小中学生の食行動の社会格差是正に向けた政策提案型研究

文献情報

文献番号
201709001A
報告書区分
総括
研究課題名
小中学生の食行動の社会格差是正に向けた政策提案型研究
課題番号
H27-循環器等-一般-002
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
橋本 英樹(東京大学大学院 医学系研究科 公共健康医学専攻保健社会行動学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 藤原  武男(東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 国際健康推進医学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
12,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
初年度・2年度研究を通じて、足立区において2013年以降実施されてきた、健康担当部局と教育委員会などとの協力による、学校・地域における行動変容に向けた環境づくり・機会提供を通じた介入施策が、小学校児童・中学校生徒の野菜摂取などの食行動変容に有意な影響を及ぼしていることを突き止めた。最終年度となる今年度は、より早期の食育を保育園などで実施していたことを受け、新規小学1年生の悉皆調査による効果評価を行うとともに、子どもの行動変容の影響が保護者成人などに波及するかどうかについて検証を行った。
研究方法
1)小学生悉皆調査(分担研究者 藤原担当)
平成29年10月において足立区の小学校1年生全員及びその保護者を対象とし、足立区と東京医科歯科大学、国立成育医療研究センター研究所社会医学研究部が協働で調査を行った。無記名アンケート方式により、小学1年生(69校)(回答者は保護者)の5160名を対象とし、4208名(81.6%)から有効な回答が得られた。得られた結果を2015年度調査(小学校1年生悉皆調査)と比較検討した。
2)成人調査(代表 橋本担当)
先行研究を通じて確立された「まちと家族の健康調査(JSHINE)」パネルフレームを用い、2017年10-12月に自記入式質問票による調査を実施し、4市区・2787名から有効回答を得た(2010・2012年調査参加者3649名、追跡率76.3%)。
結果と考察
1)小学生悉皆調査(分担研究者 藤原担当)
2015年調査と比較し、食育のテーマであったベジファースト(一口目は野菜から)を認識・実践していると回答した児童の割合は4.3%上昇し(p<0.001)、肥満の状況については入学前施設間での有意差はなかったが、ベジファースト食育を実施している公立保育園卒園児童では、最も小学校1年生の太り気味の割合が低かった。

2)成人調査(代表 橋本担当)
緑黄色野菜摂取量の平均値の推移を4市区で比較したところ、2017年にかけて緑黄色野菜摂取量の低下傾向が認められた。市区×年の交互作用項の推計結果から、介入のあった足立区と比較して他の市区では有意に2017年にかけて野菜摂取量が低下していたことが確認された。すなわち足立区では有意に接種雨量低下傾向に歯止めがかかっていた。なお学童児童のいる世帯において2017年にかけて成人の野菜摂取量は増加傾向にあったことが示唆された。
結論
本研究事業を通じて、足立区での食育をはじめとする介入の効果を示唆するエビデンスを提示することができた。これらの研究成果は、初年度・次年度研究に引き続き足立区の区内健康づくり推進委員などを対象とした情報普及にも利用され、区ホームページを通じて公開されている。
(https://www.city.adachi.tokyo.jp/kokoro/fukushi-kenko/kenko/kodomo-kenko-chosa.html)
今後この成果を世界発信するとともに、国内普及を図り、生活習慣の社会格差を縮小し、ユニバーサルな取り組みを展開すべく、すべての児童生徒ならびに地域住民の生活習慣変容を支援する環境介入政策をさらに広げるための知見を得ることに成功した。

公開日・更新日

公開日
2018-07-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201709001B
報告書区分
総合
研究課題名
小中学生の食行動の社会格差是正に向けた政策提案型研究
課題番号
H27-循環器等-一般-002
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
橋本 英樹(東京大学大学院 医学系研究科 公共健康医学専攻保健社会行動学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 藤原 武男(東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 国際健康推進医学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は先行研究を通じて、首都圏4都市において小中学生における緑黄色野菜ならびに果物摂取において、世帯の所得や親(特に母親)の学歴が有意な関連を有していることを明らかにした。
これを受けて足立区においては、健康担当部局と教育委員会などとの協力により、主に野菜摂取などの食事関連生活習慣に対する環境づくり・機会提供を通じた介入施策の計画・実施が展開された。その介入影響を科学的に測定把握することで、エビデンスベースの政策立案を進め、子どもの貧困対策と健康づくりとの連動を図るべく、本研究事業は、その施策活動について学術的観点から状況の把握ならびに問題の抽出・原因分析などを実施し、それをフィードバックすることを通じて、子どもの生活習慣を改善する政策形成を推進するモデルを構築することを目的とした。
研究方法
1)小中学生生活実態調査(分担研究者 藤原担当)
平成27年10月において足立区の小学校1年生全員及びその保護者を対象とした、世帯の社会経済的状況、養育環境や保護者の態度、子どもの生活習慣を測定する自記入式質問票による悉皆調査を実施した。
2年次には2年生となった子どもたちについて追跡調査を実施するとともに、4年生、6年生、中学2年生の一部にサンプリングによる調査を同様に実施した。最終年度においては新規に小学1年生を対象とし悉皆調査を実施、その結果を2015年度調査と比較検討した。
2)既存パネル調査を用いた追跡調査(橋本 担当)
先行研究で確立した世帯パネル調査(「まちと家族の健康調査」JSHINE)のフレームを用いて初年次ならびに2年次にかけて足立区を含む対象4市区の計1773世帯、子ども数にして2598名から生活習慣・食事調査データを収集した。最終年次には、食行動変化が保護者成人に波及したか否かを検証するべく、2017年10-12月に児童保護者を含む一般成人の追跡調査を自記入式質問票により実施し、4市区・2787名から有効回答を得た(2010・2012年調査参加者3649名からの追跡率76.3%)。
結果と考察
1)小学生世帯実態調査
相対的貧困率・社会的排除の規模が再確認されるとともに、それが歯磨き習慣ほか子どもの行動発達に影響していることが明確となった。またそれを媒介する要因として家庭の養育環境や保護者の心理状態などが有意に媒介していることが明らかとなった。一方、最終年度では、2012と2015年調査とを比較し、食育のテーマであったベジファースト(一口目は野菜から)を認識・実践していると回答した児童の割合が4.3%上昇したことを確認、さらに公立保育園でベジファースト食育を経験している児童では、最も小学校1年生の太り気味の割合が低く、食育を通じた肥満予防の可能性が強く示唆された。
2)既存パネルによる追跡調査
足立区において3つの対照自治体いずれと比べても当初見られた緑黄色野菜摂取量の差に縮小傾向が見られた。また母親の学歴ごとに解析したところ、低学歴世帯においても足立区では野菜果物摂取の増加が確認される一方、介入による「格差の拡大」は有意ではなかった。このことから、介入地区で実施されたコミュニティ介入政策(学校給食ならびに外食産業での野菜摂取推奨活動)が子どもの食生活習慣行動改善・格差縮小効果を示したことが立証された。最終年度では同様の効果が特に学童・児童を持つ足立区成人において見られているか、を2013・2017年の2回調査分のデータについて検証したところ、介入のあった足立区と比較して他の市区では有意に2017年にかけて野菜摂取量が低下していたことが判明したが、学童・児童の有無による違いは見られなかった。
結論
2013年以降の足立区での取組は、小学校学童・中学生の野菜と摂取の促進効果に加え、保育園における食育についても野菜摂取の行動規範の浸透ならびに肥満防止に効果があることが示唆された。また成人住民においても、緑黄色野菜の摂取を相対的に増加させる方向で寄与した可能性が強く示唆されたが、主に外食産業や小売店などを含むコミュニティ全体としての環境介入によるものと考えられ、食育を通じた子どもの行動変容の波及効果を支持する結果とはならなかった。
従来の地域健康増進で頻用されている知識・情報の普及では、高学歴者など行動変容の可能性の高いものだけが反応し、むしろ行動格差を拡大してしまう可能性が指摘されている。今回、足立区で実行されたコミュニティならびに教育現場での介入は、すべての住民・児童生徒を対象としたユニバーサルなアプローチを取るもので、「健康格差の縮小」に向けた具体的な施策のプロトタイプを提示するものとして注目される。

公開日・更新日

公開日
2018-07-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201709001C

収支報告書

文献番号
201709001Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
150,000,000円
(2)補助金確定額
147,400,000円
差引額 [(1)-(2)]
2,600,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,575,736円
人件費・謝金 4,221,519円
旅費 767,996円
その他 5,674,749円
間接経費 2,500,000円
合計 14,740,000円

備考

備考

公開日・更新日

公開日
2019-03-22
更新日
-