関節リウマチ(RA)や炎症性腸疾患(IBD)罹患女性患者の妊娠、出産を考えた治療指針の作成

文献情報

文献番号
201711038A
報告書区分
総括
研究課題名
関節リウマチ(RA)や炎症性腸疾患(IBD)罹患女性患者の妊娠、出産を考えた治療指針の作成
課題番号
H28-難治等(難)-一般-023
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
齋藤 滋(国立大学法人富山大学 大学院医学薬学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 森信 暁雄(神戸大学大学院医学研究科 )
  • 村川 洋子(島根大学医学部)
  • 松井 聖(兵庫医科大学)
  • 渡辺 守(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科)
  • 鈴木 康夫(東邦大学医療センター佐倉病院)
  • 牧野真太郎(順天堂大学医学部)
  • 藤田 太輔(大阪医科大学)
  • 宮崎 晴菜(川口 晴菜)(大阪府立病院機構大阪母子医療センター)
  • 武井 修治(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科)
  • 宮前多佳子(東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター)
  • 高橋 尚人(東京大学医学部附属病院総合周産期母子医療センター)
  • 村島 温子(国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター)
  • 渥美 達也(北海道大学大学院医学研究院)
  • 奥 健志(北海道大学病院)
  • 中島 研(国立成育医療研究センター 薬剤部)
  • 関根 道和(富山大学大学院医学薬学研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 自己免疫疾患は女性に多く、生殖年齢にある女性も多く存在する。最近のバイオ製剤の出現により、寛解率も向上し、医療関係者ならびに患者が妊娠・出産を前向きに考えるようになってきた。しかし、これまで妊娠前の管理や妊娠容認基準は、確定したものがなく、また妊娠中に使用する薬剤についても、薬剤添付文書では明確な理由がなく、禁忌となる薬剤が多く、臨床現場では困窮している状況であった。
 また、妊娠前、妊娠後、分娩後に内科、整形外科、産婦人科、小児科、薬剤部が連携して治療する体制も不十分であった。
 そこで、本研究では各診療分野で活躍している17名の研究分担者、10名の研究協力者の協力を得て、SLE、RA、JIA、IBD罹患女性患者の妊娠・出産を考えた治療指針(医療関係者を対象としたものと、患者を対象としたもの)を作成する事を目的とした。
研究方法
 4回の班会議を開催し、70回のメール審議を繰り返し、11のClinical_Question(CQ)と、その推奨文と解説文を作成した。これらの過程で過去の学術論文や、諸外国のガイドラインや治療指針を参考にした。担当者が作成した推奨文章をデルファイ法により総意形成を得、その結果を推奨文の推奨度、同意度に反映させた。作成した管理指針を関連9学会の意見を基に修正し、最終的に学会承認を得た。
 多施設共同データベース(NinJa)のデータを基に、RA女性からの出産率を求めた。
結果と考察
 RA患者からの出産は同年代の女性に比して、42.2%(95%CI:24.1-60.2%)と低下している事が判った。
全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)、若年性特発性関節炎(JIA)や炎症性腸疾患(IBD)罹患女性患者の妊娠、出産を考えた治療指針を作成した。
班員で11のClinical Question (CQ)の推奨文ならびに解説文を作成し、推奨度/同意度も付記した。またすべての項目につき、患者が理解できるように平易な文章に改め、患者を対象としたCQも作成した。 これらを冊子化し、全国の1,996の医療機関に送付するとともに、ホームページ(https://ra-ibd-sle-pregnancy.org/)を開設し、広く利用していただけるようにした。また本治療指針を日本炎症性腸疾患学会、日本臨床免疫学会、日本リウマチ学会、日本母性内科学会、日本小児リウマチ学会、日本産科婦人科学会、日本周産期・新生児医学会、日本新生児成育医学会、日本小児腎臓病学会の9学会より承認していただいた。
 このような内科(リウマチ科、自己免疫/アレルギー科、消化器内科、母性内科)、整形外科、産婦人科、小児科、薬剤部からの総合的なSLE、RA、JIA、IBD合併妊娠に対する治療指針は初めてであり、横断的立場から従来にないような治療指針が出来上がった意義は大きい。最近、妊娠前に合併症を持つ女性が産婦人科を受診し、妊娠・出産に関する説明を希望するpreconceptional visitが増えている。その際、本治療指針は大きく貢献するであろう。また、関連の診療科が妊娠前より連携を取る事により、良好な医療が提供されることになる。
 妊娠中ならびに授乳中の薬剤については、大きな制限があったが、使用経験が増し、その安全性についての知見が積み重なってきている。経胎盤的移行や乳汁中への移行も検討した上で、現時点における安全性を考えた薬剤投与で禁忌薬品、慎重投与薬品、比較的安全性が証明されている薬剤に分類して臨床的に判りやすく分類したため、今後、本治療指針は広く利用されていくと思われる。また広く活用してもらうために、内容をホームページに掲載したころ、1ヶ月で約1,000のアクセスがあり、一定の反響があった事も確認された。
結論
 11のClinical_Questionに基づき、SLE、RA、JIA、IBDの罹患女性の妊娠・出産を考えた治療指針が発刊された。関連9学会の承認も得られたため、臨床現場で本書が利用され、適切な管理がなされ、出産数の増加に繋がる事が望まれる。

公開日・更新日

公開日
2018-05-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-05-24
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201711038B
報告書区分
総合
研究課題名
関節リウマチ(RA)や炎症性腸疾患(IBD)罹患女性患者の妊娠、出産を考えた治療指針の作成
課題番号
H28-難治等(難)-一般-023
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
齋藤 滋(国立大学法人富山大学 大学院医学薬学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 森信 暁雄(神戸大学大学院医学研究科)
  • 村川 洋子(島根大学医学部)
  • 松井 聖(兵庫医科大学)
  • 渡辺 守(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科)
  • 鈴木 康夫(東邦大学医療センター佐倉病院)
  • 牧野真太郎(順天堂大学医学部)
  • 藤田 太輔(大阪医科大学)
  • 宮崎 晴菜(川口 晴菜)(大阪府立病院機構大阪母子医療センター)
  • 武井 修治(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科)
  • 宮前多佳子(東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター)
  • 高橋 尚人(東京大学医学部附属病院総合周産期母子医療センター)
  • 村島 温子(国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター)
  • 渥美 達也(北海道大学大学院医学研究院)
  • 奥 健志(北海道大学病院)
  • 中島 研(国立成育医療研究センター 薬剤部)
  • 関根 道和(富山大学大学院医学薬学研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 自己免疫疾患は女性に多く、生殖年齢にある女性も多く存在する。最近のバイオ製剤の出現により、寛解率も向上し、医療関係者ならびに患者が妊娠・出産を前向きに考えるようになってきた。しかし、これまで妊娠前の管理や妊娠容認基準は、確定したものがなく、また妊娠中に使用する薬剤についても、薬剤添付文書では明確な理由がなく、禁忌となる薬剤が多く、臨床現場では困窮している状況であった。
 また、妊娠前、妊娠後、分娩後に内科、整形外科、産婦人科、小児科、薬剤部が連携して治療する体制も不十分であった。
そこで、本研究では各診療分野で活躍している17名の研究分担者、10名の研究協力者の協力を得て、SLE、RA、JIA、IBD罹患女性患者の妊娠・出産を考えた治療指針(医療関係者を対象としたものと、患者を対象としたもの)を作成する事を目的とした。
研究方法
 4回の班会議を開催し、70回のメール審議を繰り返し、11のClinical_Question(CQ)と、その推奨文と解説文を作成した。これらの過程で過去の学術論文や、諸外国のガイドラインや治療指針を参考にした。担当者が作成した推奨文章をデルファイ法により総意形成を得、その結果を推奨文の推奨度、同意度に反映させた。
 多施設共同データベース(NinJa)のデータを基に、RA女性患者からの出産率を同年代の女性と比較した。
結果と考察
1. 生殖可能RA罹患女性からの出産
 生殖可能年齢(15-45歳)にある女性患者1,279人のうち、2015年に出産した女性は21名であった。2015年の人口動態統計から年齢をマッチさせた期待出生数は、49.8人であった事より、RA女性患者からの出産は、一般女性の42.2%(95%CI:24.1-60.2%)に留まる事が判明した。
2. 全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)、若年性特発性関節炎(JIA)や炎症性腸疾患(IBD)罹患女性患者の妊娠、出産を考えた治療指針の作成
11のClinical Questionにつき班員で作成した。
これらのCQの推奨文ならびに解説文を作成し、推奨度/同意度も付記した。またすべての項目につき、患者が理解できるように平易な文章に改め、患者を対象としたCQも作成した。
さらに、妊娠前チェックリスト(患者用)ならびに医療者用を作成し、妊娠許容状況であれば、主治医に相談できるようにした。
これらを冊子化し、全国の産婦人科、内科、リウマチ科、膠原病内科、整形外科、消化器内科(IBD)、消化器外科(IBD)、小児科の医療機関に送付するとともに、ホームページ(https://ra-ibd-sle-pregnancy.org/)を開設し、広く利用していただけるようにした。
また、本治療指針を日本炎症性腸疾患学会、日本臨床免疫学会、日本リウマチ学会、日本母性内科学会、日本小児リウマチ学会、日本産科婦人科学会、日本周産期・新生児医学会、日本新生児成育医学会、日本小児腎臓病学会の9学会より承認していただいた。 
 このような内科(リウマチ科、自己免疫/アレルギー科、消化器内科、母性内科)、整形外科、産婦人科、小児科、薬剤部からの総合的な治療指針は初めてであり、横断的立場から従来にないような治療指針が出来上がった意義は大きい。最近、妊娠前に合併症を持つ女性が産婦人科を受診し、妊娠・出産に関する説明を希望するpreconceptional visitが増えている。その際、本治療指針は大きく貢献するであろう。また、関連の診療科が妊娠前より連携を取る事により、良好な医療が提供されることになる。
 また、妊娠前チェックリストも、ぜひとも活用していただきたい。このチェックリスにより患者自らが妊娠できると自覚する事の意義は大きい。 妊娠中ならびに授乳中の薬剤については、大きな制限があったが、使用経験が増し、その安全性についての知見が積み重なってきている。経胎盤的移行や乳汁中への移行も検討した上で、現時点における安全性を考えた薬剤投与で禁忌薬品、慎重投与薬品、比較的安全性が証明されている薬剤に分類して臨床的に判りやすく分類したため、今後、本治療指針は広く利用されていくと思われる。また広く活用してもらうために、内容をホームページに掲載したころ、1ヶ月で約1,000のアクセスがあり、一定の反響があった事も確認された。
結論
 11のClinical_Questionに基づき、SLE、RA、JIA、IBDの罹患女性の妊娠・出産を考えた治療指針が発刊された。関連9学会の承認も得られたため、臨床現場で本書が利用され、適切な管理がなされ、出産数の増加に繋がる事が望まれる。

公開日・更新日

公開日
2018-05-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-05-24
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201711038C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 RAのデータベース(NinJa)を用いて、RA患者の出産を一般女性と比較したところ、42.2%(95%CI:24.1-60.2%)と低下している事が判明した。
 全国の周産期施設に対して行ったアンケート調査で、RA患者の不妊症のリスクが高い事、SLEでは妊娠中に憎悪するケースが多い事、SLE、IBDでは低出生体重児の頻度が高い事、これらは高年齢と妊娠中の体重増加不良が関連することが明らかとなった。これらの成果については、英文論文を投稿し、reviseであったため、修正後に再投稿を行なう。
臨床的観点からの成果
 これまで、内科、産婦人科、小児科、薬剤師が共同にまとめたSLE、RA、IBDに関する治療指針は本邦にはなく本管理指針は本邦で初めてとなり、画期的である。また、妊娠中や授乳中に使用できない禁忌薬、慎重投与薬、投与可能薬にまとめ、提示した事で、臨床的に管理し易くなった。また、患者用にも解説文を作成したので、患者自らが妊娠・出産を考える環境を形づくる事ができ、社会的意義も大きい。
ガイドライン等の開発
 ガイドラインではないが、日本炎症性腸疾患学会、日本臨床免疫学会、日本リウマチ学会、日本母性内科学会、日本小児リウマチ学会、日本産科婦人科学会、日本周産期・新生児医学会、日本新生児成育医学会、日本小児腎臓病学会、関連9学会の承認を得た。これらの承認を得たので、今後、ガイドラインの改定の際は、本書が参考になると考えられる。
その他行政的観点からの成果
 自己免疫疾患合併女性の出産率が、同年代の女性に少ない事が判明したので、本指針により患者自身が自分の妊娠・出産につき前向きになり、少子化改善につながる事が期待される。
 また、妊娠前に内科医と産婦人科医がpreconception visitで情報提供する事で、より安全な治療が提供されると考えられる。
その他のインパクト
 2018年4月より、指針の内容をホームページ(https://ra-ibd-sle-pregnancy.org/)に掲載しており、2年間で29,248のアクセスがあった。また、日本リウマチ学会、日本産科婦人科学会、日本炎症再生医学会、日本シェーグレン症候群学会、中部リウマチ学会、日本リウマチ学会近畿支部学術集会から講演の依頼があり、反響が大きい事が判った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
81件
その他論文(和文)
50件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
140件
学会発表(国際学会等)
39件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
「全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)、若年性特発性関節炎(JIA)や炎症性腸疾患(IBD)罹患女性患者の妊娠、出産を考えた治療指針」の作成
その他成果(普及・啓発活動)
1件
ホームページhttps://ra-ibd-sle-pregnancy.org/

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tsuda S, Sameshima A, Sekine M, et al.
Pre-conception status, obstetric outcome and use of medications during pregnancy of systemic lupus erythematosus (SLE), rheumatoid arthritis (RA) and inflammatory bowel disease (IBD) in Japan: Multi-center retrospective descriptive study.
Mod Rheumatol. , 30 (5) , 852-861  (2020)
doi: 10.1080/14397595.2019.1661592.

公開日・更新日

公開日
2018-06-04
更新日
2022-06-10

収支報告書

文献番号
201711038Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,500,000円
(2)補助金確定額
6,068,000円
差引額 [(1)-(2)]
432,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,348,064円
人件費・謝金 837,997円
旅費 733,630円
その他 1,648,684円
間接経費 1,500,000円
合計 6,068,375円

備考

備考
432,000円 返還

公開日・更新日

公開日
2019-02-22
更新日
-