成人の骨系統疾患患者のQOLに関する研究

文献情報

文献番号
201711041A
報告書区分
総括
研究課題名
成人の骨系統疾患患者のQOLに関する研究
課題番号
H28-難治等(難)-一般-026
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
鬼頭 浩史(名古屋大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 大薗 惠一(大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 芳賀 信彦(東京大学 医学部附属病院)
  • 三島 健一(名古屋大学 大学院医学系研究科)
  • 松下 雅樹(名古屋大学 医学部附属病院)
  • 門野 泉(名古屋大学 医学部附属病院)
  • 山下 暁士(名古屋大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
3,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
骨系統疾患は骨格を形成する組織の障害により、骨格の形成・維持に異常をきたす疾患の総称である。国際分類では42グループ、436疾患に分類されており、個々の疾患の発生頻度は稀であるが、全体としては5,000出生に1人程度発症する。分子生物学の飛躍的な進歩により、360以上の疾患ですでに病因遺伝子が同定されている。日本整形外科学会骨系統疾患登録(1990年~2016年)によると、骨形成不全症と軟骨無形成症が全体の約1/4を占めている。
骨系統疾患は骨格以外にも種々の症状を呈することが多いので、小児期よりさまざまな医学的介入がなされる。しかし、成人期以降の長期成績や健康関連QOLを検討した報告は少ないため、小児期に行われる治療の有効性は充分に評価されていない。本研究では比較的頻度の高い骨形成不全症、軟骨無形成症、II型コラーゲン異常症、多発性骨端異形成症、低リン血症性くる病などの患者において、成人期のQOLを調査して長期予後を明らかにするとともに、小児期における治療介入のガイドとなる知見を蓄積することを目的とする。また、調査結果を広く国民に発信し、骨系統疾患に関する認識を広めるとともに、今後の難病医療行政に貢献しうるデータを提供する。
研究方法
名古屋大学整形外科、大阪大学小児科、東京大学リハビリテーション科に受診歴のある患者、および各種患者会に登録されている10歳以上の各種骨系統疾患患者に対し、SF-36(MOS Short-Form 36-Item Health Survey)ver.2.0 日本語版を用いて健康関連QOLに関してアンケート調査を実施した。このうち、最も回答が多かった(201名)軟骨無形成症に関して、身体機能、精神機能、社会機能スコアを算出し、長期予後を検討するとともに、重症化の危険因子、予後予測因子につき統計学的に検討した。
調査結果を公開する目的で、一般市民を対象とした公開講座を企画し、軟骨無形成症の主症状である低身長に焦点を絞って検討する会を計画した。
結果と考察
身体機能スコアは加齢により低下し、いずれの年代においても国民標準値より有意に低下していた。日常生活で困っている症状のうち50歳以上で多かったものは腰痛、下肢痛、下肢のしびれや筋力低下が挙げられた。これらの症状は主に脊柱管狭窄症に起因するものと考えられた。また、脊椎手術歴の割合は年齢とともに増加したため、加齢に伴う脊柱管狭窄症の増悪が身体機能スコア低下の主因であると考えられた。
一方、年代別平均身長は30歳代から60歳代にかけて低下していた。骨延長手術は主に10歳代で行なわれるため、骨延長手術歴の割合は10歳代から20歳代にかけて増加した。また、骨延長は約30年前に始まった治療法であることから、手術歴は50歳代以降急激に減少した。最終身長が140cmを越えた群では有意に身体機能スコアが上昇したことから、最終身長140cmを目指して小児期より治療を行う必要がある。精神機能および役割・社会機能スコアはいずれの疾患も国民標準値より下回ることはなかった。
 運転免許は20歳以上の73%で取得していたが、改造車が必要な症例も散見した。症例数が少ないため統計学的な有意差は認めなかったが、上腕骨延長は身体機能スコアを改善させる傾向があった。小中学校で支援学級、養護学校に通学していたものはそれぞれ3.5%、3.1%で、大多数は普通学級であった。最終学歴は高卒が45%、専門学校か短大卒、大学卒がそれぞれ25%、24%であった。既婚者は少なかった。
 平成30年2月17日に市民公開講座「低身長について」を名古屋で開催した。参加募集50名のところ67名が参加した。まず、身長が伸びるメカニズムや、低身長症に対する治療法などにつき概略し、その後、今回のアンケート調査の結果を報告した。最後に、軟骨無形成症患者代表がご自身の体験談(成長ホルモン治療、下肢骨延長手術、幼稚園から大学までの学校生活、日常生活の工夫など)について報告し、活発な質疑応答を行った。また、市民公開講座の詳細は、名古屋大学整形外科ホームページに掲載するとともに、患者会(つくしの会およびつくしんぼ)には電子データを提供してフィードバックした。

結論
軟骨無形成症では最終身長140cm以上を目指して小児期の治療計画を立案する。成人期以降は、脊柱管狭窄症に伴う脊髄症に特に留意してフォローアップする。

公開日・更新日

公開日
2018-05-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-05-21
更新日
2018-05-29

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201711041B
報告書区分
総合
研究課題名
成人の骨系統疾患患者のQOLに関する研究
課題番号
H28-難治等(難)-一般-026
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
鬼頭 浩史(名古屋大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 大薗 惠一 (大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 芳賀 信彦(東京大学 医学部附属病院)
  • 三島 健一(名古屋大学 大学院医学系研究科)
  • 松下 雅樹(名古屋大学 医学部附属病院)
  • 門野 泉(名古屋大学 医学部附属病院)
  • 山下 暁士(名古屋大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
骨系統疾患は骨格を形成する組織の先天的な障害により骨格の形成・維持に異常をきたす疾患の総称で、450種類以上の疾患があるが個々の疾患は稀少であり、発生頻度、重症度分類、疾患概念など確立されていないものも多い。ほとんどは有効な治療法がない難病で、対症治療がなされている。低身長に対しては内科的には成長ホルモン投与、外科的には骨延長術が、O脚やX脚などの下肢アライメント異常に対しては装具治療や矯正手術が、骨脆弱性に対しては成人における骨粗鬆症治療薬の投与などが行われているが、小児期における治療体系は充分に確立されていない。また、長期成績や成人期のquality of life(QOL)を検討した報告もほとんどなく、小児期に行われる種々の医学的介入の長期的な効果は明らかにされていない。本研究は成人の骨系統疾患患者のQOLを調査し、患者の生涯にわたる問題点を明らかにするとともに、QOLの低下に及ぼす因子を検討することを目的とする。

研究方法
名古屋大学整形外科、東京大学リハビリテーション科、大阪大学小児科に通院歴のある骨系統疾患患者、および各種患者会(つくしの会、つくしんぼ、骨形成不全症協会など)会員で10歳以上の患者を研究対象とする。それぞれの施設の倫理委員会の承認を得たのち、研究を開始する。対象患者に対し、郵送でQOL調査票を用いたアンケート調査を行う。QOL調査項目は患者主観調査として包括的健康QOLであるSF-36、EQ-5D、関節評価尺度であるWOMACとする。その他診断名、身長、体重、これまでの治療歴、医療機関への通院歴、合併症などについても調査する。名古屋大学に通院歴があるものに関してはアンケート調査のほか、下肢アライメント、下肢関節可動域を、骨延長術施行例では延長量などをカルテやレントゲンから転記する。発送後3ヶ月以上経っても回答が得られなかった場合は再度郵送する。
研究成果は、各種疾患患者会など直接患者にフィードバックするとともに、関連学会での発表を行う。また、難病情報センターのホームページや関連学会のホームページ等での公開を目指す。
結果と考察
【軟骨無形成症】
201名より解析可能な回答を得た。精神機能スコアおよび社会機能スコアは国民標準値と差がなかったが、身体機能スコアはいずれの年代においても国民標準値より有意に低下しており、加齢によりさらに低下した。脊柱管狭窄症など脊髄障害に対する手術歴のある例で特に身体機能の低下が著しかった。加齢とともに脊髄手術例が増加することが、年長例でのQOL低下に起因していると思われた。身長別で身体機能スコアを検討したところ、140 cm未満の群では身体機能スコアが国民標準値より有意に低下するのに対し、140 cm以上の群では国民標準値と著変なかった。現状では、最終身長140 cm以上を目指すためには成長ホルモンと骨延長を組み合わせて治療する必要がある。
【骨形成不全症】
54名より解析可能な回答を得た。軟骨無形成症と同様、精神機能スコアおよび社会機能スコアは国民標準値と差がなかった。身体機能スコアは、10歳代と20歳代では国民標準値と比較して大幅に低値であるが30歳代では改善が認められ国民標準値に近づいた。しかし、40歳代以降では悪化した。いずれの年代においても国民標準値より有意に低下していた。また、初回骨折年齢が4歳未満の場合、身体機能スコアは国民標準値より有意に低下したが、4歳以上の場合は国民標準値と差は認められなかった。下肢骨の骨折回数別で検討したところ、5回以上の骨折歴を有する例では著しく身体機能スコアが低下した。
【2型コラーゲン異常症・多発性骨端異形成症・骨硬化性疾患・低リン血性くる病】
2型コラーゲン異常症23名、多発性骨端異形成症8名、骨硬化性疾患8名、および低リン血性くる病13名より解析可能な回答を得た。上記2疾患と同様、精神機能スコアおよび社会機能スコアは国民標準値と差がなかったが、身体機能スコアはいずれの疾患においても国民標準値よりは低下していた。

結論
成人の骨系統疾患患者では、疾患に関わらず精神機能、社会機能は保たれるものの、身体機能が低下する。軟骨無形成症は最終身長140cmを目指して小児期に薬物治療や手術治療を計画する。また、成人期以降には脊柱管狭窄症に伴う脊髄症に特に注意する。骨形成不全症では可能なかぎり骨折回数を減らすことが重要で、薬物治療により骨密度を保つだけでなく、弯曲骨に対しては骨折予防のために積極的な矯正骨切り術を実施するのが望ましい。2型コラーゲン異常症や多発性骨端異形成症では関節機能の温存に留意すべく、小児期より脊柱や下肢の変形矯正に心がけるできである。骨硬化性疾患では脳神経症状に、低リン血性くる病では骨軟化症様症状に注意して治療介入する。

公開日・更新日

公開日
2018-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-05-21
更新日
2018-06-27

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201711041C

成果

専門的・学術的観点からの成果
軟骨無形成症、骨形成不全症、2型コラーゲン異常症、多発性骨端異形成症、骨硬化性疾患、低リン血性くる病の10歳以上の患者に対し、QOL調査を実施した。いずれの骨系統疾患でも精神機能スコアおよび社会機能スコアは国民標準値と差がなかったが、身体的スコアは有意に低下していた。各疾患の成人期における問題点が明らかとなり、軟骨無形成症や骨形成不全症では成人期のQOL低下に及ぼす因子を同定することができた。
臨床的観点からの成果
軟骨無形成症では最終身長140cmを目指して小児期に治療介入するのが望ましい。また、壮年期以降は脊柱管狭窄症に特に注意する。骨形成不全症では、移動能力に影響を及ぼす下肢長管骨骨折を予防するのが重要であり、小児期より適切な薬物治療で骨密度の低下を最小限に抑える必要がある。2型コラーゲン異常症および多発性骨端異形成症では、小児期より脊柱や下肢のアライメントを整えることに注意する。骨硬化性疾患では脳神経症状に対する介入が、低リン血性くる病では骨軟化症に対する薬物治療がQOL保持の鍵となる。
ガイドライン等の開発
軟骨無形成症、骨形成不全症、2型コラーゲン異常症、多発性骨端異形成症、骨硬化性疾患、低リン血性くる病における長期予後や成人期における問題点などが明らかとなり、これら主要な骨系統疾患における、成人期を見据えた小児期治療のガイドライン策定に寄与する重要なデータを蓄積できた。
その他行政的観点からの成果
成人期のQOLを維持するためには、軟骨無形成症では骨延長術、骨形成不全症では矯正骨切り術、2型コラーゲン異常症や多発性骨端異形成症では片側の骨端線抑制術や矯正骨切り術、骨硬化性疾患では脳神経障害に対する神経除圧手術など、小児期より複数回の外科的治療介入を要する。また、軟骨無形成症では成長ホルモン、骨形成不全症ではパミドロン酸、低リン血性くる病では活性型ビタミンD製剤やリン製剤などの内科的な治療も長期にわたる。骨系統疾患では長期にわたる種々の医学的な介入を要する。
その他のインパクト
平成30年2月17日に市民公開講座「低身長について」を名古屋で開催し、67名が参加した。身長が伸びるメカニズムや、低身長症に対する治療法などにつき概略の後、アンケート調査の結果を報告した。最後に、軟骨無形成症患者代表がご自身の体験談について報告し、活発な質疑応答を行った。また、市民公開講座の詳細は、名古屋大学整形外科ホームページに掲載するとともに、患者会(つくしの会およびつくしんぼ)には電子データを提供してフィードバックした。

発表件数

原著論文(和文)
6件
原著論文(英文等)
17件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
27件
学会発表(国際学会等)
25件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
2018年2月17日に「低身長について」の市民公開講座を開催した。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Matsushita M, Kitoh H, Mishima K, et al
Physical, mental and social problems of adolescent and adult patients with achondroplasia
Calcif Tissue Int , 104 (4) , 364-372  (2019)
10.1007/s00223-019-00518-z.

公開日・更新日

公開日
2018-06-04
更新日
2021-06-08

収支報告書

文献番号
201711041Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,550,000円
(2)補助金確定額
4,550,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,100,403円
人件費・謝金 362,337円
旅費 1,258,240円
その他 779,020円
間接経費 1,050,000円
合計 4,550,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2019-03-04
更新日
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