沖縄型神経原性筋萎縮症の介入研究基盤としての重症度分類作成

文献情報

文献番号
201711056A
報告書区分
総括
研究課題名
沖縄型神経原性筋萎縮症の介入研究基盤としての重症度分類作成
課題番号
H29-難治等(難)-一般-005
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
諏訪園 秀吾(独立行政法人国立病院機構沖縄病院 神経内科)
研究分担者(所属機関)
  • 高嶋 博(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科神経病学講座)
  • 中川 正法(京都府立医科大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
沖縄型神経原性筋萎縮症(HMSNOまたはHMSN-P, OMIM # 604484)は常染色体優性遺伝形式をとり、臨床症状としては筋萎縮性側索硬化症(ALS)や脊髄性筋萎縮症やシャルコー・マリー・トゥース病に似た側面を持ち、沖縄県や関西地方で発症が報告されているが症例数は多く見積もっても全国で150例程度と推測される希少疾患であり、原因遺伝子とされるもの(TRK-fused gene (TFG), p.Pro 285 Leu mutation)は報告されているが詳細な発病メカニズムは不明で治療法については定まったものがない。その経過は緩徐進行性で晩期には寝たきりで気管切開・人工呼吸器管理となりうるため、神経難病としての特質を備えているともいえる。この疾患の位置づけをどのようにとらえ、どのような枠組みで臨床研究を組んでどのように治療方法を探っていくべきかは、ひとえに、本疾患がどのような自然史を特徴とし、他疾患と区別されるか否かを検討することがスタート地点となる。このような問題認識に基づいて、本研究ではなるべく多数の症例からなる自然史を明らかにすることで、本疾患の発症や病勢進行の特徴を明らかにすることを目的とした。
研究方法
対象:当院にて1980年以降HMSN-Pとして診療された130名を超える患者の中で、詳細な診療記録が確認できた97名において、診療録の情報から臨床経過を後方視的に評価した。その評価項目は次のとおりである:初診時年齢、有痛性筋痙攣・上下肢筋力・感覚・起立・歩行・嚥下・呼吸について障害開始年齢、死亡年齢、初診時クレアチンキナーゼ(CK)値、TFG遺伝子変異の有無。
解析方法:それぞれの障害を初めて認めた年齢を5年ごとでまとめ、全経過において症状を認めた患者数から割合を出してグラフを作成した(結果①)。50歳以降の特に進行期において、呼吸障害、気管切開、嚥下障害、経管栄養、死亡について確認できた各症例の障害年齢をグラフ化して進行の経過を検討した(結果②)。
結果と考察
結果① 各症状は発症率が年齢に応じて増加しS字状のカーブを呈して緩やかに増えていた。最も先に現れる症状は有痛性筋痙攣で30歳代後半でほぼ90%近くの発症率に達する。その次に現れるのは上肢脱力で40歳代後半にはほぼ90%の発症率であった。その次は下肢脱力、感覚障害、自力起立不能、歩行不能となっていた。これらの症状は50歳となるまでにほぼ出現し、最も遅い症状である歩行不能が50歳台前半で約40%であった。ここまでの症状についての発症率の曲線は、お互いに近づくことはあっても先に立ち上がった症状が後に立ち上がった症状を追い越すことはなかった。しかし50歳を過ぎると、経管栄養や気管切開、さらに死亡といったイベントが起こり、これらの発生率は交錯し症例により大きな変動がある。
結果② 前述のように50歳代以降で症状の進行について症例間の変動が大きいことが判明したので、時間軸を拡大し10数例について詳細な経過を検討したが、やはり一定の傾向はみられず、様々な要因が経過に関与している可能性が示唆された。逆に言うと、このステージにおいて観察と管理を十全に行えば、全体としての経過の改善がもたらされる可能性がある。
考察:本研究は97例の詳細な診療録の精査を行うことにより、世界で初めて、本疾患の詳細な自然史を明らかにした。極めて驚くべきことに、50歳までは非常に均一な進行過程をたどる(結果①)。これは本疾患が単一遺伝子異常によるとする作業仮説に矛盾しない。このような状況は他の神経変性が原因とされる疾患、たとえば筋萎縮性側索硬化症やパーキンソン病やアルツハイマー病ではあまり経験されない(一つの疾患の中で多様な“病型”が存在し、初発症状も進展様式も症例により様々に異なる)。したがって、本症は神経変性を遺伝子異常において治療介入する際のモデルを提供しうる。多方面からの治療介入の参画が望まれるところである。
他方で、50歳以降では症例により経過が多彩であることが新たに判明した。経管栄養や積極的呼吸管理を導入するかなどといった様々な要因が影響しているものと考えられる。「この年代になったら要注意」という事実が患者へ直接フィードバックできる。これまでは、患者は自分の身近な親戚の進行状況からしか予後推測はできなかった。今後はこの結果に基づき、(本人と家族の希望があれば)積極的介入により生命予後が改善できる可能性もあることを明確に説明できる。
結論
本疾患の多数例による自然史が初めて明らかとなった。神経変性を基盤とする他疾患にはあまりみられない経過の均一性は単一遺伝子異常を原因とする作業仮説に矛盾しない。神経変性疾患において治療介入研究を計画する際に、本症がモデルとなりうる可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2018-06-13
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201711056Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
1,200,000円
(2)補助金確定額
809,000円
差引額 [(1)-(2)]
391,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 574,884円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 34,405円
間接経費 200,000円
合計 809,289円

備考

備考
来年度に繰越しとした

公開日・更新日

公開日
2019-04-09
更新日
-