文献情報
文献番号
201711010A
報告書区分
総括
研究課題名
マイクロアレイ染色体検査でみつかる染色体微細構造異常症候群の診療ガイドラインの確立
課題番号
H27-難治等(難)-一般-024
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
倉橋 浩樹(藤田保健衛生大学 総合医科学研究所・分子遺伝学研究部門)
研究分担者(所属機関)
- 大橋博文(埼玉県立小児医療センター遺伝科)
- 黒澤健司(地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立こども医療センター遺伝科)
- 山本俊至(東京女子医科大学大学遺伝子医療センターゲノム診療科)
- 涌井敬子(信州大学医学部遺伝医学予防医学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
7,144,000円
研究者交替、所属機関変更
該当なし
研究報告書(概要版)
研究目的
染色体の欠失や重複のような微細構造異常によるコピー数の変化(copy number variation: CNV)は、器官発生に関わる転写因子や、ヒストン修飾因子、クロマチン因子などの転写調節因子が遺伝子の量的効果の影響を受けやすいため、先天性疾患の原因となることが多い。従来はG分染法による染色体検査やFISH法での診断が行われてきたが、マイクロアレイ染色体検査の普及により、CNVの検出感度が飛躍的に向上した。欧米では、多発奇形・発達遅滞の原因の精査としては従来の染色体検査にかわる第1選択の診断ツールとされている。多発奇形・発達遅滞の患者でG分染法では3%であった異常検出率が、マイクロアレイ染色体検査の導入により、15-20%の患者で責任変異を同定できるとされ、数多くの新規疾患も定義された。日本でも、すでに5000以上の患者データが蓄積されている。しかし、網羅的検査に特有の意義不明のCNVの解釈(variation of unknown significance: VUS)、偶発的所見(incidental findings: IF)や二次的所見(secondary findings: SF)への対応などの問題点が未解決であり、検査提供体制が整っているとはいえない。昨年、マイクロアレイ染色体検査が診断に必須な疾患が小児慢性特定疾患に追加されるなど、臨床的有用性は高いものの、高コストの問題があり、自費診療の中で一部の患者がその恩恵を被るにとどまる。また、近年は、多発奇形・発達遅滞の患者の原因の精査としては、次世代シーケンサーによるエクソーム解析の台頭もあり、十分な検査適応の指針が必要である。研究代表者を含む本研究班員はこれまで、厚労省難治性疾患克服研究事業の支援も受け、多発奇形・発達遅滞の患者の原因の精査としてのマイクロアレイ染色体検査を診療の中でおこなってきた。本研究ではそれを継続する形で、3年間で、マイクロアレイ染色体検査により診断される多発奇形・発達遅滞の患者の診療ガイドラインの作成を目指して、各疾患の診断基準作成を目標とする。代表的な32疾患に関して、本年度(3年目、最終年度)は、引き続き、マイクロアレイ染色体検査による診断を進めつつ、これら32疾患のうちすでに情報量の多く得られた疾患から順次臨床診断基準の作成をおこなうことを目標とした。
研究方法
疾患リストの32疾患のうち7疾患はすでに難病指定がなされた。残りの25疾患に関して、順次臨床診断基準の作成をおこなう予定であった。しかし、エクソーム解析が急速に普及、かつ、低価格化し、また、そのデータ定量化により微細欠失重複を検出する診断アルゴリズムの精度が向上した。当初の研究計画より先に、未診断患者に対する初期検査としてのマイクロアレイと定量エクソームとの診断精度の比較検討を行った。多発奇形・発達遅滞の患者の原因の精査としてエクソーム解析を先行させ、その定量により疾患責任CNVの候補を推定し、マイクロアレイ染色体検査、MLPA法、qPCR法などにより確認した。エクソームのデータはターゲットエクソーム解析、全エクソーム解析ともに、Log2変換法や隠れマルコフモデル(exome hidden Markov model: XHMM)によるアルゴリズムなどを用いて観察研究として比較検討を行った。一方、上記のデータをみながら、十分な再検討を行った。
結果と考察
未診断患者に対して、エクソーム解析を先に行った。その結果、微細欠失重複症候群のような複数の遺伝子にまたがる欠失重複の場合は、(1)エクソームデータの定量(Log2変換法、隠れマルコフモデルによるアルゴリズムXHMM)は、第一段階のスクリーニング検査として、マイクロアレイ染色体検査と同等の十分な検出感度が得られた。ただ、他の方法での確認のステップが必要であり、マイクロアレイ染色体検査が確定検査として有用であった。(2)エクソームの定量で見つからなかった症例にマイクロアレイ染色体検査を行い、新たに疾患責任CNVが同定された症例はなく、スクリーニングはエクソーム・ファーストで行うことが妥当であると思われた。25疾患に関しては、疾患によっては難病指定を目指すべき疾患と小児慢性特定疾患を目指すべき疾患があり、それらはすでに「先天異常症候群」や「常染色体異常症」という形で認定されている枠組みに紐付けすることを目指すが、個々の疾患の特性は、疾患によって大きく異なるので、診断基準策定は個別に対応する必要があることが確認された。
結論
未診断の多発奇形・発達遅滞の患者の原因のスクリーニングとしては、エクソーム・ファーストでおこない、微細欠失重複症候群を疑わせるCNVが同定されれば、マイクロアレイ染色体検査で確定させる戦略が効率が良いと思われる。
公開日・更新日
公開日
2018-05-30
更新日
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