驚愕病の疫学、臨床的特徴、診断および治療指針に関する研究

文献情報

文献番号
201711057A
報告書区分
総括
研究課題名
驚愕病の疫学、臨床的特徴、診断および治療指針に関する研究
課題番号
H29-難治等(難)-一般-006
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
竹谷 健(国立大学法人 島根大学 医学部 小児科学)
研究分担者(所属機関)
  • 美根 潤(国立大学法人 島根大学 医学部 小児科学)
  • 山口 修平(国立大学法人 島根大学 医学部 神経内科学)
  • 堀口 淳(国立大学法人 島根大学 医学部 精神神経医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
1,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
驚愕病(Hyperekplexia)は、新生児期より筋硬直を認め、音などの刺激により過剰な驚愕反応を示す疾患である。血液検査・画像検査・生理検査で特異的な異常を認めないため、てんかんやミオパチーなどと診断される。年齢とともに筋硬直は消失するが驚愕反応は持続するため、成人期では不安障害やヒステリーと診断される場合もある。さらに、過度な驚愕反応による呼吸停止や転倒などにより致死的な経過をとることもある。病因は抑制性神経伝達経路であるグリシン作動性神経伝達系に関与する遺伝子異常である。しかし、疾患の認知度が低く、確定診断が遺伝子診断によるため、疾患の報告が極めて少ない。そのため、患者数、詳細な臨床像、有効な治療法、原因遺伝子異常と臨床像の関連については明らかではない。本研究の目的は、①医療従事者に本疾患の認知度を高めること、②迅速かつ正確な診断システムを確立すること、③治療および生活指導の質的向上、 ④患者のQOLおよび予後の改善である。
研究方法
1. 疫学調査:全国の小児科、神経内科、精神科の1394医療機関施設への疫学調査を行った。
2. 遺伝子検査:驚愕病が疑われた患者とその家族に対して、グリシン作動性神経伝達に関与する遺伝子である、GLRA1遺伝子、GLRB遺伝子、SLC6A5遺伝子、SLC6A9遺伝子、SLC32A1遺伝子検査を行う。
3. 診断基準(案)の作成:疫学調査および国内外の文献から驚愕病の概要を作成して、診断基準(案)を作成した。
結果と考察
1. 疫学調査:今回の疫学調査では小児17例、成人6例の合計23例の患者について遺伝子検査を含めた詳細な臨床像を検討できた。10例(43%)で家族内発症が認められた。すべての症例は、生直後に筋硬直および過度の驚愕反応が出現していた。確定診断された年齢は、中央値は1歳であるが、8例(35%)は学童期から成人期であった。てんかんと診断されていた症例は、23例中7例(30%)であった。臍ヘルニアは12例、新生児期の無呼吸は4例で認めた。
2. 遺伝子検査:10人の患者およびその家族の遺伝子検査を行った。遺伝子異常が認められたのは2例であった。いずれも、GLRA1遺伝子変異c.896 G>A (p.R 299 Q)が認められた。他の8人に変異はなかった。
3. 診断基準(案)の作成:
(1)概念、定義:驚愕病(Hyperekplexia)は、グリシン作動性神経伝達に関与する遺伝子異常により、抑制性シナプス機能が障害されることによって発症するまれな疾患である。新生児期から、刺激による過度な驚愕反応と全身の筋硬直が起こる。筋硬直は乳幼児期に消失するが、驚愕反応は成人になっても持続する場合が多い。無呼吸発作、発達遅滞、てんかん、腹部ヘルニアなどを合併することがある。血液検査、頭部画像検査等の一般検査では特異的な異常を認めず、精神神経疾患および筋疾患などとの鑑別には遺伝子検査が有用である。症状の改善には、クロナゼパムが有効である。
(2)病因:抑制性シナプスであるグリシン作動性神経伝達に関与する遺伝子異常
(3)診断と鑑別診断
1)診断:①新生児期の全身性の筋硬直、②刺激に対する過度の驚愕反応、③驚愕反応の直後に起こる一時的な筋硬直を認める。合併症として、無呼吸発作、腹部ヘルニア(臍ヘルニア、鼠径ヘルニア)、股関節脱臼運動発達遅滞、言語獲得の遅れ、てんかん、学習障害、傷害を伴う転倒などを認める。Nose tapping test陽性。一般的に、血液検査、尿検査、頭部CTおよびMRI、脳波、神経伝導速度を含めた電気生理学検査で特異的所見を認めない。
2)鑑別診断
生理的な振戦やミオクローヌスから、驚愕反射てんかん等鑑別疾患が多い。驚愕病の確定診断には遺伝子解析が有用である。
(4)治療と予後
1) 治療
ベンゾジアゼピン系薬剤である、クロナゼパムが有効であることが多い。
2) 予後
突然死の報告もあるが、一般的に生命予後には影響しない。しかし、驚愕反応に引き続いて起こる重篤な合併症(頭部外傷、骨折など)の危険がある。知能は正常と言われていたが、最近の研究で知的障害や発達遅滞を伴う場合があることがわかってきたため、注意が必要である。
結論
今後、医療機関以外への啓発、遺伝子検査体制およびレジストリの構築、診断基準やガイドラインの関連学会の承認を経て、医療従事者が本疾患を認知し、迅速かつ正確に診断し、適切な治療および指導を行うことによって、の利益に貢献したい。

公開日・更新日

公開日
2018-06-12
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-05-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201711057Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
1,950,000円
(2)補助金確定額
1,950,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 681,856円
人件費・謝金 267,294円
旅費 493,850円
その他 57,000円
間接経費 450,000円
合計 1,950,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2019-02-14
更新日
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