リンパ球機能分子解析による免疫系評価法の検討

文献情報

文献番号
199800623A
報告書区分
総括
研究課題名
リンパ球機能分子解析による免疫系評価法の検討
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
奥村 康(順天堂大学)
研究分担者(所属機関)
  • 八木田英雄(順天堂大学)
  • 小端哲二(順天堂大学)
  • 中野裕康(順天堂大学)
  • 竹田和由(順天堂大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
炎症や細胞増殖あるいは細胞死などの生体応答に関与しているtumor necrosis factor receptor (TNFR)ファミリーを介するNF-kBやc-Jun N-terminal kinase (JNK)の活性化のメカニズムを明らかする。これらのレセプターを介するシグナルをどの分子レベルでブロックするのが炎症や自己免疫疾患の治療上有効かを検討する。さらにそれらのシグナル伝達分子の機能をブロックするような薬剤の開発を最終目標とする。また最近、遺伝子クローニングされたTNF-related apotosis-inducing ligand (TRAIL)のモノクローナル抗体を作製し、この分子の生体における役割を明らかにし、この分子の機能をブロックしたり、あるいは積極的にある種の癌細胞に遺伝子導入することで、種々の疾患への治療の方向性を検討する。
研究方法
我々はこれまで炎症や細胞増殖などに深くかかわっているTNFRファミリーを介するNF-kBの活性化のメカニズムについて解析してきた。特に我々は、これらのレセプターの下流に存在するシグナル伝達分子の一つである TNFR associated-factor (TRAF)- 5の遺伝子のクローニングを世界に先駆けて行い、TRAF5がCD30やlymphotoxin-βレセプター(LT-βR)を介するNF-kBの活性化に関与していることを明らかにしてきた。そこで今回我々同じTNFRファミリーに属し、T細胞に補助シグナルを導入することや、B細胞の抗体産生を増強する作用の知られているCD27という分子が、他のTNFRファミリーと同様にTRAFファミリー分子を介してNF-kBおよびJNKを活性化しているかを検討する。
1) TNFRファミリーに属するCD27がNF-kBを活性化するかどうかを、CD27をヒト胎児腎臓由来である293細胞に過剰発現させ、ゲルシフトアッセイおよびレポーターアッセイにより検討する。
2) CD27とTRAFファミリー分子との会合を293細胞に同時に発現させることにより検討する。
3) TRAF2やTRAF5のN末のZn結合領域を欠失させた不活性変異体をCD27と同時に発現させることで、CD27を介するNF-kBの活性化がブロックされるかどうかを検討する。
4) TRAFファミリーはNF-kBを活性化する他に、JNKの経路も活性化することが示されているがその分子メカニズムについては詳細は明らかにされていない。そこでJNKを活性化することが示されているMAPKKKに属するApoptosis signal-regulating kinase (ASK)-1がTRAFを介するJNKの活性化に関与しているかどうかを、まず
5) TRAFをASK1と同時に発現させることでASK1の活性化が起こるかをin vitro kinase assay (IVK)により検討する。
6) ASK1とTRAFが会合するかどうかを293細胞に同時に発現させることにより検討する。
7) TRAFを介するJNKの活性化がASK1の不活性型によりブロックされるかどうかをIVKにより検討する。
また最近、ある種の腫瘍細胞にアポトーシスを誘導するTRAILと呼ばれる分子がクローニングされたが、この分子の生体内における役割はほとんど明らかにされていない。そこで
8) リコンビナントヒトTRAILを大量に産生するために、N末に存在する膜貫通領域を除く形で酵母の発現ベクターにTRAIL遺伝子を組み込み、酵母に遺伝子導入する。 遺伝子導入した酵母を大量培養し、種々のカラムにより活性型TRAILを精製する。
9) リコンビナントヒトTRAILをマウスに免疫し, TRAIL感受性細胞であるJurkat細胞に対するTRAILのkillingの中和活性を指標にハイブリドーマをスクリーニングし、ヒトTRAILに対するモノクローナル抗体を得る。
10) この抗体を使用し、種々のヒトの細胞におけるTRAILの発現をフローサイトメトリーにより検討する。
11) TRAILの発現の認められた細胞については、TRAIL感受性細胞に対し細胞障害活性を示すかどうかをクロミウム遊離法により検討する。
結果と考察
ゲルシフトアッセイおよびレポーターアッセイの結果からCD27を過剰発現させることでNF-kBの活性化がもたらされることが明らかとなった。TRAFファミリー分子との会合を検討した結果、CD27はTRAF2およびTRAF5と会合することが明らかとなった。さらにTRAF2およびTRAF5のN末のZn結合領域を欠失させた不活性型変異体をCD27と同時に発現させることにより、CD27を介するNF-kBの活性化がブロックされたことから、CD27を介するNF-kBの活性化はTRAF2およびTRAF5によって担われていることが明らかとなった。これらの結果はTNFRファミリーを介するNF-kB活性化におけるTRAFファミリー分子の重要性および普遍性を明らかにしたことになった。
一方TNFRファミリーやTRAFファミリー分子はNF-kBの活性化以外に JNKを活性化することが示されていたが、その詳細なメカニズムについては不明であった。今回我々はTRAFファミリーに属するTRAF2, -5, -6がASK1と直接会合して、ASK1を活性化することを明らかにした。さらに不活性型のASK1をTRAF2と同時に発現させることによりTRAF2を介するJNKの活性化がブロックされたことより、TRAF2を介するJNKの活性化にASK1は必須の分子であることが明らかとなった。これらの研究から、NF-kBの活性化は NF-kB-inducing kinase(NIK)-IkB kinase(IKK)という経路に対し、JNKの活性化は ASK1によっていることが明らかとなった。
ヒトTRAILに対するモノクローナル抗体の作製を行った。この抗体はリコンビナントTRAILによる標的細胞に対する細胞障害活性を強く抑制した。またこの抗体を用いた解析からTRAILはヒトCD4陽性のT細胞クローン上に刺激の有無にかかわらず恒常的に発現しており、TRAIL感受性の標的細胞にアポトーシスを誘導することが明らかとなった。この研究により、これまで考えられてきたパーフォリン、FasL以外の第三の標的細胞破壊のメカニズムが明らかとなった。さらにヒト正常末梢血Tリンパ球においてもIFNaによりTRAILの発現が誘導され、IFNaで刺激されたT細胞は数種類の腎癌細胞株にTRAILを介して効率よくアポトーシスを誘導することが明らかとなった。このことは、腎癌におけるIFNa治療の新たな作用機序を明らかにすることとなった。
結論
TNF-Rファミリーを介するNF-kBやJNKの活性化に関与する複数の分子の存在が明らかとなり、炎症の治療という観点からTRAF, NIK, ASK1, IKKなどの分子をターッゲトとした薬剤の開発の可能性が考えられた。
またTRAILは腫瘍細胞に対してアポトーシスを誘導するが、正常細胞に対してアポトーシスを誘導しないとの報告があり、TRAIL遺伝子を組み込んだアデノウイルベクターを投与することにより癌の遺伝子治療への発展が考えられる。またTRAILはAIDS発症時に生ずるT細胞の減少にも関与しているとの報告があり、TRAILに対する中和抗体を投与することによりT細胞減少を抑制できる可能性がある。

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