文献情報
文献番号
199800625A
報告書区分
総括
研究課題名
薬効成分を有する天然物ー生薬、漢方製剤ーの安全性に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
関田 節子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
- 渋谷淳(国立医薬品食品衛生研究所)
- 渡辺賢治(北里研究所東洋医学研究所)
- 岡希太郎(東京薬科大学)
- 荻原幸夫(名古屋市立大学)
- 栗原正明(国立医薬品食品衛生研究所)
- 最上知子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
漢方製剤は複合成分がそれぞれの組織の活性化を促し総合的な効果により病態を改善すると考えられており、作用が穏やかで一部を除いては比較的長期間投与される特徴がある。従って劇的な副作用は少ないものであるが、数種の処方薬により、間質性腎炎や間質性肺炎を引き起こす例が報告されている。
小柴胡湯による間質性肺炎については、平成8年に医薬安全局から緊急安全性情報が配布され注意喚起を促されているが、その後も因果関係不明なものを含めて100例以上の報告が寄せられ、平成9年に、使用上の注意の「警告」欄及び「重大な副作用」の項を具体的な記載に改訂し、一層の注意喚起が図られている。薬剤性間質性肺炎の発症機序に関してはアレルギー性のものと細胞傷害性のものがあると考えられているが、漢方製剤による薬剤性間質性肺炎はアレルギー性と推察されている。生体内の免疫系の恒常性は細胞性免疫を主るTh1細胞と液性免疫を 主るTh2細胞のバランスによって保たれていることから、これらのバランスの恒常性の崩壊と推定されるが、そのイニシエーターとなるものが依然として特定できず、作用機序は全く不明である。そこで、本研究では間質性肺炎発症のメカニズムをTh1/Th2バランス等の検討により解明する。さらに、漢方製剤は作用が広範囲であることから、最近は本来の目的とは異なった使い方をされ、欧米のみならず我が国でも痩身療法としての宣伝が目立っている。その弊害の一つとして、ベルギーでは、配合生薬の取り違いから強い作用を持つ生薬成分アリストロキア酸(AA)に起因する重篤な腎障害が発生し、chinese herbs nephropathy として注目を浴びている。国内でも生薬製剤による間質性腎炎が関西地方で報告され、日本薬局方記載の生薬とは異なる基原植物種が用いられていたためその成分のAA類の副作用が出現したものと指摘され、注意を喚起した。しかし、その後も個人輸入や外国旅行の際に購入した製剤による被害が続いている。これらの症状は不可逆的な場合があると報告されているが、AA類縁化合物については検討されていない。この様に類似あるいは同一の生薬名であっても基原植物の種が異なる場合があるため予想外の結果を招くことがある。また、アコニチンアルカロイドなど強い活性を示す生薬もある。従って生薬、漢方製剤の副作用の原因を明らかにし、正確な知識の普及を図ることは、副作用を回避する適正な投与規準が確立されると共に安全な薬剤としての品質基準を明確にする重要な成果をもたらす。このような観点から生薬及び漢方製剤の安全性を解明することを目的とする。
小柴胡湯による間質性肺炎については、平成8年に医薬安全局から緊急安全性情報が配布され注意喚起を促されているが、その後も因果関係不明なものを含めて100例以上の報告が寄せられ、平成9年に、使用上の注意の「警告」欄及び「重大な副作用」の項を具体的な記載に改訂し、一層の注意喚起が図られている。薬剤性間質性肺炎の発症機序に関してはアレルギー性のものと細胞傷害性のものがあると考えられているが、漢方製剤による薬剤性間質性肺炎はアレルギー性と推察されている。生体内の免疫系の恒常性は細胞性免疫を主るTh1細胞と液性免疫を 主るTh2細胞のバランスによって保たれていることから、これらのバランスの恒常性の崩壊と推定されるが、そのイニシエーターとなるものが依然として特定できず、作用機序は全く不明である。そこで、本研究では間質性肺炎発症のメカニズムをTh1/Th2バランス等の検討により解明する。さらに、漢方製剤は作用が広範囲であることから、最近は本来の目的とは異なった使い方をされ、欧米のみならず我が国でも痩身療法としての宣伝が目立っている。その弊害の一つとして、ベルギーでは、配合生薬の取り違いから強い作用を持つ生薬成分アリストロキア酸(AA)に起因する重篤な腎障害が発生し、chinese herbs nephropathy として注目を浴びている。国内でも生薬製剤による間質性腎炎が関西地方で報告され、日本薬局方記載の生薬とは異なる基原植物種が用いられていたためその成分のAA類の副作用が出現したものと指摘され、注意を喚起した。しかし、その後も個人輸入や外国旅行の際に購入した製剤による被害が続いている。これらの症状は不可逆的な場合があると報告されているが、AA類縁化合物については検討されていない。この様に類似あるいは同一の生薬名であっても基原植物の種が異なる場合があるため予想外の結果を招くことがある。また、アコニチンアルカロイドなど強い活性を示す生薬もある。従って生薬、漢方製剤の副作用の原因を明らかにし、正確な知識の普及を図ることは、副作用を回避する適正な投与規準が確立されると共に安全な薬剤としての品質基準を明確にする重要な成果をもたらす。このような観点から生薬及び漢方製剤の安全性を解明することを目的とする。
研究方法
半夏瀉心湯、小柴胡湯服用により間質性肺炎を発症した患者を対象に、胸部レントゲン写真を観察し、経気管支肺生検を行い、同時に一般的免疫の指標として、リンパ球サブポピュレーション(CD4/CD8、CD4/CD45RO、CD4/細胞内INF-γ)を セルソーターにて解析した。また、小柴胡湯ならびにその構成生薬・柴胡と黄ゴンを対象にDLSTを実施した。この例を含めて患者69名の発症に至るまでの記録をまとめ、服用期間と発現までの期間、合併症、副作用歴、アレルギー歴、臨床検査値等のデータ解析を行った。また、電気化学検出HPLCによりフラボノイド成分の一斉分析法を確立し、2名の被検者に小柴胡湯エキス剤5gを単回投与し、血中移行成分を分析した。得られたデータから吸収される化合物について、排泄速度-時間曲線を解析し、 腎排泄率、体内吸収量と排泄経路を考察した。一方、モデル実験系の確立を目的に、まず、小柴胡湯を作製し、エキス中に移行している成分をHPLCにより定量した。このエキスのインターフェロンーα高発現系であるC57BL/6マウスへの投与実験を行った。また、モノクロタリンによるマウス間質性肺炎誘発モデルを用いた間質性肺炎修飾作用を検索する実験を開始している。さらにこのモデルにインターフェロンーαを腹空内投与する予定である。アリストロキア酸とアリストロラクタムの基本骨格について分子軌道計算を行った。製造方法の異なる生薬(ブシ)4ロットとこの生薬を用いて作製した八味地黄丸4ロットについて、ベンゾイルアコニチン等6種のアコニチンアルカロイドを定量分析した。PPAR非依存の機構:ラット初代培養肝細胞を単離後、エタノールアミンを添加した培地またはメチオニンを欠く培地に移し、S-アデノシル-[3H]メチオニンのホスファチジルコリン(PC)への取り込み、あるいは培地に添加した[3H]エタノールアミンの細胞内(PC)
への取り込みを測定した。
への取り込みを測定した。
結果と考察
患者の経気管支肺生検3検体は肺胞領域で、リンパ球を主とした炎症性細胞の浸潤を認めた。DLSTでは検査対象とした小柴胡湯、柴胡、黄ゴンはいずれも陽性であった。末梢血中のCD4は高く、CD8は低値でCD4/CD8比は高値であった。CD4細胞中のCD45RO陽性メモリー細胞は低値であり、CD45RO陰性のナイーブ細胞は高値であった。CD4陽性細胞中の細胞内INF-γは、正常人の基準値(6.8±0.8%)に比し高値であった。漢方薬による間質性肺炎の発症は過敏性反応によるものと考えられておりIII型、IV型アレルギー反応が主体とされている。本例では、リンパ球サブポピュレーションの検討によりどの値もTh1細胞を主体とする細胞性免疫の亢進が示唆された。69名の患者の症例データでは、男性51名、女性18名、年齢は40代2名、50代17名、60代37名、70代12名、80代1名であった。使用理由は全員が肝炎等の肝疾患であった。また、GOT、GPT、ZTT等の臨床検査、ガス・肺機能等のデータをまとめた。フラボノイド成分(リクイリチゲニン、ダビディゲニン、オウゴニン、ジヒドロオウゴニン、オロキシリンA、ジヒドロオロキシリンA)の一斉分析法として、電気化学検出器によるHPLC法を検討した。カラム:ODS(UG120)4.6×250mm、温度:27℃、移動相:イソプロパノールー水ー酢酸(12:37:1)、流速0.8ml/min、検出波長279、275、295nm、カラム:ODS(UG)4.6×250mm、カラム温度:27℃、移動相:アセトニトリルー水ー酢酸(30:69:1)、流速1ml/min、で良好な結果を得た。この条件により測定したところ,アグリコンは2名の被検者のうち1名は投与後速やかに一過性の血中濃度上昇が認められ、一旦下降した後に再度上昇する2相性を示した。これは、生薬中でアグリコンおよび配糖体として存在していたフラボンが、服用後まず前者が速やかに吸収され、配糖体は腸内細菌で加水分解されアグリコンに変化してから穏やかに吸収されると考えれば説明できる。直接吸収される時の速度定数をk1とし、配糖体が加水分解を受けながらアグリコンとなって吸収される時をk2とし、2つの1次吸収をもつ2ーコンパートメントモデルを作成して解析すると、被検者の予測曲線は実測された血中濃度ー時間曲線とよく一致した。リクイリチゲニンは腸内細菌の作用によって更に代謝され、ダビディゲニンとなってからも吸収される。他方k1の小さい被検者はリクイリチゲニンの腸内存在時間が長いことを反映している。血中に移行するもう一つの成分グリチルレチン酸は、マウス腹腔内投与により各臓器の代謝酵素(11ーHSD)を阻害することによりコルチコステロンの代謝を抑制して血中濃度を高め、これが直接の原因となって胸腺細胞をアポトーシスに誘導することを明らかにした。作製した小柴胡湯のエキス中に移行している成分は定量分析によりサイコサポニンd:0.5%、バイカリン:19.7%、ジンセノシドRb1:0.5%、グリチルリチン3.6%、6ージンゲロール:0.4%であった。このエキスのインターフェロンーα高発現系であるC57BL/6マウスへの投与実験を行い、病理所見ならびに血中サイトカイン、リンフォカインを測定中である。また、モノクロタリン、インターフェロンーα によるモデル動物に及ぼす小柴胡湯の影響について実験を開始した。アリストロキア酸とアリストロラクタムの基本骨格について分子軌道計算とLUMOのエネルギー比較をし、還元反応へ与える計算値から有害性を考察した。ブシと、この生薬を用いて作製した八味地黄丸のアコニチンアルカロイドを定量分析したところ種類や加工法により含量差が認められた。今後,これを基に薬効や安全性への影響を検討する。培地の試薬を制御することで、PEメチル化活性に関わる細胞モデルを確立し、阻害剤bezafibrateの作用を測定した。
結論
生薬、漢方製剤の安全性に関して、間質性肺炎を発現する小柴胡湯について検討し、Th1型の細胞性免疫の亢進例を見出した。また、ステロイド抵抗性と肺線維症の関連が示唆された。また、服用後の血中成分の分析と動態を考察した。間質性腎炎を誘発するアリストロキア酸,アコニチンアルカロイド、血清脂質低下作用を示す薬物の安全性評価系
を確立した。
を確立した。
公開日・更新日
公開日
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