循環器難病に随伴する後天性フォンウィルブランド症候群の診断基準・重症度分類の確立

文献情報

文献番号
201711024A
報告書区分
総括
研究課題名
循環器難病に随伴する後天性フォンウィルブランド症候群の診断基準・重症度分類の確立
課題番号
H28-難治等(難)-一般-008
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
堀内 久徳(東北大学 加齢医学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 下川 宏明(東北大学 医学系研究科)
  • 齋木 佳克(東北大学 医学系研究科)
  • 下瀬川 徹(東北大学 医学系研究科)
  • 山口 拓洋(東北大学 医学系研究科)
  • 木村 剛(京都大学 医学研究科)
  • 松浦 稔(京都大学 医学研究科)
  • 安田 聡(国立循環器病研究センター)
  • 小亀 浩市(国立循環器病研究センター)
  • 中川 義久(天理よろづ相談所病院)
  • 山中 一朗(天理よろづ相談所病院)
  • 大花 正也(天理よろづ相談所病院)
  • 土井 拓(天理よろづ相談所病院)
  • 松本 雅則(奈良県立医科大学)
  • 安藤 献児(小倉記念病院)
  • 坂口 元一(小倉記念病院)
  • 福本 義弘(久留米大学 医学部)
  • 鳥村 拓司(久留米大学 医学部)
  • 海北 幸一(熊本大学 医学部附属病院)
  • 仲瀬 裕志(札幌医科大学 医学部・)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
3,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
止血必須因子であるフォンウィルブランド因子(VWF)は巨大多量体として産生され、ずり応力依存的に切断される。高分子量領域の多量体が止血機能に重要であり、高分子多量体欠損は出血性疾患後天性フォンウィルブランド症候群 (AVWS)となる。高ずり応力が生じ得る大動脈弁狭窄症、肺動脈性肺高血圧症や慢性血栓塞栓性肺高血圧症、(閉塞性)肥大型心筋症、ファロー四徴症等の難病や、重症の拡張型心筋症(難病)等による重症心不全治療の最終治療手段である機械的補助循環でもAVWS合併の報告があり我々も確認している。しかし現状ではその実態は不明である。また、標準的診断法であるVWF多量体解析法がこれまで定量的に評価されることがほとんどなかったので、重症度分類もない。そこで、多施設共同前向き臨床研究にて、本AVeC研究として、レジストリーを構築し、評価を行うこととなった。
研究方法
参加7診療施設において、上記疾患を200-500例ずつ登録し、血液解析担当の3施設で標準化・定量化したVWF高分子多量体を評価し、疾患毎の血液学的AVWSの発症頻度、出血頻度、さらに、AVWS重症度毎の出血頻度を、横断的および縦断的解析によって明らかにする。

結果と考察
(結果)
1. VWF多量体解析の標準化・定量化: 標準的診断法であるVWF多量体解析を、解析担当の3施設で同様の結果が出るように、標準化を行った。本研究では、VWF高分子量多量体index (T. Tamura, H. Horiuchi, et al (2015) J Atherosclerosis Thombosis 22, 1115-1123)を用いてVWF高分子量多量体を定量評価することとした。このindexの有用性を、2017年、2018年の日本血栓止血学会学術標準化シンポジウムにて、2017年7月に開催された国際血栓止血学会学術標準化シンポジウムにて、報告した。
2. 症例登録状況:平成30年3月20日までに循環器疾患症例を中心に613例・2,431検体が登録された。内訳は、大動脈弁狭窄症387例、僧帽弁閉鎖不全68例、肺高血圧症38例、肥大型閉塞性心筋症10例、先天性心疾患25例、その他85例である。
3. 大動脈弁狭窄症症例の予備解析:重症大動脈弁狭窄症(AS)は時に消化管出血を合併することがあり、ハイド症候群と呼ばれる。AS登録が300例を超えたため、予備解析した。INDEXは、大動脈弁狭窄症の重症度と比較的良好に相関し(R=0.45)、2018年の日本循環器学会で発表した。
4. 植込型補助人工心臓LVAD症例の解析: AVeC研究に登録されていた症例とAVeC研究開始以前の東北大心臓血管外科の症例をあわせて解析し、論文発表した(坂爪他 (2018) Eur J Cardio-Thorac Surg, in press)。この論文ではLVAD症例では大動脈弁狭窄症と比べて極めて高度なAVWSが発症し、約30%に発生した消化管出血は、VWF高分子量多量体INDEX40%以下というより高度のAVWS合併例が頻発したことを報告した。
5. ホームページ(http://www2.idac.tohoku.ac.jp/avec/)を公開中。
6. 診療ガイドラインへの反映:日本血栓止血学会で、診療ガイドラインを作成することとなり、我が国におけるエビデンスとしてデータを供する計画である。さらに、種々の循環器難病研究班と連絡をとり、本研究データをそれぞれの疾患の診療ガイドラインに反映させていただきたいと考えている。

(考察)定量的診断法を構築でき、さらに順調に登録症例数も増加した。まだ登録が少ない症例もあるため、今後も本研究を継続し、研究の完成をめざす。
本定量法(INDEX)で解析した大動脈弁狭窄症例では、大動脈弁狭窄症の重症度とINDEXがよく逆相関した(2018年3月日本循環器学会学術集会報告)。さらにLVAD症例では、INDEX40%という、重症AVWS症例に出血性合併症が頻発していた(K. Sakatsume他Eur J Cardio-Thorac Surg, in press)。これらの結果は、本定量指標が臨床的に有用な指標となる可能性を示唆する。
カテーテル型補助人工心臓である ImpellaⓇが、我が国実臨床でも使用されるようになった。平成29年度にはImpellaⓇ治療例を対象疾患として加えた。早急にデータを出したい。
結論
平成 28 、29年度と2年計画で、解析系である VWF 多量体解析の標準化・定量化を完了し、多くの症例が集積され概ね順調に研究は進行した。今後も、この循環器疾患、循環器難病に随伴する止血異常症であるAVWSの実態解明を目指し、邁進したい。

公開日・更新日

公開日
2018-06-12
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2018-05-31
更新日
2018-06-04

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201711024B
報告書区分
総合
研究課題名
循環器難病に随伴する後天性フォンウィルブランド症候群の診断基準・重症度分類の確立
課題番号
H28-難治等(難)-一般-008
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
堀内 久徳(東北大学 加齢医学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 下川 宏明 (東北大学 医学系研究科)
  • 齋木 佳克 (東北大学 医学系研究科)
  • 下瀬川 徹 (東北大学 医学系研究科)
  • 山口 拓洋  (東北大学 医学系研究科)
  • 木村 剛 (京都大学 医学研究科)
  • 松浦 稔 (京都大学 医学研究科)
  • 安田 聡 (国立循環器病研究センター 病院)
  • 小亀 浩市 (国立循環器病研究センター 研究所)
  • 中川 義久 (天理よろづ相談所病院)
  • 山中 一朗 (天理よろづ相談所病院)
  • 大花 正也 (天理よろづ相談所病院)
  • 土井 拓 (天理よろづ相談所病院)
  • 松本 雅則 (奈良県立医科大学)
  • 安藤 献児 (小倉記念病院)
  • 羽生 道弥 (小倉記念病院)
  • 坂口 元一(小倉記念病院)
  • 福本 義弘 (久留米大学 医学部)
  • 鳥村 拓司 (久留米大学 医学部 )
  • 海北 幸一 (熊本大学 生命科学研究部)
  • 仲瀬 裕志(札幌医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
止血因子であるフォンウィルブランド因子(VWF)は巨大多量体として産生され、ずり応力依存的に切断される。高分子量領域の多量体が止血機能に重要であり、高分子多量体欠損は出血性疾患後天性フォンウィルブランド症候群 (AVWS)となる。高ずり応力が生じ得る大動脈弁狭窄症、肺動脈性肺高血圧症や慢性血栓塞栓性肺高血圧症、(閉塞性)肥大型心筋症、ファロー四徴症等の難病や、重症の拡張型心筋症(難病)等による重症心不全治療の最終治療手段である機械的補助循環でもAVWS合併の報告がある。しかし現状ではその実態は不明である。また、標準的診断法であるVWF多量体解析法がこれまで定量的に評価されておらず、重症度分類もない。本多施設共同前向き臨床研究は循環器疾患に伴うAVWSの実態を明らかにし、重症度分類を行うことを目的とする。
研究方法
参加7診療施設において、上記疾患を200-500例ずつ登録し、血液解析担当の3施設で標準化・定量化したVWF高分子多量体を評価し、疾患毎の血液学的AVWSの発症頻度、出血頻度、さらに、AVWS重症度毎の出血頻度を、横断的および縦断的解析を行う。
結果と考察
(結果)

1. VWF多量体解析の標準化・定量化: 標準的診断法であるVWF多量体解析を、解析担当の3施設で標準化を行った。本研究では、VWF高分子量多量体index (T. Tamura他 (2015) J Atheroscl Thombos)を用いてVWF高分子量多量体を定量評価することとした。このindexの有用性を、2017年、2018年の日本血栓止血学会学術標準化シンポジウムにて、2017年7月に開催された国際血栓止血学会学術標準化シンポジウムにて報告した。
2. 症例登録状況:平成30年3月20日までに循環器疾患症例を中心に613例・2,431検体が登録された。内訳は、大動脈弁狭窄症387例、僧帽弁閉鎖不全68例、肺高血圧症38例、肥大型閉塞性心筋症10例、先天性心疾患25例、その他85例である。
3. 大動脈弁狭窄症症例の予備解析:重症大動脈弁狭窄症(AS)は時に消化管出血を合併することがあり、ハイド症候群と呼ばれる。AS登録が300例を超えたため、予備解析した。INDEXは、大動脈弁狭窄症の重症度と比較的良好に相関し(R=0.45)、2018年の日本循環器学会で発表した。
4. 植込型補助人工心臓LVAD症例の解析:2016年度には、高度のAVWSを合併する出血制御困難LVAD症例を報告した(坂爪他 (2016) Artific Organs)。 本AVeC研究に登録されていた症例とAVeC研究開始以前の東北大心臓血管外科の症例をあわせて解析し、LVAD症例では大動脈弁狭窄症と比べて極めて高度なAVWSが発症し、約30%に発生した消化管出血は、VWF高分子量多量体INDEX40%以下の高度AVWS合併例に頻発したことを論文発表した(坂爪他 (2018) Eur J Cardio-Thorac Surg, in press)。
5. ホームページ(http://www2.idac.tohoku.ac.jp/avec/)を2016年度より公開し、2017年度改訂を加えた。。
6. 診療ガイドラインへの反映:2017年度、日本血栓止血学会で、診療ガイドラインを作成することとなり、我が国におけるエビデンスとしてデータを供する計画である。さらに、種々の循環器難病研究班と連絡をとり、本研究データをそれぞれの疾患の診療ガイドラインに反映させていただきたいと考えている。

(考察)

定量的診断法を構築でき、さらに順調に登録症例数も増加した。まだ登録が少ない症例もあるため、今後も本研究を継続し、研究の完成をめざす。
本定量法(INDEX)で解析した大動脈弁狭窄症例では、大動脈弁狭窄症の重症度とINDEXがよく逆相関した(2018年3月日本循環器学会学術集会報告)。さらにLVAD症例では、INDEX40%という、重症AVWS症例に出血性合併症が頻発していた(K. Sakatsume他Eur J Cardio-Thorac Surg)。これらの結果は、本定量指標が臨床的に有用な指標となる可能性を示唆する。
カテーテル型補助人工心臓である ImpellaⓇが、我が国実臨床でも使用されるようになった。平成29年度にはImpellaⓇ治療例を対象疾患として加えた。早急にデータを出したい。
結論
平成 28 、29年度と2年計画で、解析系である VWF 多量体解析の標準化・定量化を完了し、多くの症例が集積され概ね順調に研究は進行した。今後も、この循環器疾患、循環器難病に随伴する止血異常症であるAVWSの実態解明を目指し、邁進したい。

公開日・更新日

公開日
2018-06-12
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-05-31
更新日
2018-06-04

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201711024C

成果

専門的・学術的観点からの成果
肺高血圧症、肥大型閉塞性心筋症等の循環器難病や大動脈弁狭窄症、機械的補助循環等では非生理的な高ずり応力のため止血因子フォンウィルブランド因子が分解され、止血異常症である後天性フォンウィルブランド症候群を来たすことがある。診断法の多量体解析はほとんど定量的に評価されてきておらず、重症度分類もない。本法の標準化・定量化を構築し、国際血栓止血学会(2017年)シンポジウムで発表した。この定量法を用いて、世界でも類を見ない、多施設前向きThe AVeC研究を進めている。
臨床的観点からの成果
循環器疾患が、後天性フォンウィルブランド症候群という止血異常症を来す場合があることに関して、我が国の診療現場に行き渡っているとは言いがたい。診療上、本疾患概念の理解は重要であり、周知に努めた。学会や講演会での発表や、日本語総説論文を発表し、さらに、疾患ホームページを作成・公開した(http://www2.idac.tohoku.ac.jp/avec2/)。
ガイドライン等の開発
2021年度に日本血栓止血学会にて、フォンウィルブランド病の診療ガイドラインを公開した((3) (日本血栓止血学会)von Willebrand 病の診療ガイドライン作成委員会: 日笠聡(委員長),渥美達也,石黒 精,金子 誠,高橋芳右,野上恵嗣,藤井輝久堀内久徳,松井太衛,毛利 博,森下英理子,松下 正(2121) von Willebrand病の診療ガイドライン 2021年版、血栓止血誌32, 413-481)。本研究成果は重要な基本データのひとつとしてとして貢献した。
その他行政的観点からの成果
植込型補助人工心臓z(LVAD)医療は急速に発展し我が国でも年間150例が治療を受けている。合併症としてはドライブライン感染、ポンプ内血栓とともに出血が知られている。ポンプ内の高ずり応力による後天性フォンウィルブランド症候群が出血に重要な役割を果たす。本研究にてLVAD関連論文を2編報告した。そして、我が国の主要なLVAD診療10施設と本研究の血液解析3施設が合同で、実態を明らかにするためThe LVAD-AVWS研究を開始した(2017年度より、また、2020年よりAMEDのサポート)。
その他のインパクト
「シンポジウムでの研究発表等」は以下のように行った:(2016年度)日本生化学会、国際機械的補助循環学会、日本心血管インターベンション治療学会、日本循環器学会、(2017年度)国際血栓止血学会、日本血栓止血学会SSCシンポジウム、日本循環器学会(日経メディカルオンラインに記事)。(2018年度)日本輸血細胞治療学会、日本老年学会。「教育講演」は以下のように行った:(2016年度)日本動脈硬化学会教育フォーラム、(2018年度)日本血液学会、日本血栓止血学会。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
12件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
13件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
K. Sakatsume, K. Saito, M Akiyama他
Association between severity of acquired von willebrand syndrome and gastrointestinal bleeding after continuous flow left ventricular assist device implantation.
Eur J Cardio-Thorac Surg , 54 , 841-846  (2018)
10.1093/ejcts/ezy172
原著論文2
K. Sakatsume, M. Akiyama, K. Saita他
Intractable bleeding tendency due to acquired von Willebrand syndrome after Jarvik 2000 implant (a case report)
J Artificial Organs , 19 (3 ) , 289-292  (2016)
10.1007/s10047-016-0896-7
原著論文3
堀内久徳、松本雅典、小亀浩市
循環器疾患随伴後天性フォンウィルブランド症候群の臨床的インパクト
日本血栓止血学会誌 , 27 , 316-327  (2016)
原著論文4
Tamura T, Horiuchi H他
Acquired von Willebrand syndrome in patients treated with veno-arterial extracorporeal membrane oxygenation
Cardiovasc Interv Ther , in press  (2019)
10.1007/s12928-019-00568-y
原著論文5
H. Horiuchi, T. Doman, K. Kokame, Y. Saiki, M. Matsumoto
Acquired von Willebrand syndrome associated with cardiovascular diseases
J Atherosclerosis Thombosis , 26 , 303-314  (2019)
10.5551/jat.RV17031
原著論文6
堀内久徳
高ずり応力が引き起こす止血異常症
臨床血液 , 59 , 2233-2237  (2018)
10.11406/rinketsu.59.2233
原著論文7
(3) (日本血栓止血学会)von Willebrand 病の診療ガイドライン作成委員会
von Willebrand病の診療ガイドライン 2021年版
血栓止血誌 , 32 , 413-481  (2021)

公開日・更新日

公開日
2018-06-11
更新日
2022-06-09

収支報告書

文献番号
201711024Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,000,000円
(2)補助金確定額
5,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,779,628円
人件費・謝金 0円
旅費 25,000円
その他 42,573円
間接経費 1,153,000円
合計 5,000,201円

備考

備考
201円は自己資金 

公開日・更新日

公開日
2019-02-12
更新日
-