食欲中枢異常による難治性高度肥満症の実態調査

文献情報

文献番号
201711030A
報告書区分
総括
研究課題名
食欲中枢異常による難治性高度肥満症の実態調査
課題番号
H28-難治等(難)-一般-014
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
龍野 一郎(東邦大学 医学部 医学科 内科学講座 糖尿病・代謝・内分泌学分野(佐倉))
研究分担者(所属機関)
  • 岡住 慎一(東邦大学 医学部 医学科 外科学講座(佐倉))
  • 佐々木 章(岩手医科大学 医学部 外科学講座)
  • 内藤 剛(東北大学 大学院 医学系研究科 外科病態学講座 生体調節外科学分野)
  • 瀬戸 泰之(東京大学 大学院 医学系研究科 消化管外科学・代謝内分泌外科学)
  • 横手 幸太郎(千葉大学 大学院 医学研究院 細胞治療内科学講座)
  • 松原 久裕(千葉大学 大学院 医学研究院 先端応用外科学)
  • 山本 寛(草津総合病院 第二外科)
  • 卯木 智(滋賀医科大学 糖尿病内分泌内科)
  • 太田 正之(大分大学 医学部 消化器・小児外科学講座)
  • 齋木 厚人(東邦大学 医学部 医学科 内科学講座 糖尿病・代謝・内分泌学分野(佐倉) )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
770,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
BMI35以上の高度肥満症は内科的治療に抵抗性であり、重篤な健康障害やADLの低下などを来しやすい。近年日本でも一部の肥満外科治療が保険収載され、30%程度の体重減少や合併症の著明な改善が得られるようになった。しかし、外科治療を行っても食欲の抑制が得られず、体重減少の乏しい症例も存在する。このような食欲中枢異常による高度肥満症は、生活習慣病とは独立した病態で、比較的若年で発症し、内科・外科治療に抵抗性で、予後の悪い難病であると考えられる。本研究ではその実態を明らかにし、「食欲中枢異常による難治性高度肥満症」の診断基準を策定することを目的に、以下の3つの調査が計画された。

(1) 食欲中枢異常による難治性高度肥満症の実態調査(術後体重減少不良例の実態調査)
(2) 透析患者における過去最大体重に関する調査
(3) 高度肥満糖尿病症例の全国調査

平成28年度は、術後体重不良例が一定数存在し、そのような集団は学童期以前からの肥満や発達障害スペクトラムの症例が多い傾向にあること、透析患者は過去に高度肥満であった割合が非常に高いことが明らかにされた。
研究方法
(1) 対象は2011年~2014年に日本肥満症治療学会認定10施設でスリーブ状胃切除術を施行した日本人で、術後2年以上経過した369例。調査項目は、術前の体重や体組成、肥満関連健康障害、心理社会的問題点と、術後の体重および糖尿病やその他肥満関連健康障害の改善度などとした。体重減少の指標には総体重減少率(%TWL)を適用した。

(2) みはま香取クリニック、東葛クリニック病院で維持透析中の患者のうち、2010年から2016年までに透析導入となった724名を対象とし、現在と過去の体重や身体的合併症の調査を行った。

(3) 日本糖尿病学会の認定教育施設を対象に、糖尿病総患者数に対する高度肥満患者や肥満外科治療検討者などの割合を明らかにする目的でアンケート調査を行った。
結果と考察
(1) 全体では、平均体重119.25kg、BMI43.71、HbA1c 7.07%であった。SAS、月経異常、関節障害の有病率は30~70%、精神疾患は19.8%、術前平均摂取エネルギーは3000kcal/dayであった。術前BMIの高い群では、小児からの肥満が多く、高度に皮下脂肪が蓄積し、関節障害やSASが多い一方で、糖尿病などの代謝異常に乏しい傾向にあり、心理社会面では知的能力や運動習慣を有する頻度、経済的自立の頻度が低く、未婚率が高い傾向にあった。BMI35未満の群では、内臓脂肪がより蓄積し糖尿病などの代謝異常が目立つ傾向にあった。全体における術後2年間の%TWLは29.91、糖尿病完全寛解率は75.3%で、その他の健康障害も改善傾向にあった。%TWLが15未満の体重減少不良群では、術前のHbA1cや投薬数、摂取エネルギーが高く、関節障害、精神疾患、知的障害の頻度が高い傾向にあった。また同群では糖脂質代謝や血圧の改善度が悪く、特に糖尿病不良例ではほとんど寛解がみられなかった。この%TWL15未満の頻度は6.48%であった。また東邦大学佐倉病院の調査では、内科治療のうちの33%の症例で糖尿病の改善が得られなかった。これを「内科治療抵抗性」すなわち肥満外科治療適応患者の頻度と仮定すると、「術後体重減少不良例」の想定患者数は是国で約1万人前後が想定された。

(2) 透析患者の過去最大BMIは国民平均と比較して高く、BMI25以上の割合は全体で約70%、糖尿病群では80%以上と高値であった。糖尿病患者では、過去最大BMIが高いほど導入年齢が若い傾向があった。糖尿病、網膜症合併例、虚血性心疾患、ASO、SAS合併例ではいずれもBMIが高かった。

(3) 糖尿病患者のうち高度肥満合併患者は2.7%で、このうち肥満外科治療を検討したのは11.1%、実施あるいは紹介したのは3.4%であった。また全国で高度肥満を有する糖尿病者数は25.6万人、肥満外科治療が検討対象となる患者数は2.9万人と推測された。
結論
本研究により、%TWL15未満の「術後体重減少不良症例」は糖尿病などの併存疾患の改善率が悪く、背景因子としては摂取エネルギーが高く、精神疾患や知的障害の有病率が高い傾向があった。またこの集団は、術前のBMIが高い事や小児期からの肥満が多い傾向も認めら、この病態には小児期から成人期へのトランジションや精神心理の問題が複雑に関わっていることも考えられた。病態の解明に向けて小児医学、メンタルヘルスの専門家も加わり、ガイドラインの作成を進める必要があると思われた。さらに本研究から、2型糖尿病患者の中にも多くの肥満外科治療適応患者が存在することが明らかになり、これに対しても新たな治療ガイドラインの作成が必要と思われた。

公開日・更新日

公開日
2018-05-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201711030B
報告書区分
総合
研究課題名
食欲中枢異常による難治性高度肥満症の実態調査
課題番号
H28-難治等(難)-一般-014
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
龍野 一郎(東邦大学 医学部 医学科 内科学講座 糖尿病・代謝・内分泌学分野(佐倉))
研究分担者(所属機関)
  • 岡住 慎一(東邦大学 医学部 医学科 外科学講座(佐倉))
  • 佐々木 章(岩手医科大学 医学部 外科学講座)
  • 内藤 剛(東北大学 大学院 医学系研究科 外科病態学講座 生体調節外科学分野)
  • 瀬戸 泰之(東京大学 大学院 医学系研究科 消化管外科学・代謝内分泌外科学)
  • 横手 幸太郎(千葉大学 大学院 医学研究院 細胞治療内科学講座)
  • 松原 久裕(千葉大学 大学院 医学研究院 先端応用外科学)
  • 山本 寛(草津総合病院 第二外科)
  • 卯木 智(滋賀医科大学 糖尿病内分泌内科)
  • 太田 正之(大分大学 医学部 消化器・小児外科学講座)
  • 齋木 厚人(東邦大学 医学部 医学科 内科学講座 糖尿病・代謝・内分泌学分野(佐倉) )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
BMI35以上の高度肥満症は内科的治療に抵抗性であり、重篤な健康障害やADLの低下などを来しやすい。近年日本でも一部の肥満外科治療が保険収載され、30%程度の体重減少や合併症の著明な改善が得られるようになった。しかし、外科治療を行っても食欲の抑制が得られず、体重減少の乏しい症例も存在する。このような食欲中枢異常による高度肥満症は、生活習慣病とは独立した病態で、比較的若年で発症し、内科・外科治療に抵抗性で、予後の悪い難病であると考えられる。本研究ではその実態を明らかにし、「食欲中枢異常による難治性高度肥満症」の診断基準を策定することを目的に、以下の3つの調査が計画された。

(1) 食欲中枢異常による難治性高度肥満症の実態調査(術後体重減少不良例の実態調査)
(2) 透析患者における過去最大体重に関する調査
(3) 高度肥満糖尿病症例の全国調査
研究方法
(1) 対象は2011年~2014年に日本肥満症治療学会認定10施設でスリーブ状胃切除術を施行した日本人で、術後2年以上経過した369例。調査項目は、術前の体重や体組成、肥満関連健康障害、心理社会的問題点と、術後の体重および糖尿病やその他肥満関連健康障害の改善度などとした。体重減少の指標には総体重減少率(%TWL)を適用した。

(2) みはま香取クリニック、東葛クリニック病院で維持透析中の患者のうち、2010年から2016年までに透析導入となった724名を対象とし、現在と過去の体重や身体的合併症の調査を行った。

(3) 日本糖尿病学会の認定教育施設を対象に、糖尿病総患者数に対する高度肥満患者や肥満外科治療検討者などの割合を明らかにする目的でアンケート調査を行った。
結果と考察
(1) 全体では、平均体重119.25kg、BMI43.71、HbA1c 7.07%であった。SAS、月経異常、関節障害の有病率は30~70%、精神疾患は19.8%、術前平均摂取エネルギーは3000kcal/dayであった。術前BMIの高い群では、小児からの肥満が多く、高度に皮下脂肪が蓄積し、関節障害やSASが多い一方で、糖尿病などの代謝異常に乏しい傾向にあり、心理社会面では知的能力や運動習慣を有する頻度、経済的自立の頻度が低く、未婚率が高い傾向にあった。BMI35未満の群では、内臓脂肪がより蓄積し糖尿病などの代謝異常が目立つ傾向にあった。全体における術後2年間の%TWLは29.91、糖尿病完全寛解率は75.3%で、その他の健康障害も改善傾向にあった。%TWLが15未満の体重減少不良群では、術前のHbA1cや投薬数、摂取エネルギーが高く、関節障害、精神疾患、知的障害の頻度が高い傾向にあった。また同群では糖脂質代謝や血圧の改善度が悪く、特に糖尿病不良例ではほとんど寛解がみられなかった。この%TWL15未満の頻度は6.48%であった。また東邦大学佐倉病院の調査では、内科治療のうちの33%の症例で糖尿病の改善が得られなかった。これを「内科治療抵抗性」すなわち肥満外科治療適応患者の頻度と仮定すると、「術後体重減少不良例」の想定患者数は是国で約1万人前後が想定された。

(2) 透析患者の過去最大BMIは28.0で、BMI35以上の割合も9.7%と高く、高度肥満が将来の腎不全に関与している可能性が示唆された。糖尿病患者では、過去最大BMIが高いほど導入年齢が若い傾向があった。糖尿病、網膜症合併例、虚血性心疾患、ASO、SAS合併例ではいずれも過去最大BMIが高かった。過去最大BMI35以上では突然死の頻度が高かった。

(3) 686施設のうち148施設(21.6%)から回答を得た。糖尿病患者のうち高度肥満合併患者は2.7%で、このうち肥満外科治療を検討したのは11.1%、実施あるいは紹介したのは3.4%であった。また全国で高度肥満を有する糖尿病者数は25.6万人、肥満外科治療が検討対象となる患者数は2.9万人と推測された。
結論
本研究により、%TWL15未満の「術後体重減少不良症例」は糖尿病などの併存疾患の改善率が悪く、背景因子としては摂取エネルギーが高く、精神疾患や知的障害の有病率が高い傾向があった。またこの集団は、術前のBMIが高い事や小児期からの肥満が多い傾向も認めら、この病態には小児期から成人期へのトランジションや精神心理の問題が複雑に関わっていることも考えられた。病態の解明に向けて小児医学、メンタルヘルスの専門家も加わり、ガイドラインの作成を進める必要があると思われた。さらに本研究から、2型糖尿病患者の中にも多くの肥満外科治療適応患者が存在することが明らかになり、これに対しても新たな治療ガイドラインの作成が必要と思われた。

公開日・更新日

公開日
2018-05-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201711030C

収支報告書

文献番号
201711030Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
1,000,000円
(2)補助金確定額
1,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 185,158円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 584,842円
間接経費 230,000円
合計 1,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2019-02-27
更新日
-