28日間反復投与試験等に関する調査研究(OECDテストガイドライン国際共同バージョンプロジェクト)

文献情報

文献番号
199800618A
報告書区分
総括
研究課題名
28日間反復投与試験等に関する調査研究(OECDテストガイドライン国際共同バージョンプロジェクト)
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
広瀬 雅雄(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 井上 達(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
229,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
OECDは従来より化学物質の安全性評価のための各種テストガイドラインを定めてきたが、内分泌かく乱化学物質問題に対応すべく協議がなされた。その際、内分泌かく乱化学物質の生体への障害性の発現機構の主たるのものが、ホルモン受容体を介した作用であるという認識が深まるにつれ、従来のOECD生物試験法で、そのような作用の物質のスクリーニングおよび評価が可能であるか否かの見直しが行われることとなった。その中で、in vivo試験法として3つの方法が取り上げられた。第1は従来より行われてきたTG407(28日間反復投与毒性試験)について、その内分泌学的補強により内分泌かく乱化学物質の有害作用の効果的な検出が可能となるか否かを検討すること、第2、第3は新しくOECDガイドラインに加えるものとして、子宮肥大試験およびハーシュバーガー試験を検討することであった。日(子宮肥大試験)、米(ハーシュバーガー試験)、欧(TG407 enhanced)がそれぞれのリードラボを分担することとなり、日本ではそれぞれに対応すべくここに報告する研究班が設置された。TG407 enhancedは広瀬班長、子宮肥大試験およびハーシュバーガー試験は井上班員および子宮重量等を指標とした生体試験による相加相乗効果の検討を菅野班員が分担することとした。
研究方法
enhanced TG407試験法では7週齢のCrj:CD (SD)IGS系ラット雌雄各80匹を1群10匹の各8群に分け、Flutamideはコーン油に混じて4、1、0.25、0mg/kg(対照群)、MTもコーン油に混じ80、20、5、0mg/kg体重の用量で強制経口投与した。雄は投与回数を28回とし、最終投与の翌日に全生存動物を屠殺した。雌は膣スメア法にて性周期を観察し、28回投与の翌日から4日の間で発情静止期に相当する日に屠殺、或いは性周期の異常を認めた場合は28回投与の翌日に屠殺し、いずれも屠殺前日まで投与を継続することとした。主な検査項目として、性周期観察の他、体重、臓器重量、血液、血清生化学、血清ホルモン、精子および病理組織学的検査を行った。
子宮肥大試験では離乳直後の未熟雌ラット(21日齢)あるいは、卵巣摘出成熟雌ラットあるいはマウスを用い、エストラジオール、ゲニステイン、ビスフェノールAなどの投与に対する子宮重量、細胞増殖(BrdUラベリング)、膣開口、膣擦過細胞像等を指標とした変化を観察し、子宮肥大試験のプロトコール作成に必要な基礎データを収集した。
相加相乗効果の検討では、卵巣摘出成熟雌ラットを用いた14日間皮下投与実験法および21日齢未熟雌ラットを用いた3日間皮下投与実験法による子宮肥大試験、去勢成熟雄ラットを用いた14日間皮下投与ハーシュバーガー試験法、および一世代繁殖試験法を用い複合投与による影響を検討する。前3者は、単体2用量、複合2用量および対照群の7群構成であり、後者の一世代試験は単体1用量、複合1用量および対照群の4群構成で行った。検討する物質の組み合わせは、エストロゲン受容体を介するもの同士、エストロゲン受容体を介するものとPPAR受容体を介すると思われるものの組み合わせ、エストロゲン受容体を介するものとダイオキシン受容体を介するものの組み合わせ(子宮肥大試験および一世代試験)、エストロゲン受容体を介するものとアンドロゲン受容体を介するものの組み合わせ(ハーシュバーガー試験)とした。
結果と考察
enhancedTG407では雌の性周期は80mg/kgMT投与群では正常の周期は全く観察されなかった。血中ホルモンレベルは、4mg/kgFlutamideを投与した雄では、対照群に比べ、テストステロンとエストラジオールの増加が統計学的有意に認められた。MT投与群では雌の最高用量でFSHが有意に高かった。精子検査、血液、血清生化学検査では、すべての投与群とも明らかな異常は認められなかった。臓器重量は、4mg/kgFlutamide投与群で精巣上体の絶対重量と性嚢の絶対重量及び相対重量の減少、1mg/kg投与群で精巣上体の絶対重量と相対重量の減少が有意に認められた。80mg/kgMT投与群で精巣と精巣上体の絶対重量および相対重量の有意な減少が認められた。副腎と卵巣の絶対重量および相対重量は、全てのMT投与群で有意に減少した。また20mg/kg投与群の子宮の絶対重量および相対重量では有意な減少が認められた。病理組織学的検査では、雄で乳腺小葉の萎縮が4及び1mg/kg投与群で認められた。 Flutamide4mg/kg投与群で精上皮細胞の定量的解析の結果、ステージIX~XIのグループにおいて4mg/kg投与群のレプトテン期精母細胞数の有意な増加が認められた。MT投与群では精細管の萎縮、ライディッヒ細胞の萎縮、パキテン期精母細胞の変性、精巣上体管内の変性細胞の増加がいずれも80mg/kg投与群で有意に増加した。雌では卵巣の多のう胞性卵胞が全てのMT投与群で有意に増加した。子宮では内腔拡張および子宮腺細胞の空胞変性が80mg/kg投与群で有意に増加した。膣では上皮の粘液状変化が80mg/kg投与群で全例に認められた。乳腺では乳管の過形成が20mg/kg以上投与群で認められた。また、副腎皮質網状帯細胞の軽度の萎縮が20mg/kg以上の投与群で認められた。以上の実験結果から、Flutamide、MTとも臓器重量、スメア検査を含む病理組織学的所見がホルモンの影響を反映しており、臓器重量の変化と病理組織学的所見はよく一致していた。中でも精子形成サイクルを考慮した精上皮細胞の定量的解析は有効と考えられた。一方、精子数、運動性、形態などの精子検査は、組織所見さらにホルモンの影響を鋭敏に反映する指標とはならないことも今回の試験で明らかとなった。ガイドライン案では高用量を毒性が発現される用量、低用量を無影響量で行う決められている。本試験では高用量をホルモン作用が発現される用量で設定したが、MT投与群では低用量でもなおホルモン作用を疑がう変化が発現しており、無影響量を決定することができなかった。従って、強いホルモン様作用を有する物質で無影響量を設定する場合には、公比を4以上に上げるか、あるいは3用量以上を設ける必要があることも示唆された。
未熟ラットを用いた子宮肥大試験に関する基礎的実験では21日齢雌ラットに種々の量のエストラジオールを3日、7日あるいは14日間皮下投与し、子宮重量、膣開口、組織像について検討した。その結果、7日間以上の投与では、子宮重量増加に用量依存性が認められなくなることが示された。これは、組織学的に卵巣における黄体発現(性周期の開始)と一致しており、卵巣からのエストロゲン分泌により、外来性の微量エストラジオールの作用がかき消されたものと解釈された。また、膣開口日が用量依存的に早くなることも確認されたが、その検出感度は子宮重量増加のそれよりも悪く、また、投与開始後10日前後まで観察をする必要があることから、3日目での子宮重量測定を行う場合には膣開口を見ることに意味がないことが示された。
卵巣摘出ラットおよびマウスを用いた子宮肥大試験に関する基礎的試験では卵巣摘出ラットあるいはマウスに3日、7日あるいは14日間、種々の量のエストラジオールを皮下投与し、子宮重量増加、組織像、細胞増殖像(BrdU標識)、含水量(蛋白量)、等の測定を行った。その結果、感度は長期投与により増加すること、高用量では浮腫が先行するとともに、増殖部位が子宮内膜上皮、子宮腺上皮、ついで間質細胞に移ること、低用量では、細胞増殖が全体的に徐々に増加すること、未熟ラットを用いた場合よりも子宮重量データのばらつきが少ないこと等が示された。
ハーシュバーガー試験では3週令および6週令の雄SDラットを去勢後7日目より種々の容量のテストステロンプロピオネートおよび一定量のフルタミドを皮下投与し、前立腺腹側葉、性嚢腺凝固腺、球海綿体筋、精巣上体の重量変化を観察した。その結果、テストステロンの容量に相関した上記標的臓器の重量増加と、そのフルタミドによる阻害効果が確認された。また、身体の大きい6週令動物を用いた方が、手技的に扱いが容易で、結果としてホルモン作用の検出感度が良好であることが示された。 相加、相乗作用の検討では、一部の子宮肥大試験、およびハーシュバーガー試験の生データを徐々に得ている段階である。限定的な判断であるが、試験系の違いにより反応の差異、相加的、相乗的あるいは相殺的な作用が示唆される結果が集積されつつある。
結論
"OECD Test Guideline 407 enhanced"案の有用性を検証する目的で、FlutamideおよびMethyltestosterone(MT)を用いて28日間反復投与試験を行った。その結果、臓器重量、病理組織学的所見がホルモン作用を検出する有効な指標であり、なかでも精子形成サイクルを考慮した精上皮の定量的解析がすぐれた指標になり得ると考えられた。一方、用量設定基準、設定方法、更に感度の良い検査項目の追加や不要な検査項目の削除、など更なる検討が必要であると思われた。また、本研究にて得られた科学的知見によりOECDでの子宮肥大試験のプロトコール制定に対する論議が促進され、結果として現段階で一つのプロトコールを制定するのは時期尚早であること、どの様なプロトコールが考えられ、そのうちのどれがプレバリデーションの対象となるかを決定する上で、大きな科学的役割を果たしたと考えられる。また、その結果として、日本がOECD子宮肥大試験のリードラボとなったと考えられる。

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