浄化槽等の汚泥の減量・減容及び再生技術に関する研究

文献情報

文献番号
199800605A
報告書区分
総括
研究課題名
浄化槽等の汚泥の減量・減容及び再生技術に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
大森 英昭(財団法人 日本環境整備教育センター)
研究分担者(所属機関)
  • 井上義夫(東京工業大学)
  • 小川人士(玉川大学)
  • 丹治保典(東京工業大学)
  • 中井 裕(東北大学)
  • 中嶋睦安(日本大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
合併処理浄化槽の普及促進を図るにあたって、汚泥の減量化、再生利用等の対策を検討し、早急に実用化の目途を立てる必要性などに迫られている。また、昨今話題となった、大腸菌O-157、クリプトスポリジウム等による感染を考慮し、衛生学的な面においても安全性を確保する必要があり、汚泥処理過程における衛生学的安全性の確保は必須の条件となっている。そこで本研究では、汚水処理過程において発生する汚泥の減量化、再生利用等を推進するため、以下に示す具体的な方法について検討を行った。
研究方法
本研究は6つの内容に大別されるが、以下にそれぞれの研究方法を示す。
(1)浄化槽汚泥の減量化及び収集運搬の効率化に関する研究
し尿処理施設に対し、し尿・浄化槽汚泥受入れ状況等調査を実施し、浄化槽汚泥の処理状況について検討を行った。また、汚泥の減量化に用いられる汚泥濃縮装置に対する評価と濃縮汚泥の搬出作業性を検討した。さらに、浄化槽の処理過程において汚泥分解を促進するオゾン処理、生物発酵等の導入による効果等を検討した。
(2)汚泥処理過程及び再生物の衛生的安全性の評価に関する研究
ウイルスの汚泥吸着モデルとしてイオン交換樹脂について検討を行うため、ポリオウイルスを指標ウイルスとしたウイルス吸着能を測定した。
(3)コンポスト化過程における微生物叢及び分解菌の性状解析に関する研究
畜産農家の汚水処理を目的としたラグーンを対象に、汚水中の窒素循環に関わる微生物群の消長を解析するとともに、コンポスト化で問題となる悪臭物質のスカトール及びインドールに注目して、これらの悪臭物質を好気的に分解する微生物の検索を行った。
(4)汚泥と化学肥料による栽培比較及び栽培に用いるための形態に関する研究
浄化槽汚泥から苗ポットを作製し、その必要条件を検討した。さらに、成形ポット以外に杭・ブロック・パネル・セル苗方式の成型品を試作し、その強度や資材の配合比等を試験し、あわせて育苗試験により肥料効果の検討を行った。
(5)汚泥からプラスチックを生産する等の再生技術の開発
窒素源存在下でPHAを高効率で産生するAlcaligenes latusを使用し、浄化槽汚泥に含まれる水溶性有機物からPHAを直接生産することの可能性について検討を行った。次に、共重合体の固体構造と物性は単量体組成に依存するので、PHAに組成分布が生じる原因を検討した。
(6)浄化槽汚泥ファージに関する研究
2種類の浄化槽汚泥について、衛生指標細菌として大腸菌2種、Pseudomonas2種、Bacillus2種、Micrococcus2種及びStaphylococcus2種を用い、各菌種に感染するファージをプラークアッセイ法により検出した。また、これと併行して、浄化槽汚泥から検出されたファージが有する溶菌酵素の探索を実施した。
結果と考察
上記研究課題については、それぞれ以下のとおりである。
(1)全国47都道府県、1,060のし尿処理施設へのアンケートによると、日最大受入量を超過した施設は63%と多く、その問題点としては、汚泥量過多で受入困難45%、処理施設の機能低下32%であった。その対策としては、受入制限40%、中継基地活用4%、濃縮・脱水車の活用2%等が実施されていた。浄化槽の現場での濃縮装置の適用に際しては、濃縮汚泥の特性を考慮した装置設計が必要であり、汚泥発生量を削減するためのオゾン酸化、生物発酵処理の適用に際しては、残存COD、微細SSの上昇等が懸念された。
(2)陽イオンカラムは、添加ウイルスの98.9%を吸着した。このカラムに塩濃度0.8%で吸着したウイルスは塩濃度1.7%で急激に遊離し、塩濃度10.5%まで遊離が認められた。その溶出率は、液温が上昇すると増加した。また、pHの影響を検討したところ、pH7.5以上で吸着抑制が認められ、pH8.9まで抑制された。次に、実際の汚泥でウイルスの遊離性を検討し、塩濃度及びpH上昇によりウイルスの遊離が認められた。ウイルス結合量の多い汚泥について積算溶出率を測定した結果、陽イオンカラムと同様の溶出曲線が得られたことから、陽イオンカラムが汚泥のウイルス吸着モデルとして有効であることがわかった。
(3)総菌数はラグーン処理過程で減少したが、各処理池の菌数は年間を通じて安定していた。bacilli及びclostridia等の芽胞菌が比較的多数検出された。enterobacteriaceae及びstreptococciに減少が認められ、硝化菌は検出限界値付近またはそれ以下であり、アンモニアの多くは、硝化ではなく微生物の同化により除去されることが示唆された。鶏糞及び豚糞のコンポスト化過程においては、スカトール(S)及びインドール(I)好気分解菌数は総好気性細菌数と同様に発酵期に減少し、発酵終了後に再び増加した。これらの分解細菌の培養液から調製した粗酵素液は、明らかな分解活性を示したことから、S及びIの分解には微生物が関与し、特に通性嫌気性細菌が重要な役割を果たすことが明らかとなった。
(4)汚泥を肥料として用いるためには、その肥料効果に加え使用者の立場に立った判断が必要である。苗ポットに関する検討結果に加え、杭・ブロック・パネル・セル苗方式の成型品を試作し、その強度や資材の配合比等を試験した結果、肥料効果は従来以上の成果が得られ、種々の形態とすることによって、浄化槽汚泥の適用範囲が極めて広がることが明らかとなった。
(5)3種の汚泥を用いた結果、PHAの合成は確認されず、固形物の可溶化等の前処理の必要性が示唆された。A.latusによるスクロース/HP混合炭素源からのP(HB-co-HP)の生合成過程における培地のpHとDOの影響を検討したところ、P(HB-co-HP)のHP単位組成に対するDOの影響は極めて小さいが、pHの影響は大きいことがわかった。培地のpHが6.5に低下すると、生成するP(HB-co-HP)のHP単位組成は大きく増加し組成分布が大きくなること、培地のpHを制御した方が均一度の高いP(HB-co-HP)を生合成できることがわかった。
(6)大腸菌ファージは数千~数万/mlで検出され、ヒト由来大腸菌の存在を示した。また、Pseudomonasに感染するファージが比較的高濃度で存在し、BacillusやStaphylococcus特異的ファージが数個~数十個/ml検出された。各種ファージの存在形態は、濃縮槽汚泥では大部分が固形懸濁物の中に見られ、浄化槽汚泥と汲取りし尿が混在する貯留槽汚泥では浮遊状態であった。バチルスを宿主とするファージから溶菌酵素をコードする遺伝子のクローニングを行った結果、13kDaの遺伝子がクローニングされた。この酵素を精製し大腸菌及びBacillusに添加すると生育が阻害され、特にグラム陽性のBacillusに対する抗菌活性が強く示された。
結論
浄化槽汚泥量の増加に対し、し尿処理施設においても早急な対策が必要であり、汚泥再生への動きが明確になった。また、汚泥の発生源である浄化槽の現場において、汚泥の濃縮、分解促進が試みられているが、その有効性と課題を整理した。さらに、浄化槽汚泥を扱う際の衛生学的検討が重要であることが明らかとなり、汚泥処理過程の衛生学的処理の必要性及び方法を具体的に検討した。一方、浄化槽汚泥の有効利用方法を具体的に検討した結果、農業利用、プラスチック生産、汚泥中大腸菌ファージの利用等、新たな方法が示され、それらの基礎的検討結果から実用化へ向けての今後の方向性を示唆することができた。

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