文献情報
文献番号
201711015A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子診断に基づく不整脈疾患群の病態解明および診断基準・重症度分類・ガイドライン作成に関する研究
課題番号
H27-難治等(難)-一般-032
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
堀江 稔(国立大学法人滋賀医科大学 医学部 内科学講座(呼吸器・循環器))
研究分担者(所属機関)
- 清水 渉(日本医科大学 大学院医学研究科・教授)
- 青沼和隆(国立大学法人筑波大学 医学医療系 循環器内科・循環器内科学 教授)
- 蒔田直昌(長崎大学 医歯薬学総合研究科 分子生理学 教授)
- 住友直方(埼玉医科大学 医学部 教授)
- 萩原誠久(東京女子医科大学・循環器内科・教授)
- 堀米仁志(筑波大学・ 医学医療系・教授)
- 福田恵一(慶應義塾大学医学部・循環器内科・教授)
- 吉永正夫(国立病院機構鹿児島医療センター・小児科・医師)
- 牧山 武(京都大学大学院・医学研究科・助教)
- 渡部 裕(新潟大学 医歯学総合研究科 客員研究員)
- 林 研至(金沢大学・ 附属病院・助教)
- 宮本恵宏(国立循環器病研究センター ・予防健診部 ・部長)
- 相庭武司(国立循環器病研究センター・心臓血管内科・医長)
- 白石 公(国立循環器病研究センター 教育推進部・小児循環器学・部長)
- 大野聖子(滋賀医科大学アジア疫学センター・客員教授)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
4,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
カテコラミン誘発性多形性心室頻拍 (CPVT) とQT延長症候群 (LQTS) 1型 (LQT1) は、共に運動や精神的ストレスによりカテコラミンが上昇するような状況で、多形性心室頻拍 (pVT) や心室細動 (VF) を引き起こす遺伝性不整脈疾患である。1-4 さらに両者の後発年齢は共に10歳前後であることから、CPVTの方が予後不良であるにも関わらず、LQT1と誤診されることがある。5-7 そこで両者を鑑別するための注意点を明確にし、さらに鑑別のためのスコアリングシステムを構築するため本研究を行った。
研究方法
1から20歳で運動や精神的ストレスにより失神を来たし、CPVTあるいはLQTSを疑われ、滋賀医科大学と京都大学で遺伝子検査を行った167例の患者を対象とした。遺伝子解析は、次世代シークエンサー等を使用しLQTS、CPVTの責任遺伝子のスクリーニングを行った。このうち、146例について臨床的特徴を後方視的に検討し、それを基にLQTSの臨床診断に有用なSchwartzスコア8 を修正し、CPVTとLQT1を鑑別する新たなスコアリングシステムを構築した。さらに残り21例にそのシステムを適応し、その感度・特異度を検討した。
統計学的解析には、SPSS 22.0 statistical package (IBM) を使用し、unpaired t–test、Mann–Whitney U test、chi–squared testを用いた。P<0.05を有意水準とした。
本研究は、滋賀医科大学と京都大学の倫理委員会において承認されたものであり、遺伝子解析にあたり研究対象者あるいはその保護者に説明し同意を得て施行した。
統計学的解析には、SPSS 22.0 statistical package (IBM) を使用し、unpaired t–test、Mann–Whitney U test、chi–squared testを用いた。P<0.05を有意水準とした。
本研究は、滋賀医科大学と京都大学の倫理委員会において承認されたものであり、遺伝子解析にあたり研究対象者あるいはその保護者に説明し同意を得て施行した。
結果と考察
本研究ではなぜCPVT患者がLQT1と初期診断されるのかを検討し、その鑑別をより適切に行うためにSchwartzスコアを修正したスコアリングシステムを提案した。
またCPVTとLQT1の鑑別は、遺伝子検査後に後方視的に再検討すると一見複雑ではないように見えるが、我々は以下の3つの注意点があることを明らかにした。
1つ目は、蘇生後の一過性のQT延長である。今回我々は蘇生後の一過性のQT延長とT波陰性化を経時的に示した。これまでの報告でも、蘇生後に低体温療法を受けた患者で、蘇生後と低体温療法中にQT延長を認めたものの、低体温療法終了後には改善したという報告がある.
また類似の経時的変化が急性心筋梗塞後にも認められることから、同様のメカニズムがこのT波陰転化を伴う一過性のQT延長を引き起こすのではないかと推測している。QT延長について診断を正確に行うためには、この蘇生後のT波陰転化を伴う一過性のQT延長に注意が必要である。
2つ目は、エピネフリン投与によりCPVT患者においてもQT延長を起こし得ることである。これまでの報告で、エピネフリン投与試験はRYR2やKCNQ1変異保因者を明らかにするのに有用であるとされている が、CPVT患者においてはその有用性はESTに劣るとも報告されている。さらにCPVT患者における、エピネフリン投与によるQT時間の変化は十分には明らかにされておらず、CPVTの診断にエピネフリン負荷試験を用いるときは、その結果については慎重に解釈した方が良いと思われる。
3つ目は、ESTにより誘発される心室性不整脈はCPVTの特徴と考えられているが、これは必ずしも誘発されないという点である。これまでESTで心室性不整脈が誘発されなかった症例でも、経過中に心イベントを起こした報告がある。したがって、運動や精神的ストレスにより心イベントを起こした症例において、CPVT関連遺伝子のスクリーニングを行うことは有用かもしれない。
ただし、非常に少数ではあるが、LQTSのみ、あるいはLQTSとCPVTがオーバーラップした表現型を示したRYR2変異保因者の報告があり注意が必要である。
Schwartzスコアは、これまでの研究でLQTSの診断に関して特異度は高いが、感度は低いとされていたが、これは我々の研究結果でも同様であった。このため、我々はEST所見を強調することで、この感度を改善することを試みた。その結果、新たなスコアリングシステムは、LQT1とCPVTの鑑別に関して非常に高い感度・特異度を得ることができた。
またCPVTとLQT1の鑑別は、遺伝子検査後に後方視的に再検討すると一見複雑ではないように見えるが、我々は以下の3つの注意点があることを明らかにした。
1つ目は、蘇生後の一過性のQT延長である。今回我々は蘇生後の一過性のQT延長とT波陰性化を経時的に示した。これまでの報告でも、蘇生後に低体温療法を受けた患者で、蘇生後と低体温療法中にQT延長を認めたものの、低体温療法終了後には改善したという報告がある.
また類似の経時的変化が急性心筋梗塞後にも認められることから、同様のメカニズムがこのT波陰転化を伴う一過性のQT延長を引き起こすのではないかと推測している。QT延長について診断を正確に行うためには、この蘇生後のT波陰転化を伴う一過性のQT延長に注意が必要である。
2つ目は、エピネフリン投与によりCPVT患者においてもQT延長を起こし得ることである。これまでの報告で、エピネフリン投与試験はRYR2やKCNQ1変異保因者を明らかにするのに有用であるとされている が、CPVT患者においてはその有用性はESTに劣るとも報告されている。さらにCPVT患者における、エピネフリン投与によるQT時間の変化は十分には明らかにされておらず、CPVTの診断にエピネフリン負荷試験を用いるときは、その結果については慎重に解釈した方が良いと思われる。
3つ目は、ESTにより誘発される心室性不整脈はCPVTの特徴と考えられているが、これは必ずしも誘発されないという点である。これまでESTで心室性不整脈が誘発されなかった症例でも、経過中に心イベントを起こした報告がある。したがって、運動や精神的ストレスにより心イベントを起こした症例において、CPVT関連遺伝子のスクリーニングを行うことは有用かもしれない。
ただし、非常に少数ではあるが、LQTSのみ、あるいはLQTSとCPVTがオーバーラップした表現型を示したRYR2変異保因者の報告があり注意が必要である。
Schwartzスコアは、これまでの研究でLQTSの診断に関して特異度は高いが、感度は低いとされていたが、これは我々の研究結果でも同様であった。このため、我々はEST所見を強調することで、この感度を改善することを試みた。その結果、新たなスコアリングシステムは、LQT1とCPVTの鑑別に関して非常に高い感度・特異度を得ることができた。
結論
本研究は、CPVTがLQT1と誤診される理由を初めて検討した。さらにSchwartzスコアを改変した新たなスコアリングシステムは、運動や精神的ストレスにより心イベントを起こした患者において、CPVTとLQT1を鑑別するのに有用であった。
公開日・更新日
公開日
2018-06-01
更新日
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