当者による連絡会を実施し、関係者の対応と連絡方法について関係者間でのpeer reviewが行われた。
2.心のケアの質向上に向けた科学的検証
 交通事故死者遺族に対する心のケアについては、身体面の困難に関する検討モデルが最も優れていた。そして、不眠、気力・意欲・関心喪失、体調悪化の3要因が、遺族の心身状態を把握するのに有用であることが分かった。
3.大規模災害犠牲者遺族に対する急性期からの心のケア実践マニュアルの策定と訓練の実施
 大規模災害による死亡者遺族の心のケアを標準化するために、「DMORT訓練マニュアル」を作成して公表した。大規模災害訓練の中で、ロールプレイは、特に有用であった。
4.外因死者遺族の心情に配慮した対応の教育
 滋賀県内の8郡市医師会、県警察、検察庁等で研修会を行い、遺族に対する説明の重要性、心のケアへの取り組み、そして相談窓口の運用について概説した。さらに、関係者が自己の研鑽を図ることを目的として開催されている滋賀県法医会において、理想的な対応方法について話し合った。

考察
 今回の大きな成果は、家族の死に直面した急性期から必要に応じて継続的に心のケアが受けられる体制が構築されたことである。関係機関が有機的に連携することで、必要な情報を共有できた。このように、いつでも相談できる窓口があることは、遺族の駆け込み場所になり、早急な対応が可能になる。さらに、日頃からの安心につながるものである。したがって、この相談窓口が継続的に運用されることが重要である。
 今回の取り組みは、県内における外因死者遺族に対して急性期からの心のケアを長期的に行うものであり、本邦で初の取り組みである。これについては新聞やテレビ等で紹介された。このような取り組みが周知され、その重要性が認識されるとともに、全国に拡大されることを願っている。
結論
 外因死者遺族に対して、早期から心のケアを行う体制を整備した。すなわち、死因究明の中核となる大学で相談窓口を設置し、地域精神保健福祉センターおよび被害者支援センターと有機的に連携した。このような取り組みは、外因死者遺族の精神的健康増進につながると考える。

公開日・更新日

公開日
2018-11-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-11-21
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201717027B
報告書区分
総合
研究課題名
外因死者遺族に対する効果的な心のケア実践システムの構築
課題番号
H28-精神-一般-006
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
一杉 正仁(国立大学法人 滋賀医科大学 医学部社会医学講座法医学部門)
研究分担者(所属機関)
  • 山田 尚登(国立大学法人 滋賀医科大学 医学部精神医学講座)
  • 辻本 哲士(滋賀県立精神保健福祉センター)
  • 反町 吉秀(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 自殺総合対策推進センター)
  • 澤口 聡子(国立保健医療科学院)
  • 吉永 和正(協和マリナホスピタル)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 外因死では、その事象が急激に起こることが多く、家族はこれを受容することが困難である。その結果、遺族の悲嘆反応が長期化し、外傷後ストレス症候群(PTSD)に至る例も多い。したがって、家族の死の直後から、長期的に必要に応じて遺族に対する心のケアが実践されるべきと考えた。
本研究では、遺族に対して必要に応じた心のケアを長期的に実施できる体制を構築した。
研究方法
1.遺族のための相談窓口開設と遺族へ必要なケアを長期的に実施できる体制の構築
 外因死者遺族が一元的に相談できる、「心のケア相談窓口」を設置し、平日の日中に応需できる体制を構築した。また、精神保健福祉センター及び犯罪被害者支援センターと連携してシームレスなケアが行える体制を構築して運用した。
2.心のケアの質向上に向けた科学的検証
 遺族に対する心のケアの質向上を図るために、どのようなパラメーターを選択して評価すべきかについて、文献調査および既存報告書の追加解析を行った。
3.大規模災害死亡者遺族に対する急性期からの心のケアの実践
 大規模災害時の遺族対応に向けて、災害死亡者家族支援チーム(DMORT)が遺族に対する心のケアを実践した。そして、その活動を標準化し、活動の普及や啓発を行った。さらに、現在の課題を検証し、今後の発展に必要な対策を明らかにした。
4.外因死者遺族の心情に配慮した対応の教育
 外因死者遺族に対する心のケア方法について、国内外の制度や先進的取り組みについて、文献的検討を行った。そして、死亡直後に遺族と接する医師、警察官、司法関係者に対して、遺族感情を考慮した接し方の教育と心のケアの重要性に関する啓発活動を行った。
結果と考察
結果
1.外因死者遺族に対する心のケア相談窓口の設置と遺族へ必要なケアを長期的に実施できる体制の構築
 外因死者遺族に対して、死因決定時に遺族に対する説明を行い、その際にパンフレット(「事件・事故、自死でご家族を亡くされた方へ 心のケア相談窓口」)を配布した。平成29年4月1日に心のケア相談窓口を開設し、専門的研修を受けた2名が平日の日中に対応できる体制を整えた。開設後、具体的な相談に至ったのは9件であり、2件では謝意を頂いた。
 前記窓口へ相談があった例については、担当者が精神保健福祉センターや犯罪被害者支援センターと連携することで、遺族を孤立させずにシームレスなケアが行えた。
 また、死体検案や法医解剖に携わる担当者、相談窓口担当者、心のケア担当者及びその他の支援担当者による連絡会を実施して、関係者の対応と連絡方法について関係者間でのpeer reviewが行われた。
2.心のケアの質向上に向けた科学的検証
 交通事故死者遺族に対する心のケアについては、身体面の困難に関する検討モデルが最も優れていることが分かった。そして、不眠、気力・意欲・関心喪失、体調悪化の3要因が、遺族の心身状態を把握するのに有用であることが分かった。
3.大規模災害犠牲者遺族に対する急性期からの心のケア実践マニュアルの策定と訓練の実施
 大規模災害による死亡者遺族の心のケアを標準化するために、「DMORT訓練マニュアル」を作成して公表した(H29年6月、日本集団災害医学会)。そして、防災訓練におけるロールプレイが特に有用であった。
4.外因死者遺族の心情に配慮した対応の教育
 滋賀県内の8郡市医師会、基幹病院、県警、検察庁などで研修会を行い、遺族に対する説明の重要性、心のケアへの取り組み、そして相談窓口の運用について概説した。

考察
 今回の大きな成果は、家族の死に直面した急性期から必要に応じて継続的に心のケアが受けられる体制が構築されたことである。心のケア相談窓口がワンストップとしての相談窓口の機能を果たすことができ、外因死者遺族に対する心のケアの具体的な支援体制のモデルとになることがわかった。
 このような取り組みが周知され、その重要性が認識されるとともに、全国に拡大されることを願っている。
結論
 外因死者遺族に対して、早期から心のケアを行う体制を整備した。すなわち、死因究明の中核となる大学で心のケア相談窓口を設置し、地域精神保健福祉センターおよび犯罪被害者支援センターと有機的に連携した。1年間の運用で、遺族からの相談例に対応でき、必要に応じた心のケアが実践された。また、平素から大規模災害発生時にも対応できるよう、関係者への教育と訓練を実施した。さらに、遺族と接する関係者の質向上を図るため、各領域で通年の研修会が開催された。このような取り組みは、地域社会における有機的連携の推進につながるとともに、外因死者遺族の精神的健康増進に貢献できると考える。

公開日・更新日

公開日
2018-11-21
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201717027C

成果

専門的・学術的観点からの成果
外因死では、その事象が急激に起こることが多く、家族はこれを受容することが困難であるので、遺族の悲嘆反応が長期化することが多い。犯罪被害者遺族や自死遺族に対しては、法で定められた遺族支援体制があるが、事故死遺族などでは、心のケアに関する公的なシステムに乏しい。今回は、死因究明や心のケアに関する行政諸機関や団体が連携して、外因死者遺族に対して急性期からの心のケアを長期的に行うシステムを構築して運用した、本邦で初の取り組みであり、専門的かつ学術的視点からも新規性が高い。
臨床的観点からの成果
心のケア相談窓口がワンストップとしての相談窓口の機能を果たすことができた。そして、心のケア相談窓口が精神保健福祉センター及び犯罪被害者支援センターと連携することでシームレスなケアが行える体制を構築した。誰かが遺族と寄り添い、決して遺族を孤立させない状況を構築できたことは、日頃からの安心につながると考える。さらに、精神保健福祉センターで専門的ケアを受けることで、医療へとつなぐこともできた。すなわち、遺族に対する長期的な精神的健康の維持に大きく貢献できた。
ガイドライン等の開発
大規模災害による死亡者の遺族に対して急性期から心のケアを行うべく、災害死亡者家族支援チーム(DMORT)の活動を標準化した。すなわち、「DMORT訓練マニュアル」を作成して公表し(H29年6月)、日本集団災害医学会のホームページ上に一般公開され、誰でも閲覧できる状態とした。そして、これに準拠して、様々な災害訓練においてロールプレイが行われるようにした。このロールプレイは、災害時の死亡者遺族と接する経験がない人にとっては特に有用であった。
その他行政的観点からの成果
内閣府が策定した死因究明等推進計画の中で、「遺族等に対する説明の促進」が明記された。これを受けて滋賀県では死因究明等推進協議会の中で遺族へのケアを進めることが明示された。今回の取り組みで、外因死者遺族に対して、死因決定時に遺族に対する説明を行い、その際にパンフレット(「事件・事故、自死でご家族を亡くされた方へ 心のケア相談窓口」)を配布すること、さらに、心のケア相談窓口にいつでもアクセスできる体制が構築されて滋賀県内で周知された。地域社会の行政や関連団体との有機的な連携体制が構築された。
その他のインパクト
外因死者遺族に対して急性期からの心のケアを長期的に行うものであり、本邦で初の取り組みである。これについては新聞やテレビで紹介されたほか、内閣府の死因究明等推進室からも高い評価を頂いた。さらに医療関係者を対象とした雑誌でも特集として紹介された。このような取り組みが周知されるにつれて、地域社会の行政や関連団体が、さらに関係者の教育や啓発を推進するようになり、行動変容にもつながった。今後も地域における有機的な連携体制を強その重要性が認識されるとともに、全国に拡大されることを願っている。

発表件数

原著論文(和文)
19件
原著論文(英文等)
9件
その他論文(和文)
7件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
29件
学会発表(国際学会等)
8件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
心のケア相談窓口の開設、県内死因究明体制への反映
その他成果(普及・啓発活動)
23件
死因究明等推進協議会、滋賀県法医会、医師会研修会、警察・検察講習会等で啓発

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
一杉正仁, 吉永和正, 高相真鈴, 他
大規模災害急性期における、遺族の心のケア実践訓練について
日本職業・災害医学会誌 , 66 (6) , 465-469  (2018)

公開日・更新日

公開日
2018-11-21
更新日
2024-03-18

収支報告書

文献番号
201717027Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,000,000円
(2)補助金確定額
6,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,807,327円
人件費・謝金 1,413,836円
旅費 702,967円
その他 176,185円
間接経費 900,000円
合計 6,000,315円

備考

備考
315円は自己負担

公開日・更新日

公開日
2018-11-21
更新日
-