文献情報
文献番号
201709016A
報告書区分
総括
研究課題名
生涯にわたる循環器疾患の個人リスクおよび集団のリスク評価ツールの開発を目的とした大規模コホート統合研究
課題番号
H29-循環器等-一般-003
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
岡村 智教(慶應義塾大学 医学部 衛生学公衆衛生学教室)
研究分担者(所属機関)
- 二宮 利治(九州大学大学院 医学研究院 )
- 大久保 孝義(帝京大学 医学部 )
- 磯 博康(大阪大学大学院 医学系研究科 )
- 玉腰 暁子(北海道大学大学院 医学研究科 )
- 宮本 恵宏(国立循環器病研究センター 予防健診部/予防医学・疫学情報部)
- 三浦 克之(滋賀医科大学 医学部)
- 斎藤 重幸(札幌医科大学 保健医療学部)
- 辻 一郎(東北大学大学院 医学系研究科)
- 中川 秀昭(金沢医科大学 総合医学研究所)
- 山田 美智子((公財)放射線影響研究所 臨床研究部)
- 坂田 清美(岩手医科大学 医学部)
- 岡山 明((同)生活習慣病予防センター)
- 村上 義孝(東邦大学 医学部)
- 木山 昌彦((公財)大阪府保健医療財団 大阪がん循環器病予防センター)
- 上島 弘嗣(滋賀医科大学 アジア疫学研究センター)
- 石川 鎮清(自治医科大学 医学部)
- 八谷 寛(藤田保健衛生大学 医学部)
- 中山 健夫(京都大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
28,161,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
危険因子への介入は循環器疾患を予防するために有用である。しかし一般の市町村では危険因子と循環器疾患の関連を直接検証することができないため、予防対策の効果をみるのは困難である。また危険因子についても血圧など個々の危険因子の変化などで評価しているが、複数の危険因子の変化と発症の関連を総合的にみないと地域の健康度を把握したことにならない。個人についてはフラミンガムスコアのようなリスク評価ツール(リスクエンジン)で複数の危険因子から発症リスクを評価し、それにより治療方針を決定する仕組みが一部のガイドラインでも取り入れられているが、集団全体の患者数等を予測するリスクエンジンはない。本研究では、初年度に健康日本21(第二次)の目標設定に貢献した20万人の15年追跡(約300万人年)のデータベース(17コホート)を先行研究から引き継いで、市町村等が保有する健診データ等を投入することで当該集団(市町村)に対する将来の循環器疾患発症者数等を予測するリスクエンジンを開発する。開発に際してはもともと存在する死亡率や危険因子の地域差も考慮するモデルとし、単なる予測ではなく現実的な目標設定に資するものとする。次年度以降は開発したリスクエンジンを各コホートに戻して実測値と照らし合わせて再検証し、データベースの拡充を行った上で最終版のリスクエンジンを確定する。また引き続き個人の循環器疾患発症予測のリスクエンジンも作成する。
研究方法
先行研究のデータベースを用いて、集団間の危険因子レベル、循環器疾患(冠動脈疾患、脳卒中、心不全)発症率・死亡率、競合リスク(がん死亡など)、ベースライン調査年等を明らかにし、それぞれの情報を取り入れて集団全体の循環器疾患発症者数等を予測するモデルを作成する。この際、元々の死亡率のレベルを考慮したリスクエンジンとして現実とかけ離れた目標設定とならないようにする。このリスクエンジンは各コホートで用いて実際の発症者数との差を検証する。さらに各コホートでの追跡調査の継続や新規コホートの支援を行いデータベース拡充の準備をする。また統合データを用いて公衆衛生上有益な新しいエビデンスを発信する。
結果と考察
個人情報保護法の改正に伴って「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」への対応を実施した。新しい倫理指針への個々のコホート研究グループ内での検討状況を精査し、研究代表者(岡村、慶應義塾大学)及びデータ管理者(三浦、滋賀医科大学)のそれぞれの倫理委員会において、新しい指針下での承認を得た。現時点では収集済みのデータの使用は問題ないことが確認されたが、今後のデータ提供と統合については新しい指針への準拠が必要と考えられた。そのため参加コホートの研究代表者宛に今後のデータ提供についての手続きについてアンケート調査を行った。ごく一部の追跡終了となっているコホートを除いて、扱われるデータは直ちに個人が判別できないように加工された情報ということになり、他機関へのデータ提供に際しては、オプトアウトによる通知が必要であることが明らかとなった。基本的には本研究目的の達成が現存のサンプルサイズで可能かどうかを検討して進めることとした。
個人の10年間の循環器疾患死亡リスク予測モデルでは、11コホートのデータの年齢、性別、喫煙、血圧、降圧剤有無、コレステロール、尿タンパク、循環器疾患既往、糖尿病を用いた予測モデル案が作成され、妥当性を検証中である。個人向けモデルは交互作用項や投入可能な変数をできるだけ取り入れた複雑なモデル、集団向け(公衆衛生)モデルは、健康日本21(第二次)の評価指標である収縮期血圧、総コレステロール、糖尿病、喫煙を基本としたシンプルなモデルを構築していく。また安定した統計モデルの構築のためには、サンプルサイズを大きくすると同時に、既存のコホート統合データベースを用いた基礎的な検討、すなわち集団間の危険因子レベル、循環器疾患死亡率との関連、基本的な統計モデルの吟味等が必要であり、生物統計や疫学の専門家が協力して順次実施した。
今年度は高齢者における高血圧と服薬の循環器死亡に与える影響、極端にHDLコレステロールが高い場合等、統合研究と個別分担研究を含めると合計50本の論文が公表された。
個人の10年間の循環器疾患死亡リスク予測モデルでは、11コホートのデータの年齢、性別、喫煙、血圧、降圧剤有無、コレステロール、尿タンパク、循環器疾患既往、糖尿病を用いた予測モデル案が作成され、妥当性を検証中である。個人向けモデルは交互作用項や投入可能な変数をできるだけ取り入れた複雑なモデル、集団向け(公衆衛生)モデルは、健康日本21(第二次)の評価指標である収縮期血圧、総コレステロール、糖尿病、喫煙を基本としたシンプルなモデルを構築していく。また安定した統計モデルの構築のためには、サンプルサイズを大きくすると同時に、既存のコホート統合データベースを用いた基礎的な検討、すなわち集団間の危険因子レベル、循環器疾患死亡率との関連、基本的な統計モデルの吟味等が必要であり、生物統計や疫学の専門家が協力して順次実施した。
今年度は高齢者における高血圧と服薬の循環器死亡に与える影響、極端にHDLコレステロールが高い場合等、統合研究と個別分担研究を含めると合計50本の論文が公表された。
結論
本研究はアジア人単独としては最大規模の循環器コホートデータベースを用いて実施される。それぞれのコホートで長年にわたって質の高い疫学研究情報が蓄積されており、危険因子と発症・死亡等の関連を精緻に評価することが可能であり、わが国のリアルワールドを反映したリスクエンジンの開発が可能と期待される。
公開日・更新日
公開日
2018-07-05
更新日
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