乳児特発性僧帽弁腱索断裂の多彩な病因に基づいた治療法の確立に向けた研究

文献情報

文献番号
201711025A
報告書区分
総括
研究課題名
乳児特発性僧帽弁腱索断裂の多彩な病因に基づいた治療法の確立に向けた研究
課題番号
H28-難治等(難)-一般-009
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
白石 公(国立研究開発法人 国立循環器病研究センター 研究開発基盤センター・教育推進部)
研究分担者(所属機関)
  • 武田 充人(北海道大学医学部・小児科学)
  • 杉山 央(東京女子医科大学・循環器小児科学)
  • 賀藤 均(国立成育医療研究センター・小児循環器内科学)
  • 山岸敬幸(慶応義塾大学医学部・小児科学)
  • 安河内聰(長野県立こども病院・循環器科・循環器センター)
  • 白井 学(国立循環器病研究センター・創薬オミックス解析センター)
  • 中村昇太(大阪大学微生物病研究所・生命情報科学)
  • 市川肇(国立循環器病研究センター・小児心臓外科学)
  • 宮本恵宏(国立循環器病研究センター・予防健診部)
  • 黒嵜健一(国立循環器病研究センター・小児循環器部)
  • 北野正尚(国立循環器病研究センター・小児循環器部)
  • 坂口平馬(国立循環器病研究センター・小児循環器部)
  • 池田善彦(国立循環器病研究センター・臨床検査部病理)
  • 檜垣高史(愛媛大学病院小児総合医療センター・小児循環器部門)
  • 佐川浩一(福岡市立こども病院・循環器科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生来健康である乳児に、数日の感冒様症状に引き続き突然に僧帽弁の腱索が断裂し、急速に呼吸循環不全に陥る疾患が存在する。本疾患は原因が不明で、過去の報告例のほとんどが日本人であるという特徴をもつ。発症早期に的確に診断され、専門施設で適切な外科治療がなされないと、急性左心不全により短期間に死に至る。また外科手術により救命し得た場合も人工弁置換術を余儀なくされるもしくは神経学的後遺症を残すなど、子どもたちの生涯にわたる重篤な続発症をきたす。しかしながら、本疾患は国内外の小児科の教科書に独立した疾患として記載されておらず、多くの小児科医は本疾患の存在を認識していない。これまでの我々の調査の結果、僧帽弁腱索が断裂する原因として、ウイルス感染(心内膜心筋炎)、母体から移行した血中自己抗体(抗SSA抗体)、川崎病(回復期以降)などが明らかになっており、何らかの感染症や免疫学的異常が僧帽弁腱索断裂の引き金になると考えられているが、各々の病態の詳細は不明である。我々の調査(Shiraushi er al., Circulation. 2014;130:1053-61)では、全国での発症は毎年10-20例で、その中でも病因解明のための僧帽弁組織の病理組織解析、遺伝子解析が可能な僧帽弁機械弁置換症例は、全国で年間1-2例と極めて僅かである。そこで、過去のフォルマリン固定パラフィン包埋切片(FFPE)よりRNAを抽出し、次世代シーケンサを用いた網羅的トランスクリプトーム解析により、感染による炎症反応性の遺伝子発現変化、断裂時の遺伝子発現変動を詳細に解析し、本疾患の原因を明らかにする。
研究方法
本研究では、大阪大学微生物病研究所生命情報科学において、僧帽弁組織や咽頭ぬぐい液、血液からメタゲノム解析により原因と考える微生物の検索を行うとともに、国立循環器病研究センター創薬オミックス解析センターにおいて、過去のフォルマリン固定パラフィン包埋切片(FFPE)を用いてRNAトランスクリプトーム解析を行った。次世代シーケンサを用いた網羅的トランスクリプトーム解析により、感染による炎症反応性の遺伝子発現変化、断裂時の遺伝子発現変動を詳細に解析することにより、感染の可能性、断裂を引き起こした原因を明らかにする試みを行った。
結果と考察
1)新たに発症した1乳児症例において、僧帽弁組織および血液のメタゲノム解析およびウイルスゲノムの検索を行なった。原因と考えられる明らかなウイルスは検出されなかった。2)過去の僧帽弁組織6症例のサンプルを用いて、NextSeq500を用いて詳細なRNA-seq解析を行った。本研究により、FFPE組織から抽出した微量で低品質なtotal RNAでもRNA-seq解析が可能であることが示された。シーケンスリード数を大幅に増やすことにより、網羅的な遺伝子発現解析ができるだけでなく、ヒトゲノムにマッピングされなかったRNA配列をもとに、感染源の探索も可能と考えられる。
結論
ウイルスゲノムの網羅的解析による病因解析、同じく組織からのRNAトランスクリプトーム解析による病態解明が可能であることが判明した。今後は、本疾患の診断および治療法の確立に向けて研究を発展させる予定である。今後は、新鮮組織からの網羅的RNA-seq解析も行い、その結果との整合性も確認する予定である。

公開日・更新日

公開日
2018-05-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201711025B
報告書区分
総合
研究課題名
乳児特発性僧帽弁腱索断裂の多彩な病因に基づいた治療法の確立に向けた研究
課題番号
H28-難治等(難)-一般-009
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
白石 公(国立研究開発法人 国立循環器病研究センター 研究開発基盤センター・教育推進部)
研究分担者(所属機関)
  • 武田 充人(北海道大学医学部・小児科学)
  • 杉山 央(東京女子医科大学・循環器小児科学)
  • 賀藤 均(国立成育医療研究センター・小児循環器内科学)
  • 山岸 敬幸(慶応義塾大学医学部・小児科学)
  • 安河内 聰(長野県立こども病院・循環器科・循環器センター)
  • 白井 学(国立循環器病研究センター・創薬オミックス解析センター)
  • 中村 昇太(大阪大学微生物病研究所・生命情報科学)
  • 市川 肇(国立循環器病研究センター・小児心臓外科学)
  • 宮本 恵宏(国立循環器病研究センター・予防健診部)
  • 黒嵜 健一(国立循環器病研究センター・小児循環器部)
  • 北野 正尚(国立循環器病研究センター・小児循環器部)
  • 坂口 平馬(国立循環器病研究センター・小児循環器部)
  • 池田 善彦(国立循環器病研究センター・臨床検査部病理)
  • 檜垣 高史(愛媛大学病院小児総合医療センター・小児循環器部門・)
  • 佐川 浩一(福岡市立こども病院・循環器科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生来健康である乳児に、数日の感冒様症状に引き続き突然に僧帽弁の腱索が断裂し、急速に呼吸循環不全に陥る疾患が存在する。本疾患は原因が不明で、過去の報告例のほとんどが日本人であるという特徴をもつ。発症早期に的確に診断され、専門施設で適切な外科治療がなされないと、急性左心不全により短期間に死に至る。また外科手術により救命し得た場合も人工弁置換術を余儀なくされるもしくは神経学的後遺症を残すなど、子どもたちの生涯にわたる重篤な続発症をきたす。しかしながら、本疾患は国内外の小児科の教科書に独立した疾患として記載されておらず、多くの小児科医は本疾患の存在を認識していない。これまでの我々の調査の結果、僧帽弁腱索が断裂する原因として、ウイルス感染(心内膜心筋炎)、母体から移行した血中自己抗体(抗SSA抗体)、川崎病(回復期以降)などが明らかになっており、何らかの感染症や免疫学的異常が僧帽弁腱索断裂の引き金になると考えられているが、各々の病態の詳細は不明である。我々の調査(Shiraushi er al., Circulation. 2014;130:1053-61)では、全国での発症は毎年10-20例で、その中でも病因解明のための僧帽弁組織の病理組織解析、遺伝子解析が可能な僧帽弁機械弁置換症例は、全国で年間1-2例と極めて僅かである。そこで、過去のフォルマリン固定パラフィン包埋切片(FFPE)よりRNAを抽出し、次世代シーケンサを用いた網羅的トランスクリプトーム解析により、感染による炎症反応性の遺伝子発現変化、断裂時の遺伝子発現変動を詳細に解析し、本疾患の原因を明らかにする。
研究方法
1)僧帽弁組織が提供された1乳児症例において、大阪大学附属微生物病研究所でメタゲノム解析およびウイルスゲノムの検索を行なった。2)国立循環器病研究センター創薬オミックス解析センターにおいて、RNAトランスクリプトーム解析を実施した。手術による弁置換が必要で僧帽弁及び腱索組織が摂取できた症例サンプルを用いて、病理解析のためにホルマリン固定しパラフィン包埋された(Formalin Fixed Paraffin Embedding, FFPE)、僧帽弁、腱索からtotal RNAの抽出を行った。FFPE組織から得られるRNAは微量で低品質なため、タカラ社のSMARTer技術を用いてcDNAライブラリーを作成し、国立循環器病研究所創薬オミックス解析センター設置のNextSeq500を用いて詳細なRNA-seq解析を行った。本研究により、FFPE組織から抽出した微量で低品質なtotal RNAでもRNA-seq解析が可能であることが示された。シーケンスリード数を大幅に増やすことにより、網羅的な遺伝子発現解析ができるだけでなく、ヒトゲノムにマッピングされなかったRNA配列をもとに、感染源の探索も可能と考えられる。今後、他のFFPE組織を用いてRNA-seq解析を行うことでデータを蓄積するとともに、新鮮組織からの網羅的RNA-seq解析も行い、その結果との整合性も確認する必要がある。
結果と考察
1)僧帽弁組織が提供された1乳児症例において、大阪大学附属微生物病研究所でメタゲノム解析およびウイルスゲノムの検索を行なった。明らかな原因と考えられるウイルスや病原微生物は検出されなかった。2)FFPE組織から得られるRNAは微量で低品質なため、RNA-seq解析は、6,000万クラスター/検体を目標に行った。今回用いた6検体中、2検体のコントロール、2検体の患者において詳細に解析を行った結果、コントロール、患者検体間で遺伝子発現が大きく変化していた。また、当初予想された、炎症反応性の遺伝子発現変化も確認された。ウイルスゲノムの網羅的解析による病因解析、同じく組織からのRNAトランスクリプトーム解析による病態解明が可能であることが判明した。今後は、本疾患の診断および治療法の確立に向けて研究を発展させる予定である。今後は、新鮮組織からの網羅的RNA-seq解析も行い、その結果との整合性も確認する予定である。
結論
本研究により、FFPE組織から抽出した微量で低品質なtotal RNAでもRNA-seq解析が可能であることが示された。シーケンスリード数を大幅に増やすことにより、網羅的な遺伝子発現解析ができるだけでなく、ヒトゲノムにマッピングされなかったRNA配列をもとに、感染源の探索も可能と考えられる。今後、他のFFPE組織を用いてRNA-seq解析を行うことでデータを蓄積するとともに、新鮮組織からの網羅的RNA-seq解析も行い、その結果との整合性も確認する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2018-05-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201711025C

収支報告書

文献番号
201711025Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,500,000円
(2)補助金確定額
6,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,762,494円
人件費・謝金 0円
旅費 1,060,850円
その他 178,120円
間接経費 1,500,000円
合計 6,501,464円

備考

備考
自己資金 1,464円

公開日・更新日

公開日
2019-03-18
更新日
-