地域要因に基づいた在宅医療・介護連携推進に関する研究−汎用性の高い在宅医療・介護連携推進・ガイドラインの作成

文献情報

文献番号
201715002A
報告書区分
総括
研究課題名
地域要因に基づいた在宅医療・介護連携推進に関する研究−汎用性の高い在宅医療・介護連携推進・ガイドラインの作成
課題番号
H27-長寿-一般-002
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
葛谷 雅文(名古屋大学 未来社会創造機構)
研究分担者(所属機関)
  • 神崎 恒一(杏林大学医学部高齢医学)
  • 三浦 久幸(国立長寿医療研究センター在宅連携医療部)
  • 飯島 勝矢(東京大学高齢社会総合研究機構)
  • 鈴木 裕介(名古屋大学医学部附属病院地域連携・患者相談センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学政策研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
3,135,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
全体研究の主たる目的は、在宅医療介護連携推進事業の進捗状況と課題の把握、課題解決のための地域要因を考慮した提案にある。本年度は、前年度に引き続き連携の進捗を客観的に判断できる指標としての相談業務に着目し、全国の自治体の相談部署を対象にした縦断調査を実施、事業推進状況の把握と課題の抽出を行い、今後への提言を試みることとした。
研究方法
連携指標としての相談部署に関する全国自治体の実態調査(H28-29):過去の調査報告において在宅医療・介護連携推進事業の自治体担当者は進捗評価の物差しとして相談件数をあげる件数が最も多く、相談窓口業務のあり方が連携の進捗状況を反映する指標になりうると考え、全国自治体の事業相談窓口の実態調査を経年で2回実施した。調査対象は年齢別人口の現状および将来予測において1)2015年時点における75歳以上の高齢者比率が15%を超える自治体(すでに高齢化が進んでいる主に郡部の自治体 183か所)2)2015年~2025年までの75歳以上の増加率が60%を超える自治体(今後高齢の激増が予測される主に都市部およびその周辺自治体53か所)該当する236の自治体の在宅医療・介護連携推進事業担当者に調査票を送付し、窓口設置の有無、設置場所、担当者職種、相談件数、業務時間などの実態および相談内容等と地域性との関連性を比較し考察を行った。
結果と考察
連携指標としての相談部署に関する全国自治体の実態調査(H28-29との比較)
相談業務に関する調査に関しては以下の結果が得られた。
① 設置の有無:相談業務を担当する部署が未設置の自治体がいまだに存在するが、郡部では52%から25%まで低下し設置が1年である程度進んだと推察される(未設置が47%から28%に減少、特に郡部で未設置が52%から25%に減少した)都市部では業務委託31%から40%に増加が観察された。
② 設置部署:設置されている場合、地域包括支援センターでの兼務か医師会への業務委託が多数を占め役所に窓口を設置しているのは全体の1割強。
③ 人員の充足度:平均職員数は3名弱 看護師の常勤兼務がもっとも多かった。現状の人員の数については人員不足という回答は44%から23%へと減少したのに対して今後は増員必要という回答は36%から49%に増加し、傾向の逆転がみられた。
④ 望まれる職種:連携を担う人材として組織横断的に機能できる職種、医療ソーシャルワーカー等の配置を望む声が多かった。
⑤ 相談件数:相談件数は半年間の平均が都市部:380→91郡部:302→291で郡部では横ばいなのに対して都市部ではむしろ減少が観察された。
⑥ 相談方法:電話、訪問、来所が主な相談方法であることは変化を認めなかった。
⑦ 相談者:家族による相談は全体の比率としては減少傾向(42%から33%に減少)であったが、都市部に限ってはむしろ増加の傾向が観察された。(35%から44%に増加)。
⑧ 相談内容: H28からH29にかけてかかりつけ医紹介に関する問い合わせが8%→12%に増加したが特に都市部においては全体の問い合わせの39%~49%を占めた。郡部ではサービス資源に関する問い合わせが多数を占めた。
⑨ 相談内容(ア~クの達成項目別):事業の達成項目別に相談内容を分類すると、都市部では地域住民の啓発に関する問い合わせが多い(72%)のに対して郡部では退院支援に関する問い合わせが過半数(60%)を占める結果となった。
以上の結果から相談部署の設置は概ね進んではいるが相談内容には地域による差異があり、ニーズに対応した連携職種の配置が望まれる。都市部における相談内容にかかりつけ医紹介が多いことは、在宅医療を担う医師需要の増加と現状における都市部でのかかりつけ医機能について再考する余地を示唆する。今回の調査では、あらためて地域による医療・介護資源、行政と職能団体の関係性など地域個別の要因が事業推進に大きく影響を与えている可能性を確認する結果となった。相談業務においては、地域包括支援センターの相談窓口業務との差別化が郡部において課題として残ること、相談部門に関連職種や事業所間をつなぐ横断的な役割を担う機能を賦与する必要性が示唆された。
結論
多職種連携に関する指標において妥当性の検証が行われた報告はあるが、医療介護連携によって期待されるアウトカム指標を予測しうるかは未知数である。今後の研究により、当該事業の目的である医療介護の連携推進のためのベンチマークデータとして地域要因の類型化とそれに基づく連携推進のためのプロセス及びアウトカム指標の確立へと発展することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2018-06-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-06-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201715002B
報告書区分
総合
研究課題名
地域要因に基づいた在宅医療・介護連携推進に関する研究−汎用性の高い在宅医療・介護連携推進・ガイドラインの作成
課題番号
H27-長寿-一般-002
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
葛谷 雅文(名古屋大学 未来社会創造機構)
研究分担者(所属機関)
  • 神崎 恒一(杏林大学医学部高齢医学)
  • 三浦 久幸(国立長寿医療研究センター在宅連携医療部)
  • 飯島 勝矢(東京大学高齢社会総合研究機構)
  • 鈴木 裕介(名古屋大学医学部附属病院地域連携・患者相談センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学政策研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の主たる目的は、全国で実施された在宅医療介護連携推進事業について、進捗状況と連携の現状の調査、分析を行い、地域ごとに連携推進に必要な課題についての考察を行うことである。また連携の進捗を客観的に判断できる指標の探索的な調査研究も施行し、事業推進状況の評価に資することを目的とした。
研究方法
① 自治体の在宅医療介護連携推進事業の担当者を対象にした事業の進捗状況および相談部署の現状に関する調査(H27-H29)
Ⅰ)事業の進捗と各職種との連携に関する調査(H27)
上記事業の担当者を対象に、関係各団体との連携の現状および事業において規定された実施項目の進捗率に関する調査を施行しその結果を分析した。
Ⅱ)連携指標としての相談業務に関する現状調査(H28-H29)
相談業務に関する調査を実施し結果の考察を行った。
② 地域ごとの医療介護連携推進に関する課題抽出のための調査(H27-H29)
Ⅰ)中山間地(愛知県東三河山間部)における事業推進の課題抽出(H27-H29)
平成27年度は事業の進捗状況の把握、平成28年度は当該地域の訪問看護ステーション看護師へのTime Studyを実施、H29年度は当該医療圏の事業推進コーディネーターの介入後の事業進捗状況を把握した。
Ⅱ)都市部(東京都三鷹市)における事業推進の課題抽出(H27-H29)
東京都三鷹市で開催された在宅医療委員会に参加、実績を調査し、推進の阻害要因について分析を行った(H27)。東京都53区市町村の事業進捗について分析を行った(H28)。在宅医療委員会ならびに在宅医療・介護連携推進協議会に参加し、実績を調査した(H29)。
Ⅲ)都市部(名古屋市)における事業推進の課題抽出(H27)
名古屋市中心部(名古屋市東区)の医療介護関係職種を中心に多職種が連携する上での阻害要因に関する意識調査を実施した(H27)。
③ 連携あるいは相談部署の担当職種の業務についての現状把握および役割の明確化のための該当職種を対象にしたTime Study(H27-H29)を実施した(H28)。フォーカスグループインタビュー、および個別インタビューを行った(H29)。
④ 連携の指標検索のための系統的レビュー(H29)
医療・介護連携について以下の4つのClinical Questionsをたてた上で、医学中央雑誌および過去の厚生労働省老人保健事業、海外の文献検索データベース(PubMed)の検索による系統的レビューを実施した。
結果と考察
① 全国の自治体の事業進捗・連携の状況把握(H27)
都市部においては関連職能団体との連携が必ずしも事業の推進につながっていない可能性が示唆された。背景として利用者およびサービス提供者の活動範囲が不特定であり、行政と関連各団体との連携や情報共有が直接的な事業推進に必ずしも結びつかないことなどが考えられた。
② 連携指標としての相談部署に関する全国自治体の実態調査(H28-29)
相談部署設置が1年である程度進んだと推察される。都市部では経年的にかかりつけ医紹介、地域住民の啓発に関する相談が多いのに対して、郡部では退院調整に関する問い合わせが多い傾向が確認された。都市部における相談内容にかかりつけ医紹介が多いことは、在宅医療を担う医師需要の増加と現状における都市部のかかりつけ医機能について再考の余地を示唆する。
③ 自治体における相談部門の実態把握(H28-29)
Time Studyの結果を比較により共通した傾向として、電話による相談の時間は少なく会議の準備等の書類作成などに費やされる時間は多いことが明らかになった。
④ 連携の指標探索のための系統的レビュー(H29)
   CQに対する検索結果からは連携の指標(評価尺度)の提案と評価法としての統計学的妥当性の検証はされているが、医療介護連携におけるアウトカム指標の予測への有効性に関するエビデンスとしての確信性は不明と判断された。
結論
地域による医療・介護資源、行政と職能団体の関係性など地域個別の要因が事業推進に大きく影響を与えている可能性を確認する結果となった。相談業務においては、地域包括支援センターの相談窓口業務との差別化が課題として残ること、相談部門に職種や部署横断的な役割を担う機能を賦与する必要性が示唆された。都市部の相談内容にかかりつけ医紹介が多いことは、今後高齢者が急増する地域におけるかかりつけ医の役割再考を促す。多職種連携の指標の妥当性の検証が行われた報告はあるが、医療介護連携によって期待されるアウトカム指標を予測しうるかは未知数である。医療介護の連携推進を測るベンチマークデータとして地域要因の類型化とそれに基づくプロセス/ウトカム指標の確立が今後の研究において期待される。

公開日・更新日

公開日
2018-06-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201715002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
職種間・事業所間連携に関する系統的レビューの結果から、多職種連携指標の統計的妥当性の検証は確認されたが、連携によって期待されるアウトカム予測における指標の有用性の検証が行われていないことが明らかになった。医療介護の連携推進のためのベンチマークデータとして地域要因の類型化とそれに基づく連携推進のプロセス及びアウトカム指標の確立という当面の課題が本研究によって明確にされた。
臨床的観点からの成果
今後の地域医療における中核的テーマである「地域ニーズを反映した機能分化と連携」に関して本研究の知見は地域性の視点から重要な課題を提起したと考える。医療介護の連携推進に関する相談内容の分析から都市部においては在宅への取り組みを含むかかりつけ医機能の充実が課題であり、郡部においては病床間―病床・施設間連携システムを確立するために行政が積極的に関わっていく必要性が示唆された。
ガイドライン等の開発
当該研究のテーマは当初「医療と介護の連携推進に関して客観的な基準および指標を設けることによる比較を行い、提供されるサービスの質において地域格差の少ないシステム構築のための汎用性の高い在宅医療・介護連携推進・ガイドラインの作成」を目的に設定したが、初年度の研究発表における議論や指摘を踏まえて、連携推進に必要な課題の抽出および連携指標の探索を目的に研究を実施した。
その他行政的観点からの成果
全国自治体の事業担当者を対象にした本研究の調査では、医療・介護資源、行政と職能団体の関係性など、地域個別の要因が事業推進に大きく影響を与えている可能性を確認した。相談業務においては、地域包括支援センターの相談窓口業務との差別化が郡部において課題として残ること、各地域のTime Studyや調査の回答内容から相談部門に関連職種や事業所間をつなぐ横断的な役割を担う機能を賦与する必要性が示唆された.
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
19件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
31件
学会発表(国際学会等)
13件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kumiko Nagai, Hitomi Koshiba,Koichi Kozaki et al.
Correlation between the serum eicosapentanoic acid-to-arachidonic acid ratio and the severity of cerebral white matter hyperintensities in older adults with memory disorder.
Geriatr Gerontol Int , 15 (Suppl. 1) , 48-52  (2015)
原著論文2
Sakakibara M, Suzuki Y, Kamei H, et al.
Expertise of pharmacists expected in the framework of long-term care Insurance.
Geriatr Gerontol Int. , 15 (6) , 814-815  (2015)
原著論文3
Satake S, Senda K, Miura H,et al
Validity of the Kihon checklist for assessing frailty status.
Geriatr Gerontol Int. , 16 (6) , 709-715  (2016)
原著論文4
Miura H, Kizawa Y, Bito S,et al.
Benefits of the Japanese Version of the Advance Care Planning Facilitators Education Program.
Geriatr Gerontol Int. , 17 (2) , 350-352  (2017)
原著論文5
Senda K, Nishikawa M,and Miura H.
Asian collaboration to establish a provisional system to provide high-quality end-of-life care by promoting advance care planning for the elderly.
Geriatr Gerontol Int. , 17 (4) , :672-673  (2017)
原著論文6
Senda K, Satake S, Miura H
Letter to the Editor: Promotion of a proposal to incorporate advance care planning conversations into frailty prevention programs for frail older people.
J Frailty & Aging , 6 (2) , 113-114  (2017)
原著論文7
Kumiko Nagai,Hitomi Koshiba,Koichi Kozaki,et al.
Unsteady gait is a determinant for progression in frailty among the elderly.
Geriatr Gerontol Int. , 16 (5) ,  655-657  (2016)
原著論文8
Ohno T, Heshiki Y,Miura H.et al.
Comparison of oral assessment results between non-oral and oral Feeding: A preliminary study.
Journal of Gerontological Nursing. , 43 (4) , 23-28  (2017)

公開日・更新日

公開日
2018-06-05
更新日
2023-05-01

収支報告書

文献番号
201715002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,075,000円
(2)補助金確定額
4,075,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 501,959円
人件費・謝金 1,231,812円
旅費 982,163円
その他 419,253円
間接経費 940,000円
合計 4,075,187円

備考

備考
自己資金 187円

公開日・更新日

公開日
2018-06-05
更新日
-