文献情報
文献番号
201710003A
報告書区分
総括
研究課題名
女性の健康の社会経済学的影響に関する研究
課題番号
H29-女性-一般-002
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
飯島 佐知子(順天堂大学 医療看護学研究科 看護管理学・保健経済学)
研究分担者(所属機関)
- 横山 和仁(順天堂大学 医学研究科 疫学・環境医学)
- 福田 敬(国立保健科学院医療・福祉サービス研究部)
- 西岡 笑子(防衛医科大学校 母性看護学)
- 齊藤 光江(順天堂大学 医学部 乳腺・内分泌外科)
- 大西 麻未(順天堂大学 医療看護学研究科 看護管理学)
- 五十嵐 中(東京大学大学院 薬学系研究科 医薬政策学)
- 遠藤 源樹(順天堂大学 医学部 公衆衛生学)
- 坂本 めぐみ(防衛医科大学校 母性看護学)
- 三上 由美子(防衛医科大学校 母性看護学)
- 古谷 健一(防衛医科大学校 産婦人科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 女性の健康の包括的支援政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
4,616,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
1)月経困難症や骨粗鬆症など女性特有の疾患や、女性の生活習慣病が女性の各ライフステージにおいてどの程度社会的損失を生み出しているかについて、労働力の観点、医療費の観点、介護費の観点なとから検討し、女性の健康の社会経済学的影響について明らかにすること。2)職場や地域における女性の健康増進に係る取組の好事例の収集すること。3)それらの取組による健康増進の社会経済学的インパクトの評価すること。
研究方法
以下の5つの調査を実施した。
1)女性の罹病による医療費および生産性損失の計算:使用データは、2014年の社会医療診療行為別調査、患者調査、賃金構造基本統計調査、労働力調査の公開データを用いた。推計式は、疾患分類別年間医療費=Σ1日診療単価×年間受療日数=Σ1日診療単価×推計患者数×診療日数、罹病による生産性損失=1日あたり所得×(総患者日数-受療日数)×就業率×就業率低下×生産力係数とした。
2)疾患・出産・育児・介護による離職の労働力損失の計算:総務庁統計局の2017年の労働力調査および、厚生労働省:2016年賃金構造基本統計調査の概況を用いて、年間合計賃金=月額賃金×12ヶ月×女性人数の式で算定した。
3)働く女性に対するweb調査:全国で働く20~65歳未満の女性2000名に対し平成30年1月にweb調査を実施した。
4)自治体調査:対象は都道府県の女性の健康支援担当部署、女性健康支援センター、市民健康課 全国市町村に質問紙調査を行った。調査項目は、女性の健康相談事業の有無、相談件数、女性の健康講座の内容、対象者、実施回数、女性の健康に関するパンフレットの作成等の実施状況と費用とした。
5)企業調査:全国の「えるぼし」や「くるみん」認定企業を対象に、女性支援事業の内容、事業費、効果として、女性の休職率・離職率を調査し、費用便益を検討した。
1)女性の罹病による医療費および生産性損失の計算:使用データは、2014年の社会医療診療行為別調査、患者調査、賃金構造基本統計調査、労働力調査の公開データを用いた。推計式は、疾患分類別年間医療費=Σ1日診療単価×年間受療日数=Σ1日診療単価×推計患者数×診療日数、罹病による生産性損失=1日あたり所得×(総患者日数-受療日数)×就業率×就業率低下×生産力係数とした。
2)疾患・出産・育児・介護による離職の労働力損失の計算:総務庁統計局の2017年の労働力調査および、厚生労働省:2016年賃金構造基本統計調査の概況を用いて、年間合計賃金=月額賃金×12ヶ月×女性人数の式で算定した。
3)働く女性に対するweb調査:全国で働く20~65歳未満の女性2000名に対し平成30年1月にweb調査を実施した。
4)自治体調査:対象は都道府県の女性の健康支援担当部署、女性健康支援センター、市民健康課 全国市町村に質問紙調査を行った。調査項目は、女性の健康相談事業の有無、相談件数、女性の健康講座の内容、対象者、実施回数、女性の健康に関するパンフレットの作成等の実施状況と費用とした。
5)企業調査:全国の「えるぼし」や「くるみん」認定企業を対象に、女性支援事業の内容、事業費、効果として、女性の休職率・離職率を調査し、費用便益を検討した。
結果と考察
1)女性の罹病による社会的損失の合計は28.7兆円であり、2017年の実質GDPの5%に相当した。損失の大きい女性の疾患は、消化器系疾患(4.7兆円)循環器系疾患(4.6兆円)、新生物(2.7兆円)、筋骨格・結合組織の疾患(2.4兆円)であった。女性の生活習慣病の社会的損失は9.2兆円であった。女性特有の疾患の社会的損失は2.3兆円であった。
2) 2017年に健康上の理由、出産・育児・介護のために離職して就職を希望しているが仕事につけない女性は108万人であった。その労働生産性の損失は、3.7兆円であり、就業できない女性の労働生産性の損失の48.6%を占め、名目GDPの0.7%に該当した。
3)月経関連の不快な症状のある者のうち、産婦人科の受診者は19.0%、産業医・保健師に相談した者は1.8%であった。子宮頸がん・乳がん検診は、50~60%が未受診であった。受けない理由は、時間がない、場所が遠い、費用が高いと回答した者が80~90%であった。時間、費用を提供できれば受検率が上昇、早期発見、治療が期待できる。職場の女性の健康問題の相談窓口ついて、92%の者がない・わからないと回答した。87.9%の女性が健康情報をインターネットから得ていると回答したため、正しい知識をインターネット上で提供することが重要である。
4)自治体調査の回収率は都道府県健康増進課57.4%、男女共同参画センター66%、市町村29.5%であった。健康講座は、命の教育、思春期の心と身体、乳がん、子宮頸がん検診、更年期の心と身体、妊娠・出産・育児中の女性向けの講座が多かった。パンフレットやHPによる情報提供の内容は、乳がん、子宮頸がん検診が多かった。女性に特化した健康づくり事業はほとんど存在せず、複数の部署が分散して実施していた。
5) 14企業から回答を得た。従業員数は20-3750 人であった。検診実施率は乳がん超音波検査6割、子宮頸がん細胞7割であったが、マンモグラフィ、月経随伴症状の聴取、骨密度測定の実施率は4割以下であった。女性の健康の相談窓口を設置している企業は、2社に過ぎず、女性の罹患状況が把握されず、医療機関への紹介はされていなかった。1次から3次の予防対策の実施率は25%以下であった。予防対策の実施状況とそれに要した費用は関連がなく、予防対策の費用に対して便益が低い企業があった。
2) 2017年に健康上の理由、出産・育児・介護のために離職して就職を希望しているが仕事につけない女性は108万人であった。その労働生産性の損失は、3.7兆円であり、就業できない女性の労働生産性の損失の48.6%を占め、名目GDPの0.7%に該当した。
3)月経関連の不快な症状のある者のうち、産婦人科の受診者は19.0%、産業医・保健師に相談した者は1.8%であった。子宮頸がん・乳がん検診は、50~60%が未受診であった。受けない理由は、時間がない、場所が遠い、費用が高いと回答した者が80~90%であった。時間、費用を提供できれば受検率が上昇、早期発見、治療が期待できる。職場の女性の健康問題の相談窓口ついて、92%の者がない・わからないと回答した。87.9%の女性が健康情報をインターネットから得ていると回答したため、正しい知識をインターネット上で提供することが重要である。
4)自治体調査の回収率は都道府県健康増進課57.4%、男女共同参画センター66%、市町村29.5%であった。健康講座は、命の教育、思春期の心と身体、乳がん、子宮頸がん検診、更年期の心と身体、妊娠・出産・育児中の女性向けの講座が多かった。パンフレットやHPによる情報提供の内容は、乳がん、子宮頸がん検診が多かった。女性に特化した健康づくり事業はほとんど存在せず、複数の部署が分散して実施していた。
5) 14企業から回答を得た。従業員数は20-3750 人であった。検診実施率は乳がん超音波検査6割、子宮頸がん細胞7割であったが、マンモグラフィ、月経随伴症状の聴取、骨密度測定の実施率は4割以下であった。女性の健康の相談窓口を設置している企業は、2社に過ぎず、女性の罹患状況が把握されず、医療機関への紹介はされていなかった。1次から3次の予防対策の実施率は25%以下であった。予防対策の実施状況とそれに要した費用は関連がなく、予防対策の費用に対して便益が低い企業があった。
結論
女性の罹病による社会的損失は28.7兆円となり、GDPの5%に相当した。今後、女性の健康にかかわる予防から治療、就労継続までの包括的な支援のために、インターネットによる女性の健康情報の提供、自治体や企業において、女性の健康づくりついて学習して日常生活を見直す機会の提供、乳がん・子宮がんの検診受診のための時間の提供、職場や地域等の相談窓口、医療施設との連携を構築していく必要がある。
公開日・更新日
公開日
2018-08-29
更新日
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