医療材料などにおけるエンドクリン阻害物質に関する研究

文献情報

文献番号
199800626A
報告書区分
総括
研究課題名
医療材料などにおけるエンドクリン阻害物質に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 温重(昭和大学)
研究分担者(所属機関)
  • 江馬眞(国立医薬品食品衛生研究所大阪支所)
  • 本郷敏雄(東京医科歯科大学)
  • 蓜島由二(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 徳永裕司(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療材料等の中のエンドクリン阻害物質の量を把握し、その溶出量、経皮吸収量、曝露レベルにおける生体に対する作用を明確にすることは、医療材料等のリスク評価のために不可欠であるが、未だ明らかにされていない。そこで、1)エンドクリン阻害物質の1つフタル酸エステルの発生毒性 2)歯科材料中のエンドクリン阻害物質の1つと考えられるビスフェノールA (BA)の総含有量の計測、体液等への溶出量の計測 3)プラスチック製医療用具中のBAの分析と血清ほか溶媒への溶出量の計測 4)化粧品、医薬部外品中の分析としてBAの経皮吸収について検討し、医療材料等によるエンドクリン阻害物質の溶出規準作成やリスク評価の基礎を確立する。
研究方法
1)フタル酸エステルのジブチルフタレート(DBP)を0、0.5、1.0、2.0%添加した飼料で妊娠11日Wistarラットを飼育し、妊娠21日に胎仔の体重、外形および内臓奇形、生殖器―肛門間距離を調べた。2)市販歯科材料12種(フィッシャーシ-ラント、コンポジットレジン、ボンディング材の未重合体及び矯正用ブラケット)試料をメタノールで抽出しBA含有量を、また硬化体試料(径5mm、厚さ1mm)を7~169日間人工唾液中に浸漬し、BAの経時的溶出量を蛍光光度計装着高速液体クロマトグラフィー(HPLC)またはLS-MSで定量した。3)市販ポリカーボネートおよびポリスルホン製血液透析器4種の原材料、ハウジング単体、血液透析器RO充填水、血液透析器を無蛍光水250mlで16時間循環した水、前述と同様に16時間循環した血清の各試料中のBAをHPLC、GC-MS、LC-MS、NMRにより計測し、各種溶媒中への溶出量を求めた。また、用いた5種の分析法のバリデーションをFUMI理論によって行った。4)ハートレー系モルモットからの剥離皮膚をFranz型拡散セルに装着し、Fluxを計測し、BA経皮吸収及び吸収に及ぼす可溶化剤の10mMドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、10mM塩化ベンザルコニウム(BK)、0.5%ポリオキシエチレンオレイルエーテル(POE・OE)の影響を調べた。
結果と考察
1)DBPは、0.5%添加飼料の反覆投与では胎仔に異常を認めなかったが、2.0%飼料投与群でオス、メス胎仔の口蓋裂などの奇形発現頻度の上昇、また1.0%及び2.0%飼料群(平均摂取量555及び661mg/kg/day)でオス胎仔の精巣下降不全率の上昇、生殖器-肛門間距離の短縮が認められた。DBPはアンドロゲンにより調節される性分化を撹乱するか、またはDBPがアンドロゲンレセプターの拮抗剤として作用する可能性がある。フタル酸エステルは共通の作用機序で作用することが示唆されており、両物質の共通の代謝産物モノブチルフタレート(MbuP)が発生毒性の原因物質であることが示唆された。2)市販のBis-GMA含有歯科用フィッシャーシーラント、コンポジットレジン、ボンディング材の中にはBAが3.39±0.35~12.82±2.18ng/mg レジン検出された。またこれらの硬化体及びポリカーボネート製ブラケットを人工唾液中浸漬するとBAが微量溶出した溶出量は、フィッシャーシーラント14日 浸漬で0.19±0.05、コンポジットレジン21日浸漬で0.02±0.00~0.18±0.01、ブラケットでは7日浸漬で0.12 ±0.01mg/gレジンであった。これら試料中のBAの含有量、溶出量は製品より異なるが、いずれも極めて微量であり、Bis-GMA中の夾雑物に由来するものと考えられた。3)ポリカーボネート製血液透析器の原材料のBA含有量は4.2-7.2μg/g、ポリスルホン製血液透析器の原材料のBA含有量は、34.5μg/gであった。牛血清、無蛍光水等を溶媒とした血液透析器循環において、いずれの透析器からもBAが溶出した。溶出量は血清循環におい
て水循環より多量であった。250ml血清16時間循環におけるBA溶出量は140.7ng/個(567.2ppt)~2.09μg/個(8.35ppb)で製品によって異なっていた。溶出試験の基準化にあたっては使用する溶媒の選定が重要である。血液透析器からのBA溶出量のレベルでヒトの健康に重大な影響を与えるという報告はなく、また米国環境保護庁のBAの一日摂取許容量相当値は0.05mg/kg/dayと設定されており、現段階では血液透析器の使用を中止する必要はないと考えられる。4)BAのモルモット剥離皮膚を用いた経皮透過実験でFluxは平均3.7μg/cm2/hrである。BK及びPOE・OE処理した皮膚ではBAのFluxはそれぞれ1.6倍、1.2倍に増加した。BAは疎水性であり non polar pathway透過仮定されるが、BK、POE・OEはこの pathwayに影響することが示唆された。BAと可溶化剤とを共存させるとBAの透過性は低下した。BAの生体作用に対し可溶化剤が作用する可能性があることは注目すべきである。
結論
DBPはラットの母体に1.0%~2.0%添加飼料(555、661mg/kg投与に相当)を投与するとオス胎仔の生殖器発生に有害な作用を示す。BAを出発物質とする歯科材料、血清透析器にはBAが微量存在し、血清、人工唾液浸漬時微量溶出する。含有量、溶出量は製品によって異なる。BAはモルモット剥離皮膚を透過する。透過量は界面活性剤の共存によって増減する。これらの知見は、医療材料などにはエンドクリン阻害物質のBAが含まれており、体液中に溶出し、また、生体に吸収される可能があることを示唆しているが、含有量、溶出量は微量である。現在このレベルでは生体に対して毒性を示すという知見はなく、また1日摂取許容量以下である。エンドクリン阻害物質については微量であっても作用がある可能性があり、曝露レベルでの毒性について今後検討し結論を得ることが必要となる。

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